弁護士を目指すにあたり、まず法律事務所のパラリーガルとして勤務し経験を積もうと考える人は少なくないかもしれません。
弁護士の身近で仕事しながら法律についても学べて、まさに一石二鳥です。ただ弁護士となるには司法試験に合格しなければなりません。
パラリーガルで働いたからといって試験で優遇されるわけではないので、仕事に気を取られて勉強がおろそかになれば本末転倒。
もしかすると、弁護士から遠ざかってしまうのではと不安に思う方もいるでしょう。
司法試験への合格を考えた場合、パラリーガルから弁護士というルートは現実的なのか気になりますよね。
この記事では、パラリーガルから弁護士になることが可能かどうかに加え、目指す場合の流れや役立つスキル、おすすめの司法試験予備校などについて解説します。
目次
パラリーガルから弁護士にはなれるのか?
結論からいうと、パラリーガルから弁護士になることは十分に可能です。現在、現役で働いている弁護士のなかにも、パラリーガルとして働いていた方は多数いらっしゃいます。
では、実際パラリーガルから弁護士を目指すルートには、どのような特色があるのか確認していきましょう。
仕事と試験勉強の両立は大変
パラリーガルとして法律事務所に勤務すれば、実務に即した経験が積めるものの、弁護士となるには司法試験を受けなければならないのは変わりありません。
となると、問題は仕事と勉強の両立です。
合格に必要な勉強時間が5000時間以上(1日10時間勉強しても500日かかる)とも言われる試験なので、働きながら合格するのは容易ではありません。
移動時間や残業などを含めると、仕事に少なくとも10時間ほどは費やさざるを得ないため、いかに勉強時間を確保するかが重要となります。
とはいえ、パラリーガルの仕事がある以上、試験勉強だけに専念する人にはどうやっても1日の勉強時間は劣ります。
そのため、試験の合格に向けて、長いスパンで勉強計画を練ることも視野に入れる必要があり、学習の継続性も重要となるでしょう。
実務経験を積める
司法試験は最難関に位置する資格試験であるため、当然努力が報われないこともありえます。
万が一そうなってしまった場合に、試験勉強しかしてこなかったとなると、弁護士以外の道を模索するのに苦労するのは避けられません。
ですが、パラリーガルとしての実務経験があれば、法律事務所でそのまま働き続けることができますし、企業の法務部へと転職できる可能性もあります。
20代であれば、社会人経験なしても就職できる可能性はありますが、30代以降はかなり厳しくなるので、パラリーガルの実務経験は大いに役立つでしょう。
弁護士ではなく司法書士や行政書士の道もある
法律を扱う職業に就くことが目的なのであれば、弁護士以外にも道はあります。
実際、パラリーガルとして働きながら、司法書士や行政書士などの法律系資格の取得を目指す人も少なくありません。
司法書士や行政書士の取得も決して簡単ではありませんが、さすがに司法試験ほど難関ではないので、働きながらの試験合格も現実的に十分実現可能です。
また、扱う法分野は異なるとはいえ、業務的に近しい部分も多いので、パラリーガルとしての実務経験を活かせるでしょう。
パラリーガルから弁護士になるまでの流れ
パラリーガルから弁護士になるまでの流れは以下の通り。
- 司法試験の受験資格を得る
- 司法試験に合格する
- 司法修習を修了する
- 法律事務所への就職
それぞれ確認していきましょう。
司法試験の受験資格を得る
司法試験は受験資格を満たしていないと、受験することすらできません。なので、まずは受験資格の取得が最優先事項です。
司法試験を受験するには以下のいずれかを満たす必要があります。
- 法科大学院課程の修了
- 司法試験予備試験の合格
法科大学院には法学既修者コースと法学未修者コースの2つがあり、既修者コースは修了に2年、未修者コースは3年かかります。
2020年からは大学法学部3年間、法科大学院2年間の計5年で法曹養成のための一貫教育を行う法曹コースも新設されています。
法科大学院課程さえ修了できれば、受験資格を取得できるため、確実性は高いものの、パラリーガルの仕事と両立するのは、アルバイトでない限りは不可能でしょう。
正社員のパラリーガルとして働きながら受験資格を得るのであれば、もう一つの取得方法である司法試験予備試験の合格一択です。
ただし、予備試験は難しさでいえば司法試験を超えるといわれており、法科大学院課程の修了に比べると遥かに高い難易度を誇ります。
いずれの方法をとるにせよ、パラリーガルの仕事をしながら、受験資格を得るのは一筋縄ではいかないことを覚悟する必要があるでしょう。
司法試験に合格する
司法試験は例年5月に論文式試験3日、短答式試験1日の計4日にわたって実施される試験で、弁護士のみならず裁判官・検察官を目指す方も受験する必要があります。
合否は短答式試験と論文式試験の成績を総合して判定されます。ただし、短答式試験の成績が合格最低点に満たない場合には、論文式試験の採点は行われません。
また短答式試験・論文式試験において合格最低点に満たない科目が1科目でもあれば、総合成績の出来にかかわらず不合格となります。
なお受験回数には制限があり、受験資格の取得後(法科大学院修了または予備試験合格後)5年以内に最大で5回まで受けることができます。
司法修習を修了する
司法試験に合格してもすぐさま弁護士になれるわけではありません。あくまで試験は法曹として働くための必要最低限の素養があると判断がなされただけです。
実際に法曹として働く上で重要な能力についてまで担保されたわけではありません。
なので法曹が担う社会的な役割にしっかりと応えられるよう、およそ1年に及ぶ司法修習において実務に関する知識と技能、法律のプロとしての職業意識・倫理規範についての教育を受けます。
そして、司法修習のまとめとして行われる司法修習生考試(二回試験)に合格してようやく、弁護士なる資格が与えられます。
法律事務所への就職
弁護士として働くためには、資格だけでなく場所も必要です。即独するのでなければ、どこかの法律事務所に就職するのが一般的でしょう。
パラリーガルとして勤務した経験がある場合、弁護士や法律事務所にコネができる点で有利といえるかもしれません。
なお、弁護士の就職活動は司法修習終了後ではなく、司法試験終了後から司法修習開始前の間に行われるのが一般的です。
四大法律事務所に至っては、予備試験受験時点で欲しい人材の目星を付け始めています。
試験がひと段落して多少は休みたいと考えるかもしれませんが、気になる法律事務所の採用活動開始時期を見逃さないよう注意しましょう。
パラリーガルが弁護士になった場合に活かせるスキル
パラリーガルの実務で培われたスキルや経験は、弁護士となった後も大いに役立ちます。
この項目では、パラリーガルとして働いた場合にどのようなスキルや経験が得られるか確認していきましょう。
法律知識
パラリーガルが行う主な業務の一つは、法律や判例、文献の調査です。弁護士に代わって、起案や訴訟のために必要な資料のリサーチを行います
そのため、パラリーガルの業務を通じて、実務に即した法律知識を身につけることができます。
事務処理能力
弁護士に代わって、事務作業を行うのもパラリーガルとしての業務です。
書類や訴状などの書面作成は当然として、事務所によっては郵便物やFAXの郵送、資料のコピー・ファイリング、弁護士のスケジュール管理まで幅広く行うこともあります。
仮に弁護士になれたとして、必ずしも事務員がいる環境で働けるとは限らないので、事務処理の経験が大いに役立つでしょう。
コミュニケーション能力
パラリーガルは顧客との電話応対や来客対応も行うため、弁護士業務に役立るコミュニケーション能力も身につけることができます。
弁護士業務を行う上で、コミュニケーション能力はそれほど重要ではないのではと考える人は少なくないかもしれません。
ですが、法律相談でクライアントが抱える悩みを聞き出すにはコミュニケーション能力は不可欠ですし、安定して案件を獲得するには営業スキルも求められます。
パラリーガルのうちから、顧客対応について学んでおいて損はないでしょう。
パラリーガルから弁護士を目指すにあたっておすすめの司法試験予備校
働きながら司法試験の合格を目指す場合、限られた時間の中で効率よく学習を進められるかどうかが成功のカギを握ります。
となると、独学ではなく予備校を活用するのが現実的。この項目では、パラリーガルから弁護士を目指すにあたっておすすめの司法試験予備校を紹介します。
より詳しく司法試験予備校について知りたい方は「司法試験・予備試験対策に強い予備校7選の特徴・評判|最短合格の為に選ぶポイント」も合わせてご覧ください
アガルートアカデミー
アガルートアカデミーは、近年勢いのある司法試験予備校の一つ。
開設は2015年1月と司法試験の対策予備校のなかでは歴史が浅いものの、令和2年司法試験合格者1,450名のうち、650名がアガルートの講座利用者と高い実績を残しています。
※なお、650名の合格者がどの講座の受講生であったのか、その内訳は不明です。
フルカラーの独自テキストに加え、学習しやすさをとことん追求した受講システム、プロ講師によるフォロー体制が充実しているなど、合格に必要な学習環境が揃った司法試験予備校だといえるでしょう
資格スクエア
資格スクエアは、大胆なコストカットを行うと同時に、資格試験合格で必要な部分に時間と費用の大部分を投じることで、他の予備校に比べて、安価な受講料でのサービス提供を実現している司法試験予備校です。
コストカットの観点から校舎を持っておらず、オンラインによる受講しかできませんが、最先端のオンライン学習システムを活用した資格スクエア独自の勉強法により、継続的かつ効率のよい学習を受けることができます。
スタディング(STUDYing)
スタディングは短期合格者の学習方法を長年にわたり研究し、作成された学習ツールです。
スキマ時間を活かして勉強がしやすいようにカリキュラムや学習システムが作成されているため、仕事で忙しい社会人の方にも利用しやすいサービスだといえます。
伊藤塾
言わずと知れた最大手の司法試験予備校で、司法試験受験生で名前を知らない人はほとんどいないでしょう。
2020年の司法試験合格者1450名のうち、なんと1234名が伊藤塾の有料講座利用者と圧倒的な実績を誇ります。
※講座利用者内訳…入門講座673、講座・答練403名、模試158名
量と質にこだわった独自のカリキュラムと、経験豊富な講師陣の指導により、司法試験の合格に必要な法律知識具体的かつ体系的に学べます。
辰巳法律研究所
辰已法律研究所は、1973年開校の司法試験予備校です。
近年は名前を聞く機会が少なくなったものの、これまでに多数の司法試験合格者を輩出した実績と長年の受験指導で培われた豊富なノウハウにより、いまなお一定の支持を受験生から集めています。
パラリーガルから弁護士を目指すにあたっての注意点
パラリーガルから弁護士を目指すにあたっての注意点は3つ。
一つは冒頭でもお伝えしましたが、働きながらの司法試験合格が容易ではないことです。
司法試験に合格するには、勉強の質のみならず量も大事。働く分、勉強時間が取れなくなってしまうため、試験合格の難易度は上がるでしょう。
二つ目は実務で使う知識と試験合格に必要な知識が異なる点です。
基本的に実務で使われる法律知識と試験で問われる法律知識は、方向性が大きく異なります。そのため働きながら勉強ができるなんて都合のよい話はないので注意が必要です。
三つ目は収入面に関する問題です。
一般的にパラリーガルの年収は、経験者でもない限りは年収が400万円を下回ることも少なくありません。
また司法試験に合格できたとしても、すぐに弁護士として働けるわけではなく、1年間は司法修習です。司法修習期間中には給料ももらえますが13万5,000円とかなり少額。
パラリーガルから弁護士を目指す場合、金銭面で苦労する可能性があることは考慮しておいたほうがよいでしょう。
まとめ
パラリーガルとして法律事務所で働いた経験は、弁護士となってからも大いに役立つため決して無駄ではありません。
しかし、司法試験に合格するという観点で考えると、得られる知識は限定的であり、仕事をする分、勉強に費やせる時間が減るため、必ずしも有益とは言えないでしょう。
ただいずれにせよ、働きながら弁護士を目指すというのであれば、パラリーガルを選ぶのはアリだといえます。
働きながら司法試験の合格を目指す場合、いかに勉強時間を確保し、効率よく学習を進めていけるかどうかが成功のカギを握ります。
独学は基本無謀という他なく、合格の可能性を少しでも上げるためには、司法試験予備校の活用は不可欠です。
近年では、比較的に受講料が安い司法試験予備校も出てきているので、自分にあった予備校を探してみるとよいでしょう。