外務省と聞くと、外交官として海外で活躍する姿を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、外交官だけでなく、国内でも様々な専門家によって支えられています。
今回は、外務省の中でも国際経済の最前線を「法の力」で支える外務省国際法局経済条約課での弁護士キャリアについて深堀していきます。
意欲と能力のある法律専門家を募集している同課で、特定任期付職員の採用を担当されている原田首席事務官に、仕事の魅力や求められる人物像についてお話を伺いました。
■プロフィール 【経歴】 法律事務所勤務の後、カンボジアJICA長期専門家として法制度整備支援に関与。 コーネルロースクールLL.Mに留学後、2013年8月より外務省国際法局経済条約課で特定任期付職員。 2016年4月に外務省に総合職として中途採用。 |
目次
国際経済の最前線を支える精鋭部隊「外務省国際法局経済条約課」
Q.外務省国際法局経済条約課とは、どのような役割を担うポジションでしょうか?
原田首席事務官:
民間企業で例えるなら、法務部のイメージに近いかもしれません。
国際法局経済条約課は、貿易・投資・租税など、経済分野の条約締結や解釈、実施を専門とする部署です。
経済分野の条約としては、例えば、EPA/FTA、WTO、投資協定、租税条約などがあげられます。
経済政策を担う経済局が前面に出て交渉を進める一方で、経済条約課は、交渉に用いる条文が国際約束的に問題ないか、また国内法制と整合性が取れているかをチェックし、法的な側面からサポートする立場です。
近年では、経済と安全保障、人権、環境といった分野が密接に関わるようになり、横断的な視点での法的な解釈が求められる場面も増えています。
外務省国際法局経済条約課での業務 — ダイナミックな仕事のリアル
Q.外務省国際法局経済条約課での具体的な業務内容についてお教えください
原田首席事務官:
外務省国際法局経済条約課では、国際法という専門知識を駆使し、日本の国際的な約束事を形にしていく、非常にダイナミックな業務に携わります。
具体的な日々の業務は、主に以下の3つです。
国際約束(EPA/FTA、WTO、投資協定、租税条約など)の交渉会合への参加(交渉方針・条文チェックを含む。) | 日本が交渉する協定の個々の条文が、国際法的に問題ないかを精査し、また、交渉会合にも参加。 |
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条約の国会審議対応 | 相手国と妥結した条約を国会に提出する際の各種作業。 |
他省庁の法令や政策と国際約束の整合性チェック | 他省庁が作成する国内の法律や政策が、国際約束との関係で問題ないかの確認。 |
業務のイメージは、時期によって異なりますので一般論で説明させていただきます。
まず、一つ目に関して、各種協定の交渉会合が近づくと発生する交渉方針・条文チェックの業務です。
状況が許せば交渉会合にも参加し、重要なタイミングで交渉会合が相手国内で開催される場合には出張する場合もあります。
二つ目は国会の条約審議対応です。
これは、国会提出に向けてミスがないようにじっくり時間をかけて準備することが主な業務になります。
三つ目は、他省庁の法令や政策と国際約束の整合性チェック業務です。
この業務は、他省庁からの照会ベースですので随時発生します。
【前職のジュネーブ代表部時代の写真】
仕事を通じた特定分野のプロフェッショナル育成の環境がここにある
Q.外務省国際法局経済条約課ではどのような人材育成の体制が整えられていますか?
原田首席事務官:
経済条約課では、日々の仕事を通じてプロフェッショナルな人材を育成できるようにしています。
EPA/FTAは、幅広い分野について交渉することから、物品、サービス、投資、知的財産、競争、紛争処理の各章について担当を割り振るようにしており、WTO関連事務でもEPAの担当と同一分野があるのであればそれらを割り振り、特定分野のプロフェッショナル人材を育成できる体制です。
例えば、EPAの物品担当がWTO物品を、EPAサービスの担当がWTOのサービスを担当するようにしています。
一方で、二国間投資協定ではEPAのように細かな章立てがありません。規律の全体のバランスが重要なので、交渉相手国ごとに担当が割り振られます。
交渉相手国ごとの担当になるとはいえ、他の協定の規定ぶりを研究しなければ交渉できないため、相手国とのやりとりの度に発生する研究によって自然と交渉力を身につけていくことがほとんどです。
特定任期付職員がこれまで担当してきた分野は、EPA/FTAと二国間投資協定が多い傾向にありますが、担当する分野もタイミングによっては変わります。
「世界を舞台にしたルール作り」— 弁護士が外務省国際法局経済条約課で働く理由
Q.弁護士の方が、外務省国際法局経済条約課で働こうと思う動機について教えていただけますでしょうか?
原田首席事務官:
大手法律事務所から中小まで、様々な事務所規模で経験を積んだ弁護士が応募されます。中には、外務省国際法局経済条約課で働くために地方から上京された方も。
私が国際法局外務省経済条約課で働くことになったきっかけは、アメリカ留学中にコーネルロースクールでWTO法の講義を履修しており、国際約束に携わる仕事をしたいと思っていたところに、外務省国際法局経済条約課の特定任期付職員の公募が出たからです。
ちょうど当時は、日本がTPP交渉に参加することになった時だと記憶しています。
採用選考を経て、経済条約課に4名の新たな弁護士が採用され、私はその一人になることができました。入省後は経済条約課の課員に揉まれながら、EPAのことを幅広く学べています。
業務の中で経済条約交渉に関与することで感じたことは、世界のルール作りは知的作業として大変やりがいがあるということです。
そして、これをライフワークにしたいという強い想いが生まれ、その際にキャリアを築く場所として念頭にあったのは、外務省か国際機関のいずれかでした。
どちらかで悩んでいた際に、国際機関での意思決定は国際機関ではなく加盟国が形作っていることを見聞きするにつれ、それならば日本国に直接に貢献できる外務省員として国際的なルール作成に携わってみたいと思い、国家公務員の中途採用試験を受けました。
結果として外務省に御縁があり、総合職として採用されて現在に至ります。
「知的好奇心」を強みに活かせる国際条約作成の舞台
Q.外務省国際法局経済条約課では、どのようなスキル資質を持っている方が活躍されていますか?
原田首席事務官:
資質に関していえば、特定の資質は必要無いと感じています。
スキルや資質について詳しくご説明する前に、国際約束作りにおいては国際約束が国同士を法的に拘束するという点を留意しておくと良いでしょう。
たとえば企業間の契約であれば、二社が合意すれば権利義務関係を自由に設定できます。
一方で国際約束だと、条文自体は英文契約書と比較してシンプルですが、作り上げた条文が国内法との関係でどのような影響が生じるかを常に考えることが必要です。
この点に、国際約束作りの難しさと面白さがあるでしょう。
一般論でいえば、当課へ来る方には「知的好奇心が強く自分で色々調べる検索・調査能力」「柔軟な思考」「前向きな気持ち」「コミュニケーション能力の高さ」が求められます。
スキルに関しては、経済条約に関する知識、国際約束でよく使用される用語を知っていることが重要です。
ただし、これらは経済条約課で仕事をしながら涵養(かんよう)されていきますので、特定任期付職員を志す時点では必須のスキルではありません。
特に、経済条約に関する知識を最初から持っている方はまれですので、知識量を気にしないでください。
私自身もWTO法に関する基礎知識はありましたが、任期付職員として採用された時はEPAの物品貿易章、貿易救済章、原産地規則章の分野を担当したので、一からの勉強でした。
国際約束でよく使用される用語についても、日本が提案する条文を精査する過程で多くの過去例を検証することを通じて会得していくものです。
外務省国際法局経済条約課での経験が拓く、未来の弁護士キャリア
Q.外務省国際法局経済条約課での業務を経験されたのち、どのような弁護士キャリアを選択できるのでしょうか?
原田首席事務官:
任期を終えた特定任期付外務省職員の多くは、次のキャリアを選択するケースが多いです。
● 元の法律事務所に戻る
● 新しい事務所に移籍
● 海外留学
● 外務省の中途採用
● インハウスローヤー など
経済条約課での仕事は、WTO、EPAの関税やデジタル貿易、投資、経済安全保障など経済分野に関するものです。
民間企業の仕事とも密接にかかわるため、民間企業に戻った後も役立つ知識・スキル・経験を身につけられます。
最後に-外務省国際法局経済条約課にご興味がある方へ-
Q.外務省国際法局経済条約課の特定任期付外務省職員への応募を検討されている方へメッセージをお願いします。
原田首席事務官:
ご自身のキャリアをどう組み上げてその先に繋げて行くかは、所属先の事務所や会社が一部対応してくれるかもしれませんが、ご自身でも積極的に関与して作り上げていくものだと思います。
そのようなキャリアを思い描いたとき、外務省での経験はきっとユニークなものになるでしょう。
是非、外務省国際法局経済条約課の特定任期付外務省職員への応募をご検討いただけましたら幸いです。
外務省国際法局経済条約課の特定任期付外務省職員という道は、法律の専門家として、グローバルな舞台でキャリアを広げる大きなチャンスになるかもしれません。
ご興味をお持ちの方は、外務省のウェブサイトで募集要項をご確認ください。
右:外務省国際法局経済条約課 首席事務官 原田政佳さま
左:法曹専門キャリアアドバイザー 柚木瑛里那
■採用情報はこちら ■問い合わせ先 電話:03-5501-8000(代表)(内線2653) |