一生懸命勉強をして弁護士になっても、弁護士になったことを後悔して「弁護士を辞めたい」と思ってしまう方が少なくありません。
- 実際に辞めてしまって後悔しないだろうか?
- 辞めた後どうするのか?
考えておきたいことがいろいろあります。今回は弁護士を辞めるメリットやデメリット、転職に関する知識や円満退職する方法など、解説していきます。
私たちも職業柄、「弁護士を辞めたいと思っている」という感情を持ってご登録いただく方からも多くのご相談をいただいております。壮絶な環境下でお仕事をされている方もいれば、思っていた弁護士象と違うという理由まで様々です。
相談者の対応に疲れた方はインハウスローヤーとして企業内弁護士という選択肢やワークライフバランスの実現が可能な事務所もありますし、今の環境下では仕事がつまらないという方には、スタートアップ企業の法務部や、M&A案件のような大きな仕事を任せたいという事務所もおすすめです。
そもそも弁護士業務を一回ストップしたいという方には、全く畑の違う職種につくという選択肢もあります。弁護士資格の保有を伏せて、求人に応募される方もいらっしゃいます。
私たちがお伝えしたいのは、弁護士の経験を活かした転職先は結構あるということです。ですので、極端に気持ちを落とさずに、できるだけ気軽に考えることも時には大切かと思います。
今回ご紹介する内容が少しでもお役に立たてば幸いです。
目次
弁護士になったことを後悔したり辞めたいと感じる5つの理由
せっかく苦労して国家資格を取得したのに、なぜ弁護士になったことを後悔してしまったり辞めたいと感じてしまうのでしょうか?
特に多く上げられる理由を5つ挙げて説明していきます。
業務時間の割に年収が低い
弁護士は非常に労働時間の長い仕事です。通常の勤務弁護士は一般の労働者のように労働基準法で守られていないため、長時間労働の規制が適用されず残業代もつきません。
給料がその分高いかというと、そういうわけでもない「ブラック事務所」が多数あります。夜中まで働いているのに給料が低く、時給にするとマクドナルドと変わらないのでは?と感じている弁護士もいます。
業務時間が長いのに収入が低いと、何のために弁護士をしているのか分からなくなって辞めたくなっても仕方ありません。
業界の将来性に不安がある
司法制度改革が行われて以来、弁護士を取り巻く環境はめまぐるしく変わっています。
一時は司法試験合格人数が極端に増やされて修習生への金銭支給が貸与性となりましたが、今は多少合格人数が減って給付制に戻りました。貸与制時代に司法修習を終えた方は、こうした変更に不満を抱いている方も多数おられるでしょう。
またネットの普及によって激しく移り変わる社会の中で法曹界は旧態依然としており、「今後時代に取り残されるのではないか?」と不安を感じている若手弁護士も多数存在します。
「いつまでも弁護士を続けるより、一般社会で別のことをやった方が将来的に良いのでは?」と疑問を感じ、辞めようかと考えてしまいます。
事務所での人間関係が上手くいっていない
弁護士事務所は狭い世界です。特にボスとアソシエイトの1対1の事務所の場合、事務所の人間関係がうまくいかないと非常にストレスになります。
ボスが横暴で無茶な要求を繰り返してくるケースもありますし、ボスの妻が事務員をしていて事務所を牛耳っており非常に居心地の悪いケース、ボスの息子が在籍していて他の弁護士がみな遠慮しているケースなど、いろいろなパターンがあります。
事務所内での人間関係がうまくいかないと、日々ストレスが溜まるので辞めたいと考えてしまうでしょう。
弁護士の業務に魅力を感じなくなった
弁護士になるまでは
- 「弁護士になったら社会貢献したい」
- 「弁護士になったら刑事弁護をバリバリやりたい」
- 「弁護士になったら華々しい活躍をして世間から注目されたい」
- 「いつか弁護士から政治家になりたい」など
いろいろな野心を持っていても、いざ弁護士になってみると「現実は違っていた」というケースが多々あります。
人助けをしようと思っていても、実際に相談に来る方は同情の余地がないケースも多いですし、刑事弁護をやりたかった場合でも国選弁護の報酬が安すぎて「やってられない…」と感じる方が多数います。
新人や若手弁護士に華やかな仕事や大きな仕事が入ってくるケースは少ないですし、政治家になろうと思ってなれるものではありません。
同期が留学したり独立して事務所をどんどん大きくしていったりして活躍する中で「自分は弁護士に向いていなかったかも…」と感じてしまい、「もう辞めようかな」と考えるようになります。
クライアント対応に疲れてしまった
弁護士は、非常にクライアント対応のしんどい仕事です。クライアントは人生の一大事を抱えて相談に来るので常に必死ですし、弁護士の方も気を抜くことができません。判断を誤ると「弁護過誤」となって損害賠償請求されたり懲戒されたりする可能性もあります。
1人1人のクライアントに肩入れしすぎると、精神的に非常に苦しくなります。一生懸命やっているのに文句を言われたり逆恨みされたりするケースもありますし、相手の依頼者から「悪徳弁護士」などといわれのない誹りを受けるケースもあります。DV案件などでは相手から脅迫されたり襲われたりする危険も存在します。
このようなクライアント対応すべてに疲れ果ててしまい、弁護士を辞めたくなってしまいます。
弁護士を辞めるメリットとは
実際に弁護士を辞めるとどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?まずはメリットから紹介していきます。
ストレスから解放される
弁護士の仕事は非常にストレスがかかります。クライアントや相手の依頼者からの圧力、裁判所との関係、さらには懲戒のリスクなども常に意識しなければなりません。「押しつぶされそう」と感じている方も多いでしょう。
辞めてしまえば、弁護士業務上のストレスからはすべて解放されます。
やりたいことができる・自由時間が増える
弁護士以外にやりたいことがある方は、辞めて転職することによりやりたいことを実現できるメリットがあります。
弁護士特有の経験やスキルは活かせる場がたくさんあります。転職によって、本来実現したかったキャリアを再構築することができるかもしれません。
また過重労働によって弁護士を辞める場合には、ワークライフバランスが確保できる環境に転職することで、残業していた時間を趣味など好きなことをする時間に充てることができます。時間の自由度が上がることは、弁護士を辞めるメリットのひとつといえるでしょう。
弁護士を辞めるデメリットとは
弁護士を続けることで得られるものあります。弁護士を辞めた方がよく口にする、弁護士を辞めるデメリットを紹介します。
強い喪失感を味わう
弁護士になった方は多かれ少なかれ努力して今の地位を築いているはずです。それを捨ててしまったら、強い喪失感を味わうでしょう。
弁護士の間は一般からは「先生」と呼ばれて尊敬されますが、辞めてしまえば「ただの人」です。そうした待遇の違いに違和感を受ける方もおられます。
また自分が辞めた後も周囲の同期はどんどん活躍していきます。疎外感、置いてけぼり感により辛さを感じる可能性があります。
収入が途絶えるおそれ
現実的な問題として、弁護士を辞めて無職になったら収入がなくなります。充分な貯蓄がないと生活不安に陥る可能性があります。
業務時間と割に合わなかったり想像より稼げなかったとしても、やはり弁護士の平均年収は一般的な年収を比較すると高収入です。すぐに転職ができたとしても、収入が下がるケースが大半です。
ただし弁護士のときにはなかったバランスのとれた生活や福利厚生が得られることで、結果的に自分に合った生活ができていればデメリットとはいえないかもしれません。
弁護士を辞めて後悔しないための判断基準4つ
安易に弁護士を辞めると後悔してしまう可能性があるのでお勧めできません。
以下のステップを踏んでしっかりと検討してから、本当に辞めて良いかどうか判断しましょう。
自己分析をして自分自身について深く掘り下げてみる
イヤなことが続いて「弁護士なんか辞めたい!」と思っても、いったん落ち着いて良く考え直しましょう。弁護士を続けることによって得られる収入や社会的地位、信用などは簡単に捨てるには大きすぎるものです。
冷静になって考えてみると、辞めたいと思った理由は意外と些細なことであったりします。
一度、自分自身を掘り下げて見つめ直してみましょう。
弁護士を辞めた人の話を聞いてみる
現実の弁護士を辞めた後の生活については、辞めてみないとわからないものです。一度辞めた人の話を聞いてみましょう。やめてよかったことと悪かったこと、今なにをしているのか、戻りたいと思うことはないのかなど、生の体験談を聞くと参考になるものです。
転職エージェントに相談してみる
「弁護士を辞めたい」と思ってしまうとき、現在の事務所に原因があるケースも少なくありません。別の事務所に転職して快適な環境に変われば弁護士を辞めなくても解決できる可能性があります。
今はたくさんの弁護士専門転職エージェントがあるので、一度相談をして話を聞いてみると良いでしょう。自分の場合にどのような転職先があるのか、条件などの相場はどのようになっているのかなど、聞いておいて損はありません。
実際に転職活動をしてみる
転職エージェントに相談をしてみて「それなら転職も検討の余地がある」と感じたなら、一度お試しで転職活動をしてみるようお勧めします。
転職活動が実際にうまくいって気に入った転職先が見つかれば、実際に今の事務所を辞めて転職してしまえばストレスから解放されます。うまくいかなければ今の事務所にとどまれば良いだけです。相手事務所に気に入られても気乗りしない場合、最終面接を辞退することも可能です。
転職エージェントへの登録や相談、転職活動には費用がかからないので、お試しで転職活動することにまったく問題はありません。今の事務所には告げずに転職活動をやってみると、将来が開ける可能性があります。
弁護士のスキルや経験が活かせるおすすめの転職先
弁護士のスキルや経験が活かせる転職先としては、以下のようなものがあります。
企業の法務部
弁護士時代、企業法務系の事務所で働いていたなら企業から非常に重宝されます。特に英語ができると海外に関心を持つ企業からは引く手あまたです。また企業の法務部では、企業側が弁護士会費を出してくれるケースも多数あるので、弁護士を辞めずに転職することも可能です。
もちろん弁護士資格を持たないまま企業の法務部で働くこともできます。
ベンチャー企業の役員
弁護士時代に知り合った顧問会社の社長などと気が合えば、そのベンチャー企業の役員となって一緒に事業を大きくしていくこともできます。
紹介だけでなく、弁護士の転職に強い転職エージェントを頼れば、CRO候補や法務部の立ち上げメンバーといった求人に出会える可能性があります。
ただし募集人数は1人が限度で市場に出回っている求人数がかなり少ないため、うまく知り合いや転職支援サービスを頼って転職活動を行う必要があります。
事業家
自分で起業して事業家として成功されている方もおられます。弁護士をやりながら起業して同時並行で進める方もいますし、ビジネスや経営の方が向いていたためそちらにシフトしていく弁護士もたくさんいます。
事業家になるためには、ビジネスや流行に明るくなければなりません。企業法務系の法律事務所に所属して顧問業務を行ったり、インハウスローヤーを経験することで、ビジネススキルを培うことができるでしょう。
一般民事系の法律事務所から事業家に転身するには知識やスキルが不足している可能性が高いため、一度転職を経験することをおすすめします。
企業のファイナンス部門
弁護士時代に企業法務でファイナンス系の仕事をされていた方は、企業のファイナンス部門で重宝される傾向があります。
企業のファイナンス部門で求められる顧客ファースト・対応スピード・コミュニケーションなどの素養が、弁護士に求められるものと似ているため次のキャリアパスをして選択されているようです。
とはいえ、企業の業界業種によってはすぐに馴染むことは難しいため、金融系の企業法務経験があったほうが転職しやすいでしょう。
不動産関係
弁護士は不動産を取り扱う機会が多数あるので、弁護士の転職先として不動産関係の会社は有望です。弁護士時代に懇意にしていた社長の会社に入れてもらっても良いですし、不動産関係に強い関心を持ち自ら宅建の資格を取って不動産業を始める弁護士の先生もおられます。
もちろん弁護士資格を残したまま不動産業を行っても全く問題ありません。
弁護士が円満に退職するためのポイント5つ
弁護士を辞める、あるいは転職の決意が固まり今の事務所を退職するときには、なるべく円満かつスムーズに進めたいものです。そのためには以下のようなことがポイントになります。
2~3ヶ月前には退職の意思を伝えておく
弁護士の仕事は継続性の高いものが多いので、いきなり「来月から辞めたいです」などと伝えると事務所側に大きな迷惑をかけてしまいます。最低でも2~3か月前には退職の意思を伝えましょう。
ただし転職先が法律事務所の場合には、入所日を2~3か月より後にしてもらうのも難しくありませんが、企業の場合には「1~2か月後には業務開始してほしい」と言われるケースが多数です。内定の段階でまだ事務所に退職希望を伝えていない場合、採用先の企業と交渉が必要になる可能性があります。
たとえば業務開始日を少し遅らせてもらったり、以前の事務所の仕事をしばらく持ち込ませてもらったりしましょう。
引継ぎは丁寧に行う
現在の事務所から気持ちよく送り出してもらうには、なるべく迷惑をかけないように引継ぎを丁寧に行うべきです。
誰にどの事件を引き継ぐのかをボスと相談してきちんと決め、資料をまとめて引継書などを作成し、わかりやすく引き継ぎましょう。場合によっては転職後も一部前の事務所の仕事を続けることも検討してみてください。
忙しい時期は避ける
事務所の繁忙期にいきなりアソシエイトに抜けられると、事務所内で大きな混乱が発生します。迷惑をかけないため、忙しい時期は避けて退職しましょう。
自分自身としても、引継ぎ業務に余裕があったりほかメンバーとコミュニケーションをとる時間があったほうが、心置きなく転職できるでしょう。
ネガティブな退職理由は伝えない
ストレスの強かった事務所を辞めるときには、ボスや他の弁護士、従業員などに一言言いたくなるケースがあるものです。「〇〇がイヤだったので辞めることにした」「ここが耐えられなかった」など。
しかしそのようなネガティブなことを告げると相手に不快な思いをさせるだけで生産的ではありません。
「次の転職先ではやりたいことができそうだから」「一度は企業内で働いてみたかったから」など積極的な理由のみ伝えると、退職がスムーズに進みやすくなります。
無茶な要求をされたときの対処方法
今の事務所がブラックだと「辞めさせない」「違約金を払え」などと無茶な要求をしてくる場合もあります。そのようなときには泣き寝入りするのではなく同期や先輩弁護士、会派の弁護士などに状況を相談しましょう。
当然のことですが、事務所側がアソシエイトに労働を強制することはできません。いざとなったら多少トラブルを起こしてでも身を守るために退職を強行した方が良いケースもあります。
まとめ
弁護士を辞めたいと思ったら、まずは「本当に辞めて良いのか?一時の気の迷いではないのか?」と自問自答し、それでも辞めたかったら転職エージェントに相談してみましょう。
良い就職先が見つかり、環境が改善されれば人生の幸せ度も上がります。今後の参考にしてみてください。