司法修習のリアルな実情をお伝えするレポート、今回は、刑事裁判修習(以下、「刑裁修習」という。)についてお伝えしていきます。
刑裁修習は、民裁修習と同様に配属部修習を基本として、令状部修習と家裁の少年部修習の大きく3つがあります。
以下、順に解説します。
なお、この修習レポートは、東京修習の体験になります。そのため、東京以外の修習の内容とは異なることがあります。
【執筆者】かわしょー吉
NO-LIMITのインターンを経験。令和2年司法試験合格。
令和元年司法試験予備試験最終合格。平成30年度司法試験予備試験では、口述試験落ちを経験。
趣味は釣り。カラオケも好き。宇宙系のyoutubeを見ることがマイブーム。
Twitter:https://twitter.com/kshokichi_law
配属部修習
配属部修習は、一箇部あたり3~5人程度の修習生が配属され様々な修習を行います。概要としては、公判等の傍聴、模擬裁判、起案、裁判員裁判の傍聴で、民事部と比較したとき、刑事部の特徴は手続に表れます。大きく2つの点です。
民事部と比較した刑事部の特徴
公判手続き
1つは、公判では、和解といった内容的にグラデーションのある解決がなく、判決に向かった手続を行う点です。1つひとつの事件において、裁判官が、常に判決までを意識して事案全体を見て、どのように手続を進行していくかを考えておられることが特徴的です。
言い換えれば、事案の解決というより、いかに手続を円滑に遂行し、かつ公正な裁判を行うかという点にフォーカスしています。
それに伴い、刑裁修習では手続面での厳格さが高く、特に刑事訴訟規則の知識が非常に重要です。
1事件について機会が多い
もう1つは、1つの事件について、何回も関わる機会が多い点です。
民裁修習では、1回記録検討をして、期日の傍聴をした場合でも、その次の期日は1か月後が通常で、その1回限りの関わりで終了してしまうことも多いため、「広く浅い」経験になります。他方で、刑裁修習は、比較的短いスパンで公判等の期日が組まれることから、何回も傍聴などで関わる機会があります(特に裁判員裁判は連日開廷で行われます)。
そのため、非常に1つの事件の全体に関わる機会が多く、比較的「狭く深い」経験になります。なお、民事部と刑事部問わず、良い意味でも悪い意味でも部ごとでのやり方、文化があります。そのため、上記のほかは一般化が難しいです。
このような特徴を踏まえた上で、刑裁修習の具体的な内容について、リポートしていきます。
公判等の傍聴
まず、公判等の傍聴です。公判「等」というのは、公判期日のみならず、非公開で行われる公判前整理手続期日、公判準備としての打ち合わせ期日などもあるためです。
事前に記録検討をした上で、直近に予定されている公判等の期日で、どのような事項をどのように整理するのか、事案の争点の絞り込み、公判の進行の流れ、証拠の厳選、その他訴訟指揮を検討します。
傍聴後には、担当裁判官とともに、当事者間のやり取りで疑問に感じた点などを議論します。何をどのようなタイミングで、誰がどのように発問をし、それに対してどのような回答をしたのか、逆に行われなかったやり取りの理由などを質問すると、新たな発見につながります。
そして、1つひとつの言動の意図を探ると、手続的なものなのか、運用面で柔軟に工夫している点なのかなどを知ることができます。手続的な点は、二回試験で出題される小問にもつながりうる点であることから、議論した内容をメモに残しておくことが重要です。
模擬裁判
配属部修習の中で、隣接する部と横断的な形で模擬裁判を行います。既済の記録を用いて、裁判官、検察官、弁護人、証人や被告人役などの配役がされます。
公判等の傍聴や、後述の起案のタスクと並行して取り組むことになるので、それなりにハードです。
公判前整理手続に付されている事件で、検察官側の証明予定事実記載書面のやり取りから、類型証拠等の証拠開示手続、弁護人側の予定主張記載書面のやり取りないし主張関連証拠の開示手続、争点整理や証拠整理の手続など、すべて修習生が行います。
また、公判の冒頭手続から論告・弁論、そして判決に至るまで一連の手続を行います。
配属部が5,6人いると、チームで役割分担をしながらできるため、うまくタスクを分散しながらできることもあります。
起案
配属部での起案は、4通がノルマとされています。そのうち2通は、事実認定に関する起案をすることになっており、これらの点は民裁修習と同様です。
事実認定起案のほかには、量刑調査に関する起案、手続進行や訴訟指揮のメモ、リサーチペーパーといったものがあります。二回試験に関わるような小問の起案をする場合もあります。
メインである事実認定起案は、判決書の形式ではなく、いわゆるサマリー起案です(裁判官希望の場合は、判決書起案が課されることもあるそうです)。
サマリー起案では、争点と証拠構造を意識し、供述証拠であればその信用性を検討することなど基本的な点を意識しつつ起案することが求められます。また、事案によっては、法的な評価に争いがある場合もあります。その場合は、事実認定のみならず、認定された事実から法的概念との関係で1つひとつ評価していくことが求められます。
既済の事件もありますが、現在進行形の事件もあり、実際に証人尋問などの手続を傍聴しながら起案することもでき、リアルタイムで、かつ裁判官になった視点で起案することもできます。
起案したものは、起案の素材である事件の担当裁判官に提出した上、フィードバックを受けます。
裁判員裁判の傍聴
裁判員裁判は、公判前整理手続や公判手続のみならず、裁判員と裁判官の評議手続を傍聴することができます。
一般人の視点で、どのように事実認定がされるのか、法的な概念をどのように一般人に理解させているのか、通常の公判手続の運用との違いを如実に知ることができます。
評議では、裁判員の方が積極的に発問したり、意見を述べている点が印象的でした。特に、法律家としてすでに知識がある前提で、一定のフレームワーク・思考回路が確立された上でみるのとは異なり、一般人の方の素朴な視点や疑問点から事件で重要なポイントになる点を気づかされることもあり、非常に勉強になりました。
令状部修習
令状部修習は、主に記録検討と、勾留質問の手続の傍聴を中心とした内容です。1日だけ令状部におじゃまする形で行われます。
記録検討では、勾留請求に対する勾留の判断に必要な証拠の有無などを検討し、担当裁判官と議論をします。
筆者のイメージでは、東京では特に事件数も多いために緩やかに勾留決定の判断がされている印象を持っていましたが、証拠を1つひとつ丁寧に検討した上で刑訴法60条1項各号該当性の判断をしている点で、イメージを覆されました。
少年部修習
少年部修習は、少年事件の記録検討、審判傍聴を中心とする修習でした。2日間、集中的に少年事件の傍聴をする内容になっています。
少年部修習では、法律の知識的に得られたものというよりも、社会の実相を示すような事件を様々目の当たりにしました。少年事件で送致された少年たちは、ある意味「被害者」であるのではないかと感じました。
そして、子どもは、その置かれた環境によって左右されてしまうことを、リアルに感じました。
まとめ
いかがでしたか?
刑事裁判官は、民事とは異なる点があり、特に手続面で多くの知識が要求され、公判での迅速な判断が求められる仕事です。
刑裁修習では、事案の解決よりも、被告人に対して刑罰権の行使を判断するにあたり、1つひとつの手続が厳格に運用され、公正な裁判の実現を志向していることを肌で学ぶことができる内容になっています。
また、模擬裁判では、主体的に、当事者の立場で、実際の法廷に立ちながら修習をすることができ、まさしく実務の視点を学ぶことができます。
この記事が、充実した刑裁修習の一助になれば幸いです。