「国際弁護士」と聞くと、何か特別な資格があるかのように感じるかもしれません。
しかし実際には、「国際弁護士」という名称の資格は日本にも海外にも存在しません。この言葉は、国境をまたぐ法律案件を取り扱う弁護士を総称する通称として使われています。
本記事では、国際弁護士の正確な定義と類似する用語との違い、具体的な仕事内容、なるための方法、キャリアパスまでをわかりやすく解説します。
目次
国際弁護士とは「国際的な案件を扱う弁護士」の総称
「国際弁護士」は、法律上の正式な資格名称ではありません。日本の弁護士法にも、米国や英国の法制度にも「国際弁護士」という資格区分は設けられていないのです。
一般的に国際弁護士と呼ばれるのは、国際取引や国際紛争、クロスボーダーのM&A、海外企業の日本進出支援など、複数の国の法律が関わる案件を主な業務領域とする弁護士のことです。
国際弁護士と呼ばれる人の資格的な背景はさまざまで、日本の弁護士資格のみを持つ人もいれば、日本と海外の弁護士資格を併せ持つ人、あるいは海外の弁護士資格だけで活動している人もいます。
共通しているのは「国境を越える法律問題を扱う」という業務の性質であり、資格の種類ではありません。
国際弁護士と渉外弁護士の違い
「渉外弁護士」という呼び方も、国際弁護士と同じく法律上の正式な資格名ではありません。両者はほぼ同義で使われるケースが多いものの、ニュアンスには若干の差があります。
渉外弁護士は、日本の弁護士資格を基盤として、国際的な要素を含む案件を取り扱う弁護士を指す場面が多い言葉です。
具体的には、西村あさひ法律事務所、森・濱田松本法律事務所、長島・大野・常松法律事務所、アンダーソン・毛利・友常法律事務所、TMI総合法律事務所といった五大法律事務所の渉外部門に所属し、海外案件を担当している弁護士がこれに当たります。
一方、「国際弁護士」はより広い概念で、日本の資格を持たず海外の弁護士資格のみで国際案件を手がける人も含まれます。
テレビなどのメディアで「国際弁護士」と紹介される人物のなかには、日本の弁護士資格と米国の弁護士資格の両方を持つ人もいれば、海外の資格だけで活動している人もいます。つまり、渉外弁護士は国際弁護士の一類型と位置づけることができます。
外国法事務弁護士との違い
外国法事務弁護士は、「国際弁護士」や「渉外弁護士」とは異なり、日本の法律で明確に定義された法的資格です。
「外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法(外弁法)」に基づき、法務大臣の承認と日本弁護士連合会への登録を経て、日本国内で外国法に関する法律事務を行うことが認められた弁護士のことを指します。
外国法事務弁護士が扱える業務範囲は、自らが資格を持つ国(原資格国)の法律に関する事務と、一定の条件のもとで第三国の法律事務に限られます。日本法に関するアドバイスを単独で行うことはできません。
この点が、日本の弁護士資格を持つ「渉外弁護士」との最大の違いです。
ただし、近年は日本の弁護士と外国法事務弁護士が共同事業を行う「外国法共同事業」の形態が増えており、クライアントは一つの事務所で日本法と外国法の両方のアドバイスをシームレスに受けられる環境が整いつつあります。
国際弁護士を名乗る3つのパターン
国際弁護士と呼ばれる弁護士は、保有する資格の組み合わせによって大きく3つのパターンに分類できます。それぞれ業務範囲や強みが異なるため、違いを理解しておくことが重要です。
日本の弁護士資格のみで海外案件を扱うパターン
最も人数が多いのがこのパターンです。日本の司法試験に合格し、司法修習を修了して弁護士登録をした人物が、大手法律事務所の渉外部門や企業の法務部門に所属して国際案件を担当するケースです。
このパターンの弁護士は、日本法の専門知識をベースに、英語(または他の外国語)を駆使して海外のクライアントや相手方弁護士と交渉・契約書の作成を行います。外国法そのものについてのアドバイスは、現地の弁護士や外国法事務弁護士と連携しながら進めるのが一般的です。
海外の弁護士資格を持たなくても、日本法を軸にした国際取引であれば十分に対応できる場面は多く、とくに日本企業の海外進出サポートや、海外企業が日本に進出する際の法的アドバイスでは、日本法の深い知識がむしろ求められます。
日本と海外の弁護士資格を両方持つパターン
日本の弁護士資格に加えて、米国ニューヨーク州や英国のソリシター資格など、海外の弁護士資格も取得しているパターンです。両方の資格を持つことで、日本法と外国法の双方について法的アドバイスを提供できるため、クロスボーダー案件における対応範囲が格段に広がります。
このタイプの弁護士が生まれる典型的な経緯としては、日本で弁護士登録をしたあとに米国のロースクール(LL.M.課程)に留学し、卒業後にニューヨーク州の司法試験に合格して資格を取得するルートが代表的です。
クライアントにとってのメリットは、一人の弁護士が日本法と米国法の両方の観点からアドバイスできるため、複数の弁護士を起用する手間やコストが軽減される点にあります。
海外の弁護士資格のみを持つパターン
3つ目は、日本の弁護士資格は持たず、海外の弁護士資格だけで活動するパターンです。日本国内で業務を行う場合は、前述の「外国法事務弁護士」として登録し、原資格国の法律に関する法律事務を取り扱うことになります。
たとえば、米国ニューヨーク州の弁護士資格を持つ人が外国法事務弁護士として日本に登録し、日本に拠点を持つ米国企業に対して米国法のアドバイスを行うケースがこれにあたります。日本法を扱うことはできないため、日本法が関係する案件では日本の弁護士と共同で対応するのが通常です。
なお、日本に登録せずに海外を拠点として国際案件に携わる弁護士も、広い意味では「国際弁護士」に含まれます。海外の法律事務所に所属し、日本企業の海外法務をサポートするケースなどがこれに該当します。
国際弁護士の仕事内容|扱う案件の具体例
国際弁護士が扱う業務領域は非常に幅広いですが、代表的な案件としては以下の4つが挙げられます。いずれも複数の国の法制度が関わるため、高度な専門知識と語学力、異文化理解が求められる案件ばかりです。
クロスボーダーM&A・合弁事業
クロスボーダーM&A(国境をまたぐ企業買収・合併)は、国際弁護士の業務のなかでも特に需要が高い分野です。日本企業が海外企業を買収する場合、あるいは海外企業が日本企業を買収する場合のいずれにおいても、国際弁護士が中心的な役割を担います。
具体的な業務としては、買収対象企業の法務デューデリジェンス、株式譲渡契約書や合弁契約書の作成・交渉、買収先国の規制当局への届出対応、独占禁止法や外国投資規制のクリアランス取得などが挙げられます。
これらの業務では、取引の当事者がそれぞれの国の法律に基づいて行動するため、弁護士は複数の法域の規制を横断的に把握したうえで、取引全体を円滑に進める設計力が求められます。
また、海外企業と合弁会社(ジョイントベンチャー)を設立するケースでは、出資比率や経営権の配分、利益分配のルール、デッドロック発生時の解決方法など、合弁契約書のなかに両国の法制度と商慣習を反映させる必要があります。
国際取引の契約書作成・交渉
国際取引の契約書は、当事者間の権利義務関係を明確にするだけでなく、将来の紛争を予防するための重要な文書です。国際弁護士は、売買契約、ライセンス契約、販売代理店契約、合弁契約、秘密保持契約など、さまざまな種類の英文契約書を起草し、相手方弁護士との交渉を行います。
国際取引特有の論点としては、準拠法(どの国の法律が適用されるか)の選択、紛争解決条項(裁判か仲裁か、どこで行うか)の設計、不可抗力条項の範囲設定、通貨や為替リスクの分配などがあります。
こうした論点は国内取引ではあまり意識されないものですが、国際取引ではひとつの条項の書き方によって数億円規模の損益が左右されることも珍しくありません。
英文契約書の起草にあたっては、英米法の契約法に基づく独特の条文構造や法律用語の理解が不可欠です。そのため、英語の語学力だけでなく、英米法の基礎知識が重要な素養となります。
国際紛争・国際仲裁
国際取引から紛争が生じた場合、国際弁護士は国際仲裁や国際訴訟において依頼者を代理します。国際仲裁とは、裁判所ではなく当事者が選任した仲裁人のもとで紛争を解決する手続きのことで、国際取引紛争の解決手段としては裁判よりも広く利用されています。
代表的な仲裁機関としては、国際商業会議所(ICC)の国際仲裁裁判所、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)、ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)、日本商事仲裁協会(JCAA)などがあります。国際仲裁は一般的に英語で行われ、手続きは数か月から数年にわたることもあります。
国際仲裁における弁護士の役割は多岐にわたり、仲裁申立書・答弁書の起案、証拠収集と書証の提出、証人尋問の実施、法的論点に関する準備書面の作成、最終弁論の実施などが含まれます。
国際仲裁では手続き準拠法、仲裁地法、契約の準拠法、さらには関係当事者の本国法など、複数の法律が同時に問題となるため、高度な法的分析力が必要とされます。
外国企業の日本進出サポート
外国企業が日本市場に参入する際には、会社設立の手続き、事業に必要な許認可の取得、労働法規への対応、税務スキームの構築、知的財産権の保護戦略など、多岐にわたる法的課題を解決しなければなりません。国際弁護士は、これらの課題をワンストップで支援する役割を担います。
たとえば、外国企業が日本に子会社を設立する場合、会社法に基づく設立手続きに加え、外国為替及び外国貿易法に基づく対内直接投資の届出が必要になるケースがあります。また、業種によっては銀行法、保険業法、医薬品医療機器等法など個別の業規制法への対応も求められます。
国際弁護士は日本法の規制環境を理解したうえで、外国企業のビジネスモデルに適した進出形態(子会社設立、支店設置、代理店契約など)を提案します。
日本市場の法規制や商慣習は海外と大きく異なる部分が少なくないため、国際弁護士は法的アドバイスにとどまらず、日本のビジネス文化や交渉スタイルに関する実務的な助言を行うこともあります。
国際弁護士になるには
国際弁護士になるための唯一の決まったルートは存在しません。しかし、大きく分けると「日本の弁護士資格を取得してから国際案件に携わる方法」と「海外の弁護士資格を取得する方法」の2つのアプローチがあり、両方を組み合わせる人も多くいます。
日本の弁護士資格を取得して国際案件に携わる方法
日本で弁護士になるには、法科大学院(ロースクール)を修了するか予備試験に合格したうえで、司法試験に合格し、約1年間の司法修習を経る必要があります。弁護士登録を済ませたあと、渉外案件を多く扱う法律事務所に就職し、実務経験を積むのが最も一般的なキャリアパスです。
五大法律事務所をはじめとする大手渉外事務所では、若手弁護士に対して海外ロースクールへの留学制度を設けているところが大半です。入所後3年から5年ほどの実務経験を積んだ段階で、事務所の支援を受けて米国や英国のロースクールに1年間留学し、LL.M.(法学修士)の学位を取得するのが典型的なパターンです。
留学後は現地の法律事務所でトレーニー(研修弁護士)として半年から1年ほど実務研修を行い、帰国後に渉外案件を本格的にリードする立場になります。
大手事務所以外にも、中小規模の事務所で国際案件を扱っているところや、企業の法務部門でインハウスローヤーとして国際法務に携わるルートもあります。近年は企業の海外展開が進んでいることから、企業法務部門でも国際案件を担当できる弁護士の採用ニーズが高まっています。
海外の弁護士資格を取得する方法
海外の弁護士資格を取得するルートは、目指す国や州によって異なりますが、最も一般的なのは米国の弁護士資格、とりわけニューヨーク州の弁護士資格を取得する方法です。
日本の弁護士が米国の弁護士資格を目指す場合、通常は米国のABA(米国法曹協会)認定ロースクールでLL.M.課程(1年間の法学修士課程)を修了し、そのうえでニューヨーク州の司法試験(バーイグザム)を受験します。
LL.M.課程は主にすでに法律の学位を持つ外国人法律家を対象としたプログラムで、米国法の基礎から専門分野までを体系的に学ぶことができます。
英国の弁護士資格を取得する場合は、ソリシターズ・クオリファイング・エグザミネーション(SQE)に合格する必要があります。また、シンガポールや香港など、アジアの主要な法域の弁護士資格を取得するルートも注目されつつあります。
どの国・州の資格を取得すべきか
海外の弁護士資格を取得するにあたって、どの国や州の資格を目指すべきかは、自分が将来どのような国際案件を扱いたいかによって変わります。ただし、現状では米国ニューヨーク州の弁護士資格が圧倒的に人気があり、実務上の汎用性も最も高いといえます。
ニューヨーク州が人気を集める理由はいくつかあります。まず、ニューヨークは世界最大の金融・ビジネスの中心地であり、国際的な契約書の準拠法としてニューヨーク州法が選択されるケースが極めて多いことが挙げられます。
また、LL.M.修了者にも受験資格が与えられるため、外国人弁護士にとって取得のハードルが比較的低い点も大きな魅力です。さらに、日本に登録されている外国法事務弁護士のうち、米国資格者が236人(うちニューヨーク州資格者が118人)と最多を占めていることからも、実務上のニーズの高さがうかがえます。
一方、英国のソリシター資格は、英連邦諸国との取引が多い業務や、ロンドンを拠点とする金融取引に強みがあります。近年はシンガポールが国際仲裁のハブとして存在感を増しており、シンガポールの弁護士資格も注目度が高まっています。
中国法のニーズについては、中国の司法試験は外国人の受験が原則として認められていないため、中国法については現地弁護士との協力体制を構築するのが現実的なアプローチです。
どの資格を取得する場合でも、留学や試験対策に要する時間・費用と、資格取得後のキャリアリターンを慎重に比較検討することが重要です。
国際弁護士に求められる3つのスキル
国際弁護士として活躍するためには、法律の知識だけでは不十分です。国境を越える案件ならではの複合的なスキルが求められます。
実務レベルの語学力(英語+第二外国語)
国際弁護士にとって最も基本的かつ重要なスキルが、実務レベルの語学力です。国際取引の契約書はほぼ例外なく英語で作成され、国際仲裁も英語で行われるのが標準です。
相手方弁護士との交渉、クライアントとの打ち合わせ、法廷や仲裁手続きでの弁論のすべてを英語で行う場面が日常的に生じます。
求められる英語力は、日常会話レベルではなく、法律英語を正確に読み書きし、口頭でも論理的な議論ができるレベルです。法律文書特有の構文や用語に精通していることが前提となります。
英語に加えて、第二外国語ができると業務の幅が大きく広がります。とくに中国語は、日中間の経済取引の規模を考えると需要が高く、フランス語やスペイン語もアフリカや中南米の案件に携わる際に有利に働きます。
ただし、第二外国語はあくまで付加的なスキルであり、まずは英語を高いレベルで使いこなせることが最優先です。
複数法域の法律知識
国際案件では、少なくとも2つ以上の国の法律が同時に関係します。たとえば、日本企業が米国企業を買収する案件では、日本の会社法・金融商品取引法・独占禁止法に加えて、米国のデラウェア州会社法・SEC規制・反トラスト法などの知識が必要になります。
すべての法域の法律を一人の弁護士が完全に理解する必要はありませんが、少なくとも関係する法域の法制度の基本的な枠組みと、実務上の重要論点を把握していなければ、案件全体を俯瞰する「チームリーダー」の役割を果たすことはできません。
クロスボーダー案件では、各法域の弁護士がそれぞれの担当分野について助言を提供しますが、それらを統合してクライアントに一つの戦略として提示するのが国際弁護士の腕の見せどころです。
異文化コミュニケーション能力
法律の知識と語学力に加えて、異文化コミュニケーション能力も国際弁護士には欠かせません。交渉スタイルは国や文化によって大きく異なります。
たとえば、米国の弁護士は直接的かつ率直に自らの立場を主張する傾向がある一方、日本のビジネス文化では間接的な表現や合意形成プロセスが重視されることが多いです。
こうした文化的な差異を理解し、相手に配慮しながらも依頼者の利益を最大化するための交渉戦略を立てる力が求められます。また、複数国のチームメンバーと協働してプロジェクトを進めるためのマネジメント能力や、異なるタイムゾーンに対応する柔軟なワークスタイルも、実務上は非常に重要なスキルとなります。
国際弁護士を目指すメリット・デメリット
国際弁護士を目指すことには多くの魅力がありますが、同時に覚悟すべきハードルも存在します。キャリア選択にあたっては、メリットとデメリットの両面を冷静に理解しておくことが大切です。
メリット
国際弁護士を目指す最大のメリットは、高い年収水準です。五大法律事務所の渉外部門では初年度から1,000万円以上を得られ、経験を積めば数千万円から1億円以上のレンジに到達する可能性があります。
加えて、グローバルなキャリアの選択肢が広がることも大きな利点です。日本の法律事務所だけでなく、海外の法律事務所やグローバル企業の法務部門、国際機関など、活躍の場は世界中に広がります。
ニューヨーク州の弁護士資格を持っていれば、米国の法律事務所への転職や、海外駐在の機会を得ることも現実的な選択肢となります。
専門性の確立という点でも有利です。国際弁護士は、国内案件を中心に扱う弁護士が持たない専門領域(クロスボーダーM&A、国際仲裁、国際規制対応など)を武器にできるため、弁護士市場における希少価値が高くなります。
弁護士の競争が激化するなかで、明確な強みを持てることは大きなアドバンテージでしょう。
デメリット
一方で、国際弁護士を目指すうえでのデメリットも無視できません。
まず、海外資格の取得には多大な時間と費用がかかります。米国トップロースクールのLL.M.課程に1年間留学した場合、学費と生活費を合わせて1,500万円から1,800万円の費用が必要です。事務所の支援を受けられない場合、この負担は個人にとって非常に大きなものとなるでしょう。
また、業務の激務性も看過できません。国際案件は複数のタイムゾーンにまたがるため、深夜や早朝の電話会議、海外出張、週末をまたぐ作業が日常的に発生します。ワークライフバランスの維持が難しいと感じる弁護士は少なくありません。
海外資格の維持コストも年間を通じた負担となります。ニューヨーク州では弁護士登録の維持に必要な継続法学教育(CLE)の受講義務があり、時間と費用を要します。複数の法域で資格を維持する場合はその負担がさらに増えます。
また、国際案件を安定的に受任できる環境に身を置けなければ、せっかく取得した海外資格を活かしきれないリスクもあります。資格取得そのものがゴールではなく、取得後にどのような環境でキャリアを築くかがより重要な問題です。
国際弁護士のキャリアパス
国際弁護士のキャリアパスは一様ではありませんが、代表的なルートとして3つの方向性が挙げられます。
大手法律事務所のパートナー
最も伝統的かつ報酬面でのリターンが大きいキャリアパスが、大手渉外法律事務所のパートナーへの昇格です。五大法律事務所や外資系法律事務所では、アソシエイトとして入所後、およそ10年から15年の実務経験を経てパートナー選考の対象となるのが一般的です。
パートナーになると、事務所の経営に参画する立場となり、自ら案件を獲得し、チームを率いて大型案件を遂行します。クロスボーダーM&Aや大規模な国際仲裁案件を継続的にリードできるパートナーは、事務所にとって極めて価値が高く、年収は数千万円から1億円以上に達するケースも珍しくありません。
パートナーへの昇格には、法律の専門性だけでなく、クライアントとの強い信頼関係の構築、新規案件の獲得能力、後輩弁護士の育成力など、総合的なビジネスパーソンとしての能力が求められます。
企業内弁護士のCLO・法務責任者
近年急速に増えているキャリアパスが、企業内弁護士(インハウスローヤー)への転身です。グローバル企業の法務部門に所属し、最終的にはCLOや法務責任者を目指すルートです。
インハウスローヤーの魅力は、一つの企業のビジネスに深く関与しながら、法務戦略の策定から実行までを主導できる点にあります。国際弁護士としての経験を持つインハウスローヤーは、海外子会社の管理、グローバルコンプライアンス体制の構築、国際紛争への対応など、幅広い業務を担うことができます。
日本企業のCLO・法務責任者の年収は、業種や企業規模によって幅がありますが、年収1,500万円から3,000万円程度が中心的なレンジです。外資系企業の場合はこれを大きく上回ることもあります。
ワークライフバランスの面では、法律事務所と比較して安定した働き方ができることが多く、この点を重視して転身する弁護士も増えています。
独立開業・国際コンサルタント
十分な実務経験とクライアントネットワークを築いた後に、独立して自分の事務所を開業する道もあります。国際案件に特化した法律事務所を立ち上げるケースや、法律顧問と経営コンサルタントを兼ねた「国際リーガルコンサルタント」として活動するケースなどがあります。
独立開業のメリットは、自分の裁量で案件を選べること、報酬設定の自由度が高いこと、働き方を自分でコントロールできることです。一方で、安定した案件の確保や事務所運営のコスト負担など、経営者としてのリスクも伴います。
まとめ
「国際弁護士」は法律上の正式な資格名ではなく、国際的な案件を扱う弁護士の総称です。日本の弁護士資格のみで渉外案件を担当するパターン、日本と海外の弁護士資格を併せ持つパターン、海外の弁護士資格のみで活動するパターンの3つに大きく分類されます。
国際弁護士の業務内容は、クロスボーダーM&Aや国際取引の契約書作成、国際仲裁、外国企業の日本進出サポートなど多岐にわたります。いずれの業務も、高度な法律知識、実務レベルの語学力、異文化コミュニケーション能力を必要とするものです。
なるための方法としては、日本の弁護士資格をベースに大手渉外事務所で経験を積みながら海外留学を経るルートが王道ですが、海外のロースクールで直接学位を取得するルートもあります。
米国ニューヨーク州の弁護士資格取得が最も一般的で、LL.M.課程を修了後にNY州司法試験を受験するのが典型的な流れです。
国際弁護士というキャリアは、法律のプロフェッショナルとして世界を舞台に挑戦したい人にとって、非常にやりがいのある選択肢です。
