情報のやり取りが高速化した現代では、企業にとって、自社の社会的評判が売り上げに与える影響は非常に大きいといえます。
こうした状況を背景として、企業がレピュテーションリスクを回避するために、弁護士に自社業務のチェックを依頼するケースが増えています。
企業のレピュテーションリスクを適切にコントロールするには、法律に限らない多角的な観点から、どのようなオペレーションが求められるかを検討することが必要です。
そのため弁護士には、法律はもちろんのこと、社会常識などを踏まえた幅広い知見が求められます。
この記事では、レピュテーションリスクとは何かについて、またクライアント企業がレピュテーションリスクを回避するために弁護士がすべきサポートの内容などを解説します。
目次
レピュテーションリスクとは何か
レピュテーションリスクという言葉は、比較的最近よく耳にするようになったという方が多いかと思います。まずはレピュテーションリスクとは何かについて、基本的な事項を押さえておきましょう。
レピュテーション(reputation)=企業の社会的評判
「レピュテーション(reputation)」とは、英語で「評判」という意味を持っています。企業にとってのレピュテーションとは、顧客や潜在顧客から成り立っている社会からの評判に他なりません。
つまりレピュテーションリスクとは、企業の社会的評判が低下してしまうリスクのことをいいます。レピュテーションリスク自体は、古くから企業にとって考えなければならない重要な問題であり続けてきました。
しかし、最近の情報技術の急速な発展により、企業に関する情報の拡散速度がきわめて速くなっています。
そのため、企業のレピュテーションも栄枯盛衰が激しくなり、レピュテーションリスクの重要性がいっそう注目されるに至っているものと考えられます。
企業は常に社会からの目に晒されている
企業のレピュテーションは、些細なことで簡単に良くも悪くもなります。
企業にとっての顧客は、常に複数の同業者の中から取引先を選別できる立場にあるので、少しでも悪い印象を与えれば一斉に手を引いてしまうでしょう。
ましてや現在の高度情報化社会では、企業に関する不祥事などの情報は、一瞬で社会全体に広まります。そのため、大企業・中小企業にかかわらず、自社のオペレーションは常に監視されていると考えてクリーンな経営を行うべきです。
「どうせバレないからいいだろう」と、違法・不当なオペレーションを放置してはいけません。万が一不祥事が発覚した場合、社会全体に拡散されて、企業として致命傷を負ってしまうことになりかねないからです。
レピュテーションリスクを肥大化させがちな企業の問題行動とは?
コンプライアンス意識が薄い企業は、レピュテーションリスクを肥大化させがちです。
- ・法律に関する知識も関心もない
- ・法律を守ろうという気持ちがない
- ・違法スレスレでも摘発されることはないだろう
- ・バレないようにしておけば大丈夫
などと考えている企業は、レピュテーションリスクの観点からはきわめて危険です。こうした企業は、「不祥事が発覚したらどうなってしまうか」についての想像力が及んでいないといえるでしょう。
以下では、レピュテーションリスクを肥大化させがちな企業による、問題行動の一例を紹介します。
従業員に違法労働をさせる・不当な取り扱いをする
労務管理は、企業による違法・不当なオペレーションがもっとも生じやすい分野の一つといえます。従業員に違法労働をさせたり、不当な取り扱いをしたりといった状況を放置していると、従業員との間にトラブルが発生してしまいます。
場合によっては、従業員に対して巨額の損害賠償を支払わなければならない事態になりかねません。
労務管理に関してよくある違法・不当なオペレーションの具体例は、以下のとおりです。
- ・残業代を支払わない
- ・36協定の上限を超えて残業させる
- ・懲戒事由がないのに減給・降格などの処分を乱発する
- ・不当解雇
- ・セクハラ・パワハラ
- ・劣悪な労働環境を放置
など
労務に関して違法状態が発生していないかについては、労働基準法・労働契約法など、労働法令の観点からのチェックが必要不可欠です。自社で知識や経験のある法務担当者を確保することが難しければ、外部弁護士への依頼を検討すると良いでしょう。
食品の品質管理がずさん
食品製造業・加工業などでは、食品の品質管理がアキレス腱となります。
たとえば、
- ・産地偽装
- ・工場の不衛生
- ・店舗での店員による不適切な食品の取り扱い
などが発覚すれば、売り上げは極端に低下してしまうでしょう。
食品の取り扱いや品質管理については、食品衛生法などの法令・ガイドラインにおいてさまざまな基準が定められています。特に会社が大きくなればなるほど、食品管理の現場で何が起こっているかを経営層が把握することは難しくなります。
そのため、定期的に現場に対するチェックを行い、法令・ガイドラインに照らして品質管理基準などをクリアしているかどうか確認することが大切といえるでしょう。
景品表示法に違反した商品表示をする
企業が消費者の信頼できる取引相手であるためには、商品・サービスの品質や価格についての情報を正しく伝えなければなりません。
この観点から、「不当景品類及び不当表示防止法」(通称:景品表示法)という法律で、企業が「優良誤認表示」と「有利誤認表示」を行うことが禁止されています。
優良誤認表示とは、「内容面」で実際の商品・サービスや同業他社の商品・サービスよりも著しく優良であることを表示して消費者を誤解させ、不当に消費者を誘引することをいいます。
有利誤認表示とは、「価格面」で実際の商品・サービスや同業他社の商品・サービスよりも著しく有利(安い)であることを表示して消費者を誤解させ、不当に消費者を誘引することをいいます。
優良誤認・有利誤認にあたる表示を付して商品を販売している場合、
- ・是正措置命令
- ・課徴金納付命令
- ・刑事罰
の対象になってしまいます。
さらにレピュテーションの観点からも、
「あの企業の言っていることは大げさすぎる、信用ならない」という評判に繋がってしまい、長期的に見れば売り上げが減少する可能性が高いでしょう。
もっとも、企業が広告を行う際には、多少の誇張表現が含まれてしまうことは仕方ありません。
優良誤認・有利誤認として違法となるか、それとも広告として許容される範囲に収まるかの区別は難しいため、商品・サービスの表示に関する定期的なリーガルチェックを行うことが望ましいでしょう。
SNSで不適切な投稿をする
公式なプレスリリースなどとは異なり、SNSは気軽に投稿できるという特徴があります。企業にとっては、SNSをうまく活用すれば即時性の高い情報を消費者に提供できる反面、常に炎上のリスクと隣り合わせです。
たとえば、
- ・根拠のない情報を流布する
- ・差別的な言及が含まれている
- ・景品表示法上問題のある表現が含まれている
などの投稿が行われると、社会全体から大バッシングを浴びてしまうことになりかねません。
SNSは手軽さやスピード感が長所なので、レピュテーションリスクの管理やコンプライアンスとは相反する側面があることも事実です。そのため、企業がSNSを活用する際には、慎重なバランス感覚が要求されます。
企業にとってはかなり難しい課題ですが、SNSの即時性を確保しながらも、適切にチェック機構が働くような仕組みを作らなければなりません。
危機管理対応が遅い
自社の不祥事が発覚した場合、事後の危機管理対応を適切に行えば、レピュテーションの毀損を回避できる可能性があります。しかし危機管理対応が遅いと、不祥事に加えて対応の遅さを批判され、二重にダメージを受けてしまうでしょう。
- ・被害を受けた顧客への対応が不十分だった
- ・謝罪会見で顧客への配慮に欠けた発言が行われた
など、危機管理対応がずさんかつスローであったばかりに、企業イメージがさらに低下してしまうという例は最近よく見るところです。
万が一企業の不祥事が発覚した場合は、即座に弁護士を立てて、迅速な危機管理対応を行うことをお勧めいたします。
レピュテーションリスクを回避するために重要な観点とは?
企業がレピュテーションリスクを回避するためには、会社全体としてのコンプライアンス意識を高めることが大切です。
コンプライアンスは、近年では法令遵守に限らず、より多様なものとして捉えられています。
以下では、レピュテーションリスクを回避するために、コンプライアンス的に注意しなければならない重要な観点について解説します。
法令違反をしない
法令遵守は、企業にとって、もっとも基本的かつ当然の義務です。法令違反の事実が発覚した場合、レピュテーションが低下するだけでなく、民事・刑事上のペナルティが課される場合もあります。
- ・自社のビジネスがどのような法令によって規制されているか
- ・社内規則やオペレーションの内容は、規制法令の内容に沿っているか
- ・法令遵守を全うできるだけの社内組織が整っているか
など、法令遵守を実践するに当たって、企業が考えなければならないことはさまざまです。
法令の内容は改正によって年々変化するため、弁護士に定期的なリーガルチェックを依頼し、自社のコンプライアンス体制をアップデートすることが大切といえるでしょう。
公的なガイドラインを遵守する
自社のビジネスの内容によっては、監督官庁から事業者が遵守すべきガイドラインが公表されているケースがあります。ガイドラインに法的拘束力はないものの、企業にはガイドラインを遵守することが一般的に期待されています。
裏を返せば、ガイドラインを遵守しない企業は非常に悪目立ちしてしまうので、レピュテーションの毀損に繋がるでしょう。
さらに場合によっては、ガイドラインに違反した事業者に対して、監督官庁からの改善命令が行われることもあります。
ガイドラインでは、法令の内容よりもさらに詳細なルールが定められているので、すべての内容を十分に把握することは困難です。そのため、必要に応じて外部弁護士のサポートを得ると良いでしょう。
社内規則を遵守する
社内規則は、企業のガバナンスの観点から非常に重要な役割を果たしています。さらに、法令の要請に基づいて設けられている社内規則も存在します。
社内規則を内部的なルールだからといって軽視していると、内部告発などにより、ずさんなガバナンス体制が社会全体に暴露されてしまうかもしれません。
そうなれば、売り上げ減少や新卒採用への悪影響などが生じてしまうことは避けられないでしょう。
企業が社内規則を遵守するには、従業員に対して社内規則の内容を十分に周知し、マニュアルなどで決められたオペレーションの中に組み込んでおくことが有効です。
よって、適切な社内研修の実施や、マニュアルの定期的なアップデートが重要なポイントとなるでしょう。
社会常識に反するオペレーションをしない
レピュテーションリスク・コンプライアンスの重要性が高まっている現在では、「ルール違反でなければ何をしても良い」という考え方は通用しません。
脱法的な行為や、世間が企業に期待する役割とはかけ離れた行為をすると、やはり企業のレピュテーションは低下してしまいます。
企業は、自らが社会的に責任ある存在であり、社会から監視されていることを常に意識したオペレーションを構築すべきといえるでしょう。
企業をレピュテーションリスクから守るために弁護士ができること
弁護士は法律の専門家として、企業をレピュテーションリスクから守るために、さまざまなサポートを行っています。
弁護士によるサポート内容は、日常的なチェックから危機管理対応までかなり幅が広いですが、以下ではその一例を紹介します。
オペレーションを遵法性の観点からチェックする
法律の専門家として遵法性チェックを行い、企業から違法なオペレーションをなくすことは、企業から依頼を受けた弁護士の重要な役割です。特に労務回りの遵法性は、あらゆる企業における一般的なチェックポイントになります。
さらに加えて、企業の注力分野を中心に法規制の有無や内容をリサーチして、企業のオペレーションが規制内容に沿っているかを慎重に検討することも大切です。
企業にはさまざまな法規制が関係することから、遵法性チェックを行う際には、弁護士には幅広い法律の知識が要求されます。
法的にグレーな点をリスクとともに指摘する
法律の明文に違反するわけではない場合でも、法解釈の内容次第では、違法のリスクが生じることがあります。また、レピュテーションの観点からは、違法スレスレのオペレーションは決して好ましくありません。
弁護士は、企業における法的にグレーなオペレーションについても見逃さず、クライアント企業に対して指摘を行います。
そのうえで、法的リスクやレピュテーションリスクについての説明を行い、企業に対して改善を促すこともしばしばあります。
プレスリリースなどの公表資料を精査する
プレスリリースなどの公表資料は、企業としての公式見解を社会に対して発信するという点で、非常に重要な意味を持っています。
そのため、公表資料について違法性を指摘されたり、企業の意図とは異なる形でメッセージが伝わってしまったりすることは避けなければなりません。
弁護士は企業の公表資料について、遵法性の観点は当然のこと、社会的に問題がある表現が含まれていないかなどの観点も踏まえて精査を行っています。
特に企業の規模が大きくなると、プレスリリースなどの公表資料が社会に与える影響が大きくなるため、弁護士によるリーガルチェックは必須といえるでしょう。
モラルハザードが生じないような組織作り・体制整備をサポートする
弁護士や法務・コンプライアンス部門の監視は、オペレーションの隅々まで常に行き届くわけではありません。そのため、レピュテーションリスクは基本的に、各部署が自力でも管理できるようにしておく必要があります。
部署におけるレピュテーションリスクの適切な管理には、業務担当者によるダブルチェック・トリプルチェックが行われるような体制作りが大切です。
どのような体制を整備すべきかについては、弁護士がクライアント企業のマネジメントと話し合いながら、ビジネスの実態に即した形を協力して模索しています。
レピュテーションリスクに関する社内研修を行う
日常的なオペレーションの隅々までレピュテーションリスクへの意識が行き届くようにするには、全従業員に向けたレピュテーションリスクに関する社内研修を行うことも有効です。
レピュテーションリスクに関する社内研修は、弁護士が講師として招聘されることもしばしばあります。
弁護士は、企業のコンプライアンスチェックや危機管理対応を担当した経験から、どのようなレピュテーションリスクのパターンがあるかをよく把握しているためです。
企業の危機管理対応をサポートする
実際に企業の不祥事が発生してしまった場合、速やかな火消しを行う必要があります。
- ・どのような行動を取れば世間が許してくれるのか
- ・法律上監督官庁への報告が求められるのか否か
など、さまざまな観点から危機管理対応の在り方を検討しなければなりません。
企業が現場での火消し対応に追われる中で、こうしたコンプライアンスの観点からの対応を適切に行うためには、弁護士によるサポートを受けることが有効になります。
弁護士は、マネジメントインタビューなどを通じて不祥事の事実関係を速やかに把握したうえで、上記のような多様な観点を踏まえた危機管理対応に関するアドバイスを行います。
危機管理対応は、機動性と臨機応変さが高く要求されるので、弁護士の業務の中でもかなりスリリングな部類に属するといえるでしょう。
まとめ
企業にとって、レピュテーションリスクを適切に管理することは、自社の業績に直結する重要な課題です。
レピュテーションリスクを適切に管理するためには、全社的にコンプライアンス意識を高め、法令遵守をはじめとする規範的な行動を取る必要があります。
企業は社会的に責任ある存在として、外部の人々が眉を顰めるような行動を慎まなければなりません。
弁護士は、企業をレピュテーションリスクから守るために、法令遵守のみにとどまらないさまざまな観点からのサポートを行っています。
かなり多角的な検討や専門知識を要求されるうえ、実際に不祥事が生じた場合には迅速な対応が求められるので、弁護士業務の中でも難易度が高い分野です。
その反面、企業の経営層から頼りにされますので、弁護士にとってはやりがいのある分野ともいえるでしょう。
法律事務所の弁護士かインハウスローヤーかにかかわらず、企業のレピュテーションリスクに関する法務に携わる方は、日々の研鑽を怠らずに高い専門性を身につけることが大切です。