企業法務とは、企業活動を行う際に付随する法律業務全般を指し、法務部が弁護士と連携しながら対応するケースが一般的です。
日本では規制緩和の進展により、企業はより自由に事業活動を行えるようになりました。一方で、法令違反によるリスクや企業責任は年々重くなっています。
万が一、法的トラブルが表面化すれば、信用低下や取引停止、上場企業であれば株価下落など、経営に深刻な影響を及ぼす可能性もあります。
こうした背景から、企業法務は企業活動を支える重要な役割を担っています。
本記事では、企業法務の役割や具体的な仕事内容、企業法務分野で働くための方法を解説します。法律事務所との違いや実務のリアル、年収相場まで紹介しますので、キャリアアップを考える際の参考にしてみてください。
目次
- 1 企業法務とは?仕事内容の全体像と「攻め・守り」の役割
- 2 【分野別】企業法務の実務内容一覧
- 3 企業法務に求められるスキルと有利な資格
- 4 企業法務人材のポジションの多様性
- 5 企業法務の年収・キャリアパス|未経験からCLOまで
- 6 企業法務のやりがいと大変さ|向いている人の特徴
- 7 企業法務への転職方法|弁護士・未経験それぞれのルート
- 8 企業法務に関するよくある質問(FAQ)
- 8.1 Q1. 企業法務は弁護士資格が必須ですか?
- 8.2 Q2. 英語力はどの程度必要ですか?
- 8.3 Q3. 法務未経験でも30代・40代から転職できますか?
- 8.4 Q4. 企業法務の残業は多い?繁忙期はいつですか?
- 8.5 Q5. リモートワーク(在宅勤務)は可能ですか?
- 8.6 Q6. メーカー、IT、商社…業界によって仕事はどう違いますか?
- 8.7 Q7. リーガルテックやAIの進化で、法務の仕事はなくなりますか?
- 8.8 Q8. 法務以外の部署(事業部や経営企画)へのキャリアチェンジは可能?
- 8.9 Q9. 女性にとって働きやすい職種ですか?(産休・育休など)
- 8.10 Q10. 派遣や契約社員からスタートして正社員になれますか?
- 9 まとめ
企業法務とは?仕事内容の全体像と「攻め・守り」の役割
企業法務とは、企業の存続と持続的な成長を目的として、あらゆる事業活動を法的側面から「統制」かつ「推進」する業務の総称です。
法律事務所(外部弁護士)の主たる業務が、顕在化した紛争の解決や局所的な法的助言であるのに対し、企業法務はビジネスの意思決定プロセスそのものに内在し、経営戦略と法務戦略を統合させる役割を担います。
企業法務においては、法的リスクを未然に防ぐ「予防法務」を基盤としつつ、近年では新規事業の適法性を確保しながらビジネスを成立させる「戦略法務」の比重が高まっており、経営の安定と成長を両立させるための不可欠なインフラと言えます。
この企業法務という機能を十全に果たすため、実務の現場では「社内法務(インハウス)」と「外部弁護士」が明確に役割を分担しています。
ここからは、それぞれが担う領域を整理します。
法務部・顧問弁護士・企業内弁護士の役割分担
企業法務の実務は、社内リソース(法務部・企業内弁護士)と社外リソース(顧問弁護士)に分担されます。
そして両者の決定的な違いは、「ビジネスコンテキスト(事業の背景や文脈)への理解度」と「関与の深さ」にあります。
企業内弁護士(企業法務・法務部)
企業内弁護士は、事業部門と常時連携し、ビジネスの企画段階から並走します。
法的知識だけでなく、自社のビジネスモデルや業界慣習、社内政治までを把握した上で、「法的にはグレーだが、経営判断としてどの程度のリスクなら許容できるか」という現実的な解(落とし所)を設計します。企業内弁護士は、プロジェクトマネジメント的な側面が強く求められる立場です。
顧問弁護士(外部専門家)
顧問弁護士は、インハウスでは対応しきれない専門性(複雑な訴訟、M&Aのスキーム検討、海外法務など)の高い要件や、客観的な第三者意見が必要な場面で起用されます。
事業の文脈よりも「純粋な法的正当性」や「司法判断の予測」を提供する役割に特化した立場です。
一般的な法律事務所に所属している弁護士がインハウスへ転身する場合、この「客観的なアドバイザー」から「当事者意識を持ったビジネスパートナー」へのマインドセットの転換が、最初の壁であり、かつ重要なポイントとなります。
「守り・攻め・ガバナンス」3つの重要機能
現代の企業法務には、大きく分けて以下の3つの機能が求められています。
これらをバランスよく遂行できることが、法務責任者や経営幹部など、組織の上位レイヤーへキャリアアップしていくためには大切です。
- 守りの法務
企業価値の毀損を防ぐ、伝統的かつ基盤となる機能です。
- 契約リスク管理:不利な条項の排除、損害賠償リスクの限定
- 紛争対応:クレーム、訴訟、労働審判への対応
- 法令遵守:業法規制、独占禁止法、下請法などの遵守徹底
- 攻めの法務
事業成長を法的側面から加速させる機能であり、近年、経営層から最も期待されている領域です。
- 戦略的スキーム構築:新規事業におけるビジネスモデルの適法性確保(ホワイトゾーンの活用など)
- M&A・アライアンス:買収・提携による事業拡大の法的サポート
- 知的財産戦略:特許や商標を「防衛」だけでなく「収益源」や「参入障壁」として活用する戦略立案
- ガバナンス
企業の健全な意思決定プロセスを担保する機能です
- 機関法務:株主総会・取締役会の適法かつ円滑な運営
- 内部統制:不正会計や不祥事を防ぐための仕組み作りと運用
- ステークホルダー対応:投資家や社会に対する説明責任の遂行支援
企業の成長フェーズで変わる法務の動き
「企業法務」は、所属する企業の成長フェーズにより、求められる動きが異なります。
ここでは、各フェーズ別に企業に求められる動きを紹介します。
創業期・スタートアップ(〜従業員50名)
創業期・スタートアップでは専任の法務担当が不在であることも多く、CFOや管理部長が兼任することが多いでしょう。
企業法務としての役割は、契約書レビューや登記、ストックオプションの発行、資金調達実務など、「何でも屋」としての動きが求めれる傾向にあります。
成長期・IPO準備期(従業員50〜300名)
成長期・IPO準備期では、上場審査に耐えうる規程整備や内部統制の構築が大切となります。
企業内のコンプライアンス体制を整えつつ、急拡大する事業スピードを殺さないためのバランス感覚が極めて重要になるフェーズです。
成熟期・大企業(従業員300名〜)
成熟期・大企業では、法務組織が細分化され、「契約担当」「知財担当」「コンプライアンス担当」など、役割が専門化することが多いでしょう。
高度な案件が増えるだけでなく、関係部署も増えるため社内調整や組織運営のスキルがより重視されます。
【分野別】企業法務の実務内容一覧
企業法務が扱う領域は多岐にわたりますが、業界や企業規模にかかわらず、中核となる業務は体系化されています。
ここでは主要な4つの領域について、インハウス特有の視点(ビジネス判断・調整)を交えて整理します。
- 契約・商取引・債権管理
- コーポレート・組織運営・ガバナンス
- IT・知財・情報セキュリティ
- 紛争対応・労務・その他専門領
1. 契約・商取引・債権管理
「契約・商取引・債権管理」は、企業の日常業務の大部分を占める、ジェネラルコーポレートとも呼ばれる領域です。
単なるリーガルチェックにとどまらず、商流の構築から回収リスクの管理まで、ビジネスの起点と終点に関与します。
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業務名 |
具体的な内容 |
求められる視点 |
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契約審査・ドラフティング |
・売買契約 ・業務委託 ・NDA ・共同開発契約などの作成やレビュー |
法的リスクの排除だけでなく、「自社に有利な条件(責任制限や解除条項)」をどう勝ち取るか |
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債権回収・与信管理 |
・取引開始時の与信調査 ・未払い発生時の督促 ・担保権実行 |
コスト倒れにならないか、回収可能性を見極めるビジネス判断 |
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国際取引 |
・英文契約書のレビュー ・海外子会社の管理 ・クロスボーダー取引 |
準拠法や裁判管轄、為替リスクなどのクロスボーダー特有のリスク管理 |
2. コーポレート・組織運営・ガバナンス
企業の「骨組み」を支える業務です。
法律事務所では「依頼された手続き」として関わることが多い領域ですが、インハウスでは年間スケジュールを回す「事務局」としての泥臭い運営能力が問われます。
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業務名 |
具体的な内容 |
求められる視点 |
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機関法務 |
・株主総会の招集 ・取締役会の招集 ・想定問答作成 ・議事運営 ・議事録整備 |
会社法に基づいた瑕疵のない運営プロセス |
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M&A・組織再編 |
・デューデリジェンス(DD) ・株式譲渡契約 ・PMI(統合プロセス) |
財務・税務担当との連携や、PMI(統合プロセス)への関与 |
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内部統制・コンプラ |
・社内規程の策定 ・改廃 ・内部通報窓口の運用 ・コンプライアンス研修 |
「ルールを作る」だけでなく「社内に浸透させる」啓蒙活動 |
3. IT・知財・情報セキュリティ
DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に伴い、現在最も需要が高まっている領域です。
法解釈だけでなく、技術理解の両立が求められます。
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業務名 |
具体的な内容 |
求められる視点 |
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知的財産管理 |
・特許/商標/著作権の出願管理 ・侵害調査 ・ライセンス契約 |
事業戦略とリンクした知財ポートフォリオの構築 |
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IT法務・Eコマース |
・利用規約作成 ・プライバシーポリシー作成 ・特定商取引法対応 ・景品表示法対応 |
景品表示法、特定商取引法などの消費者保護法規への対応 |
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個人情報・データ保護 |
・個人情報保護法対応 ・GDPR(EU一般データ保護規則)等の海外規制対応 |
情報漏洩リスクの予防と、万が一の際の初動対応 |
4. 紛争対応・労務・その他専門領域
弁護士資格保有者の専門性が最も発揮される「有事」および「高度規制」の領域です。
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業務名 |
具体的な内容 |
求められる視点 |
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訴訟・紛争対応 |
・クレーム対応 ・訴訟代理 ・外部弁護士のコントロール |
訴訟コストと企業イメージを天秤にかけた「落とし所」の探求 |
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労務・ハラスメント |
・懲戒処分の妥当性検討 ・ハラスメント調査 ・労働審判対応 |
労働法制の遵守と従業員エンゲージメントのバランス |
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業法規制・許認可 |
・金融商品取引法、建設業法、薬機法など、業界特有の規制対応 |
迅速な資産保全と、ステークホルダーへの説明責任 |
企業法務に求められるスキルと有利な資格
企業法務の現場では、経営課題や事業課題を法的アプローチで解決するビジネスパーソンとしての総合力が問われます。
「法律に詳しい」だけ、と思われないように、企業法務に求められるスキルや持っていると役に立つ資格を紹介します。
実務で必須となる「コミュニケーション力」と「調整力」
「コミュニケーション力」と「調整力」は、企業内弁護士にとって最大の武器であり、同時に法律事務所出身者が最も苦労するポイントでもあります。
事業部からの相談に対し、「法的にNGです」と回答するだけでは、ただの「事業のブレーキ」と見なされます。
「このスキームは法的に問題があるが、ここを修正すれば実現可能だ」
「リスクはあるが、過去の判例や他社事例から見て許容範囲内ではないか」
上記のような「GOを出すための代替案」を提示する姿勢が不可欠となるでしょう。
また、経営陣や事業部の担当者は法律の素人です。専門用語を極力使用せず、ビジネスへのインパクト(損失額、遅延リスク、レピュテーションへの影響など)に変換して説明する翻訳能力が求められます。
法的思考力・リサーチ力・英語力の重要性
弁護士として培ったリーガルマインドを土台としつつ、企業内での市場価値をさらに高める「武器」となるのが法的思考力やリサーチ力、そして英語の能力です。
新規事業においては、まだ判例や確立した解釈が存在しない「グレーゾーン」を扱うことが日常茶飯事となるでしょう。
既存の法理を応用し、省庁のガイドラインやパブリックコメントまで深くリサーチして、自ら論理を構成する力が試されます。
また、市場価値を跳ね上げる「英語力」 は、ハイクラス層を目指すのであれば必須となります。
クロスボーダーM&Aや海外子会社管理において、英文契約(ドラフティング・レビュー)はもちろん、現地の法律事務所や相手方企業と対等に交渉できる英語力があれば、「英語ができる弁護士」として希少価値は極めて高くなります。
評価される資格(司法書士・ビジネス実務法務検定 等)
既に弁護士資格を所持している場合、他の法務系資格(ビジネス実務法務検定など)は必須ではありません。
しかし、特定の専門領域を強化する資格はプラスに働きます。
弁理士
メーカーやIT企業で知財戦略の中枢を担う場合、強力な武器になります。
米国弁護士(NY州・CA州など)
外資系企業やグローバル展開する日系大手において、英文契約の実務能力を証明する強力な武器となります。
その他(CIPP、公認不正検査士 等)
近年では、情報管理(CIPP/E等)や内部統制・不正調査(公認不正検査士)など、特定のリスク管理領域に特化した国際資格も評価が高まっています。
企業法務人材のポジションの多様性
企業法務の人材には、様々な関わり方があります。
ここでは、特に弁護士に関して、顧問弁護士等、企業内弁護士、社外取締役、取締役の4つをご紹介していきます。
顧問弁護士・業務委託
一般的なものとしては、顧問弁護士が挙げられます。基本契約として、月々の単価で社内の法務関連のアドバイスや相談ができることとされ、訴訟対応では別途報酬が発生する(着手金は無料の場合が多い)契約内容です。
また、中小企業でよくあるのが社長の個人的な法律相談への対応です。いずれにしても、基本的には会社に対してのコンサルなので、ほかの3つに比べて、外部的なアドバイザーとしての関わりなのが特徴です。
なお、より社内に近い関わり方として、業務委託(非常勤社員)も考えられます。
企業内弁護士
企業内弁護士は、弁護士として、社内の従業員となり、法務を中心に業務を行う場合をいいます。雇用契約という形態であるため、安定的な給与を得ることができることのほか、土日祝の休日など、安定的な働き方であるのが特徴です。
社内の人間として法務に関わることができるため、様々な取引において、その過程にある法務のあらゆる問題に関わることができます。
企業法務弁護士とコーポレートガバナンス
平成27年3月、東京証券取引所と金融庁が協力して開催した有識者会議によって、「コーポレート・ガバナンスコード」が策定されました。
「コーポレート・ガバナンスコード」では、下記の5つの原則から構成されています。
- 1:株主の権利・平等性の確保
- 2:株主以外のステークホルダーとの適切な協働
- 3:適切な情報開示と透明性の確保
- 4:取締役会の責務
- 5:株主との対話
長期的に企業価値を向上させるため、株主を守るために、不正を防ぐ仕組み作りが大切になります。経営陣への監視の目を光らせるためにも、上場企業では社外取締役の設置が必須となりました。
社外取締役として、企業法務に明るい弁護士などを設置する企業も増えています。
社外取締役に弁護士を採用している企業の例
| note株式会社 | カゴメ株式会社 | 株式会社クレディセゾン |
| 社外取締役(監査等委員) 水野 祐 みずの たすく シティライツ法律事務所。 |
社外取締役監査等委員 山神 麻子 名取法律事務所。 |
社外監査役 笠原 智恵 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 |
社外取締役・監査役
社外取締役・監査役は、社外性・独立性という要素を持ちながら、単に外部的な人材ではなく、社内の経営戦略に踏み込んだ形で法務に関わることができます。
社内外での法務実務経験を積んでいけば、社外取締役あるいは監査役としてのキャリアを経験することも可能です。
社外取締役として適任な人材
社外取締役に選ばれる人は、経営経験者・公認会計士・税理士・弁護士などが多いようです。
特に財務面をクリアにしていることをアピールしたいのであれば、公認会計士や税理士を選ぶと良いのではないでしょうか。経営者に対してイエスマンでは意味がないので、きちんと経営者に対しても意見が言える人が理想です。
社外取締役はエージェント経由で選ぶことが多い
社外取締役は紹介により選ぶこともありますが、親しい仲ほど本音で意見が言えないというデメリットもあり、全く利害関係がない人の中から選ばれるのが一般的です。
具体的な採用方法として、社外取締役を含めたエグゼプティブ転職専用のエージェントも多く、企業はこういったサービスを利用することで、スキルの高い弁護士などを採用するケースが一般的です。
取締役(CLO・GC)
社内の経営判断に主体的に関わることができるのが、取締役としてのポジションです。社外役員とは異なり、法務的なバックグラウンドを持ちつつ、ビジネスの判断を自ら行うことができる立場であるというのが特徴です。
近年では、日本でも、CLOやGCというポジションが浸透しつつあり、弁護士がこれらの役職に就くことも増えています。
企業法務の年収・キャリアパス|未経験からCLOまで
法律事務所に所属する多くの弁護士は、「インハウスに転職すると、年収が大幅に下がるのではないか?」という懸念を抱くのではないでしょうか。
確かに、一般的な事業会社の法務担当者(弁護士資格なし)の平均年収は570万円前後(※1)です。
しかし、「弁護士資格保有者である企業内弁護士」の市場価値は異なる評価軸により評価されます。
ここでは、企業法務の平均年収や給与を左右する要素について紹介します。
(※1 大手転職サイト『転職会議』および求人検索サイト「求人ボックス」のデータ)
企業法務の平均年収と給与が決まる要素
弁護士資格を持つ即戦力人材であれば、スタート時から800万円〜1,200万円のレンジ提示が一般的です。さらに、企業の属性によって上限は大きく変動します。
大手上場企業・総合商社(1,000万円〜1,500万円)
年功序列の色合いは残るものの、基本給に加え、手厚い賞与と福利厚生(住宅手当・退職金等)が加算されます。
30代で1,000万円を超え、安定的に昇給していくモデルです。
メガベンチャー・IPO準備企業(800万円〜1,200万円 + SO)
ベース給与は法律事務所時代と同等か微減となる場合がありますが、ストックオプション(SO)によるアップサイドが期待できます。
上場時には数千万円単位のキャピタルゲインを得る事例も珍しくありません。
外資系企業(1,200万円〜2,000万円以上)
即戦力性と高い英語力が求められますが、報酬水準はトップクラスです。
ベースサラリーが高く、成果主義(インセンティブ)の比重も大きいため、実力次第で法律事務所のパートナー年収を凌駕することも可能です。
適切な企業選びを行えば、年収維持、あるいは年収アップでのオファーは十分に可能です。
参考:企業内弁護士に関するアンケート結果(2023年3月実施)
キャリアステップ:担当者から法務部長・CLO(最高法務責任者)へ
企業法務のキャリアパスは、単なる管理職への昇進にとどまらず、経営の中枢へと続いています。
ここでは理想的なキャリアラダーを5段階に分けて解説します。
- 法務担当・メンバー(Business Onboarding)
役割:定型契約の審査や社内相談の一次対応を通じて、自社のビジネスモデルや商流、社内用語を徹底的にインプットするフェーズです。
弁護士の場合:即戦力として期待されますが、まずは「外部の先生」という意識を捨て、泥臭い現場理解に徹することが後の飛躍につながります。
- シニア・リーダー(Ace Player / Specialist)
役割:難易度の高いM&A案件のデューデリジェンス(DD)や、新規事業のスキーム構築、訴訟対応などを主導。特定の分野(知財、国際法務など)における社内第一人者として信頼を獲得する時期です。
視点:法務部内での後輩指導も任され始め、プレイングマネージャーとしての素養が試されます。年収1,000万円の大台に乗るのもこの層が多いです。
- 法務マネージャー(Team Management)
役割:ここから「組織の長」としての役割が主になります。メンバーのマネジメント(採用・育成・評価)や部門予算の管理、他部署(事業部長クラス)との調整業務が激増します。
視点:「自分でやったほうが早い」という実務家のプライドを抑え、チームとして成果を最大化する仕組み化作りに注力する必要があります。
- 法務部長・本部長(Division Head)
役割:法務部門全体の最高責任者として、契約・コンプライアンス・知財・ガバナンスなど、全領域を統括します。経営陣への定例報告を行い、全社的なリスク許容度(リスクテイクの基準)を決定します。
視点:経営戦略に基づき、「今年は攻めの法務にリソースを割く」といった組織戦略を立案・実行します。
- CLO(最高法務責任者)・GC(ジェネラルカウンセル)
役割:法務部門の枠を超え、執行役員や取締役として経営ボードに参画します。法務戦略と経営戦略を完全統合させ、企業価値向上に直結する意思決定を下す「経営者」の1人です。
市場価値:欧米ではCEO、CFOに次ぐNo.3のポジションとして確立されており、日本でも導入企業が急増しています。このクラスになると、年収2,000万円〜3,000万円、あるいはそれ以上の報酬(役員報酬+SO)が提示されることも珍しくありません。
このように段階を細分化することで、「まずはシニア・リーダーとして実績を作り、最短でマネージャーを目指す」といった具体的なキャリアイメージが湧きやすくなります。
働き方の特徴:インハウスと法律事務所の比較
年収と同等以上に大きな違いが「働き方」と「時間の使い方」です。
インハウスと一般的な法律事務所を比較し、違いを解説します。
法律事務所(タイムチャージ型)
多種多様な企業の難局を救う「法律のプロ」としての醍醐味や、訴訟・紛争対応で培われる高度な専門性は、法律事務所ならではの大きな魅力です。 一方で、ビジネスモデルは「労働集約型のタイムチャージ」です。クライアントからの依頼は突発的であり、その対応スピードこそが付加価値となるため、自身の裁量でスケジュールをコントロールすることが比較的困難です。評価を得るためには「ビラブル・アワー(課金対象時間)」の最大化が求められ、結果として平日夜間や週末も業務に追われることが常態化しやすいという課題があります。
インハウス(バリュー型)
基本的には組織のカレンダー通りに動くため、業務の予測可能性が高く、オンオフの切り替えがしやすい環境です。 最大の特徴は、評価の基準が「稼働時間(ビラブル・アワー)」ではなく、「事業の成功と企業価値への貢献度」にある点です。 単に法的助言をして終わりではなく、そのアドバイスが実際にビジネスをどう前進させたか、トラブルをどう収束させたかという「結果」にコミットします。効率化によって生まれた時間を、より深い事業理解や語学などの自己研鑽に充て、中長期的な視点でキャリア資産を築ける点も大きな魅力です。
企業法務のやりがいと大変さ|向いている人の特徴
外部弁護士(顧問)が「客観的な第三者」であるのに対し、企業法務(インハウス)は「当事者」です。
この立場の違いが、独自のやりがいや苦労を生み出します。
実際に現場で直面するその「やりがい」と「大変さ」について、適性チェックリストと共に具体的に紹介します。
経営の意思決定に関わる「やりがい」と「面白さ」
企業法務の最大の魅力は、自らの法的知識がダイレクトに「事業の数字」や「組織の成長」へ変換されるプロセスを、当事者として肌で感じられる点にあります。
「点」ではなく「線」でビジネスに関われる
法律事務所の仕事は、契約書作成や訴訟対応など、スポット(点)での関与になりがちです。一方、インハウスは、企画段階からサービスリリース、その後のトラブル対応や改善まで、ビジネスのライフサイクル(線)を共に歩みます。「自分が苦労してスキームを作った商品が世に出て、売上が上がる」という喜びは、事業会社ならではの特権です。
「経営参謀」としての手応え
経営陣の近くで働き、法務リスクとビジネスチャンスを天秤にかけた意思決定(経営判断)に直接関与できます。
自分の助言一つで、数億円規模のプロジェクトが動くダイナミズムがあります。
板挟みや責任の重さなどの「大変さ」
インハウスの立場には、以下のような特有の責任の重さや業務の大変さも持ち合わせています。
「正論」だけでは通じないもどかしさ
企業法務においては、法的に正しい(リスクゼロの)回答が、ビジネスとして正解とは限りません。
「法務はすぐにダメと言う」「営業の邪魔をする」といった現場からの反発を受けながら、「法的に許容できるギリギリのライン」を模索し、説得して回る「社内政治力」が求められます。
ジェネラリストとしてのキャッチアップ
「私はM&A専門なので、労務や知財はわかりません」では通用しません。専門外の分野であっても、一次対応を行い、必要に応じて外部専門家につなぐハブとしての動きが求められます。
【自己診断】企業法務に向いている人・いない人チェックリスト
ここで、企業法務を担当する企業内弁護士が向いているか、簡単にチェックできるチェックリストを提示します。
ご自身の志向性がどちらに近いか、どちらのチェックが多いか試してみてください。
向いている人(インハウスへの適性が高い)
□法律の知識を「ビジネスを成功させるための道具」と割り切って使える
□クライアント(自社)の成長を、長期間にわたって支援し続けたい
□チームで働くことや、他部署とのコミュニケーションが好きだ
□完璧な法的理論よりも、スピード感のある現実的な解決策を好む
□自分の専門領域(例:企業法務)以外にも、幅広く興味を持てる
向いていない人(法律事務所のほうが活躍できる)
□ビジネスの利益よりも、純粋な「法的正しさ」や「理論の追求」を優先したい
□訴訟(争訟)対応などの紛争解決業務だけに特化したい
□社内調整、根回し、会議などの「非法律業務」は極力やりたくない
□自分の専門分野以外(労務や総務的な雑務など)には一切タッチしたくない
□1社に深く入るより、第三者として「多種多様なクライアント」の案件を扱いたい
企業法務への転職方法|弁護士・未経験それぞれのルート
企業法務へのキャリアチェンジは、弁護士資格の有無によって戦略が大きく異なります。
ここでは、それぞれのルートにおけるポイントを解説します。
弁護士資格者が企業法務へ転職する場合(法律事務所からの転身)
法律事務所出身者は、即戦力として非常にニーズが高い一方で、採用企業側は「企業カルチャーに馴染めるか(偉そうにしないか)」を懸念しています。
アピールすべきは「脱・先生業」のマインドです。選考では、高度な法的知識よりも「現場の社員と同じ目線で汗をかけるか」が見られます。「先生」として振る舞わず、チャットツール(ChatWorkやSlack等)での気軽な相談や、スピード感のある意思決定に順応できる柔軟性をアピールすることが重要です。
「経験年数3〜7年目のアソシエイト」は、実務能力と柔軟性のバランスが良いとされ、最も市場価値が高い層です。パートナー昇進前のこの時期が、インハウス転向のゴールデンタイムと言えます。
社外取締役になる
コーポレートガバナンスにより、上場企業では社外取締役の設置が義務化されました。
そのため、法的知識に精通した弁護士を社外取締役として迎えたいと考える企業も少なくありません。
社外取締役には、経営陣の不正や判断ミスを防ぎ、株主の利益を守る役割が求められます。とくに、経営判断が法令に照らして適切かどうかを、第三者の立場から厳しくチェックすることが重要です。
社外取締役の募集は、エグゼクティブ向け転職サイトやヘッドハンティング、紹介などを通じて行われるのが一般的です。責任は重いものの、複数社を兼任できるケースもあり、収入面でのメリットが期待できる点も特徴といえるでしょう。
NO-LIMITで社外取締役を目指す▶︎
法学部卒・管理部門経験者が未経験から目指すルート
弁護士資格がない場合、実務経験が全てとなるでしょう。以下のルートが現実的です。
ひとつは、管理部門からのスライドです。総務・人事・営業事務などで契約書管理や社内規定運用に携わり、その実績を元に法務部門の求人へ応募する、あるいは社内異動を願い出るパターンです。
ふたつめは、紹介予定派遣・契約社員から始める流れです。未経験OKの正社員求人は少ないため、まずは契約社員や派遣として大手企業の法務部に入り、「契約書審査の実務経験」などを積んでから正社員登用や転職を目指しましょう。
できるだけ失敗しない求人の選び方・チェックポイント
「入社してみたら、ただの契約書チェックマシーンだった」
「予算がなく外部弁護士を使わせてもらえない」
などといったミスマッチを防ぐため、以下の3点は必ず確認してください。
1.レポートライン(上司)は誰か?
良い例:法務部長、またはCFO・CEO直下。(法務が経営戦略の一部とみなされている)
注意:総務部長の兼任。(法務が総務の一部=バックオフィス業務とみなされ、裁量が狭い可能性がある)
2.外部弁護士(顧問)の活用状況
良い例:専門分野ごとに外部事務所を使い分けている。(インハウスは戦略業務やコア業務に集中できる)
注意:コスト削減のため極力内製化している。(すべての訴訟や調査をインハウスが抱え込み、疲弊してしまう可能性がある)
3.法務部門の人数と「一人法務」のリスク
初めてのインハウスであれば、教育体制がある「複数名のチーム」を推奨します。
「一人法務」は裁量が大きい反面、相談相手がおらず、全責任を一人で負うため、インハウス経験者向きの環境です。
また、自分以外の法的見解に触れる機会が少なくなるため、知識がアップデートされず独りよがりな判断(ガラパゴス化)に陥りやすい点も、長期的なキャリア形成においては注意が必要です。
選考対策:職務経歴書と面接でのアピールポイント
選考時は、法律事務所の実績をそのまま書いても、企業人事には響きにくい場合があります。
どのようにして「ビジネスへの貢献」に翻訳して伝えるかが重要です。
職務経歴書(レジュメ)の書き方
「〇〇訴訟を担当」だけでなく、「係争中案件の早期和解を主導し、訴訟コストを〇〇万円削減」「新規事業の規制調査を行い、適法なビジネススキームを提案してリリースに貢献」など、ビジネス上の成果を強調してください。
面接で見られるポイント
「なぜ法律事務所ではなく、事業会社なのか?」という問いに対し、「ワークライフバランスを改善したい」などの本音は抑えつつ、「外部からではなく、当事者として事業成長にコミットしたい」というポジティブな動機を一貫して伝えることが大切です。
企業法務に関するよくある質問(FAQ)
最後に、企業法務に関して頻繁に寄せられる質問に対し、専門家の視点から回答します。
Q1. 企業法務は弁護士資格が必須ですか?
必須ではありません。
実際に日本の法務担当者の多くは無資格です。しかし、法務部長やCLOといった責任あるポジションや、年収1,000万円以上のハイクラス求人においては、弁護士資格が「極めて強力な武器(事実上の必須要件)」となります。
Q2. 英語力はどの程度必要ですか?
企業規模によります。
国内事業が中心の企業であれば不要ですが、外資系企業やグローバル展開する日系大手で年収アップを狙うなら、読み書きレベル(TOEIC 800点〜目安)は身につけておくべきです。
AI翻訳も進化していますが、最終的な条文修正や、現地の法律事務所との折衝には英語力が必要不可欠です。
Q3. 法務未経験でも30代・40代から転職できますか?
弁護士資格があれば、30代・40代でも即戦力として十分に転職可能です。
無資格・未経験の場合は、年齢とともにハードルが上がりますが、総務やコンプライアンス部門など関連職種からのスライド異動や、特定業界(建設・不動産・金融など)の知識を活かした転職ルートが存在します。
Q4. 企業法務の残業は多い?繁忙期はいつですか?
法律事務所に比べれば圧倒的に少なく、コントロールしやすい傾向にあります。
ただし、株主総会前(4月〜6月)や、大型のM&A・資金調達案件が動いている時期は繁忙期となり、深夜残業が発生することもあります。
平時は月20〜30時間程度の残業に収まる企業が一般的です。
Q5. リモートワーク(在宅勤務)は可能ですか?
非常に進んでいます。電子契約(クラウドサイン等)の普及により、出社必須の業務は激減しました。
週2〜3日のリモートワークを標準とする企業も多く、フルリモート可の求人もIT系ベンチャーを中心に増えています。
Q6. メーカー、IT、商社…業界によって仕事はどう違いますか?
業界によって「守るべき法律」と「スピード感」が異なります。
メーカー:製造物責任法(PL法)、下請法、知財管理が中心。
IT・Web:利用規約、資金決済法、個人情報保護法が中心。スピード重視。
商社・金融:投資契約、金商法、海外法務など規制対応が厳格。
Q7. リーガルテックやAIの進化で、法務の仕事はなくなりますか?
なくなりません。
むしろ「定型業務(契約書の単純チェック等)」がAIに置き換わることで、人間は「経営判断」や「戦略構築」といった付加価値の高い業務に集中できるようになります。
AIを使いこなせる法務人材の価値は、今後さらに高まるでしょう。
Q8. 法務以外の部署(事業部や経営企画)へのキャリアチェンジは可能?
可能です。
法務で培った「リスク管理能力」と「論理的思考」は、経営企画、新規事業開発、コンプライアンス、監査部門などで重宝されます。
法務を入り口に、ビジネスサイドへ軸足を移すキャリアも一般的です。
Q9. 女性にとって働きやすい職種ですか?(産休・育休など)
管理部門の中でも専門職としての独立性が高く、スケジュール調整がしやすいため、産休・育休を経て復帰し、時短勤務で活躍されている方が非常に多い職種です。
女性管理職比率が高いのも法務の特徴の一つです。
Q10. 派遣や契約社員からスタートして正社員になれますか?
可能です。
特に無資格・未経験の方の場合、まずは紹介予定派遣や契約社員として実務経験(契約書審査の件数など)を積み、その実績をポートフォリオとして正社員登用や転職を果たすのが、最も確実なステップアップ方法の一つです。
まとめ
企業の価値を高めるために努める企業法務は、時に企業の成長に携わることもでき、大変やりがいのある仕事だといえるのではないでしょうか。
一方で、もし企業が法律違反をすることになれば、企業価値を大きく落とし、企業の存続にも関わるので、監視役としての責任は重いです。
企業法務を担うには、企業法務を取り扱う法律事務所へ入所する、企業内弁護士として働く、企業の社外取締役としてアドバイザー的なポジションになるなどが考えられます。
また、弁護士資格を持っていなくても、法務部で働くことで弁護士と協働して企業法務に携わることができます。
一般民事では味わえない経験もできるので、興味がある方は挑戦してみてください。




