司法試験の「選択科目」は、合格後の専門性やキャリアにも影響する重要な要素です。
2025年の司法試験が迫る中、本記事では各科目の特徴や選び方の基準などを丁寧に解説します。
選択を誤れば得点力を損ねるだけでなく、将来の活躍領域を狭める可能性も。科目選びを習得し、ぜひ合格後の進路を広げましょう。
目次
司法試験・予備試験における「選択科目」とは
司法試験や予備試験の受験を考えるうえで重要なポイントの一つが、選択科目の選択です。
司法試験には、憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法といった基本科目に加え、選択科目として受験生が一定数のなかから一科目を選択して受験します。
予備試験でも同様に特定の選択科目が用意されており、基本科目に加えてこの「選択科目」での学習が大きなウエイトを占めます。
選択科目は、受験生の専門性や将来のキャリア形成にもつながる重要な要素です。
たとえば、エンタメ業界やクリエイター業界、メーカーや研究開発に関わっていくなら知的財産法を選ぶ、企業法務で経営戦略や企業再生に興味があるなら倒産法や経済法を選ぶなど、将来的に活かせる分野を学べる点が特徴です。
一方で、選択する科目によって学習範囲や難易度が異なり、それぞれに対応する教材や講座の充実度も変わってきます。
そのため、受験生がどの科目を選ぶかは試験対策において非常に大きな意味を持ちます。
選択科目は、合格のための得点源であると同時に、将来的な専門性を高める大きなステップでもあります。
労働法を選択してしっかり学んでおけば、企業内弁護士として労務問題を扱う際に即戦力として活躍できる可能性が高まりますし、倒産法を選べば企業再生の分野に強みを持つ弁護士として差別化を図りやすくなります。
そのため、「どれが一番点を取りやすいか」という短絡的な視点だけでなく、「将来どういう分野で活躍したいのか」というキャリア戦略の観点からも科目選択を考えるとよいでしょう。
司法試験の選択科目のそれぞれの内容と特徴
司法試験の選択科目にはさまざまな分野が用意されています。
その代表的な科目である「倒産法」「労働法」「知的財産法」「経済法」「租税法」「環境法」「国際私法」「国際公法」について、概要と特徴を解説します。
倒産法
破産・民事再生・会社更生など、経営が立ち行かなくなった企業や個人についての法的手続きを学ぶ科目です。
債権者の利益をどのように公正に保護するか、あるいは再生手続によって企業活動を継続させる意義は何かなど、社会全体の経済活動とも密接に関連するテーマになっています。
会社更生手続では裁判所により選任された更生管財人が主体的に計画を立てる点が特徴であり、手続や各当事者の利害調整を深く理解する必要があります。
実務では金融機関や取引先との交渉も行うため、法的知識のみならずコミュニケーション能力や経営知識も活かせる領域です。
労働法
労働法は、従業員と使用者(企業)との間の雇用関係を規律する法分野です。
労働基準法や労働契約法、労働組合法など、多岐にわたる法律が存在します。
現代社会では、働き方改革や雇用形態の多様化などのトレンドがあり、非常に頻繁に改正や判例変更が行われる領域です。
社会的なニーズが高いだけでなく、企業内弁護士として働く場合や個人の労働問題に強い弁護士を目指す場合においても、専門知識として武器になるでしょう。
知的財産法
知的財産法は、発明や著作、商標などの無形資産を保護する法律分野です。
特許法、実用新案法、意匠法、商標法、著作権法などを総合的に扱います。
独特の概念や条文が多いため、初学者にはハードルが高く感じられるかもしれませんが、技術理解を伴う案件に興味がある方には魅力的な科目です。
IT産業の発展やスタートアップの興隆により、AIやソフトウェア特許、デザインなどをめぐる知財の保護・紛争が増加傾向にあるため、実務では極めて注目度が高い分野です。
特許の審査手続から侵害訴訟まで、高度な専門知識が要求されるぶん、専門家不足も指摘されています。
企業法務においては、技術内容の理解や契約書のドラフトにも深く関わる場面が多く、高い専門性が評価されやすい分野です。
具体的には、大手企業の研究開発部門や特許事務所、弁理士などとの協働により、多彩なキャリアパスが開ける点も見逃せません。
経済法
経済法は、市場競争や独占禁止法などを中心に学び、市場経済の公正さを維持するための法的規制を扱います。
独占禁止法が主要な範囲となりますが、近年は国際的な取引やデジタルプラットフォームの取引に関する問題など、新しい論点も増加傾向です。
実務的にも、個人クライアント法人クライアントを問わず、この独占禁止法や、これに派生する下請法、昨年施行されたフリーランス保護法も含めて、重要性・注目度が高まっている領域でもあります。
そして、企業法務の現場でも重要視される分野であり、コンサルティング的な視点を持ちたい場合や大企業法務部、官庁でのキャリアを考えている場合などに非常に有用です。
租税法
租税法は、国や地方自治体に納める税金の法的取り扱いについて学ぶ分野です。
法人税や所得税、消費税など、多岐にわたる税法を横断的に理解する必要があります。
条文数が多く、また改正も頻繁に行われるため、学習ボリュームが大きい点は注意が必要です。
ただし、企業活動には税金の知識が必須となることから、実務家としても非常に需要があり、公認会計士や税理士との連携が多い分野でもあるため、専門性を高めやすいというメリットがあります。
環境法
環境法は、公害防止や自然保護、温暖化対策などを規定する国内外の法律や条約を扱う分野です。
企業活動に伴う環境規制が強化されている近年の社会情勢では、環境法の知識を持った弁護士の需要が拡大傾向にあります。
一方で、多くの受験生にとってはなじみが薄く、関連する法令や行政指導などを追う必要があるため、基礎の習得に一定の時間がかかることも事実です。
しかし、持続可能な社会を目指す国際的な潮流の中、SDGsやESG投資などで企業の環境対応が重視されるようになったことから、今後も環境法に精通する法曹の需要はさらに高まる可能性があります。
国際私法
国際私法は、国際的な民事取引や家族関係などの法的トラブルをどの国の法律に従って解決すべきかを取り決める領域です。
たとえば、外国企業との契約紛争などにおいて、どの国の裁判所で審理するのか、どの国の法律を適用するのかといった問題を扱います。
グローバル化が進む社会では、ビジネスや国際結婚、相続など多様な場面で国際私法の知見が求められますが、条文や準拠法の選定ルールを正確に理解する必要があるため、やや難易度は高めです。
しかし、国際案件を扱う渉外事務所や企業内法務では非常に重宝される分野でもあり、英語力など語学スキルと組み合わせることで高い付加価値を生み出すことができます。
国際公法
国際公法は、国家間の関係や国際組織の活動に関する法規範を扱う科目です。国際連合憲章や様々な条約、国際慣習法などを学びます。
国際公法は、国家レベルの紛争解決、領土問題、人権問題などに関わるため、国際機関や外務省などの公的機関への就職を目指す人にとっては非常に重要な知識となります。
ただし、国内の法律とは大きく性質が異なり、条約や慣習法の分析を中心に行うため、学習方法を工夫しないと理解が進みにくい面があります。
試験対策としては判例や重要条約の改正ポイントに加えて、国際裁判の事例分析が不可欠です。
選択科目を選ぶ際の基準5つ
選択科目の選定に迷う受験生は多く、特に初めて取り組む分野であればなおさらです。
以下の5つの基準を軸にして、効率的かつ将来的に自分にプラスになる選択を考えてみましょう。
どのルートで司法試験を受けるのか
司法試験は、法科大学院を経由するルート(ロースクール)と予備試験ルートの2種類に大別されます。
ロースクール在籍中に得意分野を深めるチャンスがある場合は、学部時代の専攻や教授の専門分野との関連で決めるのも一つの手です。
予備試験組であれば独学主体になるため、教材入手のしやすさや学習環境も重要な考慮要素となります。
ロースクール在籍者は、ゼミや研究会などで選択科目に触れる機会があり、仲間と情報交換しながら勉強を深められる利点があります。
一方、予備試験組は自学自習がメインになるため、人気科目かどうかによって教材や講座の充実度が左右されることも意識しておきましょう。
基本科目の得意科目との親和性
選択科目のなかには、民法や民事訴訟法などの基本科目と密接に関連するものが多いです。
たとえば、倒産法であれば民法の財産法や商法の会社法知識が、労働法であれば憲法の人権分野や民法の契約概念が土台となる部分があります。
自分が得意とする基本科目との親和性が高い選択科目を選ぶと、勉強の効率が上がりやすいでしょう。
試験範囲が広い司法試験では、できるだけ重複する分野を活用し、学習を相乗的に進めるのが得策です。
苦手科目を補完するという発想もありますが、まずは「得意な基本科目を活かして得点源を伸ばす」戦略を検討してみてください。
実務でどのくらい使えるか
将来的にどのような法曹キャリアを描いているかによって、選択すべき科目は変わります。
企業法務を重視するなら経済法や倒産法、労働法、租税法、知的財産法などが重宝されやすく、国際的なキャリアを目指すなら国際私法や国際公法も視野に入るでしょう。
環境問題に取り組む企業や国際機関も増えているため、環境法を専門とすることも大いに意義があります。
とりわけ、大手渉外事務所や外資系企業の法務部などでは、国際私法や経済法、知的財産法などの専門家が求められる傾向にあります。
自分の興味関心とキャリアの将来像をすり合わせたうえで選択することで、合格後の武器として最大限に活かせます。
自分のバックグラウンドによる予備知識があるか
学部での専攻やインターンシップの経験など、すでにある程度の知識や実務経験がある分野を選択すると、学習のハードルが下がりやすいです。
たとえば、工学系出身なら知的財産法の技術分野に馴染みがあるかもしれませんし、経営学や経済学を専攻していた人は経済法や倒産法で有利に学習を進められることがあります。
一から始める分野でも自分の興味やモチベーションが高ければ十分にカバーできますが、試験対策と実務スキルの習得の両方を意識するなら、予備知識がある領域を選ぶメリットは大きいでしょう。
選択している受験生の割合(教材の充実度)
受験生の多くが選択する科目は、市販の教材や予備校講座が充実しており、情報も多く入手しやすいです。
一方でマイナー科目や受験者数が少ない科目は、自分で教材を揃えたり過去問の分析を入念に行う必要があるため、勉強の手間が増える可能性があります。
ただし、マイナー科目は相対的に受験生のレベル差が大きいケースもあり、うまく対策すれば高得点を狙えるという利点も存在します。
さらに、ロースクール在籍であれば、同期の学生がどの分野を選択しているか、優秀な同期と一緒に組んで勉強できるかどうかという点も副次的ではありますが、司法試験に合格していく上での重要なファクターでもあります。
自分の勉強スタイルやモチベーションによって、「誰もがやっている科目で定石どおりの対策をするか」「あえてニッチな科目を選んで差別化を図るか」を決めるとよいでしょう。
【2025最新】実務での有用性が高い選択科目ベスト5
ここでは、近年の社会情勢や企業法務のトレンドなどを踏まえ、2025年の司法試験において特に「実務での有用性」が高いと考えられる選択科目を5つピックアップします。
これらはあくまで一般的な傾向であり、最終的には自分の興味関心や得意分野に基づいて選ぶことが望ましい点を踏まえてご覧ください。
知的財産法
IT企業の台頭やスタートアップの活性化に伴って、知財分野のニーズは右肩上がりです。
特許訴訟だけでなく、商標や著作権に関する紛争が国内外で増加しており、大手企業のみならず中小企業でも弁護士のサポートが欠かせない場面が多くなりました。
勉強範囲はやや広いものの、実務での需要が非常に高いため、将来的なリターンは大きいと言えます。
また、AIやブロックチェーン技術など、新技術に関する知財保護の重要性が増しており、常に新しい論点が追加されるため、飽きずに学べる分野でもあります。
とりわけ、AIと著作権に関しては、AI技術の発展とともに、広範に、現状の法令のスピードが追い付けないほどに日々新しい考え方や論点が出てきた利、海外の法令や判例の考え方によりスタンダードが形成されていくような実情があります。
そして、高度なテクノロジーやディープテック分野の産業が新たな社会基盤を占めていく中で、企業における法務の現場では、知財戦略が事業の成否に大きく影響します。
その意味で、法務がビジネスと一体化するような面白さがあり、知的財産法の分野は非常に勉強してて面白いものといえるでしょう。
倒産法
企業経営がグローバル化し、また世界経済の変動などで経営が厳しくなる企業が増えるなか、倒産法の知識がある弁護士は再生案件を手掛けるチャンスが多いです。
再生案件では、金融機関との調整や事業計画の策定にも関与することがあり、法的知識だけでなくビジネス全般への理解が深まる点が魅力になります。
倒産法の学習では、破産法や民事再生法などの選択科目としてのドメイン的な知識だけでなく、実務的には債権回収の適切な手段検討、民事執行や保全手続を、経済的なリスクの危殆化プロセスを線で学ぶことができるのが利点です。
そして、倒産法上の様々な論点や判例学習の中から、実体法や手続法の論点を往復する際に、リーガルリスクマネジメントのセンスを磨いていくことができます。
さらには、社会的な実相とも深く連動するため、新型コロナウイルスや為替変動、国際情勢など、企業を取り巻く環境は常に変動するため、倒産法の専門家は高い需要を維持していくと考えられます。
労働法
少子高齢化や働き方改革など、日本の労働環境は大きな転換期を迎えています。
正社員から非正規雇用まで多様化する雇用形態や、テレワーク・副業など新しい働き方が普及する中で、労働法の専門家は今後も安定した需要が見込まれる分野です。
社会保険労務士など他士業との連携も頻繁に行われるため、実務的には非常にやりがいがあります。
また、労使トラブルがメディアに取り上げられる機会も増えており、企業がリスクヘッジとして弁護士を活用する場面が拡大しているのも特徴的です。
国際私法
グローバル化が進む現代では、外国企業との取引や国際結婚、相続問題など、国境を越える法的問題が増えています。
国際私法は国内法とは異なる視点で準拠法を判断し、どの国の裁判所が管轄権を持つかなどを論理的に詰めていく科目であり、難易度は高いものの実務での専門性は際立ちます。
英語をはじめとする語学スキルと組み合わせれば、国際案件をリードできる弁護士として重宝されるでしょう。
また、経済連携協定や二国間投資協定などが増えるなかで、国際私法に関する知見は企業法務のあらゆる場面で必要とされています。
租税法
企業経営と切り離せないのが「税務」問題です。租税法をしっかり理解している弁護士は、企業の組織再編や国際税務、個人の相続税対策など幅広い分野で活躍できます。
税理士や公認会計士とタッグを組むことも多く、経営視点と法的視点をバランス良く持つ人材として評価されるでしょう。
改正が多く学習コストはかかるものの、その分専門家としての希少価値は高まります。
M&Aなど大規模案件では、法的スキームだけでなく税制面の最適化が不可欠となるため、租税法の専門家はプロジェクトの中核として重宝されるでしょう。
筆者の体験談
筆者の司法試験受験時の選択科目選びは、先ほどご紹介した5つの視点の中でも、次の3つを①から③の優先順位で選択しました。
- 実務でどのくらい使えるか
- 基本科目の得意科目との親和性
- 選択している受験生の割合(教材の充実度)
結論として、選んだのは「倒産法」でした。
実務での有用性は言うまでもなく、弁護士としてはポピュラーな債務整理や、破産・民事再生の分野であるという点が挙げられます。
それだけでなく、倒産法は、民事系の法令に関し、実体法・手続法・執行及び保全に関する実務チックな法令を含め、横断的かつ多角的な知識や深い理解が問われますが、特に弁護士を目指していた(基本的に任官や任検には興味がなかった)私にとっては、どのような分野での専門性を目指し、あるいはジェネラリスト的な形になるとしても幅が効きやすいと考えていました。
また、実際に試験対策をしている中で、単に倒産法の知識だけでなく、知的財産法の分野などは付随的に勉強する場面もあります。
さらには、個人や法人問わず倒産局面にいたる事象においては、様々な社会の実相が垣間見えることで、勉強する中で実務的な感覚が養われやすいのではないかという仮説がありました。
実際に、倒産法を選択して試験に合格した経験としても、その仮説とほとんどずれはなかったと実感しています。
さらに、自分自身の強みとしても、受験生時代は民事系科目を得意としており得点源であったこと、そして倒産法は選択している受験生の割合は、他の選択科目と比較する中でもほぼ上位に属しており、教材や試験対策のノウハウの充実度が高かったことも、試験対策として重要な判断軸となりました。
加えて、先輩合格者やロースクールの先生にも、メンターとして非常に充実していたことも、筆者自身の個別的な要素にはなりますが、決め手の1つでした。
試験対策やコスパ・タイパといった観点もあると思いますが、選択科目は、ぜひ皆さんも実務上の有用性も重視して選んでみてください。
まとめ
司法試験の選択科目は、単なる試験対策の一部としてだけでなく、将来のキャリア設計や専門性の確立にも関わる大きな選択肢です。
基本科目との関連性や実務での需要、自分のバックグラウンドなどを総合的に考慮し、最終的に納得のいく形で選びましょう。
たとえば、企業法務に強みを持ちたいのであれば経済法や倒産法、労働法、租税法などを検討する価値がありますし、グローバルな視点を取り入れたいのであれば国際私法や国際公法も魅力的です。
また、環境問題に強い意欲を持ち、社会的意義の高い仕事を希望するのであれば環境法も見逃せません。
知的財産法はITやベンチャー業界のみならず、製造業やコンテンツビジネスなどさまざまな分野でも需要が伸びています。
選択科目の勉強を進めるにあたっては、必ず過去問の分析を徹底し、論点の抽出と論証の型を押さえることが重要です。
さらに、最新の改正情報や判例については常にアンテナを張りめぐらせ、信頼できる情報源からアップデートするよう心がけましょう。
予備校やオンライン講座、SNSなどでの情報交換も有効ですが、最終的には自分自身で条文や判例を確認する作業が欠かせません。
2025年の司法試験を目指す受験生にとって、選択科目は合否を分けるだけでなく、法曹としての専門性をスタート時点から確立する好機でもあります。
自分の興味、得意分野、将来設計を踏まえたうえで、ベストな科目選択を行ってください。十分な情報収集と計画立案を行うことで、大きなアドバンテージを得ることができるでしょう。