弁護士として独立開業を考えた時、誰もがさまざまな不安や疑問を抱えるものです。経営の見通しは立つのか、顧客は獲得できるのか、そして何より、今が独立のタイミングとして適切なのか。
実際に、法律事務所の独立開業には入念な準備と慎重な判断が必要です。成功している独立弁護士に共通するのは、理想を追求する情熱と同時に、現実的なビジネスプランを持ち合わせていることです。
本記事では、弁護士の独立開業に関する判断材料から具体的な準備事項、そして経営を安定させるまでのプロセスを解説していきます。
弁護士で今後のキャリアに悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
弁護士が独立開業するタイミング
引用:「弁護士実勢調査について/弁護士の就業形態」
弁護士が独立するタイミングは、30歳代が1つの目安と言われています。30歳代は仕事をするにも一番活力的な年齢で、なおかつ実務経験も十分に積めてきた頃合いだからです。
参考までに、日弁連が公表している弁護士の就業形態の結果では、71~75期の経営者弁護士割合が14.1%しかいないのに対し、70期以前の経営者弁護士の割合は44.4%まで一気に増えています。
61~65期以前の司法修習期に至っては、7割以上が経営者弁護士となっています。
弁護士が独立するタイミングについては、次の記事で詳しく紹介しています。気になる方は参考にしてみてください。
独立開業するメリット
弁護士としての独立開業には、さまざまなメリットがあります。一方で、これらのメリットを最大限に活かすためには、適切な準備をしなければなりません。ここでは、独立した弁護士ならではの4つの主なメリットについて、具体的に解説していきます。
経営の自由度と意思決定の裁量がある
独立することで、事務所運営に関するあらゆる意思決定を自分でおこなえます。たとえば、専門分野を自由に選択したり、受任する案件の取捨選択をしたり、求める人材を採用したりなど、経営判断のすべてを自身の価値観や理念にもとづいて決定できます。
特に近年は、オンライン相談の導入やAIツールの活用など、新しい取り組みへ素早く対応することが競争力を左右します。独立弁護士は、そうした革新的な施策を自身の判断で即座に実行できる立場にあります。
収入の上限がない
勤務弁護士の場合は、基本的に給与体系に従った収入となります。その一方で独立弁護士の場合は、自身の努力と工夫次第で収入を伸ばせます。専門性を向上させたり、業務運営を効率化したり、マーケティング戦略を成功させたりと、段階的な収入アップが実現可能です。
また、法律相談、顧問契約、セミナー講師など複数の収益源を組み合わせることで、安定性と成長性を両立できます。
理想とするサービスが提供できる
勤務弁護士の場合は、どうしても勤務先の理念やルールに則ってサービスを提供する必要があります。場合によっては依頼者のニーズに答えられず、歯がゆい思いをすることもあるでしょう。
一方独立弁護士の場合は、依頼者のニーズに応じて柔軟なサービスを提供できます。たとえば、料金体系の設計、相談時間の設定、対応範囲の決定など、すべて依頼者目線で最適化できます。
また、特定の分野に特化したサービスや、独自の問題解決アプローチを展開することで、他の事務所との差別化も可能です。その結果、依頼者との深い信頼関係を築き、長期的な関係性を構築することにもつながります。
ワークライフバランスをコントロールできる
業務時間や休暇の設定を自身で決定できるため、プライベートとの両立が図りやすくなります。育児や介護といったライフイベントにも柔軟に対応でき、自身の状況にあわせた働き方が可能です。
ただし、これは適切な業務管理とスケジューリングがあってこそ実現できるものという点には注意しましょう。ろくに準備をせずに独立してしまうと経営が安定せず、かえってハードワークになることは大いに考えられます。
もし現状の収入やワークライフバランスに悩んで独立を考えているという方は、転職して環境を変えるというのも選択肢の1つです。自身のキャリアプランに悩んでいる場合は、独立するのが最適かどうかを弁護士専門のキャリアアドバイザーに相談するのをオススメします。
独立開業するデメリットとリスク
独立開業には、メリットの裏返しとなるデメリットやリスクが存在します。デメリットは適切な対策を講じることで最小限に抑えることができますが、独立を決断する前には十分な理解と準備が欠かせません。次に、特に注意すべき4つの主なリスクについて詳しく解説します。
収入が不安定になる
勤務弁護士時代の安定した月収は保証されなくなり、月々の収入に変動が生じます。特に独立直後の1〜2年は、顧問契約の獲得や継続案件の確保に時間がかかるため、収入が大きく変動するかもしれません。また、景気変動の影響も直接受けやすくなります。
この不安定さに対処するためには、独立前から少なくとも半年分の経費と生活費といった十分な運転資金を確保し、複数の収入源を計画的に構築していく必要があります。さらに、独立後も一定額を予備費として積み立て、収入が下がってしまう状況を乗り越えられる体制を整えることも重要です。
次の記事では、独立開業した弁護士の平均年収と、年収を上げる方法を紹介しています。現状の年収と比較し、独立すべきかどうかの判断材料にしましょう。
経営責任がストレスになる
事務所経営者として、案件処理だけでなく、経理、人事、マーケティングなど、すべての責任を負うことになります。月々の固定費の支払いや、税務申告、社会保険関連の手続きなども忘れずに実行する必要があります。また、スタッフを雇用している場合は、その生活を支える責任も発生します。
この負担を軽減するためには、税理士や社会保険労務士と連携したり、事務作業を効率化できるITシステムを導入したり、業務を一部アウトソーシングしたりといった対策を講じることがオススメです。
時間管理が難しい
案件処理と経営業務の両立が求められるため、時間の使い方が難しくなります。依頼者対応、書面作成、期日出席といった本来の業務に加え、新規開拓のための営業活動、スタッフの管理、経理処理など、多岐にわたる業務をこなす必要があります。特に開業直後は、すべての業務を一人でこなさなければならないケースも多く、長時間労働に陥りやすい傾向があります。
この状況を改善するには、業務の優先順位付けを明確にし、定期的なスケジュール見直しをおこなうとともに、できるだけ早い段階で事務職員の採用や業務の体系化を進めることが重要です。
意思決定が孤独になってしまう
独立をするということは、重要な経営判断や困難な案件への対応について、相談できる同僚や上司が身近にいなくなるということです。特に、新しい分野の案件を受任するかどうかの判断や、大型投資の意思決定など、重要な局面での決断を一人で下さなければならない状況が発生します。
独立弁護士同士のネットワークづくりや、税理士・公認会計士などの専門家と定期的な相談できる体制の構築、弁護士会の研究会や勉強会へ積極的に参加するなど、地道に人脈を広げることが有効な対策となります。また、メンター的な存在となる経験豊富な弁護士との関係性を維持することも、重要な判断の際の心強い支えとなるでしょう。
あなたは適正アリ?独立適正チェックリスト
以下の項目をチェックして、独立に向けた準備状況を確認しましょう。