設立からわずか3年足らずで弁護士7名体制に成長した弁護士法人吉川綜合法律事務所(2026年8月現在)。
代表の吉川景司弁護士は、東京大学理系出身・弁理士資格保有という異色の経歴を持ち、大手事務所のパートナーを経て2022年9月に独立した。
「自分を追い込みたかった」と語る吉川代表に、独立の経緯から事務所のコンセプト、AI活用による業務変革まで、じっくりと語ってもらった。
東大理系から大手パートナーへ。順風満帆であることがチャレンジ精神を刺激した

吉川弁護士のキャリアは、理系から法曹への異色の転身から始まる。東京大学教養学部生命・認知科学科で分子生物学を専攻したのち、同大学院法学政治学研究科に進学し、2012年に弁護士登録。最初に入った事務所が特許紛争・製薬分野を専門とする事務所だったため、知的財産やライフサイエンスが専門領域の一つとなった。その後、弁理士資格も取得している。
弁護士法人瓜生・糸賀法律事務所に転じ、アソシエイトを経て2020年にパートナーへ昇格。海外案件も多く手がける傍ら、大手IT企業への駐在など、企業現場での経験も積み重ねた。
独立の動機をひと言で表すと?と問うと、吉川弁護士は率直に答えた。
成長するために環境を変えたかった。まだ若いのに、居心地の良い環境で既知の業務を淡々と回すようになっていることへの焦りというか。まだ何かできるはずだと思う一方で、このまま同じことを30年40年やるんだろうかという違和感もありました。今の環境では自分を十分に追い込めない、チャレンジできないと思ったので、環境を変えたいと思いました。
野球場でのひと言が、決断の引き金になった
転機は、クライアント企業が保有する野球チームの試合観戦の席で訪れた。観客席でクライアントらとビールを片手に話し込んでいたところ、不意に問いかけられた。
吉川さん、独立はいつですか——って誰かが言い始めたんです。そういったことを聞かれやすい年次にはなっていたのですが、その日はどんどん突っ込みが入り、「なんで今じゃないんだ」「今辞めると言えないなら、顧問契約を切るよ」って、恐ろしいことを言うんですよ(笑)
自分よりもずっとビジネス経験のある方々の直感的なひと言が、吉川弁護士の胸に刺さった。
彼らはビジネスのことをよく知っているので、独立するなら今だよ、しないならもう多分できないよ、というのを直感的に言ってくれていた。半分ブラフかもしれないけど、半分は本当のことを言ってくれていると感じた。自分もその通りだと思ったので、週明けに辞めます、と。
その週明け、吉川弁護士は迷わず前職の代表のもとへ向かった。
さすが大手事務所を創り上げた代表だけあって、引き留められないと直感的にわかったのでしょう、すぐに「ムカつくけど応援するよ」って言ってくれました(笑)。引き継ぎが終わったら出ていいよと言ってもらえて、そのまま独立しました。
2022年11月、弁護士法人吉川綜合法律事務所が産声を上げた。
38、39歳になってきたら多分もう独立しなかったと思います。当時はまだ子供もいなかったんですが、今は子供もいますし、子供がいたら同じ決断はできなかったかもしれない。タイミングが全部揃った瞬間でした。
「遅い・高い」という大手の壁を、即戦力チームで突き破る

独立にあたって吉川弁護士が最も意識したのは、大手事務所に在籍する中で感じ続けてきた構造的な課題だった。
クライアントからよく聴くのが、スピード感と費用感への不満です。大手事務所ではクオリティ管理のため、ジュニアアソシエイトがドラフトを作り、シニアアソシエイトがチェックし、最後にパートナーが確認するという2・3段のレビューフローが一般的です。でも、最後にチェックするパートナーは平日はスケジュールがほぼ埋まっているんで、週末に頑張って見るしかない。週末を挟まないと返せないんです。つまり、基本的には、早くても1週間以上かかってしまうんです。
この課題を解消するために選んだのが、「即戦力の同世代だけで事務所を組む」というシンプルな答えだった。
十分な経験を積んでいて、自分で考えて自分で答えを返せる人だけで構成すれば、多段階レビューが要らなくなる。自分の同世代、つまり40代前半までのメンバーだけでやろうと思ったのが始まりです。そうしたら、気になっていた「遅い」「高い」を一気に解消できると思って。
事務所のモットーは「Top-Tier Firm Quality, Boutique Firm Agility」。大手事務所と同等のクオリティを、ブティック事務所ならではの機動力で届ける。
2026年8月現在は弁護士7名体制で、案件の7・8割が紛争・訴訟対応。顧問としての役割は、専門特化ではなくトラブルシューティング型の総合バックアップだ。
何かあった時にまず相談してもらえる、会社全体を見るポジション。自分たちで対応できるものは対応するし、専門的な領域なら適切な専門事務所を一緒に探して、その意見も踏まえてアドバイスする。そういう総合的なバックアップをしています。
雑務はAIへ。弁護士が弁護士業務だけに集中できる事務所
業務効率をさらに革新しているのが、AIの積極的な活用だ。吉川弁護士が率いるチームでは、Chat-GPTのCodexやClaude Code/Coworkをはじめとする複数のAIツールを日常的に使いこなしている。
うちのチームではみんなで使っていますが、本当に便利で。業務を効率化するアプリを続々と作るメンバーもいる。ただ、弁護士業務そのものに使うのは一部であって、雑務やオペレーションに使うのが大事で、そっちの方がはるかにフィットする。専門的なことを聞いても正確な答えは出せないことが多いですが、それ以外の業務への適合性は革新的なレベルだと思っています。
具体的な効果も数字に表れている。
タイムチャージの集計と請求書発行は、数日かかっていたものが、AIに指示を出せば数十分で完了する。大量の領収書処理も、以前は人が手入力していたものが、AIが自動でデータを読み取り会計ソフトへ連携するようになった。
人が1日かけてやっていたものが、業務の隙間時間で、早ければ十数分で終わる。
タイムチャージの管理もスマートフォンのアプリで完結できるようにしました。パソコンをいちいち開く時点でもう面倒くさすぎる、と思っていて。弁護士っていろいろ理屈を付けてルールを守ろうとしない方が多いんです(笑)。でも、彼らにとって一番ラクな方法にしてしまえば、みんなちゃんとやってくれる。担当秘書がタイム入力を何度も催促する大手事務所ではありきたりの光景も、弊所では皆無で、月末の一度のリマインドのみです。
秘書・事務局スタッフも最小限に抑えられており、その分のコストは弁護士への高い還元や費用の適正化に充てられている。
どちらかというと、効率化そのものにこだわっているわけではなくて、雑務に時間を取られないようにして弁護士業務に専念できる環境を整えることが目的です。また、クライアントにおけるリーガル対応がビジネスのボトルネックになってはいけない——これが事務所の基本的な考え方で、そのために何でもする、という感じです。
「プロの矜持」を持った人と、最後のチャレンジを
事務所が大切にする価値観は、3つ。Professionality(プロフェッショナリティ)・Integrity(誠実性)・Responsibility(責任感)。吉川弁護士は採用の際に必ずこの3つをメンバーに伝えるという。
プロとして質の高いアウトプットを当然の前提として追求できること。仕事やクライアントだけでなく同僚に対しても誠実に向き合えること。任せられた仕事を期限内に責任を持って完遂できること。この3つが共有できないと、一緒にやるのは難しいと思っています。
メンバーたちが口をそろえるのは、「風通しの良さ」だ。全員が同世代であるため、上下関係のない率直な議論ができる環境が自然に生まれている。
私の知る限りでは、断トツに良いと思います。吉川先生は65期なので、上の先生方との距離も近くて議論がしやすい。年代が近いというのが大きいですね(メンバーより)

今後4~5年で……最後のチャレンジに踏み出せる場所へ
事務所の将来展望について、吉川弁護士は「4年程度のスパンで20名から、30名規模を目指したい」と語る。
20~30人になると、個々人がそれぞれ専門性を持ってどんな案件でも対応できる事務所になれる。AIの性能がどうなるか次第な面もありますが、若手アソシエイトがあまり必要なくなってきているので、パートナー的な比率を増やしてもいいかなとは思っています。
採用面では、紛争対応に強い弁護士と高度な専門性を持つ弁護士の両方をバランスよく迎えていく方針だ。大阪拠点の開設も視野に入れているという。
吉川弁護士は、野球場でクライアントに言われた「独立するなら今」という言葉を、今も鮮明に覚えている。
彼らは年次がずっと上の方なので、直感的にわかっているんですよ。チャレンジできる最後のタイミングというのは、そういうトーンで言ってくれた。今なんだな、とすごく思いましたね。
大手事務所で培った業務レベルやクオリティ感を維持しながら、もっと機動的でフラットな環境で働きたいとお考えの方と、ぜひ一度お話したいです。
新人期間を終えシニアアソシエイト期に入り新たな環境で挑戦したいと感じ始めている方、もしくは、パートナー期となり年齢的にもチャレンジできる最後のタイミングかもしれない、そう感じている方は、まず一度話してみませんか。
吉川 景司代表弁護士・弁理士
東京大学教養学部生命・認知科学科を卒業後、同大学法学・政治学研究科法曹養成専攻を修了。2012年12月に司法修習修了後、阿部国際総合法律事務所に入所。2014年7月に弁護士法人瓜生・糸賀法律事務所へ移籍し、アソシエイト・パートナーとして約8年間勤務。2016年には弁理士修習も修了。2022年11月に弁護士法人吉川綜合法律事務所を設立。現在は代表弁護士として、M&A、上場支援、個人情報・データ保護、広告表示規制、知的財産権、人事労務などを重点取扱分野とする。
