契約書のレビューは、弁護士の中心的な業務の一つです。
契約書は法律上の権利義務を定める重要な書面であり、一度締結してしまうと、当事者双方の同意がなければ取り消すことはできません。
そのため、契約書にサインしてしまう前に、弁護士による専門的なチェックを受けておくことが安心です。
弁護士は、契約書という書面の性質を踏まえて、さまざまな観点から専門的なレビューを行っています。この記事では、弁護士が契約書をどのような観点からレビューするかのチェックポイントなどを解説します。
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契約書レビューとは?弁護士(企業法務)が担う役割とゴール
契約書レビューとは、取引の内容を契約書に正しく落とし込み、当事者の権利義務やリスク配分が「意図どおりに機能するか」を確認・修正する業務です。
単に誤字脱字を直す作業ではなく、取引開始後に起こり得るトラブル(支払い遅延・品質不良・情報漏えい・途中解約・損害発生など)を想定し、紛争の芽を先回りして潰す設計に近い仕事だといえます。
企業法務の弁護士、特にインハウスローヤーが契約書レビューで担う役割は、法的リスクの指摘にとどまりません。社内の事業目的や運用実態、スケジュール感を踏まえたうえで契約条件を「現場で回る形」に整え、取引を安全に成立させることが求められます。
レビューのゴールは、大きく次の3つに整理できます。
- 取引を安全に成立させる:違法・無効・重大なリスクを避け、会社の損失を防ぐ
- 取引を円滑に回す:検収・報告・期限・通知などの運用を明確にし手戻りや揉め事を減らす
- 取引を前に進める:「ダメ」で止めず、代替案や落としどころを示して合意形成を支援する
この3点を満たすためには、契約書の文言だけを見るのではなく「そもそも取引が何を目的に、どんなリスクを許容し、何を守りたいのか」という前提を押さえることが重要です。
契約書レビューは、法律知識と実務感覚の両方を使って、会社の意思決定を支える業務だといえるでしょう。
契約書レビューの定義
契約書レビューで確認すべき範囲は、大きく分けて「法務としての適法性・妥当性」と「ビジネスとしての実行可能性」の2つです。
どちらか一方だけに寄ると、契約は成立しても実務で回らなかったり、逆に現場の希望を優先しすぎてリスクが顕在化したりします。
まず、法務判断として見る領域では、次のような点をチェックします。
- 違法・無効リスク:強行規定に反していないか、必要な手続や許認可が前提になっていないか
- 抜け漏れ:取引に必要な条項(秘密保持、知財、解除、責任など)が欠けていないか
- 解釈のブレ:定義や条件が曖昧で、当事者間で読み方が割れる余地がないか
- リスク配分:責任・補償・損害賠償の負担が不均衡ではないか
次に、事業の落としどころとして見る領域では、「その条件を会社(現場)が守れるか」「交渉で合意可能か」を判断します。以下を参考にしてください。
- 納期や検収条件が厳しすぎて、現場が対応しきれない
- 無償対応・無制限責任など、受け入れると損失が膨らみやすい
- 情報セキュリティや個人情報の取り扱いが、社内ルールと整合しない
といった「実務上の破綻ポイント」は、法律論だけでは見落としがちです。
そのため、契約書レビューのアウトプットは「危ないので削除してください」で終わらせるのではなく、「何がリスクか(理由)」「会社として守りたいライン(優先順位)」「代替案(修正条文・条件案)」をセットで提示するのが理想です。
こうして初めて、法務判断と事業判断がつながり、取引を前に進めるレビューになります。
インハウスのレビューは「事業を止めない提案」まで含まれる
外部弁護士(法律事務所)の契約書レビューは、法的リスクの洗い出しや条文修正の精度に強みがあります。
一方でインハウスローヤーは、会社の事業戦略や現場の制約、取引継続の重要性を理解している立場だからこそ、レビューのゴールが正しさだけでなく事業を前に進めることに寄ります。
実務では、法的にリスクがある条項が見つかったときに、単に「この条件はNGです」と結論だけを伝えると、事業部は次の打ち手が分からず、交渉が止まってしまいがちです。そこでインハウスのレビューでは、リスク指摘とセットで代替案を出すことが重要になります。
たとえば、よくある止まりやすい論点は次のようなものです。
- 責任が重すぎる:無制限の損害賠償、間接損害まで負担、広すぎる補償義務
- 運用が回らない:検収の方法が曖昧、短すぎる是正期間、現場が実行できない報告義務
- 終了時が危ない:解除条件が一方的、終了時のデータ・成果物の扱いが未整理
インハウスが提示すべきは「危ない」ではなく、落としどころの提案です。たとえば、次のような提示案です。
- 責任制限(キャップ)を設ける/損害の範囲(直接損害のみ等)を限定する
- 検収の手順・期限・不合格時の対応を明確化し、運用負荷を下げる
- 解除事由に是正期間を入れる/終了時措置(返還・消去・データ移行)を整備する
さらに、インハウスは社内の合意形成も担います。セキュリティや経理、営業、開発など関係部署の基準と整合するかを確認し、必要に応じて判断の根拠を整理して共有します。
こうしたプロセスを通じて、法務が「ブレーキ役」ではなく、安全にアクセルを踏むための役割を果たせるようになります。
契約書の果たす機能と目的
個人であっても法人であっても、他人と取引を行う際には、その内容を契約書にまとめておくことが大切です。契約書は、以下の機能を果たすことによって、当事者間の取引や法律関係の安定に役立ちます。
合意内容を明確化する
契約書の中で合意内容を網羅的に記載することによって、
- 何を合意していて
- 何を合意していないか
を、明確にすることができます。
この観点からは、何か問題が起こった場合の処理について、契約書を見ればすんなり理解できるような内容に仕上げておくことが必要です。
そのためには、弁護士が想定し得るリスクや問題を洗い出して、それらの処理方法をできる限り網羅的かつ明確に契約書へ記載することが重要になります。
紛争になった際の証拠として機能する
当事者間で合意内容に関する紛争が発生した場合、契約書がないと「言った言わない」の水掛け論になってしまいます。
この場合、当事者間で契約書が締結されていれば、その内容が客観的な証拠として機能します。したがって、当事者は契約書に矛盾した主張をすることができなくなるので、無用な紛争を防止することに繋がるのです。
レビュー依頼を受けたら最初にやること(手順の全体像)
契約書レビューは、条文を上から順に読むだけでは精度が上がりません。
そこで、レビューを受けたらまず押さえたいのが手順(プロセス)です。
手順を確立しておくと、事業部とのやり取りもスムーズになります。
全体像は、次の4ステップで整理できます。
- ヒアリング:取引の前提・当事者・金銭/情報の流れ・優先順位を把握する
- 優先順位付け:重要条項から確認し、リスクの強弱をつける
- 修正案提示:コメントだけでなく代替条文や条件案まで提案する
- 交渉〜締結:合意形成を支援し、締結後の運用を見据えて整える
ここからは、各ステップで「何を確認し、どうアウトプットするか」を具体化します。
先にプロセスを押さえておくことで、後のチェックポイント(何を見るか)が点ではなく線として理解できるようになります。
1.ヒアリング
レビューの質を左右するのは、契約書そのものよりも「前提情報」をどれだけ押さえられるかです。
条文の意味は、取引のスキーム(誰が何をし、何が提供され、何が対価として支払われるか)によって変わります。まずは、契約書を読み始める前に、最低限のヒアリングで前提を固めましょう。
ヒアリングのポイントは次の4つです。
- 取引の目的:この契約で実現したい成果は何か(何がゴールか)
- 当事者・立場:自社は提供側か受領側か/再委託や第三者が関与するか
- お金と情報の流れ:対価の算定方法・支払条件/秘密情報・個人情報・成果物データがどう動くか
- 優先順位:スピード最優先か、品質最優先か、コスト最優先か(譲れない条件は何か)
この段階でよくある落とし穴は、「契約書に書いてあるから前提は分かるはず」と思い込むことです。
実際には、契約書がテンプレのまま流用されていたり、取引実態とズレていたりするケースが珍しくありません。
そのため、契約書を読む前に、取引を理解するという順番が大切です。
また、ヒアリングは長時間である必要はありません。
たとえば、事業部に次のような質問を投げるだけでも、論点が一気に絞れます。
「納品(提供)するものは何ですか?成果物は発生しますか?」
「検収(受入確認)は誰が、いつ、どうやって行いますか?」
「遅れた場合や不具合が出た場合、現場ではどう対応する想定ですか?」
「この取引で、絶対に守りたいラインはどこですか?」
前提が固まると、後続のレビューで「どの条項が重要か」「どこを交渉ポイントにするか」が判断しやすくなります。
結果として、修正案も赤入れではなく、事業部にとって納得感のある提案になります。
2.優先順位付け
契約書レビューは、限られた時間で「重要なリスク」を落とさないことが大切です。
上から順に精読すると、体裁や軽微な表現で時間を使い、責任・解除などの重要条項の検討が薄くなることがあります。そこで先に優先順位を付けます。
おすすめは次の3段階です。
- 最優先:違法・無効、重大損失に直結、致命的に運用不能な条項
- 重要:交渉で改善したいが、致命傷ではない条項
- 余力:体裁・表現などの軽微な改善
実際の見方は、「事故が起きたときに効く条項」から入ると効率的です。
責任(補償・損害賠償・責任制限)、解除・終了時措置を先に確認し、その後に取引の根幹(成果物定義、検収、対価・支払、知財、秘密保持)を押さえます。
最後に通知方法や準拠法・管轄、表記統一などを整える流れです。
こうして優先順位を先に決めておくと、時間がない案件でも致命的なリスクを避けやすく、事業部にも「ここは絶対に直したい、もしくはここは落としどころがある」と説明しやすくなります。
3.修正案の出し方
修正案は、赤入れ(条文修正)だけを返すよりも、相手方・社内の双方が動きやすい形で出すのが良いでしょう。
おすすめは「コメント」「代替条文」「論点メモ」をセットにする方法です。
- コメント:何がリスクで、なぜ問題か(判断理由)
- 代替条文:直すならこの形、という具体案(または条件案)
- 論点メモ:交渉でどこまで譲れるか、優先順位、社内確認が必要な点
たとえば「責任が無制限で重い」という指摘だけだと、事業部は次に何を言えばいいか分かりません。
そこで「責任上限(キャップ)を設ける」「間接損害は除外する」「上限は直近○か月分の利用料」など、複数の落としどころ案を提示しておくと、交渉が止まりにくくなります。
また、修正理由は法律論だけではなく、「この条件だと現場運用が回らない」「事故時の損失が読めない」といった実務目線に落として伝えると、社内の納得感が上がります。
最後に、相手方に返す版と社内共有版(論点メモ付き)を分けておくと、コミュニケーションも整理しやすいです。
4.交渉〜締結
修正案を出したら終わりではなく、相手方との交渉を通じて「合意できる条件」に着地させ、締結後にちゃんと運用できる形まで整えるのが実務です。
交渉では、いきなり結論をぶつけるより、前提→リスク→代替案の順で説明すると通りやすくなります。
また、交渉が長引きやすい論点(責任制限や解除、知財、個人情報・セキュリティなど)は、最初から落としどころを複数用意しておくとスムーズです。
「この条件は必須」「ここは譲歩余地あり」を社内で先に整理しておくほど、やり取りの往復が減るでしょう。
締結直前は、条文の整合(参照条文、別紙、優先順位)や、署名押印・電子契約の方法、契約日・発効日などの実務要件の最終確認も重要です。
ここが曖昧だと、後から「いつから効くのか」「どの資料が契約の一部か」で揉めやすくなるため、最後に必ずチェックしてから締結に進めましょう。
弁護士がよく契約書のレビューを依頼される契約種類
弁護士は、日常的にさまざまな契約書をレビューします。
その中でも、弁護士がよくレビューを依頼される契約書の一例を紹介します。
守秘義務契約書
守秘義務契約書は、当事者間でやりとりする情報について、外部に無断で開示・漏えいしないことを互いに約束する契約書です。多くの場合、企業間で何らかの取引を検討する際に、情報のやりとりを行う前段階で締結されます。
守秘義務契約書の内容は定型的なものが多く、一般的には数ページ程度と比較的軽い分量です。
業務委託契約書
業務委託契約書は、企業が個人または下請け企業に対して一定の業務を委託する際などに締結されます。業務の内容などに応じて契約内容も変わるので、クライアントの想定しているビジネスの内容をよくヒアリングする必要があります。
分量は数ページ程度と、比較的軽い場合が多いです。
不動産取引に関する契約書
不動産の売買契約書や賃貸借契約書も、弁護士がよくレビューする契約書の一例です。
不動産取引には、借地借家法を中心とした特有の法規制が適用されるため、弁護士には不動産関連の法制に精通していることが求められます。また、不動産にはリスクがつきものなので(権利関係・環境問題・近隣トラブルなど)、リスク分担を詳細に契約書で定めておくことも大切です。
そのため、特に企業間の不動産取引では、契約書の内容に関する交渉が激しく行われる場合も多くなっています。不動産の売買契約書や賃貸借契約書は、物件の性質に応じてオーダーメイド性が強くなり、分量も比較的多くなりがちです。
ローン取引に関する契約書(金銭消費貸借契約書)
企業が運転資金を借り入れる際には、金融機関との間で金銭消費貸借契約書を締結します。また、ファンドやプロジェクトに関するファイナンス取引を行う際にも、金銭消費貸借契約書は中核的な契約書として機能します。
「お金を〇円貸して、〇〇までに返す」という内容ですが、それにとどまらず、
- ・貸付実行前提条件
- ・表明保証
- ・借入人の誓約事項(禁止事項)
- ・デフォルト(債務不履行)時の処理
など、細かい条件が定められることも多いです。
銀行からの通常のローンであれば、定型的な書式に従うため、あまり詳細なレビューは行われないのが通常です。
これに対してファンドやプロジェクトに関する金銭消費貸借契約書の場合は、きわめてオーダーメイド性が高く、分量も数十~百数十ページに及ぶケースがあります。
取引基本契約書(継続取引の基本ルール)
取引基本契約書は、継続的な取引をする当事者間で「共通ルール」を先に決めるための契約です。
実際の売買や業務提供は、個別の発注書・個別契約で回しつつ、支払や検収、解除、責任制限などの基本事項は取引基本契約で統一するイメージです。
レビューでは、まず「個別契約(個別発注書)との優先順位」を必ず確認します。基本契約が優先なのか、個別が優先なのかが曖昧だと、トラブル時にどちらが適用されるか争点になりやすいからです。
加えて、契約期間・自動更新、解除(是正期間の有無)、反社、秘密保持、損害賠償や責任制限の考え方など、継続取引に効く条項を重点的に見ます。
売買契約書(検収・返品・危険負担など)
売買契約書は、商品や成果物を「引き渡す・受け取る」取引で中心になる契約です。
揉めやすいのは、納品後の不具合や数量違いが発覚したときに、どこまでが売主の責任で、いつまで対応するのかが曖昧なケースです。
レビューでは特に次の観点から確認します。
1.検収(いつ、誰が、どの基準で合格とするか)
2.返品・交換の条件
3.瑕疵(不具合)対応の範囲と期間
4.危険負担(引渡し前後で滅失・毀損のリスクを誰が負うか)
支払条件(前払い・分割・遅延利息)や、損害賠償の範囲・責任制限もあわせて整理しておくと、トラブル時の着地が明確になります。
利用規約・SaaS契約(SLA・データ・責任制限)
利用規約やSaaS契約は、サービス提供型の取引で頻出します。
ポイントは「サービスが止まった」「データが消えた」「仕様変更で業務が回らない」といった事故が起きたときに、契約がどう機能するかです。
レビューでは、次の観点を重点的に確認します。
1.SLA(稼働率・サポート対応・復旧目標の有無)
2.データの取り扱い(顧客データの権利、バックアップ、返還・削除、移行支援)
3.セキュリティ・個人情報対応(委託先管理、事故時通知、再発防止)
また、責任制限(損害賠償の上限、間接損害の除外、免責事由)が一方的になっていないか、逆に提供側として過大な責任を負っていないかを整理し、事業のリスク許容度に合わせて落としどころを作ることが重要です。
ライセンス契約・共同開発契約(知財帰属・改良・利用範囲)
ライセンス契約や共同開発契約は、知的財産の扱いが取引価値の中心になります。
よくあるトラブルは、「成果物の権利は誰のものか」「改良したら権利はどうなるか」「どこまで使ってよいか」が曖昧なまま進み、後から利用制限や追加費用の争いに発展するケースです。
レビューでは、知財帰属(既存技術と成果物の切り分け、成果の帰属先)、利用許諾の範囲(目的、期間、地域、再許諾、第三者利用)、改良・派生物の扱い(改良発明、フィードバックの権利、共同成果の管理)を丁寧に確認します。
加えて、成果物の引渡し物(ソースコード・設計書・ドキュメント)、検収、秘密保持、終了時の利用継続可否などもセットで整理しておくと、実務運用まで含めてブレにくくなります。
弁護士が契約書をレビューする際のチェックポイントは?
弁護士が契約書をレビューする際には、内容面・形式面ともに、さまざまな観点から細かくチェックを行います。
契約書に粗い部分が残っていると、後で問題が起こった際の処理について紛争リスクが生じてしまうので、こうしたリスクが生じないようにするのが弁護士の腕の見せ所といえます。
クライアントが想定する取引が正しく記述されているか
- ・関係者が網羅されていない
- ・お金の流れが実際とは異なる
- ・報酬の金額が合意内容と違う
など、取引内容が正しく記述されていない契約書はワークせず、実際のオペレーションにおいて疑義を生じてしまいます。
こうしたミスがないように、クライアントから取引内容をきちんとヒアリングして、契約書の文言を一字一句チェックすることが大切です。
違法無効な条文が含まれていないか
- ・公序良俗違反
- ・消費者契約法違反
- ・強行規定違反
など、違法無効な条文が含まれている場合には、契約内容が法律に従って強制的に修正されてしまいます。その場合、クライアントにとって意図しない契約内容になってしまう可能性が高いでしょう。
弁護士は、取引に関連する法規制を事前に調査・検討して、法令に違反する条文があれば修正または削除を提案します。
締結版が完成する時点で、違法無効な条文が含まれていない契約書に仕上げることが、後の当事者間の紛争防止に繋がります。
法令上要求される文言が入っているか
金融関連などのビジネスには、「業法」と呼ばれる法律によって細かい規制がかけられています。
銀行法、金融商品取引法、資金決済法、割賦販売法などが、「業法」の一例です。
業法においては、規制対象の取引に関する契約書を締結する際、「○○という文言を入れなければならない」というルールが決まっていることがあります。
この場合、ルールを見落として所定の文言が契約書から落ちてしまっていると、法令違反となります。業法で規制されているビジネスには、監督官庁による監督が厳しく及んでいるケースがほとんどです。
そのため、法令違反が発覚すると、ライセンスの取り消しや行政処分などに繋がるリスクがあります。
弁護士は業法の内容を正確に把握したうえで、契約書中に所定の文言がきちんと盛り込まれているかどうかをチェックする必要があります。
特に業法の条文は非常に細かく、クライアント側が十分にルールを把握していないということもよくあるので、弁護士による適切なアドバイスが求められるのです。
クライアントにとって不利な条件が規定されていないか
契約書のファーストドラフトを相手方が提示してきた場合、クライアントにとって不利な条件(逆に相手方にとっては有利な条件)が書き込まれていることが多いです。
どんな契約書にも、取引の内容に応じたスタンダードな条件の水準が存在します。スタンダードな水準に比べてクライアントに不利な条項については、契約交渉の中で修正または削除を求めていかなければなりません。
弁護士は、当該取引のスタンダードな条件の水準を踏まえて、相手方が提示する各条件を受け入れた場合のリスクをそれぞれ検討します。
そのうえで、
- (1)受け入れても良い(問題ない)
- (2)受け入れ不可
- (3)リスクを説明したうえでビジネス上の判断に委ねる
のおおむね3つの選択肢からいずれかを選択して、クライアントに対する助言を行います。
さらに、もし相手方に対して条項の修正や削除を求める場合には、どのように理由を伝えれば相手方が応諾しやすいかということも考えなければなりません。
条件面の交渉は、契約書のレビューの中でも、特に弁護士の個性が出る部分です。クライアントのビジネスの内容について深い理解を必要とする、弁護士の腕の見せ所といえるでしょう。
文言が曖昧でないか・複数の意味に解釈する余地がないか
契約書の文言は明確でないと、後から当事者間で解釈を巡って紛争が生じてしまうおそれがあります。そのため契約書の文言は、2通り以上の意味に解釈できるようではいけません。
弁護士は専門的な用語法などを駆使して、客観的に読んで1通りの意味のみに解釈できるような文言になっているかを確認する必要があります。
よくあるミスとしては、
- ・用語の定義がされていない
- ・場合分けが網羅されていない
といったものがありますので、こうしたミスがないように丁寧に契約書全体をチェックすることが大切です。
契約書の体裁に不備がないか
- ・誤字脱字
- ・インデントずれ
- ・ページ番号や項番などのずれ
- ・引用条文のずれ
- ・表記ゆれ
- ・ハイライトの消し忘れ
など、契約書の体裁面に不備があると、見栄えが悪くなってしまいます。弁護士にとって、契約書は商品としての意味合いも併せ持つため、質の高い弁護士は契約書の体裁にも気を配るのです。
ただし、相手方から提示された契約書をレビューする際には、体裁面はファーストドラフトを尊重するという暗黙の了解があります。
この場合、タイポなどの明らかなミスを除いては、体裁面の修正は加えない方が普通です。
【登録歓迎】英文契約書レビュー業務のスカウト求人契約類型別に見る事故が起きやすいパターン
共通条項のチェックができても、契約の種類によって「事故が起きやすいポイント」は変わります。
ここでは、実務で頻出する契約類型ごとに、まず優先して見るべき見どころだけを整理します。
忙しいときは、この章の観点から当たりをつけるだけでも、レビューの抜け漏れを減らせます。
NDA(短いが事故が多い):例外・目的外利用・期間の設計
NDAは条文が少ないぶん、設計ミスがそのまま事故につながりやすい契約です。
まず「秘密情報の定義」と「例外(公知・既知・独自開発など)」を確認し、守る範囲が広すぎる、もしくは狭すぎる状態を避けます。
次に、目的外利用の禁止や、開示できる相手(役職員・委託先)の条件を明確にします。
最後に、存続期間と終了時の返還・消去まで整えると、漏えい時の対応がブレにくくなります。
業務委託(揉めやすい):成果物/検収/追加変更/再委託
業務委託で揉めやすいのは、「何を納品すれば完了か」と「合格の基準」が曖昧なケースです。
成果物の範囲・形式、検収方法と期限、不合格時の是正対応を先に固めます。
次に、仕様変更や追加依頼が出たときの手続(見積・納期延長・追加費用)を決めておくと、後からコストや納期で争いにくくなります。
再委託を認める場合は、可否・条件と、委託先を含めた管理責任まで整理します。
取引基本・売買:個別契約との優先順位/検収・返品/危険負担
取引基本や売買では、まず「基本契約と個別発注(注文書・個別契約)のどちらが優先するか」を確認します。
優先順位が曖昧だと、トラブル時に適用条項が争点になりがちです。次に、検収の方法・期限、返品や交換の条件、瑕疵対応の範囲を整理します。
あわせて、引渡し前後で滅失・毀損のリスクを誰が負うか(危険負担)と、支払条件をセットで確認すると、事故時の責任分界が明確になります。
SaaS・利用規約:SLA/免責・責任制限/データ取扱い
SaaSや利用規約は、サービス停止や障害が起きたときにどうなるかが非常に重要です。
SLA(稼働率、サポート対応、復旧目標)の有無と内容を確認し、実態に合うかを見ます。
次に、免責・責任制限が一方的になっていないか(上限額、間接損害の扱い、免責事由)を整理します。
最後に、データ取扱い(保存、バックアップ、返還・削除、移行支援)と、セキュリティ・個人情報対応まで押さえると運用面の事故を減らせます。
ライセンス・共同開発:成果の帰属/改良発明/利用範囲
ライセンスや共同開発は、成果物の価値=知財の扱いで勝負が決まります。
まず、既存技術と新規成果を切り分け、成果の権利帰属(譲渡か利用許諾か)を明確にします。
次に、改良発明や派生物が出た場合の扱い(誰に帰属し、相手は使えるのか)を整理します。
利用範囲は、目的・期間・地域・再許諾の可否まで具体化し、終了後の利用可否や成果物の引渡し範囲も合わせて決めておくと揉めにくくなります。
インハウス視点:レビューで止めないためのコミュニケーション設計
インハウスローヤーの契約書レビューは、法的に正しい結論を出すだけでなく、事業部が動ける形に落とし込むことが重要です。
リスクを指摘して終わると交渉が止まりやすいため、前提を共有し、優先順位を示し、代替案までセットで提示するコミュニケーション設計が成果を左右します。
「NOと言う」より「どうすれば実現できるか」を示す
インハウスの法務は、リスクを見つけたときに「できません」で止めるのではなく、取引の目的を崩さずに安全に進める道を示すことが求められます。
つまり、結論だけでなく「なぜ危ないのか」と「代わりにこうすれば進められる」をセットで出すのが基本です。
たとえば責任が重すぎるなら、責任上限(キャップ)の設定、対象損害の限定、是正・再履行を先にするなど、複数の落としどころ案を提示します。
こうして実現可能な選択肢を用意しておくと、事業部は交渉を前に進めやすくなり、法務も安全性を担保したままスピードを落とさずに済みます。
事業部との関係性を壊さない伝え方(前提→リスク→代替案)
契約書レビューで摩擦が生まれやすいのは、法務の指摘が「否定」に聞こえるときです。
伝え方の型としては、前提→リスク→代替案の順にすると、相手の納得感が上がります。
まず「取引の目的・優先順位」を確認し、そのうえで「この条項だと何が起き得るか(損失・運用破綻・説明責任)」を具体的に伝えます。最後に「この形なら進められる」という代替案(修正条文、条件案、交渉の優先順位)を提示します。
結論だけで終えず、動ける形で返すことで、事業部との信頼関係を保ったまま合意形成を進めやすくなります。
法務チームの業務領域を分けて整理(コーポレート/日常/リスク)
契約書レビューをスムーズに回すには、法務の業務を「どの領域の話か」で切り分けて整理するのが有効です。
たとえば、取締役会・株主総会対応などのコーポレート領域、契約・規約・取引相談などの日常領域、紛争・不祥事・情報漏えい対応などのリスク領域です。
レビュー対象がどの領域に属するかを先に明確にすると、関係部署(経理・セキュリティ・開発など)との連携先や、判断基準(スピード優先か、慎重審査か)が揃いやすくなります。属人化を減らし、案件の優先順位付けやエスカレーション判断もしやすくなるため、法務機能全体の安定運用につながります。
インハウスローヤーが契約書レビューで詰まってしまった場合の対処法は?
企業が新しいビジネスや取引に挑戦する際には、これまで取り扱ったことのない契約書の締結が必要となる場面もあります。
こうした場合、企業の法務を担当するインハウスローヤーの方としては、自社にノウハウがないためにレビューを円滑に進められないことがあるかもしれません。
もし自社内でほかに詳しい人がいなければ、以下の方法でレビューの指針を立てることが考えられます。
実務系の法律書籍を調べる
契約書のレビューについての一般的な解説本や、分野ごとの実務を解説した本を調べることで、レビューのヒントが見つかる可能性があります。
(例)『契約書作成の実務と書式 企業実務家視点の雛形とその解説 第2版』(阿部・井窪・片山法律事務所)
弁護士にとって、書籍は仕事道具として非常に重要です。以下の書店は法律関係の書籍を多数取り扱っているので、キーワードで検索をすれば、求めている書籍にたどり着ける可能性が高いでしょう。
参考
大規模・中規模の法律事務所に勤める親しい弁護士に聞く
ある程度以上の規模の法律事務所には、さまざまな実務に関するノウハウが蓄積しています。
大規模・中規模の法律事務所に同期などの親しい弁護士が所属していれば、手掛かりになるような文献・判例などを教えてくれるかもしれません。
弁護士は、同業者と良好な関係を築いておくことが、さまざまな場面で助けとなります。
案件を進めるうえでわからないことが生じた場合は、知り合いの弁護士とコミュニケーションを取る良い機会と捉えて、積極的に電話やメッセージで質問をしてみると良いでしょう。
外部弁護士にエスカレーションすべきケース(重要度・緊急度・専門性)
インハウスで完結させるのが基本でも、全件を抱え込むとリスクが跳ね上がります。
エスカレーションの目安は「重要度・緊急度・専門性」です。
たとえば、損害規模が大きい・経営判断が絡む・自社のレピュテーションに直撃する論点は、早めに外部弁護士に相談した方が安全です。
加えて、当局対応が想定される案件、海外法域・英文契約、訴訟・仲裁リスクが高い案件、業法が絡む特殊領域などは専門性が必要になりやすいです。
迷ったら「最悪ケースの損失」と「社内で判断根拠を説明できるか」を基準に切り分けると、判断がブレにくくなります。
社内ナレッジ化:チェックリスト・ひな形・判断基準の整備
契約レビューが属人化すると品質が人に依存し、スピードも落ちます。
そこで有効なのがナレッジ化です。頻出契約(NDA、業務委託、SaaSなど)はチェックリストを整備し、必ず見る条項と判断の観点を固定します。
次に、社内標準のひな形や代替条文(責任制限、解除、知財、個人情報など)を用意すると、毎回ゼロから考える必要が減ります。
さらに「この条件は原則NG」「この範囲なら許容」など判断基準を言語化しておくと、事業部への説明や社内承認も早くなり、レビュー品質が安定します。
レビュー業務の効率化(属人化を減らし、判断スピードを上げる)
効率化のポイントは「流れを型にする」「判断材料を先に集める」「例外対応を減らす」の3つです。
具体的には、次のようなフローを整えてみましょう。
・依頼時のヒアリング項目をフォーム化して前提情報を揃える
・重要条項から見る優先順位の型を徹底する
・修正案はコメント+代替条文+論点メモで返す
さらに、案件の受付窓口と締切、エスカレーション条件を明確にしておくと、突発対応が減りやすいです。
こうした仕組み化により、個人の経験値に依存せず、一定品質で早く回せる状態を作れます。
転職にも効く:契約書レビュー経験の棚卸し・伝え方
契約書レビュー経験は企業法務の中核スキルですが、転職では「レビュー経験あり」だけだと差がつきにくいのが実情です。
評価されるのは、扱った契約の種類や件数、論点の難易度、そして合意形成まで動かした再現性です。
そこで次からは、職務経歴書・面接で伝わる形に落とし込むために、経験の整理方法と書き方のポイントを具体化していきます。
職務経歴書は「契約書レビュー経験あり」だけでは弱い(件数・内容・成果まで)
職務経歴書に「契約書レビューを担当」と書くだけでは、スキルの深さが伝わりません。
評価されやすいのは、扱った契約の種類と範囲、ボリューム感、成果を具体化した記載です。
「月○件/年間○件」
「NDA・業務委託・SaaSなど」
「交渉で責任上限を設定し想定損失を抑制」
「検収条件を明確化して手戻りを削減」
たとえば、上記のように数字やアウトカムで示すと説得力が上がります。
法務の仕事の中心に契約があることを前提に、強みを紐づける
企業法務は、日常業務の多くが契約・規約の作成やレビューに集約されます。
だからこそ転職では、「契約にどれだけ関わったか」よりも、「契約を通じて何を守り、何を前に進めたか」を強みとして結び付けるのが効果的です。
「責任制限や解除条件を整えて損失を抑えた」
「知財やデータの扱いを明確化して事業の拡張性を確保した」
「標準ひな形を整備してスピードと品質を安定させた」
たとえば、上記のように契約で解決した課題に言い換えると評価されやすくなります。
事業部と連携して「提案」した経験は強い(面接で刺さる)
インハウスで評価されやすいのは、リスク指摘だけで終わらず、事業部と一緒に落としどころを作って取引を前に進めた経験です。
面接では「どの論点で」「どう整理し」「どんな代替案を出して」「相手方とどう合意したか」をストーリーで話せると強いです。
たとえば、責任が過大な条項に対して上限設定案を複数提示し、社内の優先順位を揃えたうえで交渉して着地させた、など具体例があると再現性が伝わります。
よくある質問(FAQ)
ここからは、契約書レビューの現場で特に質問が多いポイントをまとめます。
契約書レビューは、どこまで修正案(条文)を書けばいい?
目安は「相手と社内が次のアクションを取れるところまで」です。
軽微な表現や体裁ならコメントだけでも足りますが、責任制限・解除・知財・個人情報など重要論点は、コメントだけだと交渉が止まりがちです。その場合は、代替条文や条件案(落としどころ)を添えて返すのがおすすめです。
社内判断が必要な論点は、結論を断定せず「選択肢+影響」を示して意思決定を促すとスムーズです。
レビューの優先順位はどう付ける?時間がないときの見方は?
時間がないときは、「事故が起きたら致命傷になる条項」から見ます。
次の順番で当たりをつけてみましょう。
- 責任(補償・損害賠償・責任制限)
- 解除・終了時措置
- 知財
- 個人情報・セキュリティ
- 対価・支払
- 検収
そのうえで、定義や優先順位条項で解釈ブレを減らし、最後に体裁を整えます。
まずは最悪ケースの損失が読める状態を作るのがポイントです。
英文契約が増える場合、何を準備すべき?
まずは「準拠法・裁判管轄」と、責任制限・補償(indemnity)などの重い条項を優先して読める体制を作ります。
次に、和文契約で使っている標準条文(責任制限、解除、秘密保持、知財、個人情報等)を英文化した社内ひな形を整備すると、品質とスピードが安定します。
社内で判断が難しい法域や大きな取引は、早めに外部弁護士と連携するルールを決めておくと安全です。
相手方ひな形(相手ドラフト)を受け取ったとき、最初にどこを見る?
まず当事者・目的・期間など前提を確認し、次に責任(補償・賠償・責任制限)と解除・終了時措置を優先して見ます。
ここで致命傷がないか当たりを付けると、時間がなくても外しにくいです。
秘密保持はNDAだけあれば十分?本契約側にも必要?
NDAがあっても、本契約で追加情報が発生するなら、秘密保持・目的外利用・返還/消去を本契約側でも整合させた方が安全です。
NDAと本契約で定義や期間がズレると揉めやすくなります。
責任制限(キャップ)はどう決める?相場はある?
相場だけで決めず、取引金額・利益率・事故時の最大損失を踏まえて設計します。
よくある形は「直近○か月分の対価」「契約金額」を上限にし、間接損害は除外するなど、複数案で落としどころを作ります。
知財は「譲渡」と「利用許諾」どちらが基本?
事業モデル次第です。
成果物を自社の資産として自由に使い回すなら譲渡が有利ですが、相手の既存技術が混ざる場合は利用許諾が現実的なこともあります。
既存知財と成果物の切り分けが最重要です。
検収条項が曖昧なとき、最低限入れるべき要素は?
「誰が」「いつまでに」「何を基準に」「不合格ならどうするか(是正回数・期限)」の4点です。
ここがないと、納品後に終わった・終わってないで揉めやすくなります。
契約書がPDFで来て編集できないとき、どう返す?
原則はWord等の編集可能データを依頼しつつ、急ぐならコメント付きPDF、赤字見え消しの別紙、条項番号を引用した修正指示メモのいずれかで返します。
相手が修正しやすい形式を優先すると往復が減ります
締結後に備えて、レビューで残しておくべき記録は?
論点と結論(なぜその着地か)、代替案、社内の承認者、相手との合意経緯(メール等)を残します。
後日トラブルになったとき、判断根拠を説明できる状態にしておくと対応が早くなります。
まとめ
契約書をきちんと作りこむことは、当事者間で後に紛争を発生させないためにきわめて重要です。
弁護士は、クライアントが行おうとしている取引や規制法の内容を深く理解したうえで、ミスのない契約書が作成できるようにサポートする責務を負っています。
そのためには、契約書をざっと見るだけではなく、一字一句の意味を検討しながら丁寧にレビューを行うことが大切です。より良い契約書のレビューを行うには、日頃から法律の専門家としての研鑽を積むことが必要不可欠です。
日々の業務の中でさまざまな契約書に触れて経験を積み、また法改正などの内容もしっかりとキャッチアップして、弁護士としてプロの仕事ができるように成長を続けましょう。
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