近年は単なる企業法務系の事務所や、昔ながらのいわゆる街弁といわれる個人事務所とはまた違う「ブティック系法律事務所」と呼ばれる事務所が注目を集めています。
ブティック系法律事務所とは簡単にいうと、比較的小規模で特定の分野に絞ってリーガルサービスの提供を行う事務所のことです。
弁護士資格があるだけでは食べていけないとされる昨今、専門性を身につけ生き残るためにブティック系法律事務所に興味を持っている方は少ないかもしれません。
ただ具体的にどういう業務を扱うのか知らずに、就職・転職するのは不安ですよね。
この記事ではブティック系法律事務所の特徴や年収、働く際のメリット・デメリットについて解説します。
また合わせて、ブティック系法律事務所が求める人物像や就職・転職を成功させるためのポイント、おすすめ転職エージェントについても解説するので参考にしてみてください。
目次
ブティック系法律事務所とは
この項目では、ブティック系法律事務所とは実際にどのような形態の事務所を指すのかを確認していきましょう。
特徴
ブティック系法律事務所とは、基本的に小規模で特定分野に対する専門性の高さを売りにした事務所のことを指しますが、具体的に定義が決まっているわけではありません。
なので、ブティック系法律事務所と名乗っているものの、実態は普通の企業法務系事務所や個人事務所ということもありえます。
ブティック系法律事務所の大まかな特徴としては以下が挙げられます。
事務所規模 | 数名~20名前後 |
取扱分野 | 主に労働や倒産、知財、ファイナンスなどに特化する事務所が多い |
出身 | 四大、企業法務系出身者が多い |
仕事の裁量 | 人が少ない分、早くからさまざまな業務を任せてもらえる |
働き方 | ハードワークな傾向がある |
事務所規模的には数名から多くても20前後であることが多く、四大や企業法務系の事務所出身者で構成されています。
業務の取り扱い範囲は特定の分野に特化または企業法務全般を扱いつつも、特定の分野において業界内外で高い評価を得ているケースが多いようです。
人が少ない分、一人ひとりに与えられる裁量の範囲は広い反面、激務になりやすい傾向にあります。
企業法務系法律事務所との違い
基本的にブティック系法律事務所と呼ばれている事務所で扱うのは企業法務です。だとすると、企業法務系の法律事務所と何が違うかは気になるところでしょう。
何度かお伝えしていますが、ブティック系法律事務所は企業法務のなかでも労働、知財、ファイナンスなど一部の分野に特化するのが通常です。
他方、企業法務系法律事務所の場合は、企業法務全般を扱うことが多いといえます。
専門性を高めるという観点から、ブティック系法律事務所のほうが良さそうと考える方もいるかもしれませんが、どちらの方式が正しいかは一概に言えるものではありません。
確かにブティック系法律事務所で働けば、専門性は高まるかもしれませんが、偏った案件の経験しかないために、キャリアの融通が利かなくなる恐れもあります。
またはじめのうちは案件特化を売りにしていても、事務所規模が大きくなるにつれて、企業法務全般のサービスを提供するようになるケースも少なくありません。
なので、事務所としての戦略や方向性の違いが現れたことの結果といえるでしょう。
事務所例
具体的にどのような法律事務所がブティック系とされるのか、一例ですが紹介します。
知財分野 | 中村合同特許法律事務所、阿部・井窪・片山法律事務所、ユアサハラ法律事務所、内田・鮫島法律事務所、骨董通り法律事務所など |
金融 | 島田法律事務所、片岡総合法律事務所 |
独禁法 | 日比谷パーク法律事務所、矢吹法律事務所、池田・染谷法律事務所、(平山法律事務所) |
労働 | 第一芙蓉法律事務所、石嵜・山中総合法律事務所、高井・岡芹法律事務所、安西法律事務所など |
倒産 | LM法律事務所、ひいらぎ法律事務所 |
会社法・訴訟 | 中村角田松本法律事務所 |
もちろん、上記で挙げた以外にもブティック系法律事務所は存在しますし、今後独立や統合などにより、新しいブティック系法律事務所が生み出されていく可能性もあるでしょう。
ブティック系法律事務所の年収
ブティック系法律事務所で働いた場合、どの程度年収がもらえるかも気になるところではないでしょうか。
経験年数やスキル、取扱分野、事務所規模によって変わるため一概にはいえませんが、およそ年収600万円~1000万円が相場になります。
専門性が高いサービスが提供できるといっても、人数がそこまで多いわけではないため、扱える案件にも限りがあります。
弁護士業務が労働集約型である以上、大規模事務所に比べると、年収面では劣る傾向にあるのは否めません。
ただ事務所によっては留学費用や産休・育休支援など、福利厚生の面を手厚くしているところもあるので、年収だけで魅力がないと判断してしまうのはもったいないでしょう。
ブティック系法律事務所で働くメリット・デメリット
ブティック系法律事務所に興味はあるものの、キャリア形成のうえで本当に正しい選択といえるのか不安に感じる方は少なくないかもしれません。
この項目では、ブティック系法律事務所で働くメリット・デメリットを解説します。
ブティック系法律事務所で働くメリット
ブティック系法律事務所で働くことの主なメリットは以下の通り。
- 専門性を高めることができる
- 優秀な弁護士と仕事ができる
- キャリアに箔がつく
- 訴訟経験が積める
ブティック系法律事務所で働く場合、特定分野の案件を扱うことが多くなるため、自然と専門性を身につけることができます。
また基本的にブティック系法律事務所として業界で知れ渡っているということは、同じ弁護士からみても専門とする分野での仕事ぶりがすごいということです。
なので、在籍している弁護士には優秀な方が多く、就職・転職できればキャリアに箔がつきます。
加えて、一般的な企業法務系事務所よりも、訴訟案件を扱う機会が多いため、訴訟の経験も積むことができます。
ブティック系法律事務所で働くデメリット
ブティック系法律事務所で働くことの主なデメリットは以下の通り。
- 経験が偏りキャリアに潰しが利かなくなる恐れがある
- 大規模案件は大手に比べると少ない
- ハードワークが求められる傾向にある
特定の領域に特化しているということは、扱う案件に偏りが生じるということでもあります。専門性の重要度が増しつつあるといっても、依然として多くの法律事務所では、幅広く案件を扱っています。
そのため、一般的な街弁事務所の場合、特定分野の経験しかない弁護士だと、逆に採用しづらく感じることがあるのは否めません。
また大手と比べると、大規模案件に携われる機会は少なめです。
加えて、少数精鋭である分、一人ひとりの業務量は多い傾向にあるといえます。
ブティック系法律事務所が求める人材像
ブティック系法律事務所が採用を行うにあたって、どのような点を見ているか気になりますよね。
この項目では、ブティック系法律事務所が求める人材像を確認していきましょう。
ポテンシャルが高い
ブティック系法律事務所が若手採用を行う場合、ポテンシャルを重視しており、慎重に判断を行います。
ブティック系法律事務所の売りは専門性の高さにあるため、当然、業務では優れたアウトプットを出さなければなりません。
しかも大手とは違って人数が少ないため、早い段階で戦力となることが求められます。
なので、現在事務所で働く弁護士と同じくらいの活躍が見込め、かつ、成長スピードが早い人材が欲しいわけです。
となると、四大法律事務所と同程度の人材を求めることが多く、採用人数の少なさからいえば、ブティック系法律事務所のほうが就職・転職の難易度は高いかもしれません。
専門性が高い
経験者採用の場合には、専門性が重視されます。具体的にどのような専門性が求められるかは、事務所規模や戦略などによってマチマチです。
企業法務の経験を重視する事務所もあれば、訴訟経験を重視する事務所もあるでしょう。
クライアントの意向がくみ取れるインハウス経験の持ち主を探している事務所もあるかもしれません。
自分の経験やスキルをどこが評価してくれるかを見極めることが大切です。
経歴のきれいさ
事務所としての対外的な見栄えの観点から、経歴に一定のきれいさを求められることも稀にあります。
転職回数が多かったり、あまり評判的に良くない事務所出身であったりすると、マイナス評価につながりやすいです。
もちろん、経歴のきれいさだけで採用が決まるわけではなく、あくまでスキルや経験等を判断したうえで考慮されます。
学歴
前述の経歴のきれいさとも繋がりますが、見栄えの観点から学歴も採用に影響を与える要素の一つ。
基本的に弁護士の能力を一般の方が見極めるのは困難です。とはいえ、依頼するからには何かしらを物差しにして判断しなければなりません。
では、どこで判断するのかとなった際、一般の方でもわかりやすいのが学歴です。学歴が優秀な方ばかりが揃っている事務所ならと問題ないだろうと安心しやすいわけです。
もちろん、学歴と弁護士としての能力に必ずしも相関性がないことも事務所側としてはわかっていますが、ブランディングの一つとしては無視できないといえます。
語学力
海外案件を取り扱うブティック系法律事務所の場合は、語学力もチェックされます。
どの程度の語学力を求められるかは、事務所での海外案件の扱い具合によります。頻繫に業務で扱う事務所であれば、ビジネスレベルの語学力が求められる可能性は高いでしょう。
反対にそれほど海外案件の比重が高くなければ、求められる語学力のレベルも低くなります。
ブティック系法律事務所に転職するには
ブティック系法律事務所では、大量に採用を行うことはほとんどないため、転職は狭き門です。
狭き門を突破し内定を得るためにも、転職活動で重要なポイントを確認していきましょう。
自己分析をする
転職活動を始めるにあたり、まず自己分析を行い、自身の強みや特徴を知ることは大切です。
ブティック系と一言にいっても、事務所ごとに求めるスキルや経験は異なります。よほどの経歴の持ち主でもない限りは、どこの事務所でも欲しがられるということはまずありません。
そのため、自身を欲しがってくれる事務所を見つけアピールすることが、転職活動を成功させるうえでは重要です。
しかし、自らの能力を把握していなければ、上手くアピールすることはできません。
なので、自己分析を行い、自分にどのようなアピールできるスキルや経験を知る必要があります。
情報収集を行う
転職活動を成功させるためには、相手を知ることも大切です。
それぞれのブティック系法律事務所が、どのような分野を得意とし、どんな弁護士が在籍しているかなどを調べる必要があります。
もしすでに自身と似たような経歴の方がいた場合、事務所からは魅力的に映らないかもしれません。
他方で、似ている経歴の持ち主がおらず、加えて、その分野の拡大に力を入れている場合は、ぜひ採用をしたいと考えるでしょう。
転職エージェントを利用する
ブティック系法律事務所の採用基準はシビアで、事務所側が描く人材像とかなり合っていないと採用には至りません。
そのため、情報収集を行い、事務所の求める人材像を把握することが大切なのですが、外部で得られる情報には限りがあります。
より深い情報を得ようと思ったときに役立つのが転職エージェントです。
転職エージェントは事務所に人材を紹介するにあたって、まず採用担当から求める人材像のヒアリングを行っています。
さらに紹介を繰り返すことで人材像に対する理解度は高まっているため、かなり正確な情報を持っているといえます。
またブティック系法律事務所のなかには、表立って募集を行っていないケースもあり、その際に活用しているのは転職エージェントです。
そうしたクローズドな求人は、基本的には転職エージェント経由でしか応募できないため、選択肢を増やすうえで利用は欠かせないといえるでしょう。
ブティック系法律事務所を目指す方におすすめの転職エージェント
転職エージェントを利用するにしても、どこのサービスを選べばよいかわからない方も少なくないでしょう。
この項目では、ブティック系法律事務所を目指す方におすすめの転職エージェントを紹介します。
NO-LIMIT|弁護士専門の転職エージェント
NO-LIMITは弁護士・法務人材の転職支援に特化した転職エージェントです。
大手人材紹介会社に比べると、一人あたりに紹介できる求人数は少ないものの、厳選したさまざまな優良法律事務所様や企業様の求人を取り揃えております。
もちろん、優良法律事務所様の求人のなかには、ブティック系に分類される事務所様もあります。
ブティック系法律事務所への転職成功に向け、業界に精通したキャリアアドバイザーがさまざまなご支援を致しますので、ぜひご活用ください。
企業法務革新基盤
企業法務革新基盤は、野村慧と瀧本哲史が設立した企業法務領域特化のキャリア支援サービスを提供する会社です。
野村慧氏が「弁護士・法務人材 就職・転職のすべて」を出版されていることもあって、ご存知の方は多いかもしれません。
業界で高い知名度と実績を持っており、ブティック系法律事務所との繋がりも豊富です。
事務所が求める人材とご自身の経歴との兼ね合いがあるため、必ずしも求人を紹介してもらえるとは限りませんが、キャリアカウンセリングを受けるだけでも、得られるものは少なくないでしょう。
公式サイト:https://lawplatform.co.jp/
MS-JAPAN
長年にわたり士業特化で転職支援を営む転職エージェントです。業界屈指の求人数を誇っており、ブティック系法律事務所の求人の扱いも当然あります。
ブティック系法律事務所以外にもさまざまな分野の求人を持っているため、転職先を幅広く検討したい方にはおすすめです。
公式サイト:https://www.jmsc.co.jp/
まとめ
弁護士数の増加により、専門性の重要度が高まりつつあるなかで、ブティック系法律事務所に対する注目がさらに集まることが予想されます。
ブティック系法律事務所で働きたいと考える人も増えることが予想されますが、専門性の高さを売りにしており、かつ、採用規模はそれほど大きくないため、転職の難易度はかなり高めです。
もしブティック系法律事務所への転職を考えているのであれば、計画的なキャリア設計が必要不可欠です。
NO-LIMITではブティック系法律事務所の転職を目指す方のキャリア相談にも応じていますので、ぜひ一度ご相談ください。
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