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【弁護士解説】AIが作成した契約書を実際にレビューしてみたらまさかの結果に!?

更新日: 公開日:

生成AIで契約書を作成すると、本当に実務で使えるのか――

ChatGPT、Gemini、Claudeの最新モデルが出力した業務委託契約書を、弁護士が5つの評価軸でスコアリングし、条項の網羅性や法的正確性を徹底比較しました。(※2025年4月時点)

すると驚きの結果が!?

事業部の方でも法務担当者も理解しやすいよう、改善ポイントと安全な活用フローを紹介し詳解します。

【本記事のポイント】

  • ChatGPT・Gemini・Claudeを50点満点で採点とその結果はいかに・・・!?
  • 3つのLLMモデルによる出力の精度の差を可視化
  • AI契約書は下書き+具体プロンプト+専門家レビュー必須

【7月新着】弁護士の求人なら

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検証の前提条件

まず、今回の検証の前提条件を整理します。

検証対象 AI プロダクトとモデル

使用したのは、ChatGPT、Gemini、そしてClaudeの3つのプロダクトです。

プロダクトとしての認知度、ユーザー数、日本語での出力の精度などを考慮しています。

また、それぞれのモデルは、次のとおりです。

プロダクト

開発企業

モデル

ChatGPT

OpenAI

o4

Gemini

Alphabet(Google)

Flash 2.0/2.5

Claude

Anthoropic

3.7 sonnet

いずれも2025年4月時点での最新モデルです。

テスト契約類型

定型的で、汎用的に利用されている契約類型として、業務委託契約としています。

また、条項に盛り込むべき項目として、一定の絞りをかけるために、成果物の提供を目的とする類型にする意味合いで、スポットのWeb記事制作を内容とする業務委託を内容としました。

評価軸

契約書全体としての評価と個別の条項内容の評価を含め、次の5つの基本的な項目をもとにして定量的に評価します。

①日本語の構文や体裁
②契約書の体裁
➂契約書の全体の構成
④条項の網羅性
⑤法的な正確性

仮説としては、①→⑤に降順で、リーガルドキュメントとしての精密さに差異が出て、評価に違いが出てくるのではないかと思われます。

より具体的には、①から③ではあまり差が出ず、④や⑤で違いが出てくるのではないかと考えています。

採点方式・基準

採点は、①から⑤の配点をそれぞれ10点とし、50点満点とします。

そして、より客観的な採点とするため、①から⑤についてそれぞれ次のとおり5つの評点要素を設定します。

①日本語の構文や体裁 主語と述語の対応関係
接続語の使い方
冗長な表現や曖昧な表現の有無
日本語としての構文
表記ゆれの有無
②契約書の体裁 インデントの統一性・使い方
置換・ワーディング
冒頭や末尾等の文章
署名欄の設定の仕方
条・項・号の使い方
③契約書全体の構成 契約書名
条文や項の矛盾重複の有無
業務委託契約の性質に応じた構成
条・項の緻密さ
契約全体としての可用性
④条項の網羅性 業務委託契約として必須な権利義務に関する条項
一般的な条項として必須な条項:秘密保持、成果物の権利の帰属、納品と検収など
一般的な条項(必須ではないが通常入れるべきもの):損害賠償、契約の解除、分離可能性、裁判管轄、存続条項、反社会的勢力の排除など
無効な条項の有無
契約当事者の利益バランスの考慮
⑤法的な正確性 法律用語の使い方
法令適合性
権利義務の範囲や内容などの明確性
法的な内容を示す文体や表現
条項ごとの法的な論理構造

また、各評点要素について0点~2点を「0、0.5、1、1.5、2.0」の5段階に区分して採点します。

検証結果サマリー

上記を前提条件として、プロンプトは、特に専門家ではない人がラフに入力するようなイメージで、次のような内容をそれぞれのLLMモデルに入力しました。

記事執筆を個人事業主に依頼するために、業務委託契約書を作成したいです。
フォーマットを作成してくれますか?

果たして結果は…

まずは、一言コメントと共に採点の結果は以下のとおりです。

※スコアリングとコメント内容は、あくまで参考です。また、点数の付け方はアバウトで甘めなものになっています。

ChatGPT

【一言コメント】日本語としての構文や精度は優れていて、契約書の体裁としてもミニマムとして一定の型をなしているが、内容が薄すぎる。

 

①日本語の構文や体裁:9.5点
主語と述語の対応関係 2.0
接続語の使い方 2.0
冗長な表現や曖昧な表現の有無 2.0
日本語としての構文や表現 1.5
表記ゆれの有無 2.0
②契約書の体裁:6.0点
インデントの統一性・使い方 2.0
置換・ワーディング 1.0
冒頭や末尾等の文章 0.5
署名欄の設定の仕方 1.0
条・項・号の使い方 1.5
③契約書全体の構成:6.5点
契約書名 2.0
条文や項の矛盾重複の有無 2.0
業務委託契約の性質に応じた構成 1.5
条・項の緻密さ 1.0
契約全体としての可用性 1.0
④条項の網羅性:7.0点
業務委託契約として必須な権利義務に関する条項 2.0
一般的な条項として必須な条項:費用負担、再委託、秘密保持、成果物の権利の帰属、納品と検収など 1.0
一般的な条項(必須ではないが通常入れるべきもの):損害賠償、契約不適合、契約の解除、分離可能性、裁判管轄、存続条項、反社会的勢力の排除など 1.0
無効な条項の有無 2.0
契約当事者の利益バランスの考慮 1.0
⑤法的な正確性:7.0点
法律用語の使い方 1.5
法令適合性 1.5
権利義務の範囲や内容などの明確性 1.5
法的な内容を示す文体や表現 1.0
条項ごとの法的な論理構造 1.5
合計
36.0

Gemini

【一言コメント】:形式面と内容面いずれも、全体的に完成度は高い。項や号が使えていなかったり、一部不足している条項があるなど実務的な精度は高くないが、法務機能がない事業者も使える余地はある。

①日本語の構文や体裁:9.5点
主語と述語の対応関係 2.0
接続語の使い方 2.0
冗長な表現や曖昧な表現の有無 2.0
日本語としての構文や表現 2.0
表記ゆれの有無 2.0
②契約書の体裁:6.0点
インデントの統一性・使い方 1.5
置換・ワーディング 2.0
冒頭や末尾等の文章 1.5
署名欄の設定の仕方 2.0
条・項・号の使い方 1.0
③契約書全体の構成:6.5点
契約書名 2.0
条文や項の矛盾重複の有無 2.0
業務委託契約の性質に応じた構成 1.5
条・項の緻密さ 1.0
契約全体としての可用性 1.0
④条項の網羅性:7.0点
業務委託契約として必須な権利義務に関する条項 2.0
一般的な条項として必須な条項:費用負担、再委託、秘密保持、成果物の権利の帰属、納品と検収など 1.0
一般的な条項(必須ではないが通常入れるべきもの):損害賠償、契約不適合、契約の解除、分離可能性、裁判管轄、存続条項、反社会的勢力の排除など 1.0
無効な条項の有無 2.0
契約当事者の利益バランスの考慮 1.0
⑤法的な正確性:7.0点
法律用語の使い方 1.5
法令適合性 1.5
権利義務の範囲や内容などの明確性 1.5
法的な内容を示す文体や表現 1.0
条項ごとの法的な論理構造 1.5
合計
44.5

Claude

【一言コメント】:非常に精度が高い。他の2つと比べると、体裁面と内容面共に実務的な内容に近いものが出力されている。

①日本語の構文や体裁:9.5点
主語と述語の対応関係 2.0
接続語の使い方 2.0
冗長な表現や曖昧な表現の有無 2.0
日本語としての構文や表現 2.0
表記ゆれの有無 2.0
②契約書の体裁:6.0点
インデントの統一性・使い方 2.0
置換・ワーディング 2.0
冒頭や末尾等の文章 1.5
署名欄の設定の仕方 1.5
条・項・号の使い方 2.0
③契約書全体の構成:6.5点
契約書名 2.0
条文や項の矛盾重複の有無 2.0
業務委託契約の性質に応じた構成 2.0
条・項の緻密さ 1.5
契約全体としての可用性 1.5
④条項の網羅性:7.0点
業務委託契約として必須な権利義務に関する条項 2.0
一般的な条項として必須な条項:費用負担、再委託、秘密保持、成果物の権利の帰属、納品と検収など 2.0
一般的な条項(必須ではないが通常入れるべきもの):損害賠償、契約不適合、契約の解除、分離可能性、裁判管轄、存続条項、反社会的勢力の排除など 1.5
無効な条項の有無 1.5
契約当事者の利益バランスの考慮 2.0
⑤法的な正確性:7.0点
法律用語の使い方 2.0
法令適合性 1.5
権利義務の範囲や内容などの明確性 2.0
法的な内容を示す文体や表現 2.0
条項ごとの法的な論理構造 2.0
合計
46.5

3つのLLMモデルごとの出力内容の詳細分析

ChatGPT、Gemini、Claudeそれぞれの出力内容は、次のとおりです。

【ChatGPT】:出力内容はこちら

【Gemini】:出力内容はこちら

【Claude】:出力内容はこちら

以下、それぞれの出力内容の特徴をみていきましょう。

ChatGPTの特徴

①ミニマムな内容であること

ChatGPTの出力は、内容としては薄く、最低限記載する必要がある権利義務関係だけが記載されています。

基本的に、項に相当するような権利義務の細かい肉付けがありません。

また、法的な表現に関して、権利義務関係の発生、変更、消滅について定めるのが一般的ですが、「~確認する。」という確認条項になっているのが散見されます。

明確に義務を定める部分については、「なければならない」「するものとする」といった表現を使うのが通常ですが、この辺りの表現についてやや違和感が感じられました。

②1つの条に対して、1つの内容だけで構成されている

①にも関連しますが、基本的に1トピックに対し1センテンスによる文章構成となっています。これは、一面において、論旨明快さが求められる契約書・リーガルドキュメントとして正しいです。

しかし、反面、1つのリーガルトピックに対して緻密な利益衡量がないため、様々な事象を想定した予防法務の観点からは「穴が多い」ものとなっています。

それも、フォーマット程度の内容とみても、デフォルト値としてあるべき条項がなく、「変数部分だけ具体的な情報を入力すれば使える程度のもの」とは到底いえないでしょう。

③隠れた前提が汲み取れていないor表現が曖昧な部分がある

与えた指示内容は「記事執筆を個人事業主に依頼するために、業務委託契約書を作成したいです。」であり、ユーザーは「依頼する」側、すなわち業務委託契約の委託者側であることが暗に示されています。

ところが、出力された内容は、次のような箇所などユーザー側の立場・利益には沿わない内容になっています。

第9条(免責)
乙は、業務遂行中に発生したいかなる予見し得ない事故や障害について、甲に対して責任を負わないものとする。

一見すると、不可抗力などの場合を想定しており特に不自然な点は無いようにも見えますが、民法で定められる一般的なルール以上に甲側にとって不利な内容になっています。

それは、不履行によって通常生ずべき損害(通常損害)については、「予見し得」るかどうかという予見可能性の有無にかかわらず、債務不履行の事実があれば賠償すべきものと定められています(民法416条1項)。

逆にいえば、仮にこれが不可抗力を意図する条項であれば、「地震、洪水、戦争」など具体的な事項を示した上で「(甲乙両当事者の)責めに帰することができない事由」といった表現を用いることが必要です。

また、曖昧さが否めない部分としては、次の箇所が挙げられます。

第8条(責任)
乙は業務遂行において発生した損害に対し責任を負い、甲に対して損害賠償の責任を負うことがある。

「甲に対し損害賠償の責任を負うことがある」としていますが、「負わないこともある」という意味合いが含まれるところそれがどのような場合なのか、特定されていません。

そのため、契約書において民法の一般的なルール以上に定めている実益がないものとなってしまいます。

④成果物の提供を内容とする業務委託契約特有の内容がない

業務内容について、プロンプトの指示内容としては「記事執筆」業務を依頼すること自体は特定しているところ、第1条には記載項目だけを設定しています。

もちろん、AIの出力意図としては、あくまで「フォーマット」を求めているのがユーザーのリクエストであり、ユーザーが自由に入力しやすいものを出力するのが最適解であるという自然言語処理があったとも考えられ、一定理解することができます。

ただ、GeminiやClaudeの構成と比べると、出力内容に絞りをかける意図の把握においては、不足があるような結果です。

たとえば、納品や検収については、成果物の提供を目的とする契約で特有の条項ですが、これが含まれていません。

こうした結果から、プロンプトから想定される業務委託契約の内容として、類型上必要とされる条項が含まれていない点も指摘できます。

Geminiの特徴

①アレンジしやすいように、変数にあたる内容の具体例を詳細に記載している

ユーザービリティの高さが伺える点が、第1条にあります。

第1条 甲(委託者)は、乙(受託者)に対し、以下の業務(以下「本業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。

業務内容:[記事タイトル、テーマ、内容などを具体的に記載]
記事数:[記事数を記載]
納品形式:[Wordファイル、テキストファイル、CMSへの直接投稿など具体的に記載]
納品場所:[メールアドレス、クラウドストレージ、CMSなど具体的に記載]
納品期限:[具体的な日付を記載]

記入すべき内容がラベリングされているため、ユーザーが具体的に入力すべき内容が一目瞭然です。

個人事業主との業務委託契約では、業務内容の特定が必要であり、フリーランス保護法の観点からもいわゆる3条通知の内容として契約書にまとめる場合は一定の内容を明らかにする必要があります。

Geminiが出力したものを使用すれば、法律上具体的に特定すべき内容を知らなくても、正確に漏れなく設定することができるでしょう。

②項・号を使っていない

契約書の体裁として、論理関係や法的な整理を分かりやすくするために、項を使って意味を区別して論理構造を明らかにしたり、号で条件や項目の列挙として意味の区切りを分かりやすくする必要があります。

Geminiが出力した契約書は、()で法的な意味付けを区別して条文の一定のグルーピングを設けていますが、条の使い方としては、1つの条で1つのグルーピングをするのが一般的です。

たとえば、契約の解除に関する12条を見てみましょう。

(契約解除)
第12条 甲または乙は、相手方が以下のいずれかの項目に該当した場合、催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。

本契約の条項に違反し、その違反が重大であるとき
支払停止または支払不能の状態に陥ったとき、もしくは破産、民事再生、会社更生または特別清算の手続開始の申立てがあったとき
監督官庁から営業停止または営業免許取消等の処分を受けたとき
第三者より差押え、仮差押え、仮処分等の申立てを受け、本契約の履行が困難となるおそれがあるとき
反社会的勢力に該当することが判明したとき、または反社会的勢力との関係を有することが判明したとき
その他、本契約の継続が著しく困難となる事由が生じたとき

第13条 甲は、乙が正当な理由なく本業務を履行しない場合、または本成果物の品質が著しく低い場合、事前に乙に通知することにより本契約を解除することができる。

第14条 本契約が解除された場合、甲は乙に対し、解除日までに乙が履行した業務の対価を支払うものとする。ただし、乙の責めに帰すべき事由により本契約が解除された場合、甲は乙に対し、損害賠償を請求することができる。

上記のような構文だと、一応12条から14条が契約解除に関することを定めていることは分かりますが、次のように条・項・号を組み合わせて構成するのが通常です。

(契約解除)
第12条
1.甲または乙は、相手方が以下のいずれかの項目に該当した場合、催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。
(1)本契約の条項に違反し、その違反が重大であるとき
(2)支払停止または支払不能の状態に陥ったとき、もしくは破産、民事再生、会社更生または特別清算の手続開始の申立てがあったとき
(3)監督官庁から営業停止または営業免許取消等の処分を受けたとき
(4)第三者より差押え、仮差押え、仮処分等の申立てを受け、本契約の履行が困難となるおそれがあるとき
(5)反社会的勢力に該当することが判明したとき、または反社会的勢力との関係を有することが判明したとき
(6)その他、本契約の継続が著しく困難となる事由が生じたとき
2.甲は、乙が正当な理由なく本業務を履行しない場合、または本成果物の品質が著しく低い場合、事前に乙に通知することにより本契約を解除することができる。
3.本契約が解除された場合、甲は乙に対し、解除日までに乙が履行した業務の対価を支払うものとする。ただし、乙の責めに帰すべき事由により本契約が解除された場合、甲は乙に対し、損害賠償を請求することができる。

もちろん、項と号を使うまでもなく条レベルだけで内容が完結するものもありますが、体裁の見やすさ・読みやすさとして、法的な意味合いを区別するために項や号を適切に使うことが求められます。

Geminiでは、このような点で不十分な部分が見受けられました。

③権利義務の内容や発生時期を具体的に表現できている

Geminiの出力で精緻さを感じられたのが、債権債務関係の内容や時点などが具体的に特定されている部分が随所にあったことです。

たとえば、業務遂行に関する定めとして、単に善管注意義務などの抽象的なものだけでなく、受託者の独立性とともに、委託者による関与の範囲についても一定具体性のある内容をきちんと定めています。

第2条 乙は、善良な管理者の注意をもって、本契約に従い、本業務を誠実に遂行するものとする。

第3条 乙は、本業務の遂行にあたり、自己の判断と責任においてその方法を決定し、甲からの具体的な指示がない限り、甲の指揮命令を受けることなく業務を行うものとする。ただし、甲は、本業務の円滑な遂行のため、乙に対し、必要な情報提供、資料の貸与、参考となる指示等を行うことができる。

また、著作権の帰属について、委託者に権利が帰属すること自体を明記されているものは、弁護士などがドラフトしていないものでも多くあります。

しかし、実務的には債権債務関係の発生・変更・消滅の時期をどのように定めるかは、意外と見落としがちな点でありながら重要なポイントになります。

(成果物の権利)
第5条 本業務の遂行により乙が作成した記事(以下「本成果物」という)に関する著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む)その他一切の権利は、その完成と同時に甲に帰属する。乙は、甲または甲が指定する第三者に対して著作者人格権を行使しないものとする。

このように権利義務の内容や発生時期を具体的に表現できている点は、Geminiの精度の高さを感じた点です。

④業務委託契約において注意を要する法令に一定配慮できている

先ほども触れましたが、業務委託契約においては、特に今回前提となるような個人事業主都の間の契約においては、昨年11月に施行されたフリーランス保護法や、労働者性が生じるような実態にならないような契約上の設計と運用が必要です。

前記のようにフリーランス保護法における3条通知や、受託者の独立性を確保するような内容、そして委託者による指示が個別的な指揮命令に渡らないような細やかな法的表現が見受けられます。

このように、Geminiの出力は、法令にも適合するような配慮がある点にも特徴があるといえます。

Claudeの特徴

①条項を適切に使い分けている

Claudeの出力は、条だけでなく項も適切に使用されています。

これは、ChatGPTはもちろんGeminiにも表れていなかった特徴です。

先ほど述べたように、契約書の体裁や構造の明快さを示す要素として、項を適切に使用できている点は優れているといえます。

また、号についても、「-」でインデントをブレイクダウンするように表現されていると見受けられます。

②文字単価による報酬金額設定など業務内容として特徴のある点に着目した定めがある

ライティング・記事制作における文字単価ベースの報酬金額の設定について、取引慣習を考慮したような定めとして精緻さがあるものといえます。

プロンプトからくみ取ることが可能なユーザーの意図や業務内容の読み取りと分析を正確に処理していることが窺えるものといえるでしょう。

③プロンプトに具体的に含まれていない情報についての配慮の仕方

ChatGPTやGeminiでも、ユーザーが任意に入力すべき項目については、[]とラベリングで明示しています。

一方で、Claudeでは、そのような任意的な変数の入力項目についてはかなり絞られており、相場と思われる数値などが入力されています。

もっとも、当事者間での合意で設定することが必要なものはその旨を示すように条項が置かれています。

これは、法的に合意事項となる要素を明確に示している点で、優れた点であると評価できるでしょう。

④リスクマネジメントの視点が反映されている部分がある

Claudeは、無制限に拡大しうるリスクを限定するような配慮・視点を持っているといえる要素がありました。

たとえば、損害賠償に関する条文で、原則論とともに賠償責任の上限設定についての定めがあります。

損害賠償の条項は、片面的にも相互規定としても、質的又は量的な制限を設けることが少なくありません。現実的に妥当なリスク分配をするための実務的な手法の1つです。

Claudeでは、量的な制限として、受託者受領総額を上限とする方式を表現していました。

第10条(損害賠償)
甲または乙は、本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合、その損害を賠償する責任を負う。ただし、賠償額は、本契約に基づき乙が受領した報酬総額を上限とする。

比較して分かる共通点や相違点

出力内容の分析と結果の比較から、共通点や相違点を次のように整理することができます。

文章の精度の共通点

文章の精度は、日本語の文章の出力として、3つのLLMモデルいずれも高精度でありほとんど違和感のない内容でした。

この点に関しては、予測していた内容と乖離はありませんでした。

正確な日本語を使うという意味では、一般のビジネスマンと同等かそれ以上の精度があると言っても過言ではないでしょう。

契約書としての体裁の違い

契約書としての体裁の差異は、ChatGPTと、Gemini及びClaudeとの間で差が出ました。

ChatGPTは非常に簡素な構成で、確かに契約書としての体を成しているものの、ほとんど具体的な内容がありませんでした。

プロンプト自体が抽象的であることから、出力の精度との対応関係という意味では理解できます。

一方で、GeminiやClaudeは、抽象的なプロンプトでも、ある程度弁護士など専門家が使用するひな形にも近くなっているという「脅威」を感じる程度には正確で具体的な構造をもった体裁で出力されました。

内容面の正確性・有用性の違い

内容の正確性や全体としての有用性について、書いてある内容の限りで形式的には、3つのLLMモデルいずれも明らかに不正確な内容はほとんどなく、いわゆるハルシネーション(幻覚)は出にくくなっていることが分かりました。

一方で、GeminiやClaudeは、すでに述べた通り法的な構成や個々の条文の内容、法律用語の使い方も精度の高さが伺われたところであって、どうしようもなく時間が無くあるいは「現状確保できる法務リソースがない!」という場合に限り、暫時的なたたきとして使用することは差し支えはない程度の精度です。

現段階でこの精度まで進化しているのは、脅威であると認識せざるを得ないといえます。

もっとも、細部の正確性・有用性については、いずれのLLMモデルも弁護士によるレビューをするだけで不足がある点が多く見受けられると感じました。

この点については、プロンプトで、考慮すべき権利義務関係、より詳細な内容を含むひな形を一度学習させること、想定されるリスクの具体的なポイントを精密に入力することにより結果が異なるのではないかという仮説が生まれました。

弁護士視点のプロンプトエンジニアリングによる改善

上記の出力検証でも、一定精度の高さが伺えるものではありましたが、それでも弁護士からみると様々な改善点が見出されるものでした。

では、弁護士によるプロンプトエンジニアリングにより、出力の精度が変わるのかどうかも検証してみたいと思います。

改善①一度ひな形を学習させてみる

1つは、体裁や形式、契約の類型に応じて一般的に想定される条項の網羅性を確保するために、前提としてひな形を学習させてみるということを検証してみます。

ここで生じうる疑問として、「ひな形が手元にあれば、本来はもうそれで用済みであってAIでわざわざ出力させる必要もないのでは?」ということです。

この検証を行う意図としては、ひな形をAIに学習させることにより、ひな形の対照による契約書レビューも自作でできたり応用的な使い方も様々考えられます。

改善②法的な表現を学習させる

シンプルな発想として、法律用語や、法的な論理構造を示す内容を学習させることも考えられます。

法律用語を覚えさせることは途方もないため、ここでは汎用性の高いいくつかの例として3つをインプットしてみます。

  • 原則と例外:原則となる法律関係に対する例外は、原則を示す文章の後に「ただし、」を接続語を用いて表現する。例外に対する例外は、項を変え「前項ただし書に関わらず、」という接頭辞を付して表現する。
  • 留保的な限定条件を示す場合:限定する対象の後に、「~の場合に限り、・・・とする」と表現する。
  • 事項の限定的な列挙:「次の各号のいずれかに該当する場合」として(1),(2),(3)・・・により表現する。

改善③法的なリスクマネジメントの内容を具体的に表現する

具体的にどのようなリスクを想定しているのかを明確にして、それを考慮して条項を提示するようにプロンプトを入力し、精度の違いを検証します。

たとえば、次のような条項が考えられます。

権利の帰属について、受託者が保有する記事を一部引用ないし転載してもらうことを想定しています。当該引用や転載について、受託者が当初から保有する著作権については尊重しつつも、著作権の利用許諾を得るようにしたいです。また、後から、利用許諾の対価が主張されないように工夫してください。

損害賠償の責任制限は、質的・量的な制限を考慮してください。また、双方に公平な適用条件にしつつ、故意又は重過失がある場合などを例外にしたいと思います。

契約終了後も損害賠償責任や権利の帰属についての定めについては、効力が失われないようにしたいです。

結果はどうなる・・・?

筆者が入力したプロンプトによる出力結果は、ChatGPT、Gemini、そしてClaudeそれぞれ次のとおりです。

【ChatGPT】:出力内容はこちら

【Gemini】:出力内容はこちら

【Claude】:出力内容はこちら

出力の精度の違いは、より明確に表れており、全体的な構成や網羅性、法的な正確性も飛躍的にアップしています。

もちろん、ここまでの内容を出力できなくても問題なく利用できる可能性はありますが、一定リーガルリテラシーがある前提でないと、実務的な有用性はなお発展途上にあるといえるでしょう。

AIで契約書を出力する場合の留意点3つ~まとめに代えて~

以下では、AIドラフトを検証した結果から、法律の専門家だけでなく営業事務の方にも押さえていただきたい3つのポイントを整理します。

あくまで「たたき」として使う(AIの精度の限界を知っておく)

生成AIは条件を入力すると条文を作成しますが、文脈の誤読や条項の抜け落ちが発生しやすいです。

完成稿ではなく下書きとして受け取り、人の目で差分を確認しながら仕上げるのが安全です。これにより雛形作成時間は半減しますが、盲目的なコピペは危険です。

リスクの言語化と具体性が重要

「支払は迅速に行う」など曖昧な指示を出すと、AIも曖昧に返します。

「請求月の翌月末までに銀行振込」「損害賠償の上限は取引額の二倍まで」など具体的な数値や条件を与えると、実務でそのまま使いやすい条文になります。

また、事業部の方でも、数字を決めてプロンプトに入力するだけで修正量を減らせます。

さらには、契約業務でこうした汎用型のLLMモデルAIを利用する場合、コンセプトとしては、スピーディーに事業部と法務のリスクコミュニケーションをするためのインターフェースと置いておくのが妥当でしょう。

弁護士など専門家によるレビューは必須

契約が法律に適合しているか、条項同士で矛盾がないかを最終的に確認する責任は人にあります。

AIが作った文面でも、強行規定や下請法、個人情報保護法の観点で問題がないかを弁護士や法務担当者がチェックし、修正履歴を保管する体制を整えてこそ、業務効率化につながります。

取引現場を知る事業担当者が一次確認し、最終チェックを法務に回す二段構えが理想です。

監修者
川村 将輝

旭合同法律事務所/愛知県弁護士会所属

司法試験受験後、人材系ベンチャー企業でインターンを経験。2020年司法試験合格。現在は、家事・育児代行等のマッチングサービスを手掛ける企業において、規制対応・ルールメイキング、コーポレート、内部統制改善、危機管理対応などの法務に従事。

事務所Webサイト
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