インハウスローヤー(以下、この記事では「企業内弁護士」のことをいいます。)を辞めたいと感じている方へ。弁護士としてのキャリアに不安を感じたり、働き方に疑問を感じたりしていませんか?
この記事では、弁護士としてのキャリアに悩むインハウスローヤーのために、経験を活かしたキャリアの描き方や、転職方法などを解説します。
目次
インハウスローヤー(企業内弁護士)を辞めたくなるのはなぜ?
まず、インハウスローヤーを辞めたいと思い至るのには、どういった理由があるでしょうか。様々な理由が考えられますが、弁護士としての最大の理由として考えられるのは、やはり弁護士業務をやりたいという理由です。
もう少し掘り下げると、あくまで例ですが、次のような背景・バリエーションあると考えられます。
訴訟を中心とした弁護士業務をしたい
やはり弁護士としてのサービスの本丸は、訴訟ですよね。もちろん、訴訟の局面でインハウスローヤーが法務担当として、訴訟対応を行うこともあります。
一方、インハウスローヤーとしての業務の中では、必ずしも訴訟に関わる事案が多いわけではありません。むしろ、企業間や対第三者との間の訴訟では、外部の顧問弁護士に任せる形で、社内の法務担当であるインハウスローヤーが表に出て代理人として訴訟行為を行わないという方針の企業もあります。
そのような場合、インハウスローヤーは、外部弁護士との調整役・窓口として動く形になります。
※顧問料をタイムチャージ制などにしている場合、顧問先の弁護士に訴訟委任をすると超過時間が発生する場合があり、着手金・報酬金も上乗せになる場合もあると考えると、コスト面では社内弁護士に任せることが出来た方がベターなのかもしれません。
そこで、インハウスローヤーとして一定の期間キャリアを積んだときに、弁護士業務に戻ってみようと思い至り、辞めようと考えるパターンがあります。
そもそも法務以外の業務が多い
法務部門の業務範囲が、必ずしもリーガルチェックや契約書審査、コンプライアンス対応などに限定されているわけではありません。法務担当者が1人しかいないような企業、あるいは数名程度の組織である場合、法務業務以外の業務を兼任させられることも、珍しいことではないでしょう。
例えば、総務、人事、経理などの業務を兼任することもあれば、場合によっては、知的財産の管理や許認可に関する業務、海外進出の際のサポートなども含まれることがあります。そうした場合、本来注力すべき法務業務に十分な時間を割くことができず、ストレスを感じてしまうこともあるでしょう。
さらに、法務以外の業務の経験を積んだとしても、それが弁護士としてのキャリアアップに直接繋がるとは限らず、時間や労力を無駄に消費しているという感覚を抱いてしまうかもしれません。
こうした状況が常態化してしまうと、「本来やりたかった法務の仕事ができていない」という不満が生じ、インハウスローヤーを辞めたいという思いに繋がってしまうと考えられます。
自分自身が個人のお客様と相対して仕事がしたい
キャリアを考える中で、弁護士として個人の生活、ひいては人生に関わるような事に対して課題を解決できるような仕事をしたいという場合もあるでしょう。
そこで、インハウスローヤーを辞めて、いわゆる街弁として法律事務所に転職し、弁護士業務をしたいというきっかけが生じることもあると考えられます。
弁護士の仕事は、やはり直接個人のお客様や企業を相手にして仕事をすることができる点が魅力です。特に、toCの案件では、自分の業務や仕事の力量によって、クライアントの生活や人生に与える影響は、大きなものになります。
そうした伝統的に弁護士の仕事の魅力にひかれ、あるいは改めて「戻りたい」というような思いを抱くこともあるでしょう。
インハウスローヤーをしていて、弁護士としてのキャリアやスキルに不安を覚えた
特に新卒でインハウスローヤーになった場合、個人受任が許されていたりする場合を除いて、法律事務所の業務の日常には関わらない状態になります。そして、訴訟対応をするような場面が限られてくるような企業であるとすると、訴訟業務に関する経験は希薄なままとなります。
法律事務所に就職した同期と話すような場面で、弁護士業務の経験を積むことができていないと、弁護士としてのスキルに不安を覚えてしまうこともあるでしょう。
そうした背景から、新卒でインハウスローヤーとなった場合、3年程度の期間で法律事務所への転職を思い至ると考えられます。
中途の場合も、インハウスローヤーに転職する際、経験の内容によってはマネジメントポジションに抜擢される場合も考えられます。そのような場合、新卒の場合と比べると長期間の在籍が求められるようなケースもあります。
そうすると、弁護士業務として積み上げてきた部分の経験で、インハウスローヤーとしての業務の中でアウトプットしていない部分(上記のような訴訟などのほか、関わる事業や取扱うプラクティスの偏り)について、スキルが落ちてしまうのではないかという不安が生じることもあるでしょう。
こうした不安感から、インハウスローヤーを辞めたいと思い至ることがあると考えられます。
インハウスローヤーとしての経験を活かして別のことをしたい
法律事務所への転職以外でも、キャリアアップを求めてインハウスローヤーを辞める理由が考えられます。
例えば、最近では法務がいわゆるルールメイキングの領域に関わることもあります。新しい法務のプラクティスとして注目が高まっているものです。
※大手企業や大手のベンチャーでは、法務部門ではなく、「政策渉外」や「公共政策」といった名称の部門であることもあります(例:LINE、ヤフー、メルカリなど)。
そうした経験から、行政や立法政策に関わる分野を開拓して経験を身に着けてキャリアを拡げていこうという戦略も魅力的であると考えられます。
最近では、行政や立法の側も、民間の人材採用の幅を広げていることもあり、任期付公務員などの形でチャンスは少なくありません。
- 金融庁:https://www.fsa.go.jp/common/recruit/index-sikaku.html
- 消費者庁:https://www.caa.go.jp/about_us/recruitment/consumer_policy/031930.html
- 国土交通省:https://www.mlit.go.jp/page/kanbo04_hy_000156.html
こうしたキャリア戦略から、インハウスローヤーを辞めたいを思う理由になると考えられます。
インハウスローヤーの働き方が合わなくなった
働き方に関して、通常の雇用を想定する場合、インハウスローヤーは、一般論として福利厚生など仕事と家庭の両立のしやすさにメリットを感じて転職することが考えられます。
また、弁護士有資格者であれば、待遇面も相応のポジションや給与を確保することが期待できます。
一方で、雇用の場合職務への専念義務があることから、時間と労力を拘束されることになります。そして、副業などができない場合は、100%でインハウスローヤーとして会社の業務にコミットすることになります。
そうした働き方がフィットせず、むしろ時間を自由に使って仕事ができる弁護士の働き方を志向することも、インハウスローヤーを辞めたいと考える理由の1つとして挙げられるでしょう。
給与や待遇への不満がある
弁護士有資格者は一般層と比べて高給になりがちですが、それでも企業や業界によって出せる給与の幅は異なります。仕事の責任や業務量に対して、給与が見合っていないと感じる場合も、インハウスローヤーを辞めたいと思う原因になり得ます。
特に、他の企業で働く同年代の弁護士と比べて給与が低い場合や、福利厚生が充実していない場合、不満を感じやすくなるでしょう。また、賞与やインセンティブが少ない、あるいは全く無いといったケースも、モチベーションの低下に繋がります。
弁護士資格を保有し、企業のリスクマネジメントを担う重要な役割を果たしているにも関わらず、それに見合った給与や待遇が得られないと感じると、自分の仕事が正当に評価されていないと感じてしまうものです。
結果として、より良い給与や待遇を求めて、転職を考えるようになるのも自然な流れといえるでしょう。特に、インハウスローヤーとしての市場価値が高まっている昨今、他社からの好条件のオファーがあれば、心が揺らぐのも無理はありません。
インハウスローヤーを辞める前に考えるべきこと
インハウスローヤーを辞めようと考える場合であっても、決断をする前に次の3つを検討できたか、チェックしてみましょう。
辞めた後に何をするか
まずは、辞めた後のことについてです。
インハウスローヤーを辞めた後の選択肢について、次のような方向性が考えられます。
選択肢 | 詳細 |
---|---|
転職 | ・法律事務所に転職する ・官公庁の任期付公務員などに転職する ・NPOやNGOへの転職 ・国際機関への転職 ・別の民間企業で異なる職種にチャレンジする |
独立 | ・法律事務所を開業する ・フリーランスになる ・起業する |
FIRE | ・働かずに投資などをして不労所得で生きていく |
これ以外にもさまざまな選択肢が考えられますが、今一度検討できるものがないか、考えてみるのもよいでしょう。とくに、弁護士として独立するには経験とタイミングがかなり重要です。独立を検討している方は、次の記事も参考にしてみてください。
辞めた後に経験・スキルをどう活かすか
FIREの場合を除いて、社員、個人事業主あるいは経営者としてどのように経験を活かしていくのかを考えることも重要です。
インハウスローヤーは、いわゆる弁護士としての専門性が要求される業務にとどまらず、組織で働く一員としてさまざまなマネジメントやビジネスマインドを体得できます。
そうした弁護士としてのスキルとは離れた部分にも目を向けてみると、視野が広がるかもしれません。
辞めた後転職する時、転職先をどう探すか
転職をする場合、転職先をどう探すかという点も、整理しておく必要があります。ブレインストーミング的に検討して、最適な形を選択できているかチェックしてみましょう。
転職を先を探す方法はいくつかありますが、転職エージェントを活用するのが一般的です。なかには弁護士のキャリアに特化した転職サービスも存在するため、キャリアプランに悩んでいる方はまず相談してみるのが良いでしょう。
インハウスローヤーを辞めた後のキャリア例
実際にインハウスローヤーを辞めた後のキャリア例として、具体的にどのようなものがあるでしょうか。さらに深堀りして見ていきましょう。
企業法務系の法律事務所への転職
ビジネス現場での法務経験がダイレクトに活きるものとしては、やはり企業法務系の法律事務所への転職です。
また、どのような規模の会社での経験をしたのか、どのような業務を担っていたのか、実績として何があるかなどによって、入ることができる事務所も変わってきます。
法務として扱った分野が一転集中的なものである場合でも、例えば知財関係やエンタメについての事業である場合、エンタメ系の企業を相手とするブティック型法律事務所への転職も、経験にマッチしたものとして1つの最適解といえます。
いずれにしても、インハウスローヤーとしてのキャリアの中でどのような業務を経験し、どのような実績を残してきたのか、強みは何かを徹底分析していくことが重要です。
一般民事・総合型法律事務所への転職
インハウスローヤーは、企業法務に特化しているため、必ずしも訴訟経験が豊富とは限りません。そのため、一般民事や刑事を扱う法律事務所への転職は、経験とのマッチングが難しい場合もあります。
しかし、たとえば「法人の顧問先を増やしたい」という経営方針の事務所であれば、企業内での実務経験は高く評価されるでしょう。自身の経験を活かせるポジションを見つけることができれば、入所後に、訴訟などの一般民事や刑事事件のスキルを習得・再習得する道も開けます。
官公庁への転職
インハウスローヤーから官公庁への転職は、在籍企業と関連の深い行政分野において、親和性が高いと言えます。特定の業界に関する規制当局や、許認可権限を持つ官庁などが考えられるでしょう。
例えば、金融機関の出身者であれば金融庁、通信事業者であれば総務省、製造業であれば経済産業省など、企業での経験を活かせる可能性は十分にあります。さらに、法令の改正や政策立案のプロセスに関与してきた経験があれば、即戦力として、行政の立場から専門性を発揮することもできるでしょう。
任期付き職員としての採用だけでなく、近年増加傾向にある民間人材のキャリア採用枠などを通じて、正規職員として登用される道も開かれています。
独立開業
法律事務所の独立開業も考えられます。中途でインハウスローヤーになった人で、特に個人受任を企業から許可されてクライアントを持ち続けていた場合には、そのまま独立開業をしてしまうという選択肢もありえるでしょう。
ただ、クライアントの数は限りがあったり、弁護士としての実務経験の感覚をつける・取り戻していく必要があることには変わりないため、個人での開業というよりも、チームで改行してナレッジシェアしながらできる形が無難であると考えられます。
起業
今後のトレンドにもなりうるのが、起業という選択肢です。
すでに弁護士が起業することはリーガルテック界隈を中心に「当たり前」にもなりつつあるところですが、ALSP(Alternative Legal Service Provider)が注目されています。
ALSPは、契約業務(レビュー、作成、管理など)に関するアウトソーシングプロダクトがすでに市場を形成していますが、法務案件管理や法務組織・マネジメント支援ツールの開発なども、インハウスローヤーとしての経験を活かすことができる領域であると考えられます。
インハウスローヤーを辞めた後に活かせるスキルは?
インハウスローヤーを辞めた後、どのようなスキルを活かしていくことができるでしょうか。弁護士としての法律のエキスパートとしてのスキルはもちろんですが、ここではそうしたリーガル面以外に活かせると考えられるスキルを3つご紹介していきます。
コミュニケーション能力
まず挙げられるのは、弁護士業務にも不可欠な高いコミュニケーション能力です。
通常の法律事務所での仕事でもコミュニケーション能力は重要ですが、インハウスローヤーは法務の専門家としてだけでなく、組織の一員として社内外のさまざまなステークホルダーと関わる機会が多くあります。
例えば、他部門との協議、経営層への報告、社外の関係者との交渉など、その業務は多岐に渡ります。そのため、法律の専門家以外の人にも、専門的な内容を分かりやすく説明し、理解を得る能力が備わっていると言えるでしょう。
こうした、多様な立場の人と円滑に意思疎通を図り、業務を推進していく能力は、インハウスローヤーならではの強みであり、転職後のキャリアにおいても大いに役立つはずです。
根回し力
弁護士は、職人的な側面や個人事業主としての特質がある分、組織の活動に際しての根回しをする機会は限られます。
一方で、インハウスローヤーは企業の中で事業を動かしていく上で、組織として動いていくために各部署との統一的な連携などを行っていくことが求められます。
その際に、様々な水面下での調整などを行うことが自然と求められます。そのため、場の設定や根回し力が向上しやすいと考えられます。
そうしたスキルは、ビジネスマンとしてのスキルでもあるので、法律の専門性とは別の軸として重要な要素といえます。
経営者視点の判断能力
インハウスローヤーは企業法務を手掛ける外部事務所とは異なり、より事業の内部から経営者視点でさまざまな事業における課題に対する判断能力が身についていると考えられます。
事務分掌が明確であったり、経営部分とは離れたオペレーション部分のみを担当するような場合は難しいですが、法務は経営判断、特にリスク判断に価値があるため、経営層とのコミュニケーションも事業部の同じ一般社員と比較すると、機会が多いのではないでしょうか。
そうした業務の中で身につく経営者視点の判断能力も、インハウスローヤーとしての経験の中で得られる重要なスキルであると考えられます。
インハウスローヤーから転職する場合はどうすれば良い?
最後に、インハウスローヤーから転職する場合の方法について紹介します。
弁護士専門の転職エージェントへ相談する
転職を成功させるためには、転職エージェントに相談するのが一般的です。1人で転職活動を進める選択肢もありますが、特に弁護士の転職市場は、一般的な転職市場とは異なる慣習や、独特の選考基準が存在するため、業界に精通した専門家のサポートなしに進めることは、大きな労力とリスクを伴います。
また、日々の激務と並行して転職活動を行うことは、肉体的にも精神的にも大きな負担となるでしょう。さらに、希望する求人情報を自力で探し出すことは難しいだけでなく、競合に採用戦略を知られないよう多くの事務所が求人情報を一般非公開としているのは把握しておきましょう。
弁護士専門の転職エージェントであれば、弁護士業界に精通し、弁護士業務の実務や人材の市場について知り尽くしています。非公開の求人情報はもちろん、転職に有利な書類の作り方からアピールの仕方、面接対策、年収交渉まで、最適なサポートが期待できます。
転職サイトから求人を探して応募する
転職エージェントに頼る前に、まずは求人サイトからどのような求人があるかを探してみることも考えられます。
法律事務所の場合、求人情報だけでなく、事務所の特色や得意分野、代表弁護士の経歴、経営方針なども重要な判断材料となります。可能であれば、事務所訪問などを通じて、実際に働く弁護士とコミュニケーションを取り、雰囲気や業務内容を確認することもオススメです。
しかし、求人サイトの情報だけでは、分からないことも多いのが実情です。必要に応じて転職エージェントに相談し、客観的な意見を聞いてみることも、転職活動を成功させるためには欠かせまん。
また、修習同期や先輩弁護士など、身近な法律専門家に相談することで、求人サイトには載っていない、貴重な情報を得られることもあります。さらに、弁護士会などを通じて構築した人脈も、転職活動において、大きな武器となるでしょう。
JILAなどインハウスローヤー向けコミュニティから求人情報や紹介
JILA(日本組織内弁護士協会)に所属している場合、JILAからの情報を得ていくことも考えられます。
求人情報は、企業の法務部門や官公庁が多い傾向にありますが、JILA賛助会員の法律事務所からの求人や、コミュニティ内の人脈を通じた非公開求人に出会えることもあります。
インハウスローヤー同士の貴重な情報交換の場でもあるため、積極的に活用することで、転職活動を有利に進められるでしょう。
まとめ
本記事では、インハウスローヤーが「辞めたい」と感じる理由や、その後のキャリア、そして転職活動の方法について解説してきました。
インハウスローヤーを辞めたいと思う理由は人それぞれです。弁護士としての専門性を追求したい、法務以外の業務に時間を取られている、より良い待遇を求めているなど、さまざまな思いがあるでしょう。大切なのは、自分の気持ちに正直に向き合い、今後のキャリアについて真剣に考えることです。
転職は、人生における大きな決断です。1人で悩みを抱え込まず、信頼できる人に相談することも重要です。そして、弁護士専門の転職エージェントは、あなたの経験やスキル、そしてキャリアプランを丁寧にヒアリングし、最適な転職先を一緒に見つけてくれます。彼らは弁護士業界の転職市場に精通した、いわば、あなたのキャリアの伴走者です。
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