契約書のレビューは、弁護士の中心的な業務の一つです。
契約書は法律上の権利義務を定める重要な書面であり、一度締結してしまうと、当事者双方の同意がなければ取り消すことはできません。
そのため、契約書にサインしてしまう前に、弁護士による専門的なチェックを受けておくことが安心です。
弁護士は、契約書という書面の性質を踏まえて、さまざまな観点から専門的なレビューを行っています。この記事では、弁護士が契約書をどのような観点からレビューするかのチェックポイントなどを解説します。
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目次
契約書の果たす機能と目的
個人であっても法人であっても、他人と取引を行う際には、その内容を契約書にまとめておくことが大切です。契約書は、以下の機能を果たすことによって、当事者間の取引や法律関係の安定に役立ちます。
合意内容を明確化する
契約書の中で合意内容を網羅的に記載することによって、
- 何を合意していて
- 何を合意していないか
を、明確にすることができます。
この観点からは、何か問題が起こった場合の処理について、契約書を見ればすんなり理解できるような内容に仕上げておくことが必要です。
そのためには、弁護士が想定し得るリスクや問題を洗い出して、それらの処理方法をできる限り網羅的かつ明確に契約書へ記載することが重要になります。
紛争になった際の証拠として機能する
当事者間で合意内容に関する紛争が発生した場合、契約書がないと「言った言わない」の水掛け論になってしまいます。
この場合、当事者間で契約書が締結されていれば、その内容が客観的な証拠として機能します。したがって、当事者は契約書に矛盾した主張をすることができなくなるので、無用な紛争を防止することに繋がるのです。
弁護士がよく契約書のレビューを依頼される契約種類
弁護士は、日常的にさまざまな契約書をレビューします。
その中でも、弁護士がよくレビューを依頼される契約書の一例を紹介します。
守秘義務契約書
守秘義務契約書は、当事者間でやりとりする情報について、外部に無断で開示・漏えいしないことを互いに約束する契約書です。多くの場合、企業間で何らかの取引を検討する際に、情報のやりとりを行う前段階で締結されます。
守秘義務契約書の内容は定型的なものが多く、一般的には数ページ程度と比較的軽い分量です。
業務委託契約書
業務委託契約書は、企業が個人または下請け企業に対して一定の業務を委託する際などに締結されます。業務の内容などに応じて契約内容も変わるので、クライアントの想定しているビジネスの内容をよくヒアリングする必要があります。
分量は数ページ程度と、比較的軽い場合が多いです。
不動産取引に関する契約書
不動産の売買契約書や賃貸借契約書も、弁護士がよくレビューする契約書の一例です。
不動産取引には、借地借家法を中心とした特有の法規制が適用されるため、弁護士には不動産関連の法制に精通していることが求められます。また、不動産にはリスクがつきものなので(権利関係・環境問題・近隣トラブルなど)、リスク分担を詳細に契約書で定めておくことも大切です。
そのため、特に企業間の不動産取引では、契約書の内容に関する交渉が激しく行われる場合も多くなっています。不動産の売買契約書や賃貸借契約書は、物件の性質に応じてオーダーメイド性が強くなり、分量も比較的多くなりがちです。
ローン取引に関する契約書(金銭消費貸借契約書)
企業が運転資金を借り入れる際には、金融機関との間で金銭消費貸借契約書を締結します。また、ファンドやプロジェクトに関するファイナンス取引を行う際にも、金銭消費貸借契約書は中核的な契約書として機能します。
「お金を〇円貸して、〇〇までに返す」という内容ですが、それにとどまらず、
- ・貸付実行前提条件
- ・表明保証
- ・借入人の誓約事項(禁止事項)
- ・デフォルト(債務不履行)時の処理
など、細かい条件が定められることも多いです。
銀行からの通常のローンであれば、定型的な書式に従うため、あまり詳細なレビューは行われないのが通常です。
これに対してファンドやプロジェクトに関する金銭消費貸借契約書の場合は、きわめてオーダーメイド性が高く、分量も数十~百数十ページに及ぶケースがあります。
弁護士が契約書をレビューする際のチェックポイントは?
弁護士が契約書をレビューする際には、内容面・形式面ともに、さまざまな観点から細かくチェックを行います。
契約書に粗い部分が残っていると、後で問題が起こった際の処理について紛争リスクが生じてしまうので、こうしたリスクが生じないようにするのが弁護士の腕の見せ所といえます。
クライアントが想定する取引が正しく記述されているか
- ・関係者が網羅されていない
- ・お金の流れが実際とは異なる
- ・報酬の金額が合意内容と違う
など、取引内容が正しく記述されていない契約書はワークせず、実際のオペレーションにおいて疑義を生じてしまいます。
こうしたミスがないように、クライアントから取引内容をきちんとヒアリングして、契約書の文言を一字一句チェックすることが大切です。
違法無効な条文が含まれていないか
- ・公序良俗違反
- ・消費者契約法違反
- ・強行規定違反
など、違法無効な条文が含まれている場合には、契約内容が法律に従って強制的に修正されてしまいます。その場合、クライアントにとって意図しない契約内容になってしまう可能性が高いでしょう。
弁護士は、取引に関連する法規制を事前に調査・検討して、法令に違反する条文があれば修正または削除を提案します。
締結版が完成する時点で、違法無効な条文が含まれていない契約書に仕上げることが、後の当事者間の紛争防止に繋がります。
法令上要求される文言が入っているか
金融関連などのビジネスには、「業法」と呼ばれる法律によって細かい規制がかけられています。
銀行法、金融商品取引法、資金決済法、割賦販売法などが、「業法」の一例です。
業法においては、規制対象の取引に関する契約書を締結する際、「○○という文言を入れなければならない」というルールが決まっていることがあります。
この場合、ルールを見落として所定の文言が契約書から落ちてしまっていると、法令違反となります。業法で規制されているビジネスには、監督官庁による監督が厳しく及んでいるケースがほとんどです。
そのため、法令違反が発覚すると、ライセンスの取り消しや行政処分などに繋がるリスクがあります。
弁護士は業法の内容を正確に把握したうえで、契約書中に所定の文言がきちんと盛り込まれているかどうかをチェックする必要があります。
特に業法の条文は非常に細かく、クライアント側が十分にルールを把握していないということもよくあるので、弁護士による適切なアドバイスが求められるのです。
クライアントにとって不利な条件が規定されていないか
契約書のファーストドラフトを相手方が提示してきた場合、クライアントにとって不利な条件(逆に相手方にとっては有利な条件)が書き込まれていることが多いです。
どんな契約書にも、取引の内容に応じたスタンダードな条件の水準が存在します。スタンダードな水準に比べてクライアントに不利な条項については、契約交渉の中で修正または削除を求めていかなければなりません。
弁護士は、当該取引のスタンダードな条件の水準を踏まえて、相手方が提示する各条件を受け入れた場合のリスクをそれぞれ検討します。
そのうえで、
- (1)受け入れても良い(問題ない)
- (2)受け入れ不可
- (3)リスクを説明したうえでビジネス上の判断に委ねる
のおおむね3つの選択肢からいずれかを選択して、クライアントに対する助言を行います。
さらに、もし相手方に対して条項の修正や削除を求める場合には、どのように理由を伝えれば相手方が応諾しやすいかということも考えなければなりません。
条件面の交渉は、契約書のレビューの中でも、特に弁護士の個性が出る部分です。クライアントのビジネスの内容について深い理解を必要とする、弁護士の腕の見せ所といえるでしょう。
文言が曖昧でないか・複数の意味に解釈する余地がないか
契約書の文言は明確でないと、後から当事者間で解釈を巡って紛争が生じてしまうおそれがあります。そのため契約書の文言は、2通り以上の意味に解釈できるようではいけません。
弁護士は専門的な用語法などを駆使して、客観的に読んで1通りの意味のみに解釈できるような文言になっているかを確認する必要があります。
よくあるミスとしては、
- ・用語の定義がされていない
- ・場合分けが網羅されていない
といったものがありますので、こうしたミスがないように丁寧に契約書全体をチェックすることが大切です。
契約書の体裁に不備がないか
- ・誤字脱字
- ・インデントずれ
- ・ページ番号や項番などのずれ
- ・引用条文のずれ
- ・表記ゆれ
- ・ハイライトの消し忘れ
など、契約書の体裁面に不備があると、見栄えが悪くなってしまいます。弁護士にとって、契約書は商品としての意味合いも併せ持つため、質の高い弁護士は契約書の体裁にも気を配るのです。
ただし、相手方から提示された契約書をレビューする際には、体裁面はファーストドラフトを尊重するという暗黙の了解があります。
この場合、タイポなどの明らかなミスを除いては、体裁面の修正は加えない方が普通です。
【登録歓迎】英文契約書レビュー業務のスカウト求人インハウスローヤーが契約書レビューで詰まってしまった場合の対処法は?
企業が新しいビジネスや取引に挑戦する際には、これまで取り扱ったことのない契約書の締結が必要となる場面もあります。
こうした場合、企業の法務を担当するインハウスローヤーの方としては、自社にノウハウがないためにレビューを円滑に進められないことがあるかもしれません。
もし自社内でほかに詳しい人がいなければ、以下の方法でレビューの指針を立てることが考えられます。
実務系の法律書籍を調べる
契約書のレビューについての一般的な解説本や、分野ごとの実務を解説した本を調べることで、レビューのヒントが見つかる可能性があります。
(例)『契約書作成の実務と書式 企業実務家視点の雛形とその解説 第2版』(阿部・井窪・片山法律事務所)
弁護士にとって、書籍は仕事道具として非常に重要です。以下の書店は法律関係の書籍を多数取り扱っているので、キーワードで検索をすれば、求めている書籍にたどり着ける可能性が高いでしょう。
参考
大規模・中規模の法律事務所に勤める親しい弁護士に聞く
ある程度以上の規模の法律事務所には、さまざまな実務に関するノウハウが蓄積しています。
大規模・中規模の法律事務所に同期などの親しい弁護士が所属していれば、手掛かりになるような文献・判例などを教えてくれるかもしれません。
弁護士は、同業者と良好な関係を築いておくことが、さまざまな場面で助けとなります。
案件を進めるうえでわからないことが生じた場合は、知り合いの弁護士とコミュニケーションを取る良い機会と捉えて、積極的に電話やメッセージで質問をしてみると良いでしょう。
まとめ
契約書をきちんと作りこむことは、当事者間で後に紛争を発生させないためにきわめて重要です。
弁護士は、クライアントが行おうとしている取引や規制法の内容を深く理解したうえで、ミスのない契約書が作成できるようにサポートする責務を負っています。
そのためには、契約書をざっと見るだけではなく、一字一句の意味を検討しながら丁寧にレビューを行うことが大切です。より良い契約書のレビューを行うには、日頃から法律の専門家としての研鑽を積むことが必要不可欠です。
日々の業務の中でさまざまな契約書に触れて経験を積み、また法改正などの内容もしっかりとキャッチアップして、弁護士としてプロの仕事ができるように成長を続けましょう。
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