弁護士としての専門性を活かし、裁量を持って事業成長に貢献できる「スタートアップの1人目法務」。
経営に近いポジションで働ける魅力がある一方、「何でも屋」化するリスクや、経営陣との期待値ギャップに悩むケースも少なくありません。
本記事では、1人目法務の具体的な業務範囲、求められるスキル、そして入社後の立ち上げロードマップまで、失敗しない転職のための判断材料を網羅的に解説します。
目次
スタートアップの「1人目法務」とは?:社内初の法務機能を担う役割
スタートアップにおける「1人目法務」は、それまで経営陣等が兼務していた法務機能を初めて専任化し、内製体制を構築する重要なポジションです。
しかし、企業によって求められる範囲が異なり、定義の曖昧さから入社後にミスマッチが起きることも少なくありません。
本章では、1人目法務の具体的な定義と、なぜ期待値ギャップが生じやすいのかについて解説します。
一人目法務の定義
「1人目法務」とは、広義には「社内で初めて法的バックグラウンドを持って法務機能に従事する者」を指しますが、その立ち位置は企業のフェーズや組織図により異なります。
多くの場合、それまでCEOやCFOが兼務していた契約審査・登記・紛争対応を引き継ぐ形で入社しますが、役割は主に以下の3パターンに大別されます。
- 法務専任の1人目
- 法務責任者候補(マネージャー)
- コーポレート兼務
企業において1人目の法務専任は、純粋に法務実務(契約書レビュー等)の増大に対応するためのスペシャリストとして期待されます。また、将来の組織化を見据え、採用や体制構築の権限も持つプレイングマネージャーとしても期待されるでしょう。コーポレートを兼務する場合、総務・人事・コンプライアンス・株主総会運営など、バックオフィス全般の「守り」を広く統括する役割を担います。
弁護士が転職する場合、単なる実務担当者に留まらず、将来的なCLO(最高法務責任者)やGC(GeneralCounsel)へのキャリアパスが含まれているかどうかが、一般社員としての採用との大きな違いとなります。
期待値ギャップはなぜ起きるのか?:肩書・権限・責任がズレやすい
「1人目法務」として転職したが、早期離職を招いてしまう最大の要因は、入社前後の「期待値ギャップ」です。これは主に、経営陣と弁護士との間で「法務の役割」に対する解像度が異なることから生じます。
多くのスタートアップ経営者は、法務業務の詳細を把握していません。「弁護士なら契約も登記も、なんなら労務トラブルも全部できるはず」という過大な期待(万能バックオフィス幻想)を抱く一方で、権限やリソースは「担当者レベル」しか与えないケースが散見されます。
逆に、候補者である弁護士側が「法務領域(契約審査や規制対応)のみに集中できる」と想定して入社すると、実際には総務作業や備品管理、オフィスの移転対応まで求められ、専門性を活かせない不満が募ります。
また、「法務責任者」という肩書でありながら、実質的な意思決定権はCFOや管理部長が握っており、リーガルチェックの結果が経営判断で軽視される構造も、深刻なミスマッチの一つです。
1人目法務の業務範囲は事業法務から体制づくりまで幅広い
スタートアップの1人目法務がカバーすべき領域は、契約審査にとどまりません。
事業成長を加速させるための「攻めの法務」から、会社を守る「守りの法務」、さらには組織としての「仕組み化」まで、その守備範囲は極めて広範です。
本章では、具体的な業務内容を5つのカテゴリーに分解し、1人目法務が実際に手を動かすべき実務の全体像を解説します。
事業推進の法務では何をする?:契約・規約・表示/広告・施策レビュー
1人目法務の最優先ミッションは、事業のトップラインを伸ばすための法的支援です。既存の契約書をレビューするだけでなく、新規事業のスキーム自体を法的観点から設計・検証する役割が求められます。
具体的な業務は多岐にわたります。
契約審査・作成
NDAや業務委託契約に加え、自社プロダクトの利用規約やプライバシーポリシーの策定・改定。SaaSやプラットフォーム事業では、規約変更がユーザー全体に影響するため、戦略的な設計が必要です。
新規事業の適法性検証
ビジネスモデルが業法(金融、医療、人材等)に抵触しないか調査し、グレーゾーン解消制度の利用や、代替スキームの提案を行います。
広告・表示チェック
LP(ランディングページ)や広告バナーにおける景品表示法・薬機法等の遵守確認。スタートアップは攻めの表現を好むため、リスクを提示しつつ代案を出す調整力が試されます。
ここでは「ダメです」と止めるのではなく、「こうすれば適法に実現できる」という解決策の提示が、弁護士としてのバリューになります。
コーポレート&ファイナンスでは何をする?:機関運営・資金調達・インセンティブ
事業法務と並行して、会社の根幹を支えるコーポレートアクションへの対応も1人目法務の重要な責務です。特にIPOを目指すスタートアップでは、商法・会社法に則った厳格な運用への移行が急務となります。
主な業務は以下の通りです。
- 機関運営(株主総会・取締役会)事務局
- 資金調達(エクイティ・デット)の法務支援
- インセンティブプラン(SO等)の設計・運用
機関運営(株主総会・取締役会)事務局
それまで形骸化していた会議体を、法令に則って運営できるよう是正します。招集通知の発送、議事録の作成・保管、登記手続きまでを一貫して管理し、監査に耐えうる体制を整えます。
資金調達(エクイティ・デット)の法務支援
投資契約書(株主間契約書)のレビューや、既存株主との調整を経営陣と共に行います。優先株式の発行条件や表明保証条項など、将来の経営権に関わる重大な契約内容を精査し、リスクを排除します。
インセンティブプラン(SO等)の設計・運用
従業員向けのストックオプション(SO)の発行において、設計から付与契約、登記に至る実務を担います。税制適格要件の充足確認など、税務知識との連携も必要不可欠です。
リスク&コンプライアンスでは何をする?:個人情報・情報管理・内部通報・危機対応
「攻め」の裏側で、企業価値を毀損するリスクを最小化する「守り」の業務も欠かせません。特にデータを取り扱うIT系スタートアップでは、個人情報保護法やセキュリティ対応が経営上の重要課題となります。具体的な業務は以下の通りです。
- 個人情報保護・データガバナンス
- 内部通報窓口の設置・運用
- 危機管理(クライシスマネジメント)
個人情報保護・データガバナンス
プライバシーポリシーの整備だけでなく、データの取得・利用・提供フローが適法か常時監視します。ISMSやPマークの取得対応、海外展開時のGDPR対応など、技術部門と連携した情報セキュリティ体制の構築も主導します。
内部通報窓口の設置・運用
改正公益通報者保護法を踏まえ、社内外に通報窓口を設置し、コンプライアンス違反の早期発見に努めます。通報があった際の事実調査や是正措置のフローを確立することも重要な任務です。
危機管理(クライシスマネジメント)
情報漏洩やSNS炎上、不祥事が発生した際の初動対応を担います。法的観点からのプレスリリース監修や関係当局への報告など、被害拡大を防ぐための冷静な指揮が求められます。
仕組み化で何を整える?:テンプレ・ワークフロー・ナレッジ・ツール
1人目法務の最大のミッションは、法務業務の「属人化」を防ぎ、組織拡大に耐えうる拡張性(スケーラビリティ)を持たせることです。自分一人が全てのボールを持ってボトルネックにならないよう、以下の仕組み化を推進します。
- 契約書テンプレートの整備・改定
- 審査依頼・決裁フロー(ワークフロー)の構築
- ナレッジ共有(FAQ・マニュアル)
- リーガルテックツールの選定・導入
契約書テンプレートの整備・改定
事業部が頻繁に使用するNDAや業務委託契約書、申込書などの標準雛形(テンプレート)を整備します。法改正への対応はもちろん、事業部が使いやすいようコメントやガイドラインを付記し、契約締結までのリードタイム短縮を図ります。
審査依頼・決裁フロー(ワークフロー)の構築
Slackや口頭で散発的に来る相談を一元管理するため、依頼ルートを定めます。「誰が承認した案件か」「いつまでに必要か」を明確にし、契約締結権限規定と連動した決裁フローをシステム上に実装します。
ナレッジ共有(FAQ・マニュアル)
「印紙はいくら?」「反社チェックの方法は?」といった定型質問をFAQ化し、事業部が自己解決できる環境を作ります。教育コストを下げ、法務がコア業務に集中する時間を確保します。
リーガルテック導入 契約書管理システムやAIレビュー支援ツールの選定・導入を行います。過去の契約書を検索可能にし、締結漏れや更新管理のミスを防ぐデータベースを構築します。
外部専門家の使い方(顧問・スポット・レビュー体制)
「1人目法務」だからといって、全ての法的課題を独力で解決する必要はありません。むしろ、限られた社内リソースを補うために外部リソースを適切に使い分ける「ハブ」としての役割が重要です。主な活用法は以下の通りです。
- 既存の顧問弁護士との役割分担
- 特定領域のスポット依頼
- レビュー体制の構築(ダブルチェック)
既存の顧問弁護士との役割分担
多くの会社には創業期から支援している顧問弁護士がいます。日常的な契約審査は社内法務(自分)で迅速に行い、重大な紛争案件や、経営判断に直結する法的論点について顧問弁護士のセカンドオピニオンを仰ぐなど、役割を明確に切り分けます。
特定領域のスポット依頼
IPO準備、特許出願、海外進出、M&Aなど、高度な専門性が求められる分野については、その領域に強い専門家へスポットで依頼します。適切な専門家を選定し、社内の要望を翻訳して伝えるディレクション能力が問われます。
レビュー体制の構築(ダブルチェック)
自分一人では見落としや独りよがりな判断のリスクがあります。複雑な契約書や新規事業のスキームについては、予算の範囲内で外部弁護士によるレビューを受けられる体制を整え、法務品質を担保します。
良い転職先の見極め(会社・経営・法務の評価軸)
1人目法務として活躍できるかどうかは、個人のスキル以上に「企業の環境」に大きく左右されます。
経営陣が法務をどう位置づけているか、事業モデルに法的な持続可能性があるかを入社前に冷静に見極めることが不可欠です。
本章では、入社後のミスマッチを防ぐために、選考プロセスや公開情報から読み解くべき「5つの評価軸」について解説します。
事業と規制の難易度
まず確認すべきは、その企業の事業モデルが法的にどれほど難易度が高いかという点です。これは業務量だけでなく、法務担当者としてのプレッシャーに直結します。
以下の3点について、事前にリスクの度合いを確認しておきましょう。
- 規制業種の該当有無(FinTech、医療、人材、不動産など)
- データの重要性と取扱量(プラットフォーム、AIなど)
- 海外展開の有無と計画
規制業種の該当有無
業法による厳しい規制がある領域では、法改正のキャッチアップや行政対応が日常的に発生します。「法務がGoを出さないと事業が止まる」場面が多く、経営への影響力が大きい反面、重い責任を伴います。
データの重要性と取扱量
大量の個人情報や機密データを扱うビジネスでは、個人情報保護法やセキュリティ対応が主戦場になります。漏洩リスクへの感度が高くないと務まりません。
海外展開の有無と計画
将来的に海外進出を狙っている場合、現地の法規制調査や英文契約対応が必須となります。自身の語学力やクロスボーダー案件への志向性と合致しているか確認が必要です。
経営陣の法務観
1人目法務にとって、経営陣との信頼関係は非常に大切です。彼らが法務を「面倒な手続き屋(ブレーキ役)」と見なしているか、事業成長のための「戦略パートナー(アクセル役)」と捉えているかで、入社後のパフォーマンスは激変します。面接等の対話を通じ、以下の観点から経営陣の「法務観」を探る必要があります。
- リスクに対する許容度と反応
- 法務への相談タイミング
- 過去のトラブルへの対応姿勢
リスクに対する許容度と反応
法的な指摘をした際、「どうすれば実現できるか」を建設的に議論できるか、単に「固いこと言うな」と拒絶されるかを見極めます。適法な範囲でのリスクテイクを理解してくれる経営者でなければ、法務は機能しません。
法務への相談タイミング
「契約締結直前にハンコだけ求められる」のか、「企画段階から法的論点の相談がある」のかを確認します。後者であれば、法務が事業の源流に関与できる土壌があります。
過去のトラブルへの対応姿勢
過去に法的トラブルがあった際、担当者を責める他責思考か、組織的な再発防止策を重視する自責思考かを確認します。これにより、有事の際の経営陣の器量が推し量れます。
意思決定とガバナンス
法務として提示したリスクに対し最終的に誰が判断するのか、その「意思決定の構造」を入社前に把握することは極めて重要です。
責任の所在が曖昧な組織では、事業上のリスク判断がたらい回しにされ、トラブル時に法務がなし崩し的に責任を負わされる危険があるからです。
確認すべきは、CEOのトップダウンで即決する文化か、取締役会等の合議で慎重に判断する文化かという点です。前者はスピードがありますが法務の意見が軽視されやすく、後者は堅実ですが調整に時間を要します。また、経営陣の暴走を止める監査役や社外取締役が「飾り」ではなく実質的に機能しているかも重要な指標です。
健全な牽制機能がある組織であれば、1人目法務としても適正なガバナンスを構築しやすくなります。
体制とリソース
1人目法務が早期に疲弊してしまう最大の要因は、リソース不足による業務過多です。
入社前には必ず、法務部門として独自の予算枠が確保されているかを確認しましょう。たとえば、日常的な法律相談や有事の対応において、顧問弁護士や外部専門家を適切に活用できる予算があるかどうかが、実務上の重要な防波堤となります。
また、業務効率化のためのリーガルテック導入に対する理解度も重要です。予算を渋られ、Excelでの台帳管理や紙の契約書対応を強いられる環境では、生産性は上がりません。加えて、総務や労務などの「兼務」が前提となっている場合、その業務比率と、将来的に切り離す計画があるかを確認すべきです。
何でも屋として消費されないよう、専門性を発揮できる環境設定を入社条件として握っておくことが肝要です。
情報収集の実務
面接での対話に加え、公開情報を徹底的にリサーチすることで、入社後のリスクを事前に察知できます。
まず、登記簿謄本を確認し、役員の頻繁な辞任や本店移転の履歴がないかを見ます。短期間での役員交代は、経営方針の迷走や内部対立を示唆するレッドフラッグとなり得るからです。また、特許や商標の出願状況(J-PlatPat等で検索)を調べれば、その会社が知的財産を経営資源として重視しているか、事業の実態と乖離がないかが分かります。
さらに、OpenWorkなどの口コミサイトやSNS上の退職エントリも、バイアスを考慮しつつ参考にすべきです。特に「コンプライアンス意識」「トップダウンの強さ」に関する記述は、法務としての働きやすさに直結します。
可能であれば、LinkedInやFacebookを活用し、その会社の元社員や関係者にコンタクトを取って実情を聞く(リファレンスチェックを行う)ことが、最も確実なミスマッチ回避策となります。
[ctaid="21844"type='free']求人票・面接・オファーで確認すること
転職活動の各フェーズ(求人票確認、面接、オファー面談)において、1人目法務が確認すべきポイントは異なります。
表面的な条件だけでなく、行間にある「企業の本音」や「リスク」を読み解く力が求められます。
本章では、後悔しない転職を実現するために、各フェーズで具体的に何をチェックし、何を質問すべきか、その詳細を解説します。
求人票の読み解き(任せたいことと押し付けたいことの見分け方)
求人票の業務内容欄には、企業の期待値と本音が表れます。
特に注意すべきは、「法務全般」「バックオフィス業務」といった抽象的な表現です。これらが具体的に何を指すのか、総務や庶務(備品管理や電話対応など)まで含まれていないかを行間から読み取る必要があります。
たとえば、「柔軟な対応ができる方」「フットワークの軽い方」という表現は、職務範囲が限定されていない「何でも屋」を求めているサインである可能性があります。また、必須要件(MUST)に法務経験だけでなく「総務・労務経験」が並列されている場合、法務専任ではなく管理部門の欠員補充的な意味合いが強いかもしれません。
逆に、「利用規約の作成」「資金調達のサポート」など、事業フェーズに即した具体的なタスクが明記されている求人は、法務への期待値が明確であり、専門性を発揮しやすい環境といえます。
面接で確認する質問例
面接は、企業側が候補者を評価する場であると同時に、候補者が企業の「法務リテラシー」をテストする場でもあります。具体的な逆質問を通じて、入社後のリアリティを確認しましょう。
まずは「現在、経営課題として認識している法的リスクは具体的に何か」を問います。これに対し、具体的な案件名や事業上の懸念が出るか、漠然とした答えしか返ってこないかで、経営陣の解像度が分かります。次に「法務担当者が経営陣と直接対話する頻度や会議体はあるか」を確認し、意思決定への関与度を測ります。
さらに重要なのが「入社後半年で達成してほしい具体的な成果は何か」という問いです。「契約書を早く回してほしい」という作業レベルの要望か、「コンプライアンス体制の基礎を作ってほしい」という組織レベルの要望かによって、求められる役割と評価軸が判別できます。
これらの回答が曖昧な場合、入社後に役割期待のズレが生じる可能性が高いため注意が必要です。
労働条件の論点
スタートアップでは「自由な働き方」を謳う一方で、実態は長時間労働が常態化しているケースもあります。トラブル対応で突発業務が発生しやすい法務だからこそ、制度の有無だけでなく「運用実態」を入念に確認すべきです。 特に以下の3点は、入社後のQOLを左右する重要項目です。
- 残業設計と裁量労働制の実態
- リモートワーク・副業の利用率
- 緊急時の稼働要件と代休
残業設計と裁量労働制の実態 固定残業代(みなし残業)が含まれる場合、その設定時間数と超過分の支払い実績を確認します。裁量労働制のオファーであれば、出退勤の自由度など実質的な裁量が伴っているかが重要です。
リモートワーク・副業の利用率 制度として存在していても、「入社直後は原則出社」「空気的に副業不可」といった暗黙のルールがないか確認します。「制度があるか」ではなく「全社員の何割が利用しているか」を聞くのが確実です。
緊急時の稼働要件と代休 炎上事案やM&A等の緊急時に、土日や深夜の即応がどの程度求められるかを確認します。また、その際に代休がスムーズに取得できる環境かどうかも、長く働く上での必須確認事項です。
報酬設計(給与/賞与/ストックオプション等)での確認観点
スタートアップの報酬提示は、大手事務所や一般企業とは構造が異なります。目先の年収だけでなく、将来的な資産形成(アップサイド)を含めたトータルリターンで判断する必要があります。
特に確認すべきは以下の3点です。
- ベース給与(現金給与)の構成と昇給ロジック
- ストックオプション(SO)の条件詳細
- 賞与・インセンティブの有無と実績
ベース給与(現金給与)の構成と昇給ロジック
提示額が「見込み残業代込み」か否かを確認します。また、入社時はダウン提示でも、次回の評価タイミングや資金調達後に昇給が見込めるのか、その評価テーブルや実績を確認することが重要です。
ストックオプション(SO)の条件詳細
「SOがあります」という言葉だけで安心せず、「発行済株式総数に対する比率(%)」を確認します。また、権利行使価格やベスティング(権利確定)期間、退職時の取り扱いなど、契約詳細(またはプールの状況)を確認しないと、期待した利益が得られないリスクがあります。
賞与・インセンティブの有無と実績
多くのスタートアップでは固定賞与がなく、業績連動の決算賞与のみの場合があります。「想定年収」に不確定な賞与が含まれていないか、過去の支給実績を基に確認します。
オファー受諾前の最終確認(雇用契約・規程・責任範囲)
内定承諾のサインをする前に、書面による最終確認を怠ってはいけません。口頭での約束が反故にされないよう、契約としての法的拘束力がある形で条件を固定する必要があります。
次の3点は、弁護士としての目で厳密にチェックすべき項目です。
- 雇用契約書(労働条件通知書)のドラフト精査
- 就業規則・賃金規程の閲覧
- 具体的な職務記述書(JD)との整合性
雇用契約書(労働条件通知書)のドラフト精査
面接時の口頭説明と相違がないか確認します。特に「業務内容」が包括的すぎないか、「転勤・出向の有無」「契約期間(試用期間の延長規定)」などがリスク要因となっていないかをチェックします。
就業規則・賃金規程の閲覧
入社前であっても、これらは労働条件の一部を構成するため閲覧を求める権利があります。副業の許可フロー、休職規定、懲戒事由などが自身の働き方やキャリア観と矛盾しないかを確認します。
具体的な職務記述書(JD)との整合性
「期待される成果」と「評価指標」が明文化されているか確認します。曖昧なまま入社すると、何でも屋化や不当な低評価につながるため、入社後の90日間で何を達成すれば合格点なのか、書面またはメールで合意形成を図ります。
1人目法務に必要なスキルは?:リーガル×ビジネス×Ops
スタートアップの1人目法務には、法律知識だけでは太刀打ちできません。
「事業を伸ばすためのビジネス感覚」と「組織を回すためのオペレーション構築力(Ops)」を掛け合わせることで、初めて機能します。
本章では、1人目法務として成果を出すために必須となる3つのスキルセットと、その具体的な活用イメージを解説します。
リーガル基礎体力として必要なのは論点抽出・リサーチ・ドラフト・レビュー
スタートアップでは教育体制がないため、弁護士としての「リーガル基礎体力」が完成されていることが大前提です。
ここでの基礎体力とは、時間をかければ解けることではなく、ビジネススピードに合わせて即座に法的論点を整理し、解を出す能力を指します。
たとえば、以下の3つの実務能力は必要不可欠でしょう。
- 論点抽出能力(イシューの特定)
- リサーチ能力(未知領域への対応)
- ドラフト・レビュー能力(落とし込み)
論点抽出能力(イシューの特定)
事業部門からの相談は「これやっていいですか?」という抽象的な形で来ます。そこから「業法規制」「契約リスク」「知財侵害」「個人情報」など、検討すべき法的論点を漏れなく、かつ瞬時に洗い出す力が求められます。
リサーチ能力(未知領域への対応)
新しいビジネスモデルや先端技術(Web3、AIなど)を扱う場合、判例や文献が存在しないことも多々あります。関連法令、ガイドライン、パブコメ等を深く掘り下げ、前例のない領域でも論理的に法的構成を組み立てる力が必要です。
ドラフト・レビュー能力(落とし込み)
雛形のない新規契約を一から作成(ドラフト)する力や相手方修正の意図を読み取り、自社の利益を守りつつ妥協点を探るレビュー力が不可欠です。ただのリスク指摘ではなく、修正案という形で解決策を提示するスキルです。
ビジネス理解で必要なのはKPI・収益モデル・現場導線
「法的には正しいが、ビジネスの実態に合わない」アドバイスは、スタートアップでは無価値どころか障害になります。
事業部門と対等に議論し、実効性のある法務機能を果たすためには、以下の3つのビジネス視点が欠かせません。
- 収益モデル(マネタイズポイント)の理解
- KPI(重要業績評価指標)の把握
- 現場オペレーション(業務フロー)の理解
収益モデル(マネタイズポイント)の理解
自社が「誰から、どのタイミングで、どうやってお金をもらうのか」を正確に理解する必要があります。これが分からないと、契約書における支払条項、キャンセル規定、損害賠償の上限設定などで、守るべき急所を外してしまいます。
KPI(重要業績評価指標)の把握
事業部が今、何を最優先で追っているか(ユーザー数か、売上単価か、継続率か)を知ることで、法務としての優先順位が決まります。例えばスピード優先のフェーズなら、リスクを許容してでも契約簡略化を提案するといった判断が可能になります。
現場オペレーション(業務フロー)の理解
どんなに完璧な社内規程も、現場の業務フローに乗らなければ無視されるだけです。営業担当がいつ、どのようなツールを使って顧客とやり取りしているかを知り、その動線を阻害しない形でのリーガルチェックを組み込む力が求められます。
コミュニケーションで求められるのは経営助言と現場合意形成
1人目法務の価値は、正しい法的判断を「いかに相手に腹落ちさせ、行動を変容させるか」というコミュニケーション能力で決まります。経営陣には経営判断の材料として、現場には業務遂行のパートナーとして、相手の言語に合わせて対話するスキルが求められます。
特に重要なのは以下の3つの観点です。
- 経営への助言(リスクの翻訳と代替案)
- 現場との合意形成(Whyの共有と伴走)
- 「嫌われる勇気」と信頼貯金
経営への助言(リスクの翻訳と代替案)
経営陣は「適法か違法か」だけでなく、「そのリスクを取った場合のリターンと損害の最大値」を知りたがっています。法的リスクをビジネスへのインパクト(金額、レピュテーション、事業停止期間など)に翻訳し、経営判断を支援する参謀としての振る舞いが必須です。
現場との合意形成(Whyの共有と伴走)
現場に対して頭ごなしに「NG」を突きつけるだけでは、法務は回避すべき障害物と見なされます。「なぜその規制があるのか」という背景(Why)を丁寧に説明し、「どうすれば実現できるか」を共に考える姿勢を見せることで、現場の信頼と協力を勝ち取ります。
「嫌われる勇気」と信頼貯金
時には会社を守るために、経営陣や現場が熱望する案件にブレーキをかける必要があります。普段からコミュニケーションを重ねて「信頼貯金」を貯めておくことで、いざという時の厳しい指摘も「あいつが言うなら」と受け入れられる関係性を築くことが重要です。
優先順位付けの原則はリスクベースで取捨選択
1人目法務にとって、全ての依頼に全力で応えることは物理的に不可能です。リソースが限られる中では、「会社にとって致命的なリスクは何か」を基準に、業務の濃淡をつける「トリアージ」能力が求められます。
業務に溺れないための優先順位付けについて、以下の3つの原則を徹底してみましょう。
- 「会社が死ぬリスク」への一点集中(100点主義)
- 定型業務・低リスク案件の効率化(80点主義)
- 「やらないこと」を決める勇気(捨てる判断)
「会社が死ぬリスク」への一点集中(100点主義)
業法違反による事業停止、巨額の損害賠償、コア技術の知財紛失など、発生すると企業の存続に関わる「重大リスク」については、リソースを最優先で割き、完璧な対応を目指します。ここは絶対に妥協してはいけない領域です。
定型業務・低リスク案件の効率化(80点主義)
定型的なNDAや取引金額の小さい業務委託契約などは、致命傷になる可能性が低いため、スピードを重視します。雛形の整備やチェックリスト活用により、60〜80点の品質で素早く処理する割り切りが必要です。
「やらないこと」を決める勇気(捨てる判断)
「法務っぽい仕事」全てを引き受けていては時間が足りません。たとえば、契約書の製本・郵送作業や、ビジネス上の単なる誤字脱字チェックなど、法的判断を伴わない業務は他部署へ依頼するか、ツールで代替し、自分の時間をコア業務に集中させます。
LegalOpsとは?:生産性と再現性の仕組み化
1人目法務が持続的に成果を出すには、業務を「個人の職人芸」から「組織の仕組み」へ昇華させるLegalOps(LegalOperations)の視点が不可欠です。
たとえば、過去の回答や契約を検索可能な資産にする「ナレッジ・マネジメント」、依頼ルートを統一し手戻りをなくす「プロセスの標準化」、業務量を数値化して予算・増員交渉の根拠とする「データ・マネジメント」の3要素です。
これらを早期に整えることで属人化を防ぎ、事業拡大に耐えうる「再現性」のある強い法務組織の土台が完成します。
入社後90日のロードマップ(立ち上げ優先順位)
1人目法務として入社した直後の3ヶ月(90日)は、その後のパフォーマンスと社内での信頼残高を決定づける極めて重要な期間です。
いきなり契約書の山に埋もれるのではなく、戦略的に動き早期に「成果」と「信頼」を獲得する必要があります。
本章では、入社直後の混乱期を乗り越え、法務機能を軌道に乗せるための具体的なアクションプランを時系列で解説します。
0〜30日:現状把握(契約・規程・権限・案件棚卸)
入社直後の1ヶ月目は、性急な改革を行うのではなく、組織の「法務的な健康状態」を正確に診断する期間です。どこにリスクが埋まっているか、既存の運用がどうなっているかを徹底的に洗い出します。
以下の3点について棚卸しを行ってみましょう。
- 契約書管理と保管状況の確認
- 社内規程と決裁権限の実態把握
- 係争案件・潜在リスクのリスト化
契約書管理と保管状況の確認
過去の契約書が「どこに」「どのような形式(紙/PDF/電子契約)で」保管されているかを確認します。締結漏れや更新管理がされていない契約がないか、まずは物理的な所在とステータスを把握し、一覧化(台帳作成の前段階)に着手します。
社内規程と決裁権限の実態把握
就業規則や稟議規程などのルールが存在するか、そしてそれが「守られているか」を確認します。特に、誰が契約書にハンコを押せるのか(決裁権限)が曖昧で、社長や事業部長が独断で押印しているケースがないか、実態の承認フローを可視化します。
係争案件・潜在リスクのリスト化
現在進行中のトラブルや、「弁護士に聞こうと思って放置していた案件」を全て吸い上げます。顧問弁護士とのやり取り履歴も確認し、対応が必要な火種を全てテーブルの上に並べ、優先順位をつけられる状態にします。
31〜60日:即効性のある整備(テンプレ/フロー/相談窓口)
現状把握が一通り済んだ2ヶ月目は、ボトルネックとなっている箇所に対し、即効性のある打ち手を打ちます。完璧を目指すのではなく、現場の業務スピードを止めないための「応急処置」と「土台作り」を優先します。
たとえば、以下の3点に着手し、型を作ります。
- 頻出契約書のテンプレート整備
- 法務相談・審査依頼フローの統一
- オープンな相談窓口の周知
頻出契約書のテンプレート整備
NDA(秘密保持契約書)や業務委託契約書など、利用頻度の高い契約書の雛形(テンプレート)を整備し、現場に配布します。毎回ゼロからドラフトする手間を省き、リスクの低い案件は現場判断で進められるようにすることで、審査スピードを劇的に向上させます。
法務相談・審査依頼フローの統一
「チャットで直メンション」「口頭で依頼」「メールでファイル送付」などバラバラだった依頼経路を一本化します。GoogleフォームやSlackワークフローなどを活用し、必要な情報(取引先、金額、納期等)が揃わないと依頼できない仕組みを作ることで、確認のラリーを減らし、業務効率を改善します。
オープンな相談窓口の周知
「法務に何を聞いていいか分からない」という心理的ハードルを下げるため、全社的なSlackチャンネル(例:#legal_相談)などを開設・周知します。DM(ダイレクトメッセージ)での個別相談を極力減らし、オープンな場で回答することで、ナレッジの共有と「法務へのアクセスしやすさ」を演出します。
61〜90日:中期の設計(採用計画/外注設計/教育・浸透)
3ヶ月目は、目の前のタスク処理から視座を上げ、将来の事業拡大に耐えうる「組織の拡張性」を設計するフェーズです。事業成長に伴う業務増で自身がボトルネックになるのを防ぐため、持続可能な体制構築が急務となります。
たとえば、専門案件を顧問弁護士へ外注する切り分け基準の策定や、蓄積データに基づく採用計画の立案、現場向け研修による予防法務の強化など「自分以外でも回る仕組み」を作ります。
これらを実装するための予算や増員を経営陣へ提案する際は、「忙しさ」を訴えるのではなく、「法務強化がいかに事業加速やリスク回避に貢献するか」という投資対効果(ROI)の視点で説明することが、承認を得るために重要です。
成果の見せ方(“法務の価値”を言語化して共有)
法務の成果は「トラブルが起きないこと」にあるため、数字で見えにくく、黙っていても正当に評価されません。そのため、自身の価値を能動的に言語化し、社内へ共有する「見せる化」が不可欠です。
たとえば、審査件数や対応時間などの「定量データ」に加え、リスクを未然に防いだ事例やフロー改善による工数削減といった「定性的な貢献」を定期的にレポートします。単なる作業報告ではなく、「法務の介入により、事業がどれだけ安全かつ迅速に進んだか」という事業貢献の視点で翻訳して伝えることがポイントです。
こうした成果共有を継続して「法務は事業のパートナー」という認知を獲得することは、自身の評価を高めるだけでなく、将来的な増員やツール導入といった投資をスムーズに引き出すための重要な土台となります。
[ctaid="21844"type='free']1人目法務の落とし穴は?
1人目法務は、経営に近いポジションで活躍できる反面、組織の歪みや経営陣の未熟さが招く深刻なリスクを直接被る「落とし穴」も存在します。
入社前の期待と入社後の現実に大きなギャップが生じたり、コンプライアンス軽視の片棒を担がされそうになったりと、そのパターンはさまざまです。
本章では、1人目法務が陥りがちな典型的な失敗パターンと、自分の身を守るための具体的な回避策について解説します。
期待値ギャップの典型:万能バックオフィス化と責任肥大
1人目法務が最も陥りやすい落とし穴は、専門外の業務まで雪だるま式に背負わされる「万能バックオフィス化(便利屋化)」です。
これは、スタートアップ特有の「管理部門のリソース不足」により、担当者が決まっていない業務が、「法務なら堅実にやってくれるだろう」という期待と共に全て回ってくる力学が働くためです。具体的には、備品管理やオフィス移転対応といった総務業務から、PCセットアップ等の情シス業務まで期待されるケースが典型的です。
さらに危険なのは、十分な権限やリソースが与えられないまま責任だけが肥大化し、専門外のミスでも「法務(管理部門)の責任」として追及される構造です。
自身のキャリアと精神衛生を守るためにも、安易に全てのボールを拾いすぎない「線引き」の意識を持つことが不可欠です。
法令軽視・グレー強要のサイン:相談のされ方と証跡文化
スタートアップにおいて「攻めの法務」と「法令軽視」は似て非なるものです。その危険な兆候は、経営陣からの相談のされ方と証跡(ログ)への態度に顕著に表れます。
たとえば、既に結論ありきで「なんとかならないか」と事後承諾を強要されたり、都合の悪い議論になると「Slackには書くな」と記録に残ることを極端に避けるケースです。これらは、適法性よりも利益を優先する確信犯的な体質の表れと言えます。
こうした環境では、法務がリスクの防波堤として機能するどころか、不正の隠蔽に加担させられるリスクが高いため、毅然とした態度で記録を残すことに固執するか、改善が見込めなければ身の振り方を考える必要があります。
情報管理・個人情報の軽視は何が危険?:事故が起きやすい構造が残る
情報セキュリティや個人情報保護の軽視は、事業成長の裏で進行する「見えない時限爆弾」です。
特に初期フェーズでは、開発効率を優先してアクセス権限が全開放されていたり、顧客データがスプレッドシートで杜撰に管理されていたりと、事故が起きやすい構造が常態化しているケースが多々あります。
法務にとっての落とし穴は、これらを「エンジニアの領域」と看過した結果、ひとたび漏洩事故が発生すれば、その事後対応(法令対応・謝罪・賠償)の矢面に立たされる点です。
システムの実装自体は管轄外であっても、個人情報保護法等の観点からデータの取り扱い状況にメスを入れ、経営リスクとして早期に是正を求めなければ、いつか企業の存続を揺るがす致命的な事故に巻き込まれることになります。
労務・ハラスメントの兆候:相談ルートと是正力で見える
1人目法務は、人事機能が未成熟な組織において、労務紛争やハラスメント対応の「最後の砦」として矢面に立たされがちです。
ここで警戒すべき危険な兆候は、社内の相談窓口が機能せず法務へ直接被害相談が持ち込まれる状況や、明白なハラスメント事実に対し、経営陣が「加害者はハイパフォーマーだから」と処分を躊躇する姿勢です。
こうした組織の自浄作用(是正力)の欠如は、法務が法的正義を貫こうとするほど経営と対立して孤立し、精神的に疲弊する構造的な欠陥を示唆しています。組織としてコンプライアンス違反に毅然と対応する覚悟があるか、その「是正力」の有無を見極めることが重要です。
2つの回避策(“入社前”にできる線引きと“入社後”の防波堤)
1人目法務の落とし穴を回避するには、入社前の「見極め」と入社後の「防波堤構築」の二段構えが必須です。
まず入社前には、JD(職務記述書)で業務範囲を詳細に確認し、「法務以外のバックオフィス業務」がどの程度含まれるかを把握しておくことが重要です。また、面接時に「過去の法務トラブル」や「コンプライアンスに対する考え」を経営陣に直接問いかけ、リスクへの感度や誠実さを確認することで、致命的なミスマッチを防げます。
入社後の防波堤としては、「業務の境界線」を明確にし、専門外の雑務は期限付きで引き受けるか、アウトソースを提案する交渉を行います。そして何より、法令違反の指示やグレーな判断に対しては、必ずメールやチャットで記録(証跡)を残し、万が一の事態に自分の身を守れるよう徹底してください。
これらは会社と自分自身を守るプロとしての責務です。
迷ったときの代替案
「1人目法務」はやりがいが大きい反面、リスクや負担も相応に高いポジションです。
もし、今のスキルセットやライフステージにおいて、いきなり「1人目」として飛び込むことに迷いや不安があるなら、別の関わり方を検討するのも賢明な戦略です。
本章では、1人目法務以外の選択肢として検討すべき3つの代替案と、それらを経由した中長期的なキャリア設計について解説します。
2人目法務・LegalOpsから入る
いきなり全責任を負う「1人目」への挑戦に不安がある場合は、既に法務責任者(CLOやGC)が存在する組織の「2人目法務」や「LegalOps専任」として参画するのも有効な選択肢です。
このルートの最大のメリットは、経験豊富な上長のメンタリングを受けながら、スタートアップ特有のスピード感や業務プロセスを「守られた環境」で学べる点です。特にLegalOps職であれば、純粋な法律論以上に、契約システムの導入やナレッジ管理といった「仕組み化」のスキルを磨くことに集中できます。
将来的に独立やCLOを目指すための確実なステップとして、まずは少し規模の進んだフェーズ(従業員50〜100名以上など)を選び、実力を蓄えるのはキャリアのリスクヘッジとして賢明な戦略です。
顧問/業務委託/副業で試す(リスク低減)
いきなり正社員として飛び込むリスクが高いと感じる場合、まずは顧問契約や業務委託、あるいは副業として関わり始めるのも手堅いリスク低減策となるでしょう。
なぜなら、この形態であれば「組織のカルチャー」や「経営陣との相性」を入社前に肌感覚で確かめることができるからです。外部パートナーとして週数時間から関与し、実際の業務フローや意思決定のプロセスを体験することで、外からは見えにくい組織の課題や法務への期待値を冷静に見極めることが可能です。
また、もし致命的なミスマッチがあれば契約終了を選択できるため、キャリアの傷を最小限に抑えられます。
まずは小さく始めて信頼関係を築き、双方が納得した上でフルコミット(正社員)へ移行する「トライアル期間」として活用することは、経営側・候補者側の双方にとってミスマッチを防ぐ非常に有効な手段です。
VC(ベンチャーキャピタル)/アクセラ/支援側に回る
特定の1社にフルコミットしてリスクを負うことに躊躇があるなら、VC(ベンチャーキャピタル)やアクセラレーターなど、「支援する側」に回るのも戦略的な選択肢です。
この立場の最大の利点は、複数のスタートアップと同時並行で関わることで、多様なビジネスモデルやトラブル事例を短期間で大量に経験できる点です。特定の企業の浮沈にキャリアが一蓮托生になるリスクを回避しつつ、業界全体のトレンドや俯瞰的な経営視点を養うことができます。
一方で、現場の泥臭い実務(契約書のドラフト作成や社内調整など)からは距離ができ、「ハンズオン」の深さに限界がある場合もあります。
「特定企業への深い没入」よりも「広範な知見の蓄積と多面的な支援」に魅力を感じるならば、このルートは非常に有力な選択肢となります。
中長期のキャリア設計(次の出口の置き方)
1人目法務というポジションは、それ自体をゴールとするのではなく、キャリアを飛躍させるための「ハブ(結節点)」として捉え、次の出口(Exit)を意識して働くことが重要です。
企業の成長フェーズが変われば求められる能力も変化し、必ずしも自分がその会社に居続けることが最適解とは限らないからです。また、この希少な経験は市場価値が高く、多様なキャリアパスが描けるからです。
たとえば、その企業で役員(CLO/CXO)へ昇り詰める道、より規模の大きな企業へマネージャーとしてステップアップする道、あるいは再び別のシード企業へ飛び込む「立ち上げ請負人」となる道などがあります。
どの道を選ぶにせよ、目の前の泥臭い業務を単なる作業で終わらせず、「どこでも通用するポータブルスキル」へと変換・言語化しておくことが、将来のキャリアの自由度を最大化する鍵となります。
FAQ
1人目法務への挑戦を検討する際、スキル要件や待遇、入社後の立ち回りなど、多くの疑問が浮かぶものです。
ここでは、スタートアップの一人目法務に関する、よくある質問に対しての回答をQ&A形式でまとめています。
「弁護士資格」は必須ですか?
必須ではありません。実際に、弁護士資格を持たない事業会社出身者が「1人目法務」として活躍するケースは多々あります。
スタートアップの初期フェーズで求められるのは、法的な厳密さよりも、ビジネスモデルを理解し、スピード感を損なわずにリスクを制御する「事業家視点」だからです。紛争などの高度な有事は外部弁護士へ外注すれば解決できるため、必ずしも社内に資格保持者がいる必要はありません。
むしろ、現場と対話し、契約フローを整えるといった「実務運用力」こそが、1人目法務の成否を分ける最重要スキルです。
未経験領域(労務・個人情報等)はどう補いますか?
全ての専門家である必要はありません。
労務は社労士、個人情報は専門書籍やコンサルなど、外部リソースを積極的に活用しましょう。重要なのは「答えを知っていること」ではなく、「リスクの所在に気づき、誰に聞けば解決するかを知っていること」です。
初期は広く浅く知識をインプットして「違和感」を持てるレベルを目指し、実務や深掘りは専門家に任せるという役割分担で乗り切ってください。
どこまで自分でやり、どこから外注しますか?
基準は「事業スピードへの影響」と「専門性」です。
日常的な契約審査や即時性が求められる社内相談は、内製化してスピードを担保すべきです。一方で、訴訟対応、ストックオプション発行、複雑な知財戦略など、高度な専門知識や膨大な工数を要する業務は外注を検討してもよいでしょう。
全てを抱え込むと自分がボトルネックになりかねません。外部専門家を使いこなし、自分は「事業成長に直結するコア業務」に集中することが、正しいリソース配分といえます。
断るべき案件の線引きは?
「法令違反が明白な案件」は断固として拒否することをおすすめします。
ここで妥協すると企業の存続に関わります。一方、法的にグレーな領域は、リスクと対策を提示した上で、実行するか否かの「経営判断」を経営陣に委ねるのが法務の役割です。
また、コピー用紙の補充など「完全な雑務」が頻発し、法務の本質的な価値発揮を阻害する場合は、毅然と断るか、別の人員・外注による解決を提案してみてはいかがでしょうか。
合う会社の見分け方の最短ルートは?
最短ルートを探したい場合は、「社長と直接話すこと」をおすすめします。
1人目法務の働く環境は、経営トップのコンプライアンス観で全て決まる傾向にあるからです。
面接で「過去の法務トラブル」や「法務への期待」を単刀直入に聞いてみましょう。そこで誠実な回答が返ってくるか、あるいは法務を「事業からは離れた人」扱いする空気を感じるかが決定的な判断材料になります。
人事や現場だけでなく、最終意思決定者との相性を最優先で確認するのが良いでしょう。
年収・報酬はどう見るべきか?
提示された年収額だけで判断せず、ストックオプション(SO)を含めた「トータルリワード」で評価したほうが良いでしょう。
スタートアップはキャッシュが潤沢でないことも多く、現金の給与は大手企業の相場より低くなる傾向があります。しかし、SOが付与されれば、将来の上場やM&A時に大きなキャピタルゲインを得られる可能性があります。
目先の月給だけに固執せず、事業の成長性やSOの比率を加味し、リスクに見合うリターン(アップサイド)が設計されているかという投資家的な視点で判断してください。
ストックオプションの確認は必要?
確認することをおすすめします。
1人目法務はリスクを負って参画するため、成功時のリターンであるSOは重要な対価です。
確認すべきは「付与の有無」だけでなく、「比率(発行済株式総数に対する%)」や「行使条件(ベスティング期間)」、そして「税制適格か否か」です。
口約束で終わらせず、契約書や書面で条件が明記されているかを確認するのが良いでしょう。
リモート・副業は許容されやすい?
比較的許容されやすい職種です。
法務業務は契約書レビューなど成果物が明確で、PCがあれば完結しやすいため柔軟な働き方と相性が良いです。
ただし、「1人目」の入社直後は注意が必要です。社内の信頼構築や物理的な書類整理、突発的なトラブル対応のために、一定の出社が求められるケースも少なくありません。
最初から「完全フルリモート」に固執せず、まずはハイブリッド型で信頼を積み、徐々に自由度を広げていくのが現実的な進め方となるでしょう。
顧問弁護士がいる会社は安心?
「顧問弁護士がいる=法務体制が万全」とは限りません。
名義貸し状態だったり、専門分野がスタートアップ実務と乖離していたりする場合があるからです。重要なのは「実際に相談しやすい関係か」「レスポンスは速いか」という実効性です。
面接では「顧問弁護士にどのくらいの頻度で、何を相談していますか?」と確認するのが良いでしょう。「ほとんど相談していない」という回答なら、実質的な法務機能はゼロからの立ち上げになると覚悟しておきましょう。
入社後の優先順位は?
「現状把握」と「信頼構築」が最優先です。
いきなり厳格なルールを作って現場を萎縮させるのはNGです。まずは契約書の所在確認や、放置されているトラブル案件の消火活動から着手してください。
並行して、現場が使いやすい契約雛形を提供するなど「法務が入って便利になった」という即効性のある成果を出し、味方を増やすことが、その後の改革を進めるための重要な土台となります。
まとめ
1人目法務は、組織の法的基盤をゼロから構築する困難かつ重要な役割です。
その過程で培われる経営視点と実務能力は、キャリアにおける貴重な資産となるでしょう孤独やプレッシャーを感じる場面も必ず訪れますが、それはあなたが組織にとって代わりの利かない重要なポジションにいる証でもあります。
この記事で紹介したロードマップやリスク回避策を参考に、ぜひ恐れずにその一歩を踏み出してください。
自分の市場価値、入所時に聞いた条件との乖離、ワークライフバランスへの不安。
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