弁護士の仕事をしていく上で、どこかのタイミングで独立を考える方は多くいます。
実際、5年以上の弁護士経験がある方の半数以上が経営者弁護士として独立されています。やはり独立するにあたって心配になることが失敗した時のことですね。
弁護士での独立は、基本的に事務所を構えることになりますので、費用も大きくかかってリスクも高いです。
今回は、弁護士の独立でよくある失敗と対処法についてご説明します。しっかり準備して取り掛かりタイミングを間違えなければ弁護士事務所や企業などで働く弁護士よりも多くの収入を得ることができるでしょう。
これから独立を考えている弁護士の方は、ぜひ参考にされてください。
目次
弁護士の独立失敗は高額な初期費用や固定費の負担
弁護士独立の失敗で一番多いと言っても過言ではない要因が、資金による失敗でしょう。事務所を構える弁護士開業では、少なくとも300万円程度の初期費用がかかります。
また、毎月数十万円から100万円程度の運転資金もかかってきますので、毎月利益が出せずに、将来的に事務所を畳んでしまうケースもあります。
資金面での失敗を防ぐためには、以下の点を意識してください。
- 適正な事業規模を把握する
- 必要以上の投資をしない
- 開業資金はなるべく自分で確保しておく
初期費用をかけすぎてしまう
弁護士として独立するためには、以下のような様々な費用がかかります。
- 事務所の保証金や家賃
- 内装工事費
- 事務用品
- ホームページ作成費用 など
特に大きなウェイトを占める費用が事務所を借りる時の費用ですが、最低でも300万円、多い場合には1,000万円を超えることも十分にあり得ます。
特に念願の独立ということで事務所の立地や内装にこだわりたい気持ちも十分に分かりますが、初期費用をかけすぎると、費用を返せずに失敗してしまう可能性も高くなります。
対策|まずはできるだけ小さく事務所を始める
失敗しないための対策としては、まずはできるだけ小さく始めて、利益を出せるようになってきたら、移転や展開などをしてこだわりを出していっても良いかと思います。独立に失敗しないためには、まずは利益を出すことが大事ですね。
家賃が高めになる東京では、自宅で開業して打ち合わせに弁護士会館を利用する方法を取る弁護士もいます。確かに事務所がないという依頼者から見た安心感は大きく下がりますが、反面大幅に開業資金を下げられる手段でもありますね。
運転資金のせいで収益を維持できない
上の初期費用とは別に事務所経営を行っていく上で毎月かかってくる運転資金が発生してきます。弁護士の独立では、だいたい50万円程度の運転資金がかかり、特に家賃と人件費が割合を大きく占めます。
- 家賃
- 人件費
- 広告宣伝費
- その他実費等
- 開業資金の返済
上記のような費用が運転資金になり、毎月の売上から上の経費を引いた額が利益(つまり事業主の収入)となります。例えば、毎月60万円ほどの売上に対して、50万円の経費がかかっていたとすれば、経営者本人の生活すらままならない状態でしょう。
対策|必要な固定費を精査する
運転資金で失敗しないためには、如何に運転資金や固定費を抑えて利益が出やすい状態を作るかも大事です。特に独立直後は、広告代理店などからの営業もよくありますし、色々な広告・集客方法が気になりがちです。本当に必要なのか?効果があるのか?を徹底的に吟味しましょう。
ちなみに、弁護士事務所の売上に対する経費は、一般的に30~50%程度と言われています。目標売上から逆算して月に使える固定費をあらかじめ決めておくのも良いでしょう。
開業資金をほとんど用意していない
このように数百万円の費用がかかる弁護士の独立ですが、できる限り自己資金で独立することが大失敗を防ぐポイントです。
- それぞれの弁護士協同組合で受けられる事業ローン
- 日本政策金融公庫で受けられるローンや融資制度など
- 各自治体が行なっている事業ローン
- 日弁連の「弁護士偏在解消のための経済的支援」制度
弁護士が独立するにあたって、上のような低金利の借入もできますが、借入に頼り過ぎていると返済費用が毎月かかる固定費として負担になってきます。
対策|ある程度自己資金を貯める判断も吉
冒頭で、弁護士の独立が多いのは5年後以降とお伝えしましたが、弁護士の給料で5年間あれば数百万円は貯められるかと思います。
仮に現在、独立のための自己資金が全くないという方は、いったん慎重になり、成功できる相当な自信と確証がない限り、いったん独立のための資金確保を先決した方が良いかもしれません。
集客や売上が上がらず失敗する弁護士|集客方法やビジネスモデルが不明確
いくら低コストで独立できたとしても、売上が出せなければ経営も成り立たずに失敗してしまいます。特に近年の弁護士事情では弁護士数が年々増加しており、依頼件数に対して弁護士の割合が多くなってきています。
引用:「弁護士人口|日本弁護士連合会」
特に2000年になってからの増加率がすごく、2005年ごろの2万人から2019年ごろの4万人まで、わずか15年間で弁護士人口が倍になっていると言えます。
独立して成功するのであれば、集客方法やご自身の強みをしっかり確立しなければなりません。
独立後に集客できずに失敗
独立前からしっかりリサーチしておくべき内容が、安定して売上が建てられる集客方法です。『集客方法がはっきりしていないのであればまだ独立すべきではない』と、言えるくらい重要なことです。
弁護士の集客方法としては、以下のようなものがあります。
- 広告(ネット広告、TVCM、電車広告など)
- ホームページ経由
- 紹介
- 法律相談会への参加
- 国選弁護人や当番弁護士
例えば、広告を打ち出せば紹介してくれるコネクションがなくても安定した集客も期待できます。ただし、広告費として毎月の固定費がかかりますし、広告や業者選びに失敗すると、費用対効果が非常に悪いマイナスの結果にもなってしまいます。
わざわざホームページを作っても、そのホームページにアクセスがなければ集客としての意味はありません。
対策|しっかり効果が出る集客方法を取る
集客方法を確立するということは、ただ単に広告を打ち出したりホームページを開設するだけではなく、きちんと結果がでる集客方法を決めておくことです。
独立後に検証→実行→分析を繰り返しても良いですが、売上が安定するまでに時間がかかってしまい、その間も運転資金は使われていきます。
できる限り独立前から事務所内の広告担当者やすでに独立している弁護士の友人などにしっかり話を聞きに行き、取るべき集客方法を明確にさせておいた方が賢明です。
【関連記事】「弁護士・士業向けサイト制作の費用相場|失敗しない業者選びと費用を安く抑えるには?」
弁護士としての方向性が定まっておらず失敗
独立したての頃は、「なんでも引き受けます」の精神で、弁護士が受けられる依頼なら何でも取り組む方も多いでしょう。
一見、手広くアプローチ出来て多くの依頼を引き受けられそうにも感じますが、そうではありません。特に個人で独立する方は、ご自身だけではが対応できなくなってしまう心配もあります。
色々な案件に対応することで、広告なども複数種類の内容を用意することになり費用はかかりますし、かといって「何でもやります」というような、アプローチをしても相談者には響かず依頼まで繋がりにくくなります。
対策|分野を絞って取り組むことが近道
まずはご自身が力を入れて取り組んでいる分野1つか2つに絞って、注力的に取り組んだ方が効率的で集客もしやすいです。
例えば、労働問題に取り組むなら電車広告が有効かもしれませんし、相続問題なら法律相談会で相談者の話を直接聞く機会を設けると良いかもしれません。
法律トラブルで悩んでいる方のタイプによっては、よく訪れる場所や響くアプローチが違いますので、取り組む分野を絞った方が戦略も立てやすいです。
報酬のバランスが悪くて失敗・無料相談が多すぎて失敗
特に若くして独立する方が陥りがちなのが、着手金無料などの報酬を依頼者目線に合わせすぎて、働き詰めの割には売上が上がらないようなケースです。
相談料無料や着手金無料など、確かに集客窓口を広げるためには大事ですが、安易にハードルを下げ過ぎるとご自身が大変な思いをするだけです(例えば相談の電話ばかりかかってきて依頼はほとんどないなど)。
大規模な弁護士法人であれば、コールセンターの整備や社員弁護士の待機など、受け入れられる環境は整っていますが、個人で独立するとなると勝手が違います。
対策|自身も依頼者も納得できる料金を練りだす
無料によって窓口を広げることも大事ですが、依頼に繋げられないようであれば料金を設けるなどの制限を付けても良いでしょう。また、電話対応ができるように最低でも事務員は雇っておくことはおすすめです。
弁護士事務所の立地を失敗|運転資金や集客に影響
上記の初期費用とも関連してきますが、弁護士として独立するにあたって事務所を開設する立地は重要になります。立地のことを真剣に考えておらず、失敗するパターンもあります。
初期費用や毎月の家賃で大きく関わってきますので、とても大事になることが事務所の立地選びですね。お伝えの通り、高すぎる物件を選んでしまうと、失敗の原因になってしまいます。
一般的には、駅近やビッグターミナルは家賃も高めになりますので、あらかじめ選択肢から外しておくことも1つの手です。その反面、集客や交通の便で不利になりますので、集客方法や裁判所など良く行く場所などの他の事情とも兼ねて納得できる場所を見つけましょう。
反対に、利便性や知名度を利用して有名な駅の近くに開設する戦略もあります。
所属事務所との人間関係トラブルによる失敗|人材管理や経営思想
個人で独立する方でも最初から事務員を雇うことは多いですし、依頼が増えてくるにつれて新たに弁護士を採用することもあるでしょう。
事務所内での人間関係は退職理由の大半
弁護士といえども人間関係での問題は付きものです。事務所内での人間関係が険悪なせいで業務効率が落ちたり、求人しても応募がないことで依頼をなかなか増やせないなどの事態にもなり得ます。
弁護士としての業務をバリバリにこなすことも独立したてでは大事ですが、一緒に働く方への気配りも忘れずに働きたいですね。独立すればいち弁護士ではなく、事業主になるということも忘れずに。
前所属の事務所とのトラブルにも注意
また、これから独立する方は現在の所属先を退職することになりますが、辞める時はスマートに迷惑をかけない辞め方を心がけましょう。
弁護士業界では、独立することはもはや当たり前のことですから、正直に独立に向けた退職であることを伝えて良いでしょう。退職は1~3ヵ月前から伝え、退職日まで誠意をもって働きましょう。
見返りを求めてはいけませんが、誠意をもって辞めていくことで例えば所属事務所でも受け持っていた顧問契約の案件を引き続き受けさせてくれるようなケースもあります(一般的には事務所内で引き継がれますが…)。
良い関係で事務所を辞めることができれば、良き相談相手にもなってくれるでしょうし、万が一失敗した時の再就職の手を差し伸べてくれるかもしれません。
まとめ
弁護士での独立でも当然失敗は起こり得ます。特に独立にはそれなりの費用が掛かりますので、金銭面でのシミュレーションはしつこいくらいにやっておくと良いでしょう。
また、売上が発生しないことには経営も成り立ちません。独立前から集客方法のリサーチや検証はしっかりしておきましょう。