インハウスローヤー(企業内弁護士)とは、企業の従業員や役員となって業務にあたる弁護士のことを言います。一般的には法務部に配属され、企業法務や知財関連、コンプライアンスの業務にあたることが多いです。
法律事務所に在籍する弁護士よりも安定的した生活を送れる可能性が高く、毎月決まった給料が支払われる安心感があります。
しかし、その年収は一体どのくらいなのでしょうか。せっかく難関の司法試験やさまざまな課題をクリアしたのですからしっかり稼ぎたいという気持ちもあるでしょう。
本記事では、インハウスローヤーの年収のデータを解説していきます。
目次
【2022年最新版】インハウスローヤーの年収事情|平均・中央値で算出
組織内弁護士およびその経験者によって創設された任意団体である、日本組織内弁護士協会(JILA)が発表するデータを見て、インハウスローヤーの年収事情を明らかにしていきましょう。
インハウスローヤーの年収は、250万円~5,000万円以上と非常に幅広く点在していますが、2021年度で多いのは、750万円~1,000万円です。
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | |
250万円未満 | 0 | 0 | 0 | 0 |
250万円〜500万円未満 | 21 | 17 | 10 | 15 |
500万円〜750万円未満 | 106 | 98 | 62 | 92 |
750万円〜1000万円未満 | 95 | 102 | 78 | 113 |
1000万円〜1250万円未満 | 53 | 44 | 63 | 76 |
1250万円〜1500万円未満 | 31 | 33 | 21 | 33 |
1500万円〜2000万円未満 | 21 | 20 | 22 | 28 |
2000万円〜3000万円未満 | 11 | 13 | 11 | 22 |
3000万円〜5000万円未満 | 5 | 5 | 6 | 12 |
5000万円以上 | 5 | 6 | 3 | 5 |
2018年から2021年までのデータがそろっていますが、ほとんど変わらず変動が少ないことが分かります。安定した収入を得られるようですね。
平均年収は1,100万円
インハウスローヤーの平均年収は1,100万円ほどになっています。2021年においては、500万円~750万円、1000万円~1250万円の割合が高くなっています。
どこまでの年収だと満足できるかは個人差がありますが、国税庁の民間給与実態調査によると日本人の平均年収は直近10年では420万円ほどで推移しています。
そのことを考慮するとインハウスローヤーの年収は決して安くはないでしょう。
なお、1日の平均的な勤務時間は8時間~10時間の割合が多くなっています。もともと多忙な弁護士。大手事務所の場合、月の残業時間が100時間を超えることもざらにありますので、安定的な労働環境というのがインハウスローヤーの魅力の一つだといえます。
年収の中央値
インハウスローヤーの年収の中央値は、500万円~1,000万円の間とみることができるでしょう。やはり弁護士経験が5年未満ですと年収が低く500万円~750万円のボリュームが多いです。
一方、弁護士経験が20年以上ですと、年収2,000万円から3,000万円のボリュームが多くなっています。年収は、弁護士経験年数別・年齢別にチェックしてみるとよいでしょう。
年代別でみたインハウスローヤーの年収平均
弁護士経験年数による年収の差についてお伝えしました。インハウスローヤーで年収1,000万円を超えているのは2020年のデータでみると45.7%です。
一般的にサラリーマンですと、年収1,000万円の壁が存在するというので、45.7%もの人が到達しているインハウスローヤーの世界は恵まれている環境だと言えるでしょう。
それでは年代別にインハウスローヤーの平均年収を見ていきましょう。
20代〜30代前半の年収は500万円から750万円
日本組織内弁護士協会が実施した2020年調査によると30歳未満の1,000万円プレーヤーは存在しません。
しかし、30歳を超えたあたりから年収が増加します。
30代の年収は750万円から1000万円
30歳~35歳未満においては500万円~750万円のレンジが主流です。
さらに、30代後半から40代にかけて徐々に右肩上がりになっています。年齢とともに上昇傾向にあるのは仕事へのモチベーションに繋がるでしょう。
インハウスローヤーと法律事務所勤務の弁護士との年収比較
インハウスローヤーと法律事務所勤務の弁護士との年収を比較してみましょう。インハウスローヤーになるか、法律事務所勤務になるか、悩んだら参考にしてみてください。
大手四大法律事務所の場合
大手四大法律事務所の場合、水準はほとんど同じで入社1年目は1,100万円ほど、入社5年目は高いと2,000万円に到達すると言われています。中小規模事務所よりはるかに高い年収です。
ただし、大手四大法律事務所に入社するのは非常に狭き門です。弁護士全体では約4万人いますが、そのうち大手四大法律事務所に在籍できるのは合計して約1,800人だけです。
優秀な弁護士でないと採用されないので、法科大学院・司法試験・司法修習で常に優秀な成績を残したいところですね。
小規模事務所(いわゆる町弁)の場合
小規模事務所、いわゆる町弁の年収は減収傾向にあります。かつては、年収2,000万円~3,000万円というのも可能でしたが、今ではそうはいかなくなっています。
近年の弁護士増加により、少ないケースだと年収300万円もいるほど。しかし、それはまれなケースで、都心から離れれば年収400万円〜900万円前後が多いです。
中規模法律事務所の場合
中規模法律事務所ですと、600万円スタート、経験2年目から1,000万円ほどになる事務所が目安になっています。ただし、地域や規模によって差があるのであくまでも参考程度に留めていただきたいです。
中規模法律事務所でも、初年度から800万円以上の年収が出るところもあれば、300万円ほどで渋るところもあります。
独立・開業した弁護士の場合
やはり独立・開業した弁護士の年収には差がありますが、平均年収は、約1,400万円と言われています。インハウスローヤーや法律事務所勤務よりさらに収入アップを目指せるわけです。
しかし、独立・開業するとなると、顧客獲得も営業も自分でどうにかしないといけないので苦労が増えます。労力と年収が釣り合っているかどうかも判断材料にしたいところです。
給与・仕事面におけるインハウスローヤーと法律事務所との差
2017年時点におけてインハウスローヤーは2,015名登録されています。インハウスローヤーの場合、登録を外しているケースも多くあるので、実際のところは2,500名ほどに達するでしょう。
2007年におけるインハウスローヤーは188名でしたので、10年間で約10倍に増加しています。
目立つのは女性インハウスローヤーの活躍です。インハウスローヤーでは約4割の人が女性です。弁護士全体では約2割だけが女性ですので、インハウスローヤーとして活躍している女性は多いと言えます。
インハウスローヤーと法律事務所勤務とでは給与・仕事面で差があります。自分に合った働きやすさを意識するなら、その違いを知っておきましょう。
法律事務所勤務よりも年収は下がるの?
ケースバイケースではありますが、法律事務所からインハウスローヤーへ転職して年収が下がるケースはよくあります。
インハウスローヤーになるなら、弁護士資格を持っていることは当然として、実務力や年齢および社会人経験年数のバランスを考えた上で、社内の他の社員との整合性を保たないといけません。
インハウスローヤーだけが突出してよい思いをするわけにはいかないのです。とはいえ、年収面において社内の他の社員よりも優位に立っていることが多い傾向があります。
また、インハウスローヤーの労働時間は比較的短く、その他弁護士会費の負担や社会保険、会社ごとの諸手当などを総合的に考えると、単純な年収だけをみてダウンと判断することはできないでしょう。
ご質問ありがとうございます!
— NO-LIMIT(ノーリミット)|弁護士専門の転職・求人紹介 (@NO_LIMIT20XX) November 4, 2020
近年、インハウス出身者が法律事務所での転職にビハインドであるということが一辺倒には言えないこともありますが、確かに質問いただいている実態通りの節もまだまだあります。
…
続きは質問箱へ #Peing #質問箱 https://t.co/lA7Kn8jOWp
就業時間|ワークライフバランスの充実
インハウスローヤーを選んだ理由としては、ワークライフバランスを確保したかったからというのが多く挙げられます。
引用元:日本組織内弁護士協会│企業内弁護士に関するアンケート調査集計結果(2021年3月実施)
平均的な勤務時間を見てもさほど大きな負荷はかかっていないように見えます。もちろん、仕事自体の大きな責任はあるかと思いますが、そもそもの勤務時間が多いとつらく疲弊してしまいます。
会社所定の休日に出勤することが少ないのも魅力の一つでしょう。例えば、子育てしていると、保育園や幼稚園、学校などが休みになる日には都合をつけないといけません。
子育てや介護などのことを考えると、インハウスローヤーの生活は現実的かもしれませんね。
法律事務所とは違う効率重視の法的業務
インハウスローヤーの業務のほとんどは、企業法務です。契約関連やコンプライアンス、社内からの法律相談対応などが主な業務内容です。
法律事務所とは違った効率重視の法的業務だと理解するとよいでしょう。一貫して主体的に案件をコントロールできるのはインハウスローヤーの醍醐味ですね。
しかし、一つの企業に留まらず、幅広い業界・会社の案件に携わりたい場合は、法律事務所勤務の方が向いているかもしれません。
一般民事事件対応がなく弁護士本来の経験が積めない
インハウスローヤーになると法廷に立つ機会がめっぽうないので、一般的にイメージされる弁護士業務を行えないことがほとんどです。
実際のところ、「ワークライフバランスを考えるとインハウスローヤーを選んだが、弁護士らしさがなくなってしまった」と嘆く人もいます。
しかし、弁護士の仕事をどう位置付けるかはその人それぞれで個人差があります。インハウスローヤーであっても弁護士になるまでに身に付けた知識やスキルは十分活かせるでしょう。
法律事務所からインハウスローヤーへ転職するには
インハウスローヤーと法律事務所勤務を比較して、インハウスローヤーの方に魅力を感じる人も少なくないでしょう。そこで、インハウスローヤーへの転職方法をご紹介します。
転職エージェントへ登録する
インハウスローヤーになるためには、まず転職エージェントへ登録することをおすすめします。ほとんどの求人が非公開案件ですので、転職エージェントに登録しないと、そもそも有益な情報を知りえません。
転職エージェントには無料で登録できるので、2~3社登録すると安心です。非公開求人情報を比較して、よりフィットするところをメインで使いましょう。
登録した後に「ちょっと合わないな」と思ったら、フェードアウトすることも十分可能ですので、気兼ねなく転職エージェントに登録してみてください。
無料登録:https://no-limit.careers/
面談や履歴書の精査をする
転職エージェントに登録して、インハウスローヤーに求められるスキルを理解したら、自分の履歴書・職務経歴書の添削を行ってもらい精査するとよいでしょう。さらに、キャリアアドバイザーに模擬面談を実施してもらい、対策をとります。
履歴書・職務経歴書に書き慣れたり面談に慣れていたりする人はまれだと思うので、念入りにチェックを行いましょう。
全て自分で判断するのではなく、転職のプロのアドバイスを聞き入れた方が安心できます。必ずしも正解があるものではないので、ベストを尽くしましょう。
そういった点を考慮しても、転職エージェントへの登録は必須だと言えます。
インハウス求人は人気のため早めの行動が望ましい
インハウスローヤーは人気の求人ですので、気になったら早めの行動をとることをおすすめします。「今週は忙しいから、来週になってからキャリアアドバイザーに連絡しよう」と思っていてもすぐに席が埋まってしまうことはよくあります。
インハウスローヤーに求められるスキル
また、インハウスローヤーに求められるスキルがあります。さまざまなスキルがあるとよいに越したことはないのですが、特に必要な3つのスキルについて解説します。
1:会社特有の業務知識
インハウスローヤーは、企業に在籍するわけですので、会社事情に詳しくなければいけません。例えば、研究・開発に特化した化学企業ならば高い専門性が求められるでしょう。
もちろん、最初からその知識を持ち合わせている弁護士は少ないです。働く中で徐々に習得していく必要があります。
難関の司法試験をクリアした人ばかりなので、問題ないかもしれませんが、勉強好きでないと苦しいかもしれません。
2:高いコミュニケーション能力
インハウスローヤーとして働くとなると、法律に詳しくない人との交流が多くなります。社内で出た法律相談がまさにそうでしょう。
法律に詳しくない人に正確な情報を伝えるのはなかなか困難です。そのために必要なのが、高いコミュニケーション能力です。社内外の人との交渉・相談をするので必要不可欠なスキルです。
3:ネイティブと渡り合う語学力
海外進出を図ったり、海外の会社と取引したりする企業のインハウスローヤーになるのなら、ネイティブスピーカーと渡り合えるだけの語学力が求められます。
企業によっては、当たり前のように英語資料を読み込むように言われることもあります。翻訳機能の付いたソフトもありますが、どこまで正確か計り知れません。その業務に割ける時間は限りがあるので、スピード感を持って対応できる力が必要です。
まとめ
インハウスローヤーの年収は法律事務所勤務に比べると若干少なることがありますが、1日8時間~10時間ほどの健全な労働環境で、さまざまな会社員としてのメリットを享受できるので魅力的な職業の一つです。総合的に考えると、かなり充実した生活を送れるのではないでしょうか。
今回、この記事でご紹介した年収は参考程度に、一つ一つの求人と向き合ってみてください。あなたにとってベストな選択ができますように。