司法制度改革により弁護士の数が増加し、弁護士が活動する領域も年々拡大しつつあります。そんな中で、企業の法務部などの社員として働く「インハウスローヤー」を選択する弁護士が増えてきました。
インハウスローヤーは、法律事務所の弁護士とは立場が全く異なるため、働き方や求められる役割にもかなり差があります。
そのため、インハウスローヤーには、法律事務所の弁護士とは違った魅力があるといえるでしょう。
この記事では現役インハウスローヤーとして活動する弁護士が、インハウスローヤーの魅力などについて、法律事務所の弁護士と比較しつつ解説します。
取材弁護士
60期代。外資系証券会社勤務のインハウスローヤー 。
目次
インハウスローヤーは法律事務所の弁護士とどう違う?
インハウスローヤーと法律事務所の弁護士では、求められる役割にかなりの差があるといえます。以下では、筆者が法律事務所と一般企業の両方で弁護士として勤務した経験をもとに、インハウスローヤーが法律事務所の弁護士と異なる点について解説します。
インハウスローヤーの「顧客」は会社の同僚
弁護士は、「顧客」のために働くというのが基本的な考え方になります。この点、法律事務所の弁護士とインハウスローヤーでは、誰を「顧客」として想定するかが異なります。法律事務所の弁護士の「顧客」は、案件を依頼してくる依頼者です。
これに対して、インハウスローヤーに仕事を頼んでくるのは他部署の同僚です。つまり、インハウスローヤーにとっての実質的な「顧客」は、社内で働く同僚ということになります。
よってインハウスローヤーには、他部署の同僚がどのようなことを考えているのか、何を求めているのかを良く把握する能力が求められます。
あくまでも「会社の社員」という立場
法律事務所の弁護士は、原則として個人事業主であり、自分の立場で物事を考える「独立性」が重視されます。
これに対して、インハウスローヤーはあくまでも「会社の社員」という立場になります。そのため、インハウスローヤーは独立した弁護士というよりは、どちらかというと組織の歯車のような役割を求められることが多いです。
社内・外部の調整役に徹する場面も多い
法律事務所の弁護士であれば、顧客からは独立した立場で厳密な意見を述べることが求められます。
これに対してインハウスローヤーは、最終的な結論は外部弁護士の見解に依拠することを前提として、社内と外部弁護士を繋ぐ調整役となることも多いのが実情です。このあたり、どちらが向いているかについては弁護士の性格による部分が大きいといえます。
インハウスローヤーの魅力とは
インハウスローヤーには、会社員としてのしがらみはありますが、一方で法律事務所の弁護士にはない魅力があることも事実です。
ワークライフバランスを実現しやすい
インハウスローヤーの魅力としてよく言われることの一つが、「ワークライフバランス」です。一般的に、法律事務所の弁護士は業務多忙であり、昼夜・週末を問わず働いているという状況になりがちです。
これに対してインハウスローヤーは、会社員として労働基準法で保護されるため、「定時」が存在します。そのため、昼夜問わず働くということにはならず、業務と生活にメリハリをつけやすいメリットがあります。
また、筆者の経験上、業務量の観点からも法律事務所ほど多忙ではないことが多いです。そのため、有給休暇なども比較的取りやすくなっています。
社内の多様な人々と交流できる
法律事務所ではメインのプレイヤーは弁護士のみだが、インハウスローヤーの場合は、多種多様な部署の同僚がそれぞれのフィールドで活躍しています。
インハウスローヤーは、こうした同僚と交流することにより、見識や価値観を広げることができるメリットがあります。
筆者がインハウスローヤーとして活動する中でも、営業担当・コンプライアンス担当・商品開発担当など、さまざまな部門の同僚から法律的な相談を受ける機会がありました。
福利厚生が充実している
法律事務所の弁護士には、有用な福利厚生はあまり与えられないのが通常です。これに対して、インハウスローヤーは会社員なので、会社が提供する福利厚生は基本的にすべて利用することができます。
たとえば、
- 厚生年金(会社半分負担)
- 退職金
- 家賃補助(または社宅制度)
など、豊富な福利厚生プログラムが存在します。特に大企業では、福利厚生が充実している傾向が強いといえます。
インハウスローヤーに求められる資質とは?
インハウスローヤーには、会社の中で働く弁護士という性質上求められる資質というものが存在します。以下では、インハウスローヤーとして働くうえで意識しなければならないことについて解説します。
法令だけでなく社内規則・システムに精通する
会社は法令だけでなく、社内規則に従って業務を運営する必要があります。そのためインハウスローヤーも、弁護士だからといって法令だけを見ていれば良いというわけではありません。
会社の社内規則やシステムを十分に理解しておくことも、インハウスローヤーに求められる重要な資質といえるでしょう。
会社のビジネスをよく理解している
インハウスローヤーの実質的な「顧客」は、特にビジネスサイドを担当する会社の同僚です。したがってビジネスサイドの担当者がどのようなことをしているか、何を不安に思っているかを理解できなければ、弁護士としての適切なアドバイスはできません。
インハウスローヤーとして活躍したいなら、会社のビジネスに対して関心を持ち、その内容をよく理解しておく必要があるでしょう。
報告・連絡・相談をまめに行う
法律事務所とは異なり、会社にはさまざまな部署が存在し、それぞれの関心事はバラバラということもよく起こります。インハウスローヤーは部署間の調整役を担うことも多いため、報告・連絡・相談をまめに行うことが重要です。
筆者も経験がありますが、関係部署への報告などのタイミングを逃してしまうと、「そんなことは聞いていない」などとあちこちから不満が噴出してしまいます。
報告・連絡・相談の重要性は、会社員であれば常識として教え込まれることでしょう。インハウスローヤーも会社員として、報告・連絡・相談を意識しながら業務に取り組むことが大切です。
まとめ
インハウスローヤーは、会社という組織の一員ということもあって、法律事務所の弁護士よりも多くの制約の中で働くことになります。
- 一方ワークライフバランスなどの面で「会社に守られている」点や
- 社内に多様なバックグラウンドを持つ同僚が存在する点など
インハウスローヤーにしかない魅力も存在します。
法律事務所の弁護士とインハウスローヤーのどちらが向いているかは、結局のところ能力や好みによって個人差があります。実際に働いてみなければわからない部分もありますが、少しでも関心があれば、インハウスローヤーを募集している企業に話を聞いてみてはいかがでしょうか。