法律事務所勤務の弁護士といえば、新米弁護士がアソシエイトとして入所した後に出世をしてパートナーになるというのが通例でした。
しかし、最近では働き方が多様化していることもあり「オブカウンセル」という役職を配置する法律事務所も増えています。
オブカウンセルとはどんな役職で、パートナーやアソシエイトとの違いはどんなところにあるのでしょうか。
オブカウンセルとして働く人の経歴やオブカウンセルとして働く方法についても紹介します。
目次
オブカウンセルとは?
法律事務所の弁護士は、法律事務所を共同経営する「パートナー」とパートナーの補佐的な業務を行う「アソシエイト」というポジションが一般的です。しかし、最近では欧米のローファームに倣い「オブカウンセル」というポジションを持つ法律事務所も増えてきました。
西村あさひ法律事務所のオブカウンセル(2023年3月時点)
参考:https://www.jurists.co.jp/ja/attorney?member_class=69
オブカウンセルの位置付けは事務所によって異なる
オブカウンセルは「顧問」という意味を持ちます。法律事務所によって、「アソシエイト以上、パートナー未満」という位置づけのところもあれば、別枠と位置付けているところもあるようです。
たとえば、法律事務所間での転職時に「今所属している法律事務所ではパートナーだけど、パートナーとして入所してもらうには判断がまだつかない」という場合に、アソシエイトよりは上だけど、パートナーではない「オブカウンセル」という役職を利用するのが便利なのです。
ワークライフバランスを大切にしたい弁護士の為の制度という意味も
また、法律事務所勤務は大手になるほど激務で、女性が子供を育てながら働くということは難しい状況です。企業内弁護士を選べばワークライフバランスバランスがとりやすくなりますが、「法律事務所で働きたい」という気持ちがあるのなら妥協しなくてはいけません。
このように「法律事務所で働きたいけれど、ワークライフバランスも大切にしたい」という弁護士のために「オブカウンセル」の役職を用意している法律事務所もあります。
フルタイムで働くのではなく、自分がアサインされたプロジェクトに絞り活動します。在宅勤務でも可能な場合もあるようです。
仕事ではパートナー弁護士の下につく
ただし、オブカウンセルになる人は、パートナーが取ってきた仕事をすることになります。つまり、パートナーから「この専門分野についてはこの人の意見が必要」と一目置かれるような知識を持っていないとオブカウンセルの地位をキープできません。
ゼネラルに働くアソシエイトに比べると特定の分野に特化しての業務になるため、「使えない人だ」と判断されればパートナーから仕事が回って来なくなるリスクもあるのです。そうなれば当然職を失う可能性も出てきます。
裁判所・検査長・企業内弁護士などの経験がある方に多いポジション
オブカウンセルの役職になる方は、法律事務所内で役職に就く場合もありますが、裁判所や検査長、大企業の企業内弁護士などの経験をしていた人が転職してなることもあります。さらに、海外案件に携わるための英語力なども評価されやすいようです。
また、パートナーへの昇格については、本人が希望すれば努力次第でアソシエイト同様に昇格できるというところが多いです。さらに、オブカウンセルの役職から他法律事務所へパートナーとして転職するケースもあります。
パートナー弁護士やアソシエイトとの主な違い
パートナーやアソシエイトとオブカウンセルの違いを明確にするために、パートナーやアソシエイトについても説明します。
パートナー弁護士とは
パートナーとは、数十人から数百人の法律事務所の共同経営者のことです。法律事務所の規模にもよりますが、パートナー弁護士は数人〜数十人存在します。
一方地方で開業している独立法律事務所の所長は、個人で経営しているのであればパートナーとは名乗りません。2人以上で法律事務所を共同経営する場合にパートナーと呼びます。
パートナーは法律事務所に雇われている立場ではなく、経営陣の一角です。収入は給与形式ではなく、法律事務所の収益を分け合うことになります。
また、アソシエイトへは給料を支払わなければいけない立場なので、法律事務所の収益を増やすべく活動するのです。
パートナーになるには、新しい法律事務所をパートナーとして他の弁護士と立ち上げるケース、アソシエイトからパートナーへ昇格するなどがあります。
特に大手法律事務所へは入所するだけでも大変ですが、優秀な人材に囲まれた中で出世していくためにはかなりの努力が必要です。
アソシエイトとは
アソシエイトとは法律事務所に雇われている弁護士のことを指します。
大手法律事務所で企業法務を扱う場合は契約書の作成、訴訟対応、M&Aのデューデリジェンス、株主総会準備などパートナーの案件のサポートが主な業務となります。
アソシエイトの中でもジュニアアソシエイト・シニアアソシエイトとは細分化されている法律事務所もあり、数年間経験を積んだのちにアソシエイト内で出世できることもあるのです。
大手法律事務所のアソシエイトの年収は、入社時に既に1,000万円を超えることもあります。ただし、基本的には大変忙しい労働環境で深夜まで働くことも少なくはないようです。
実力が認められればパートナーに出世できることもありますが、他のアソシエイトから抜きん出る知性・長時間労働に耐えられる体力が必要になります。
パートナーよりオブカウンセルを目指すアソシエイトも
最近では「弁護士になったのだからパートナーになる!」という意欲を持って法律事務所に入所するより、「プライベートの時間を確保したい」という考えの人も多いです。
パートナーは、法律事務所の経営陣として、法律事務所の収益を考える必要があり、アソシエイトへの給料を確保しなくてはいけないなど、大変責任が重い仕事です。
- ・「パートナーになって事務所経営に関与したいとも思わない」
- ・「プライベートを削ってまで出世したくない」
という若手弁護士にとっては「オブカウンセル」は、「パートナー以上に魅力的なポスト」に映るようです。
オブカウンセルのポジションは、専門知識を持っていれば一目置かれるポジションを得ることができ、経営や仕事を獲得することは考えなくても良いです。今後、専門知識を伸ばしてオブカウンセルを目指す人も増えるかもしれません。
オブカウンセルになる弁護士の経歴
オブカウンセルになる人は、専門性を持つ人が多い傾向にあります。アソシエイトからオブカウンセルへの道を進む場合もありますが、転職してオブカウンセルになる場合も多いです。
どのような経歴の人がオブカウンセルになるのでしょうか。
裁判所勤務
裁判所に勤務していた裁判官が訴訟の知識を期待されてオブカウンセルとして迎えられることも多いです。
大手法律事務所では、企業が経営破綻した場合のノウハウを持つ裁判所勤務の経験者は重宝されます。また、民事や行政争訟などさまざまな判例をジャッジした経験も頼もしいものです。
オブカウンセルではないですが、ベリーベスト法律事務所ではパートナー弁護士で元検事の方が在籍しています。
参考:https://www.vbest.jp/member/detail/636/
検察庁勤務
検察庁で検察官として勤務していた人もオブカウンセルには適した知識を持っているといえます。容疑者を起訴するかを決めるという責任重大な経験は、弁護する側にとっても貴重なものです。
検察官は弁護士になる資格を有しているので、検察庁で定年を迎えた後は、定年という概念がない弁護士になるという検察官も多いです。対外的に考えると、年齢的にはアソシエイトにしにくいこともあり、オブカウンセルのポジションにマッチしやすいでしょう。
企業内弁護士
大手企業の企業内弁護士経験者をオブカウンセルとして迎えるケースもあります。大手企業ではM&Aや海外進出など、大手法律事務所の弁護士でも経験していないようなダイナミックな案件に取り組むこともあります。
そのような特別な経験がオブカウンセルには求められます。
一般企業の社外取締役
コーポレートガバナンスにより、上場企業の社外取締役設置が義務となり、弁護士が社外取締役となるケースも増えています。社外取締役として経営に参画しながら法的なアドバイスを主体的に行うという経験は、法律事務所勤務ではなかなかないものです。
そのような専門的な経験があるとオブカウンセルとして採用される可能性も高くなるでしょう。
オブカウンセルの年収は?
オブカウンセルの年収は所属する法律事務所により異なります。年収情報として出ているものはありませんが、新人アソシエイトでも1,000万円を超える5大法律事務所の場合は、経歴や専門知識を兼ね備えたオブカウンセルに対して数千万円支払っていることを想像できます。
また、小規模の事務所でワークライフバランスを重視したい人のために「カウンセル採用」をしている法律事務所では、アソシエイトと同様就業可能な時間に基づく基本給に実績に応じた歩合給を支給しているところもあります。
働く時間が短く、在宅などの場合はアソシエイトに比べると固定給は減りますが、実績次第で大きな歩合給を得ることができるそうです。専門知識を生かして短時間で集中して働くことや、効率的に稼ぐことも可能となります。
オブカウンセルになるには
最後にオブカウンセルになるにはどうすれば良いかを紹介します。
法律事務所内で昇格を目指す
アソシエイト弁護士からオブカウンセルに昇格できる法律弁護士事務所に勤めている場合は、法律事務所内で昇格を目指すこともできます。
上記でも説明しましたが、一般的にはアソシエイトからパートナーを目指すものですが、働き方を考えてオブカウンセルになりたいと考える人も増えているようです。
専門性を極めて、パートナーから信頼されるアソシエイトになることで、オブカウンセルへの道も開くことができるでしょう。
法律事務所の採用ページから応募
法律事務所のホームページで弁護士を募集している場合もあります。ポジションごとに募集をしている場合もあるでしょうが、経験やスキルに合わせて相談しながらポジションを決められることもあるようです。
法律事務所へ直接コンタクトを取り、面接に進むことができたら、自分の経験やスキル・熱意をアピールしましょう。
転職サイトで求人を探す
転職サイト内では、オブカウンセルを募集している法律事務所を見つけることもできます。サイトによって法律事務所が募集を出しているものといないものがあるので、多くの案件を比べるためにも複数の転職サイトを登録することがおすすめです。
弁護士専門の転職サイトやハイクラス専用のもので探すとオブカウンセルのポジションを見つけられる可能性も高いでしょう。必要なスキルなどが揃っている場合は、転職サイトのエントリー方法に従い応募してください。
弁護士専用の転職エージェントを利用
転職エージェントの中には、弁護士専用のサービスを提供しているところもあります。このような転職エージェントの場合は、法律事務所の方から「オブカウンセルにふさわしい人材を紹介して欲しい」と依頼されている場合もあります 。
そのためスキルや経歴がマッチする場合には、エージェントが率先して推薦してくれる場合もあるでしょう。
弁護士専用の転職エージェントでは、法律事務所独特の転職に慣れているので、内定のためのアドバイスなどにも期待できます。
一般的には非公開となっている求人もあるかもしれないので、オブカウンセルの求人を探しているのであれば相談だけでもした方が良いといえます。
スカウトを受ける
弁護士の実績は、大きな案件を取り扱えば新聞や雑誌に取り上げられます。その実績を見て「この人材をオブカウンセルとして迎えたい」と思う法律事務所があれば、スカウトを受けることもあるでしょう。
それはヘッドハンティング会社経由かもしれませんし、直接コンタクトが来るかもしれません。良い仕事をして目立つと、良いポジションのオファーを思いがけずに得られることもあるのです。
まとめ
オブカウンセルという働き方は、パートナーのように経営について責任を負う必要はなく、自分に与えられた案件について専門知識を存分に発揮して働くことが求められます。
最近ではプライベートを重視したいと考える人も増えており、パートナー以上に魅力がある役職だと考える人もいるようです。
大手法律事務所では、裁判所や検察官などの経験者をオブカウンセルとして迎えることが多いですが、働き方の多様化のためにフルタイムで仕事ができない人に専門知識を生かして働く役職として用意している場合もあります。
オブカウンセルとして働くキャリアを考えており、所属している法律事務所でオブカウンセルの役職がないのであれば、転職サイトや転職エージェントで求人を探してみてください。