弁護士の仕事内容について、漠然と「裁判をする人」というイメージをお持ちの方も多いかと思います。しかし、実は弁護士の仕事内容は非常に多様で、弁護士によって得意とする分野にはかなり幅があります。
この記事では、弁護士の主な仕事内容について、一般民事・企業法務・公益活動の3つに分けて具体的に解説します。
弁護士になろうと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
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弁護士の仕事内容は?
弁護士の仕事内容は、法律に関するあらゆる事務を取り扱うため、実に多種多様です。弁護士が取り扱う業務は、大きく「一般民事」「企業法務」「公益活動」の3つのカテゴリーに分類されます。
それぞれの概要は以下のとおりです。
- 一般民事:主に個人に向けて、弁護士がトラブルを解決するための法律的な手助けを行います。いわば、法律に関する「かかりつけ医」「町医者」というイメージです。
- 企業法務:弁護士が企業の抱える法律上のトラブルを解決したり、顧問弁護士として契約書類や社内体制などのリーガルチェックを行ったりします。
- 公益活動:弁護士会の会務や、自治体・大学などの公的機関の嘱託により行う法律相談や講義の実施がこれにあたります。
一般民事における弁護士の主な仕事内容
一般民事の顧客は、個人であることもあって「一見」の人が多い傾向にあります。ただし、資産を多く持っている経営者が顧客になったような場合には、資産運用や相続などとの関係で継続的な相談を受けるケースもあります。
一般民事に属する主な弁護士業務は、以下のとおりです。
- 離婚問題
- 相続
- 労働問題
- 債権回収
- 債務整理
- 交通事故
- 刑事事件
それぞれ詳しく解説していきます。
離婚問題
これから離婚を考えている夫婦のどちらかの代理人として、離婚協議・調停・訴訟などを担当します。離婚条件として決めておくべきことはかなり多いため、弁護士のサポートを受けて漏れなく交渉を行うことが重要です。
また関係が悪化した夫婦同士で話し合うのが心理的に厳しいというケースでは、弁護士に離婚協議を代行してもらうことで、精神的なストレスが軽減できる効果もあります。
相続(遺産分割、遺言書の作成など)
家族の誰かが亡くなった際に、遺産分割協議を中心とした相続の仲介役を弁護士が担う場合があります。さらに、相続に向けた生前対策として、遺言書の作成をサポートする場合もあります。
相続は、親族同士が感情的な争いを繰り広げてしまいやすい分野です。そのため、弁護士が調整を行うことで、円満・迅速に相続問題を解決できる可能性が高まります。
労働問題(残業代請求・不当解雇など)
労働者に対する残業代が適切に支払われていないケースや不当解雇されたケースでは、労働者の権利を守るため、弁護士が会社に対して未払い残業代の請求や解雇の無効の主張を行います。
労働者と会社では、もともと知識や経済力の面で交渉力格差がある場合が多いです。この点、弁護士を味方につけることで、労働者が会社と対等に交渉を行うことができるようになります。
債権回収
債務不履行となっている貸付金や売掛金などを回収することも、弁護士の職務の一つです。債権回収は、最終的には訴訟・強制執行の手続きをとる必要があるところ、弁護士に債権回収代行を依頼すればワンストップで対応してくれます。
債権回収の依頼は、個人だけでなく、企業からも寄せられるケースがあります。
個人の債務整理(破産、個人再生、任意整理)
債務整理とは、資金繰りが厳しく債務が支払えなくなった人のために、債務のカットや返済スケジュールの延長を認めてもらうことをいいます。
弁護士が債務整理を受任した場合、債務者のために、債務整理のための債権者との交渉(任意整理)や裁判手続き(破産、個人再生)の遂行を担当します。
債務整理の各方法にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、債務者の状況に合わせた適切な方法を選択することが大切です。依頼者である債務者の話をよく聞いて、適切な債務整理の方法選択についてのアドバイスを提供することも、弁護士の重要な使命となります。
交通事故
交通事故の被害に遭った人は、加害者や任意保険会社との間で、賠償金(保険金)の支払い交渉を行わなければなりません。弁護士は、ケガの治療で大変な状況にある被害者のために交通事故の示談交渉を代行し、被害者が適切な賠償金(保険金)を受け取れるようにサポートします。
特に任意保険会社との交渉の際には、弁護士が交渉に入ることで示談金の金額が大幅に増額される傾向にあり、弁護士のサポートが非常に有効な場面の一つといえます。
刑事事件
刑事事件で罪に問われている被疑者・被告人は、外部との自由なやり取りができない中で、刑事手続きへの対応を行わなければなりません。そのため、刑事事件の被疑者・被告人には、弁護士によるサポートが必要不可欠です。
弁護士は、依頼者である被疑者・被告人のために弁護活動を行い、身柄解放・不起訴・寛大な処分の獲得に向けて尽力します。
企業法務における弁護士の主な仕事内容
企業相手の場合、取り扱う取引の数や規模も大きいため、企業法務を取り扱う弁護士は、企業と継続的・密接な関係を築いていくことが大切になります。
企業法務に属する主な弁護士業務は、以下のとおりです。
- 契約書の作成・チェック
- 顧問弁護士としてのリーガルアドバイス
- 労務管理
- 各種取引の観衆
- 行政とのやり取り
- 国際法務
- 債務整理
それぞれ詳しく解説していきます。
契約書の作成・チェック
企業は日常的に多数の取引に関わっているため、締結する契約もかなりの数に上ります。契約書の中に不当な条項や曖昧な条項が含まれている場合、企業が不測の損害を被ったり、相手方とのトラブルに巻き込まれたりするリスクが高まってしまいます。
そのため、企業が契約を締結する際には、その内容について弁護士のリーガルチェックを受けることが大切です。
弁護士は企業が締結する契約書を自ら作成したり、相手方から提示されたひな形を法的な観点からチェックしたりして、クライアント企業を契約によって生じる法的リスクから守ります。
顧問弁護士としてのリーガルアドバイス
契約に限らず、企業は日常的にさまざまな法律問題に直面します。その際、いつでも法的なアドバイスを求めることができる弁護士がいれば安心です。
企業と顧問契約を結んだ弁護士は、クライアント企業が日常的に直面する法律問題に対して、タイムリーに法的なアドバイスを行います。顧問契約のクライアントは、弁護士にとっていわば「常連」のクライアントであり、非常に深い付き合いを続けていくのが特徴的です。
労務管理
企業が従業員の処遇を決定する際には、労働基準法をはじめとした労働法の内容に注意しなければなりません。特に日本の労働法は、労働者の権利を手厚く保護しているため、トラブルが発生すると会社にとって不利な状況になりがちです。
弁護士は、クライアント企業が抱えている、従業員に対する賃金支払い・懲戒処分・ハラスメント対策などの労務管理問題に関するアドバイスを行います。
さらに、従業員との間で現実に紛争が発生した場合には、交渉・労働審判・訴訟などのトラブル対応も弁護士が請け負います。
各種取引の監修(M&A、金融取引など)
企業が大規模な取引に関与する場合、契約書の作成・チェックに加えて、スキームに法的な問題がないかの検討を行うことも非常に大切です。クライアント企業において大規模な取引が検討される場合、弁護士が当初から検討に加わり、取引全体を法的な観点から監修します。
行政とのやり取り
企業は、ビジネスの内容に応じて、各種監督官庁による監督・規制を受けています。監督・規制の内容を無視すると、行政処分や行政指導が行われ、円滑なビジネスの運営が阻害されてしまいます。
そのため、企業にとって監督官庁への対応は、法令遵守と同じくらい重要なテーマになっています。弁護士は、クライアント企業が監督官庁との関係で何らかの対応を求められた場合、適切な対応策についてのアドバイスを行います。
また、クライアント企業が新規ビジネスを立ち上げる際には、必要となる許認可の取得などをサポートすることもあります。
国際法務
海外企業との取引が発生する場合には、英文契約書のチェックや、場合によっては現地法の内容を調査することが必要です。このようなクロスボーダー取引の場合、当然リーガル面での注意事項も増え、かかる手間も倍増します。
弁護士は非常に複雑なクロスボーダー取引についても、英文契約書のレビューや現地の法律事務所と連携した法令調査によって、クライアント企業をサポートします。
法人の債務整理(法人破産、民事再生、会社更生)
債務整理は、個人だけでなく法人から依頼を受けるケースもあります。法人の支払不能・債務超過が発生した場合には、弁護士が各種の法的整理・私的整理の手続きを全面的に代行します。
また弁護士によっては、裁判所からの依頼を受けて、法人破産に関する破産管財人としての業務を請け負うこともあります。
公益活動における弁護士の主な仕事内容
弁護士法1条1項には、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」と定められています。つまり、私利私欲のためではなく、社会のために奉仕することも弁護士の重要な役割なのです。
弁護士法の趣旨や弁護士としての職責を尊重する心が強い弁護士は、通常の事件の受任とは別に、公益活動にも積極的に取り組んでいます。
公益活動に属する主な弁護士業務は、以下のとおりです。
- 弁護士会の会務
- 自治体などでの法律相談
- 大学・法科大学院などでの講義
それぞれ詳しく解説していきます。
弁護士会の会務
弁護士会は、弁護士による自治組織であり、基本的に有志の弁護士によって運営されています。弁護士会での仕事は、一般に「会務」と呼ばれています。たとえば弁護士会で開催される委員会に参加したり、場合によっては各弁護士会の会長・副会長に就任したりするのが、会務の主な内容です。
一般に都会よりも地方の方が弁護士の人数が少なく、弁護士一人当たりの会務の負担が大きくなる傾向にあります。
自治体などでの法律相談
弁護士は、主に弁護士会経由で、自治体での法律相談を定期的に請け負う場合があります。市民から受け取る相談料は基本的に発生しませんが、自治体の側から一定の日当を受け取り、1回当たり数時間程度の相談を受け付けます。
自治体での法律相談から実際の案件の依頼へと繋がるケースもあるため、公益活動の中でも、通常の事件との連続性が強い業務分野といえるでしょう。
大学・法科大学院などでの講義
特定の分野での経験が豊富な弁護士や、その地域である程度有名な弁護士は、大学や法科大学院から講師(特任教授)として招聘される場合があります。
受け持つ講義はケースバイケースで、民法や会社法といった基礎科目から、実務系の内容までさまざまです。
基本的には、弁護士としての実務経験から得られた知識や経験を学生に伝えることが期待されているので、その趣旨に沿った講義を展開することが求められます。
大学・法科大学院での講義を受け持った場合、学生との交流を行うことも、弁護士にとっては有意義です。
特に学生の中には、将来弁護士などの法曹を志す人も多いため、十年後・二十年後を見据えた人脈作りという観点からも重要な公益活動といえるでしょう。
まとめ
これまで紹介したように、弁護士の仕事内容は非常に幅広く、どの分野が得意かについても弁護士によって大きく異なります。もし弁護士になった場合は、年次を積み重ねていくに連れて、自分の経験値や顧客層を徐々に積み上げていくことになります。
キャリア形成のやり方も、弁護士によってかなり個性が出るところなので、自分なりの方法でほかの弁護士と差別化を図ることが大切です。
また弁護士業務は、分野によって内容・顧客層・求められる資質に差があります。そのため、どの弁護士業務が自分に向いているかをしっかり見極めたうえで、仕事や事務所経営の方針を定めることも重要です。
弁護士としての充実したキャリアを送るためにも、実際に弁護士になってさまざまな業務に取り組む中で、ぜひご自身の得意分野を見つけてください。