「弁護士は副業できるの?」…この疑問を持つ弁護士が近年増えています。
収入の多様化・専門性の幅出し・独立への布石として副業に注目が集まる一方、「弁護士法の届出は必要?」「就業規則は大丈夫?」「利益相反にならない?」など、聞かれる不安も多くなっています。
結論から言えば、弁護士の副業は基本的には可能です。ただし、弁護士法第30条に基づく届出義務や、勤務先の就業規則への対応が必要となってくるでしょう。
本記事では、副業を始める前に知るべきことを体系的に解説します。
目次
弁護士の副業は可能!届出方法や個人受任との違いを解説
日本では弁護士が副業を行うことは基本的に認められており、業種についても特に禁止されているものはありません。ただし弁護士法に基づく届出義務や、弁護士としての品位・信用に関わる規制があります。
ここでは、副業を始める前に必ず確認すべきルールを整理します。
副業を始める前に必要な届出の要件
弁護士法第30条第1項は、弁護士が営利を目的とする業務に関わる場合に、所属弁護士会への事前届出を義務付けています。届出の対象は以下のふたつです。
(営利業務の届出等)
第30条 弁護士は、次の各号に掲げる場合には、あらかじめ、当該各号に定める事項を所属弁護士会に届け出なければならない。
一 自ら営利を目的とする業務を営もうとするとき 商号及び当該業務の内容
二 営利を目的とする業務を営む者の取締役、執行役その他業務を執行する役員(以下この条において「取締役等」という。)又は使用人になろうとするとき その業務を営む者の商号若しくは名称又は氏名、本店若しくは主たる事務所の所在地又は住所及び業務の内容並びに取締役等になろうとするときはその役職名
引用元:弁護士法|条文|法令リード
届出は審査制ではなく届出制であり、提出すれば受理されます。ただし、届出内容が変更・廃止になった際も改めて届出が必要です。なお、2004年4月の法改正前は「許可制」でしたが、現在は「届出制」に自由化されています(弁護士法30条・営利業務の届出等に関する規程)。
「営利を目的とする業務」について解説
弁護士法30条の届出義務が生じる「営利を目的とする業務」とは何かについて、法律や規程に明確な定義はありませんが、「反復継続して収入を得ることを目的とする活動」が該当すると解されています。民間企業への就職・取締役就任は典型的な対象です。
一方、NPO法人などの非営利活動・監査役への就任・個人の資産運用(株式保有・不動産投資など)・フリーマーケットでの私物販売などは「営利を目的とする業務」に該当しない可能性が高く、届出不要の場合が多いでしょう。ただし、株式保有割合が高く実質的な経営に関与する状態になれば届出が必要になります。判断が難しいケースは所属弁護士会に相談すると良いでしょう。
「副業」「個人受任」「兼業」の違い
弁護士にとっての「副業」には、以下のふたつの意味があります。
①弁護士業務以外の業務(講師・執筆・役員など)
②勤務先以外での業務(個人受任・スポット相談など)
「個人受任」は②に該当し、勤務先の法律事務所を介さずに個人として依頼を受けることを指し、許可されているかどうかは勤務先の就業規則・雇用契約によって異なります。
「兼業」は複数の職に同時に就くことの総称であり、インハウスローヤーにとっては本業(企業勤務)に加えて弁護士業務を行うことが「兼業」に該当します。インハウスの場合、弁護士業務は副業扱いとなり、企業の就業規則上の許可が必要になることが通常です。
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弁護士におすすめの副業
弁護士が持つ法律知識・文書作成力・論理的思考力・社会的信頼性は、多様な副業で活かせます。ここでは、実際に多くの弁護士が取り組んでいる副業を紹介します。
司法試験予備校講師
法律知識と受験経験を直接活かせる副業として定番です。各予備校が弁護士講師を採用しており、担当科目は民法・商法・刑法・実務科目など幅広くなっています。
本業の知識の整理や言語化にもつながり、講義準備を通じてアウトプット力が鍛えられるメリットもあります。週1〜数回のコマ単位で契約できる場合も多く、本業に支障をきたしにくい点も魅力でしょう。
法律系Webライター
法律メディア・企業オウンドメディア・士業向けサイトなどへの記事執筆や監修が挙げられます。時間や場所を問わずに取り組めるため、本業との両立がしやすい副業です。
弁護士としての専門性が記事の品質・信頼性に直結するため単価は高めに設定されやすく、クラウドソーシングや直接取引で案件を獲得している弁護士が増えています。SEOや編集の知識を習得することで継続案件につながる可能性も高いでしょう。
出版・執筆・講演
書籍の出版・論文執筆・業界誌への寄稿・セミナー講演など、専門家としての知見を社会に発信する活動です。直接的な収益だけでなく、個人ブランディングやクライアントの集客につながる効果も期待できます。
専門領域に特化した実務書・一般向け法律解説書・業界ニュースレターへの寄稿など、形式は多様です。講演は弁護士会・企業研修・大学での非常勤講師など、さまざまな機会があるでしょう。
社外役員・顧問・スポット相談
企業の社外取締役・監査役・法律顧問として定期的な関与を行う副業です。ガバナンス強化の要請を背景に法律専門家の社外役員ニーズが高まっており、弁護士にとって収益・経験・ネットワーク形成の面で有益な副業となっています。ただし、取締役就任には弁護士法30条の届出が必要(監査役は不要)です。
また、スポット法律相談(時間単位での契約)も、柔軟なスケジュールで取り組める副業として人気があります。
法律系Youtuber
法律解説チャンネルの運営や、TwitterやInstagramでの法律情報発信を副業として行う弁護士が増えています。チャンネル登録者数が1,000人以上・直近12か月の総再生時間が4,000時間以上などの条件を満たせばYouTubeからの広告収益を得られやすくなるでしょう。
収益化まで一定の時間と投資が必要ですが、人気チャンネルでは月数十万円〜数百万円の収益を上げている弁護士もいます。本業の集客・ブランディング効果も見込めるため、一石二鳥の副業です。
弁護士が避けるべき副業
副業を選ぶ際に避けるべきパターンがあります。
まず、本業の勤務先と競合する事務所・企業での法律業務は、競業避止義務や利益相反の観点から問題になる可能性があります。
次に、副業を通じて知り得た情報と本業のクライアント情報が混在するリスクがある業務も要注意です。弁護士法23条の守秘義務は副業においても当然適用されます。
さらに、本業と同等以上の稼働時間・精神的負荷が生じる副業は、本業のパフォーマンス低下につながり弁護士としての信用を損なうリスクがあります。副業は「本業を強化する補完関係」として設計することが重要です。
弁護士が副業をするメリット
副業には収入補完以外にもさまざまなメリットがあります。ここでは、本業との相乗効果という観点から、弁護士が副業を持つメリットを確認しましょう。
収益源の補完になる
弁護士数の増加により競争が激化している近年、本業だけに収入を依存することのリスクは高まっています。副業による収益源の分散は、収入の安定化・将来の独立資金の準備・生活水準の維持という面で有効です。
特に、講師・執筆・顧問契約などの継続収益型の副業を確立できれば、本業の繁閑に左右されにくい経済基盤を作ることができます。
経験や知見の相互還元
副業で得た知識・人脈・視点が本業にフィードバックされる相互還元効果は、副業の大きなメリットです。たとえば、企業の社外役員経験はビジネス実務への理解を深め、企業法務の質を高めます。講師業は法律知識の体系的整理につながり、執筆はリサーチ力と言語化能力を鍛えるでしょう。
副業は「本業の延長線上にある投資」として捉えることで、キャリア全体の価値を高める活動になりえます。
弁護士が副業するデメリットと向かない人
副業には、デメリットも存在します。大きなリスクは本業への影響です。時間・体力・集中力が分散することで、本業のアウトプット品質が低下し、クライアントや依頼者への誠実な対応ができなくなる事態は、弁護士として避けなければなりません。また、利益相反・守秘義務違反が生じると弁護士会から懲戒処分を受けるリスクもあります。
副業に向かない人の特徴は、以下のようなケースが挙げられます。
・本業が多忙で稼働に余裕がない
・案件管理が不得手で期限管理が甘い
・所属先の就業規則で副業が禁止されている
副業を始める前に自己の稼働状況・健康状態・職場ルールを冷静に評価することが不可欠です。
弁護士が副業を始める際に注意すべきこと
副業は弁護士法・職業倫理・職場のルールが複雑に絡み合うため、事前の確認と準備が欠かせません。以下の4点は、必ず押さえておきましょう。
就業規則を順守する
弁護士法や日弁連の規則に違反しない副業であっても、勤務先(法律事務所・企業)の就業規則が副業を禁止・制限している場合があり、就業規則違反は懲戒処分・降格・解雇の原因になりえます。
特にインハウスローヤーの場合、他社の役員就任・書籍執筆・講演活動なども「会社名を冠した行動」として事前許可が必要なことがほとんどです。
法律事務所勤務の場合、個人受任(勤務先を介さない案件受任)の可否・報酬の配分割合・事務所設備の利用可否なども就業規則や雇用契約で確認しましょう。
副業を始める際は、「就業規則の確認→上長への報告・許可取得→弁護士会への届出」という順序を徹底してください。
利益相反にならないか確認する
弁護士は弁護士職務基本規程に基づき、利益相反案件を受任することが禁じられています。副業で関与する企業・団体が、本業のクライアントの利害対立者になっていないかを必ず確認しましょう。特に労働事件・企業紛争・株主対立など、当事者構造がある案件では、副業先と本業クライアントの関係性を入念にチェックすることが不可欠です。
社外役員として就任した企業が後に本業クライアントと紛争になるケースも想定されます。判断が難しい場合は所属弁護士会への相談や弁護士会の倫理窓口への問い合わせを活用しましょう。
無理のないように稼働時間を調整する
本業への支障が最小限になるよう、副業の稼働時間を厳しく管理することが重要です。弁護士の本業は、多忙な案件が重なれば突発的に長時間対応が生じます。繁忙期に副業の納期・期限が重なると、双方に支障をきたすことになりかねません。
副業の案件を受ける際には、「本業が最繁忙期になった場合にも対応できるか」を基準に判断し、稼働が過剰にならないよう案件数を自律的にコントロールすることが重要です。また、過労による健康悪化は弁護士としての長期的なキャリアにも悪影響を与えます。
届出事項に記載される副業は公開される
弁護士法30条第2項により、営利業務等の届出事項は弁護士会の名簿に記載され、公衆の縦覧に供されます。つまり、副業として届け出た業務の内容は、誰でも閲覧できる状態になります。実際に名簿を頻繁に確認する人は少ないですが、本業のクライアント・依頼者が確認する可能性はゼロではありません。
特に本業と方向性が大きく異なる副業(例:企業法務系事務所に勤務しながら労働者側に特化した副業活動を行うなど)は、クライアントの印象に影響する場合があります。届出前にこの点も考慮しておくことが賢明です。
弁護士が副業可の転職先を選ぶなら
副業する前提で転職先を探す場合は、副業の可否を確認する必要があります。副業ができるか見極めるポイントを押さえておきましょう。
法律事務所・インハウス・自治体の比較表
副業の可否・制約は勤務先のタイプによって大きく異なります。転職先を検討する際には、副業の自由度も重要な判断基準のひとつです。
|
勤務先タイプ |
副業の自由度 |
主な制約・条件 |
個人受任 |
|
独立開業弁護士 |
高い |
弁護士法・倫理規範の範囲内で自由 |
制限なし |
|
中小法律事務所 |
比較的高い |
事務所ごとのルール。個人受任可の事務所も多い |
事務所により異なる |
|
大手・五大法律事務所 |
制限あり |
就業規則で個人受任・兼業を厳しく制限することが多い |
基本的に不可または制限大 |
|
インハウスローヤー |
企業による |
就業規則の確認必須。役員就任・書籍執筆も要許可が多い |
多くの場合不可または制限 |
|
官公庁・自治体 |
低い |
国家公務員法・地方公務員法で営利企業従事が原則禁止 |
原則不可 |
副業可求人の見極めポイント
転職先を選ぶ際に副業の可否・範囲を確認することは重要です。求人票に記載がないケースも多いため、面接・カジュアル面談の場で具体的に確認しましょう。
確認すべき主なポイントは、以下の通りです。
①個人受任の可否と報酬の取り分ルール
②書籍執筆・講演・役員就任に関する許可の要否と手続き
③副業による収入報告の必要性
④副業が認められない業種・条件(競業禁止など)の有無
副業に関する質問の例
ここでは、副業に関して面接で直接確認する際に使える質問例を紹介します。単刀直入に聞くよりも、「将来的に自分の専門性を社外でも発揮したいと考えているが、御所(御社)ではどのような方針でしょうか」といった、キャリア志向を前置きした問い方が良いでしょう。そのうえで、以下のような確認質問をすると自然な流れになります。
<面接での確認質問例>
・個人受任は認められていますか?また、認められる場合の手続きや報酬の取り決めを教えてください
・弁護士会活動・研究会への参加は就業時間外で自由に行えますか?
・書籍執筆や外部講演について、事前許可は必要ですか?どのような手続きですか?
・社外での勉強会主催やセミナー登壇は認められていますか?
・副業として他社の顧問や社外役員を兼任している弁護士はいますか?
弁護士の副業に関する良くある質問
弁護士の副業に関して、良く寄せられる疑問をFAQにまとめました。届出や税務関係、プライバシー配慮やトラブル対応など、副業開始前に確認しておくべき内容をピックアップしたので、ぜひ参考にしてください。
税金・確定申告はどうなる?
副業による所得(収入から必要経費を差し引いた額)が年間20万円を超える場合は、確定申告が必要です。確定申告の期間は例年2月16日〜3月15日(多少の変動あり)です。副業が事業所得・雑所得のいずれに該当するかによって、経費計上の範囲や損益通算の扱いが変わります。
給与として副業収入を受け取る場合は住民税の変化から勤務先に副業が発覚するケースもあるため、住民税の徴収方法は「普通徴収」を選ぶことも一案です。副業の規模・形態によって税務上の扱いが変わるため、税理士への相談を推奨します。
副業可と個人受任可は同じ?
同じではありません。「副業可」は弁護士業務以外の業務(執筆・講師・役員など)が認められることを指す場合が多く、「個人受任可」は勤務先を通さず個人として法律案件を受任できることを指します。
両方が認められる事務所もあれば、「個人受任は禁止・制限しつつ執筆や講師は可」などのケースもあるでしょう。求人・面接で「副業可」と記載されていても、個人受任の可否は別途確認することが必要です。
所属先に内緒で副業をしてもバレない?
バレる可能性は十分にあります。発覚の原因になる主なルートは以下の通り。
①住民税の増加(副業収入により住民税額が上がり、給与担当者に気づかれる)
②弁護士会名簿への届出内容の閲覧
③業界内の口コミ・SNS情報
④クライアントからの連絡が職場に届く
就業規則で副業が禁止されている場合に内緒で行うことは、発覚した際に懲戒処分・解雇のリスクがあります。弁護士という法律の専門家が規則に違反することは、職業上の信用にも大きく関わるため、推奨できません。必ず就業規則を確認し、必要な許可を得たうえで行動してください。
副業でトラブルが起きた際の賠償責任はどうなる?
副業として行う弁護士業務(個人受任・スポット相談など)においてミスや懈怠が生じた場合、弁護士個人が依頼者に対して損害賠償責任を負います。本業の勤務先(法律事務所・企業)は原則として副業上のトラブルには責任を負いません。
弁護士賠償責任保険への加入状況を確認し、副業でも適用範囲内かを事前に確認することが重要です。また副業でも守秘義務・誠実義務・利益相反回避義務は完全に適用されるため、本業と同水準のリスク管理が求められます。
まとめ
弁護士の副業は基本的には認められており、講師・Webライター・出版・顧問・YouTuberなど多様な選択肢があります。ただし、勤務先のルールを必ず確認しましょう。また、弁護士法30条に基づく弁護士会への事前届出・勤務先の就業規則への対応・利益相反のチェック・守秘義務の遵守は副業を行う際の前提条件です。
副業は収入補完にとどまらず、専門性の幅出し・ブランディング・独立への準備という観点でもキャリア上のメリットがあります。一方で、本業への影響を軽視すると弁護士としての信用を損なうリスクがあるため、稼働時間・案件管理の徹底が不可欠です。副業か転職かの判断も含め、自分のキャリアゴールを明確にしたうえで、判断をしてください。
