弁護士の廃業とは、自らの意思によって弁護士の仕事をやめることをいいます。独立して自分の事務所を構えたけれど何らかの事情によって廃業に至り、転職を考える場合があります。
いったん独立すると転職が難しいと言われることがありますが、実際に転職は不可能なのでしょうか。可能だとして、どんな転職先があるのか、廃業してから転職する場合にはどのようなメリット・デメリットがあるのかも気になります。
今回は弁護士を廃業して転職を考えている方に向けて、転職先の選択肢や転職する利点、転職活動の方法などについて解説します。
目次
弁護士と廃業の状況
弁護士が廃業するのは珍しいことではありません。2014年度~2018年度の5年間における弁護士登録取消し件数を事由別にみると、請求件数(死亡や欠格等を除いた件数)は、330件~380件ほどで推移しています。
とくに昨今は高齢や結婚・出産などの他職種同様の理由ではなく、弁護士の供給過多により経営が難しくなり廃業に追い込まれるケースが増えているといわれています。
弁護士が廃業する理由
弁護士が廃業する理由としては弁護士間における競争の激化が挙げられます。
2006年に導入された新司法試験制度の導入により、弁護士の人数が跳ね上がりました。かといって弁護士には定年がなく肉体労働でもないため大勢がやめるわけでもありません。
弁護士数と民事訴訟事件の件数
弁護士業務の重要な割合を占める民事事件の活動状況のデータで確認してみると、2018年の弁護士数は4万934人で、民事訴訟事件の新受件数は13万8,443件です。
10年前の2009年には弁護士数は2万8,796人で、新受件数は23万5,508件ありました。弁護士数は約1.4倍に増えているのに、民事訴訟事件は0.6倍ほどに減っています。
そのほか廃業にはさまざまな理由がある
仕事の受注自体は問題ないが、あえて廃業を選ぶケースもあります。弁護士は依頼主のニーズにあわせて動きますし、迅速な対応が求められる場面も多いため時間を選ぶことができません。他の法律事務所との競争ともあいまって長時間労働になりがちです。
また依頼主はトラブルに巻き込まれているなどして負の感情を抱えているケースが多く、弁護士の精神面にも影響があります。事業主として孤独な活動を強いられるという厳しさもあるでしょう。
他にも、営業スキルや経営感覚が身につかないため独立の適性なしと判断したケースや、活躍のフィールドを広げるためなども、廃業の理由として考えられます。
廃業した弁護士の転職は難しい?
弁護士を求める法律事務所では、独立を経験した弁護士の採用に消極的だといわれることがあります。
採用に消極的な理由
理由のひとつは、経営者だったゆえの使いにくさです。自分なりのスタンスや仕事のやり方が確立されている弁護士であっても、組織に所属する以上は職場のやり方にあわせる必要がありますが、いったん独立すると、もう一度組織に馴染めるのか?という点はみられるポイントになります。
とくに長年独立開業してきた弁護士は組織人としての対応に不慣れで、他の弁護士からの指導に納得できないなどで本人もストレスに感じてしまう場合があります。
転職理由によってはマイナスにはならない
他にも元依頼主とのトラブルはないのか、廃業した理由としてそもそも弁護士への適性があるのかなど採用側にとっては複数の懸念材料があります。
しかし廃業といっても、元々インハウスに興味があり年齢的にもよいチャンスだと思った、スケールの大きな案件を扱いたいと思ったなどの前向きな理由であれば転職は可能です。
事務所を畳んだとはいえ、実際、独立開業を経て法律事務所や一般事業会社へ転職される弁護士もいます。転職にあたっては、前向きな理由を説得的に伝えることが重要になるでしょう。
廃業したとはいえ元弁護士、その知識を活かせる転職先はゼロではありません。
弁護士が廃業した後の転職先
廃業したからといって、その後転職できないという決まりはありません。弁護士資格の取消しをしなければ弁護士資格を活かした転職も可能です。
ただ、「廃業した弁護士を雇ってくれる法律事務所や会社などあるのか」と不安に感じる方も多いようです。ここでは、廃業後にどのようなキャリアがあるのか選択肢を挙げていきます。
法律事務所への転職
他の法律事務所へ弁護士として転職する方法です。独立開業した弁護士が法律事務所へ転職するのは難しい場合もありますが、これまでの業務経験を活かせる法律事務所であれば採用の可能性があります。
とくに専門特化した領域を扱うブティックファームであれば、大手法律事務所と比べて採用のハードルは低めといわれています。法律事務所への転職では、自分の仕事のやり方に固執することを避け、柔軟な姿勢を保つように心がけることが大切です。
企業内弁護士(インハウスローヤー)としての転職
コンプライアンスに対する意識の高まりや法改正の活発化などを受け、一般事業会社において法務部門などの充実化を目指すケースが増えています。
予防法務や戦略法務、知的財産、国際的なM&Aなどのフィールドで弁護士を求める企業は少なくありません。
法廷弁護をするような機会はあまりありませんが、組織の一員として現場に近い立場から弁護士の知識や経験を活かすことができます。法務部や知的財産部、コンプライアンス部などの部署で一般社員または管理職として勤務するケースがよくあるパターンです。
その他の部署や、役員やゼネラル・カウンセル(法務担当役員)として働く弁護士もいます。
インハウスローヤーへの転職は企業法務の経験があれば有利ですが、民事案件を中心にやってきた弁護士でも転職できた事例は多くあります。
一般のビジネスマンとしての転職
弁護士としての仕事から離れたい場合や弁護士登録を抹消した場合などであっても、知見を活かしつつ働く道はあります。
法律分野に詳しい人材を求めている会社は多数あります。一般のビジネスマンとして仕事をすることになりますが、法務部門やファイナンス部門に所属し、契約関係の確認などをおこないます。不動産会社やベンチャー企業などでもニーズがあります。
他職種への転身
まったく別の職種へ転身する方法もあります。たとえばコンサルタントです。独立開業の経験がある弁護士は、上司からいわれた案件をそのまま遂行するのではなく、自分の頭で考えて最善の方法を提案するという法律のコンサルタントをしてきたともいえます。その意味で適性があるでしょう。
司法試験に合格したメリットを活かして税理士や弁理士として登録・転職する、あるいはIT系資格や特許分野の資格など新たに別の資格を取得して転職するのも方法です。
もちろん弁護士とは業務内容や知識の領域が大きく異なるため簡単ではありませんし、転職のパターンとしては多くないケースです。しかし弁護士よりも興味や適性があると判断したのならよいでしょう。成功のポイントは、まったく異なる領域よりも、弁護士として携わってきた業務と親和性が高い領域で活動することです。
法律ライター
弁護士として従事してきた経験を活かし、ライターに転身するのも一つの選択肢です。
弁護士が書くコンテンツですから、専門性・信頼性の面では一介のライターとは比べ物にならない品質ですし、記事単価が高く、よいクライアントを見つければ生活する上で困ることはないでしょう。
実際、NO-LIMITでも弁護士の先生にコンテンツを書いて頂いたことがあります。
弁護士・法律事務所を廃業し、転職した際のメリット
ここからは、廃業して転職するかどうか迷っている方に向けて、転職のメリットを紹介します。廃業が頭をチラつき悲観的になっている方がいるかもしれませんが、雇われて働くことには多くのメリットがあります。
ワークライフバランスがとりやすくなる
独立開業時代には弁護士業務以外に営業活動や経営管理などやることが多すぎて、とにかく働き詰めだった方が多いのではないでしょうか。廃業すれば本来業務にのみ専念できるため効率的な働き方だといえます。
独立開業と比べるとワークライフバランスがとりやすく、家族との時間を確保したり自身の健康面が向上したりなどのメリットが得られます。とくに一般事業会社であれば、残業時間が常識の範囲で収まるケースが多いでしょう。
企業所属なら収入は安定する
収入が安定するのは大きなメリットです。必ずしも年収がアップするとは限りませんが、毎月確実に収入があり、経営費や生活費のことを考える時間が減るため精神的な安定感も得られるでしょう。
一般事業会社の場合は福利厚生が充実しているケースも多く、実質的なメリットを感じられやすいかもしれません。弁護士会費などを負担してくれる会社も多いため、これまで個人で支払っていた分の負担が軽減されます。
弁護士の資格を抹消して会社員として働く場合でも、弁護士としての知識や経験を活かして安定した収入を得ることが可能です。
新たな活躍の場を得られる
法律事務所へ転職すれば、これまで携わったことのない領域に挑戦できます。一般事業会社へ転職すれば、法律の知識以外に業界の専門分野や市場の動向などに関する深い知識を得られるでしょう。
好きな業界や会社の事業に携わることができる、大きなプロジェクトに参加できるといった点もメリットです。
独立開業時代に民事案件をやりつくした、大規模プロジェクトにかかわりたかったなどの気持ちがあった弁護士にとっては、新たな活躍の場を得ることが大きなやりがいになるでしょう。
転職するデメリットは?
廃業のタイミングを間違えば破産という事態に陥りかねません。それに比べれば、廃業して転職することのデメリットは大きくないといえます。
経営難などから廃業するしかないという状況の場合には転職は必須の選択であり、デメリットというよりも新たな出発と位置づけるべきでしょう。
独立開業を経て転職するデメリットをあえて挙げるとすれば、独立開業時代と比べて裁量権が小さくなるため、思い通りの方法で仕事を進められない可能性があります。人から指示を受けることにストレスを感じやすい方もいるでしょう。
努力して立ち上げた事務所をたたむことに強い喪失感をもつ場合もあるはずです。
廃業(または事業継承)の手続きと転職活動、転職先が決まるまでのアルバイトなどを同時におこなう場合は時間的余裕がなくなります。廃業の時期を見極め、計画的に転職活動を進めることをおすすめします。
廃業後の転職活動はどのようにおこなうべきか
転職活動の方法や注意点について解説します。
法曹界のツテを頼る
同期生や弁護士になってから知り合った先生など、法曹界での人脈を頼りに転職先を探す方法です。直接紹介してくれるような知人がいなくても、所内・社内の雰囲気や評判、募集状況などの情報を得るだけでも応募先の選定に役立ちます。
ツテを頼りにした場合、仮に職場があわなくても紹介者への恩義があるため辞めにくいというデメリットがありますが、事前に内情などをよく確認できる点はメリットです。
ホームページで求人を探す
気になる法律事務所や一般事業会社があるのなら、ホームページから直接求人を探す方法をとれます。大手や準大手、新興系の法律事務所であればホームページで求人情報を掲載しています。
一般事業会社の場合はメーカーや金融系などでインハウスローヤーを求めている場合があります。
ホームページで弁護士を募集している事務所や会社はある程度の規模があるため収入面などにメリットがありますが、その分採用にあたり求められるハードルは高いと考えておくべきでしょう。
ひまわり求人求職ナビ(日弁連)で探す
日弁連が運用している弁護士・修習生向けの求職システムが、ひまわり求人求職ナビです。民事案件を扱っている中小の法律事務所などを探す際に有効です。
全体の情報量は少なめなので、あくまでも補助的なツールとして位置づけ、他の方法も併用しながら探すとよいでしょう。
【おすすめ】弁護士に特化した転職エージェントを利用する
転職活動の経験がない場合は転職エージェントを頼るのが賢明な選択になります。
- ・新卒で法律事務所へ入所し、数年の経験を経てから独立した
- ・就職先がないなどの理由でやむを得ず独立を選んだ(いわゆるソク弁)
などのケースです。
もちろん転職活動の経験がある場合でも、当時とは転職事情が変わっているため転職エージェントの活用は有益です。
弁護士資格さえあれば転職が簡単というわけではありません。組織への適応力や協調性などの観点から、独立した後の弁護士採用を躊躇するケースも多く、転職にあたって相応のハードルがあると考えておくのが無難です。
こうした難しい状況の中、転職市場の動向や転職で重視される点を熟知しているエージェントのアドバイスを得ることが大切です。
自分では探し出せない求人の提案や面接対策、転職先の情報提供などを全面的にバックアップしてくれます。弁護士の転職事情に精通している点で、弁護士の転職に特化した転職エージェントがよいでしょう。
まとめ
弁護士が独立した後に廃業を経て転職するのは難しさもありますが、不可能ではありません。弁護士の就業先として一般的な法律事務所や会社への転職も十分可能ですし、これまでとは異なるフィールドで働くという道もあります。
組織で働くことは独立開業と比べてメリットも大きいので、ぜひ前向きに検討してみましょう。
【こちらの記事もオススメ!】