新卒でインハウスローヤーになれる?難易度・年収・判断基準を解説
新卒で弁護士資格を取ったあと、いきなり企業の法務部に就職する。そんなキャリアを選ぶ人が、少しずつ増えてきています。
法律事務所でのキャリアを経ずに企業へ直接入るルートは、以前は少数派でした。ただ、2025年時点で企業内弁護士の数は増加傾向が続いており、採用側の企業もそのポジションを「即戦力採用」としてではなく「育成前提の採用」として開放しはじめています。
本記事では、新卒でインハウスローヤーになる現実的な難易度、入社後の仕事内容、給与水準、そして「本当に自分に向いているのか」を判断するための視点をまとめています。法律事務所かインハウスか迷っている司法修習生の方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
新卒でインハウスローヤーになることは可能
結論として、新卒でインハウスローヤーになることは可能です。実際に、司法修習を終えたあと、そのまま企業へ就職するケースは存在しており、大手メーカーや商社、IT企業などで新卒採用の実績もあります。
ただし、インハウスローヤーの約7割は法律事務所勤務を経て入社しており、新卒入社はまだ少数派です。そもそも新卒のインハウスローヤー採用は、求人数や採用枠が非常に少ないのが現実です。
新卒でインハウスローヤーになるためには、準備の質と情報収集の早さが、結果を左右するといえます。
新卒でインハウスローヤーに就職する難易度は高め
新卒でインハウスローヤーになる難易度は高めです。企業の法務ポジションは、即戦力を前提とした中途採用が主流です。
加えて、選考では法律知識だけでなく、ビジネス感覚やコミュニケーション能力も問われます。事務所勤務経験者と同じ土俵で評価される場面もあり、新卒というだけで不利になるケースもあるのが現状です。
就職難易度が高いのは確かですが、企業研究と早期のアプローチで十分に対策できるので、しっかり準備を進めましょう。
先輩弁護士がいて教育体制がある企業を選ぶと良い
新卒でインハウスに入る場合、企業選びで最優先にしたいのが教育環境です。法務部の規模が小さく、社内に弁護士資格を持つ先輩がいない環境では、実務スキルが伸びにくくなります。
特に経験ゼロで入社した場合、指導者がいない環境は想像以上に厳しいため、法務部の人員構成や、社内に弁護士資格を持つ先輩がいるかどうか、メンター制度の有無は、選考前に必ず確認しておきましょう。
インハウスローヤーの主な仕事内容
インハウスローヤーの業務は、法律事務所での仕事と大きく異なります。依頼人から案件を受けるのではなく、自社のビジネスに伴走しながら法的リスクを管理するのが主な役割です。具体的な業務について、以降の見出しで確認していきましょう。
契約書の作成・レビュー
インハウスローヤーの業務として最も頻度が高いのが、契約書の作成とレビューです。取引先との売買契約や業務委託契約、NDAなど、社内で発生するあらゆる契約書を確認・修正します。
法律事務所での契約レビューと違うのは、スピード感とビジネス判断の近さです。現場の担当者から「明日までに確認してほしい」と依頼が来ることも珍しくなく、法的リスクを指摘しつつ取引を前に進める判断も求められます。法律の正確さだけでなく、ビジネスの文脈を読む力が必要な業務です。
社内からの法律相談対応
営業部門や人事、経営企画など、社内のさまざまな部署から法律相談が持ち込まれます。「この広告表現は景品表示法に引っかからないか」「取引先が契約を守らない場合どう対応するか」といった内容が典型です。
外部の弁護士に相談する前に、まず社内のインハウスローヤーに聞くという流れが多くの企業で定着しており、相談内容は多岐にわたるため、特定分野の専門性だけでなく、幅広い法分野への対応力が求められるでしょう。
コンプライアンス体制の整備
法令違反を未然に防ぐための社内ルール整備や、従業員向けの研修運営もインハウスローヤーの仕事です。就業規則の見直しや内部通報制度の構築、取引先への反社チェックなどが具体的な業務として挙げられます。
契約レビューや相談対応が「受け身の業務」だとすれば、コンプライアンス体制の整備は自ら動く業務です。会社のリスク管理を設計する側に回れる点で、企業経営に近い仕事といえます。
M&Aや新規事業の法務サポート
会社が新しいビジネスを立ち上げる場面や、他社を買収・合併する場面でも、インハウスローヤーは中心的な役割を担います。新規事業では参入する業界の規制調査や、必要な許認可の確認が主な業務です。
M&Aではデューデリジェンスへの対応や契約交渉のサポートを行います。外部の法律事務所と連携しながら進めるケースが多く、プロジェクト全体を法務の立場から管理する調整力も求められます。経営判断に直接関わる場面が多く、やりがいを感じやすい業務のひとつです。
紛争・トラブル対応
取引先とのトラブルや、従業員からのクレーム、行政機関への対応など、会社が当事者となる紛争処理もインハウスローヤーの業務のひとつです。初期の事実確認から、相手方との交渉方針の検討まで、法務部が窓口となって動きます。
訴訟に発展する場合は外部弁護士に委任するケースがほとんどですが、その際の選定や指示出し、進捗管理はインハウスローヤーが担うなど、社内の当事者部門と外部弁護士の間に立ち、両方と調整しながら進める場面が多い業務です。
外部弁護士との連携
専門性の高い案件や訴訟対応では、外部の法律事務所に依頼するのが一般的です。その際、インハウスローヤーは発注者側として、案件の背景整理や必要な情報の提供、費用対効果の判断を担います。
外部弁護士に丸投げするのではなく、自社の事情を踏まえた上で方針を一緒に決めていくのがインハウスの役割です。法律事務所側の論理と、会社側のビジネス判断を橋渡しできるかどうかが、連携の質を左右します。事務所勤務の経験があると、外部弁護士とのやり取りがスムーズになる場面も多いでしょう。
新卒インハウスローヤーの給与・年収
| 企業規模 | 新卒初年度の年収目安 | 備考 |
| 大手メーカー・商社・IT企業 | 500〜700万円前後 | 弁護士資格を考慮した優遇あり |
| 中堅企業 | 400〜500万円前後 | 一般職と同じ給与体系の場合も |
| 中小企業・スタートアップ | 350〜450万円前後 | ストックオプション等で補う場合あり |
新卒インハウスローヤーの年収は、入社する企業の規模や業種によって差があります。一般的な新卒社員と同じ給与テーブルが適用される企業もあれば、弁護士資格を考慮して初年度から優遇するケースもあるため、一概にいくらとはいえません。
日弁連の調査によれば、企業内弁護士全体の年収ボリュームゾーンは700万円から1,250万円未満の層が多くを占めていますが、これは経験者も含めた数字のため、新卒入社の場合は500万円前後からスタートするケースが多いようです。
年収だけで法律事務所と比較すると見劣りする場面もあるため、残業時間の少なさや福利厚生などを含めた、トータルの待遇で選ぶのがおすすめです。
出典:日本組織内弁護士協会「企業内弁護士に関するアンケート集計結果(2022年3月実施)」
新卒でインハウスローヤーを選ぶべきかの判断基準
インハウスが向いているかどうかは、法律への向き合い方とビジネスへの関心度で変わります。以下の項目を確認しながら、自分がどちらに近いか判断してみましょう。
法律の専門性をどこまで深めたいか
特定分野の法律を徹底的に掘り下げたい、訴訟や渉外案件の最前線で戦いたいという志向が強い場合は、まず法律事務所でキャリアを積むのがおすすめです。事務所では専門性を集中的に高められる環境が整っており、新卒段階での吸収量も大きくなります。
一方、特定分野への偏りより幅広い法務経験を積みたい、法律を使ってビジネスを動かす側に関わりたいという方にはインハウスが向いています。どちらが優れているかではなく、自分が何を深めたいかで選ぶと良いでしょう。
企業経営やビジネスに興味があるか
インハウスローヤーの仕事は、法律の正確な適用だけでなく、ビジネスの判断に法務の視点を織り込む場面が多くあります。新規事業の立ち上げや経営会議への参加など、法律の枠を超えた関与を求められることも珍しくありません。
契約書のレビューより、事業そのものの議論に加わりたいという感覚がある方には、インハウスのほうが仕事の手触りが合うはずです。法律はあくまで手段で、会社やビジネスの成長に貢献したいという動機が強い方に向いています。
将来のキャリアの広がり
インハウスローヤーとしてキャリアを積んだ先には、法務部門のトップであるGCやCLOを目指すルートがあります。経営会議への参加や事業戦略への関与など、純粋な法務の枠を超えたキャリアを歩める点はインハウスならではです。
ただし、新卒からインハウス一本の場合、訴訟経験や高度な専門性が求められるポジションへの転換は難しくなることもあります。将来の選択肢を広く持ちたいなら、まず事務所でキャリアをスタートさせることも考える価値があります。
働き方・ワークライフバランスの重視度
働き方を重視するなら、インハウスは有力な選択肢です。多くの企業でテレワークやフレックス勤務が導入されており、法律事務所と比べて勤務時間のコントロールがしやすい環境が整っています。ワークライフバランスへの満足度が高い点は、企業内弁護士が職場を選ぶ理由として繰り返し挙げられています。
配偶者がいる、子育て中である、プライベートの時間を確保したいといった事情がある方には、インハウスの働き方は合いやすいでしょう。
企業文化に合うかどうか
インハウスローヤーは、法務の専門家である前に、その会社の一員です。組織のルールに従いながら、他部署と協力して仕事を進める場面が日常的にあり、法律の正しさを主張するだけでなく、社内の調整や根回しが求められることもあります。
企業文化との相性は、入社後の満足度に直結します。選考の過程で社員と話す機会があれば、法務部の雰囲気や他部署との関係性を積極的に確認しておくと、入社後のギャップを減らせるでしょう。
新卒からインハウスローヤーになる方法
| 方法 | 特徴 | 向いている人 |
| 企業への直接アプローチ | 採用枠がない企業にも接触できる | 志望企業が明確に絞れている人 |
| OB・OG訪問 | 現場のリアルな情報を得られる | 先輩ネットワークを持っている人 |
| 企業説明会・就職セミナー | 複数の企業と一度に接点を持てる | 幅広く情報収集したい人 |
| 弁護士専門の求人サイト | 資格前提の求人を効率よく探せる | 自分のペースで活動したい人 |
| 弁護士特化のエージェント | 非公開求人へのアクセスや選考対策が受けられる | 効率よく内定を目指したい人 |
新卒でインハウスローヤーを目指す場合、情報収集と企業へのアプローチは早いほど有利です。司法修習中から動きはじめることを前提に、使えるルートを把握しておきましょう。
司法修習時代から企業へのアプローチを行う
司法修習中は、企業法務に触れる機会が限られています。だからこそ、修習期間中から興味のある企業に直接コンタクトを取ったり、採用担当者に問い合わせたりする行動が大切です。
企業側も、修習生からの問い合わせを歓迎するケースがあり、採用枠を公開していない企業でも、タイミングと熱意次第で選考につながることがあるため、気になる企業があれば早めにアプローチしておきましょう。
OB・OG訪問を積極的に行う
インハウスローヤーとして働く先輩に直接話を聞くことは、求人票や説明会では得られない情報を集める手段として有効です。実際の業務内容や職場の雰囲気、入社までの経緯など、リアルな話を聞けるかどうかが志望度の精度を上げます。
アプローチのしかたとしては、ロースクールの先輩や弁護士会のネットワークを通じて行うのが現実的です。話を聞いた企業への応募は、そうでない場合と比べて選考での説得力が増します。インハウスを目指すなら、OB・OG訪問は早めにはじめておきましょう。
司法修習生を対象とした企業説明会・就職セミナーに参加する
企業や弁護士会が主催する、司法修習生向けの説明会やセミナーに定期的に参加するのもおすすめです。複数の企業の法務担当者と一度に接点を持てる場として、効率よく情報収集できます。
参加するだけでなく、担当者に質問したり名刺交換したりすることで、その後の選考につながるケースもあります。日弁連や各地の弁護士会が案内を出していることが多いため、修習中は定期的に情報をチェックしておくと見逃しを防げるでしょう。
弁護士専門の就職・転職サイトを使う
弁護士向けの求人サイトには、インハウスのポジションが掲載されることがあります。一般の転職サイトと異なり、弁護士資格を前提とした求人が集まっているため、条件の絞り込みがしやすいのが特徴です。
ただし、掲載されている求人は即戦力採用が中心で、新卒向けの募集は多くはありません。求人の有無や件数は時期によって変動するため、定期的にチェックしながら、並行してほかのルートも活用するのが現実的な使い方です。
弁護士・管理部門特化のエージェントの利用
弁護士・管理部門特化のエージェントを利用するのもおすすめです。エージェントは企業の採用担当者と直接つながっており、求職者の希望や状況をヒアリングした上で求人を紹介してくれます。
非公開企業や自己応募では接点を持てない企業にアプローチできる点と、選考対策のサポートを受けられる点が、エージェント利用の強みです。No-limit弁護士のように弁護士業界に特化したエージェントであれば、業界の内情や各企業の法務部の実態といった情報も得やすくなるため、新卒でのインハウス就職を目指すなら、早めに登録して相談しておくと選択肢が広がるでしょう。
必要なスキルや素質を磨くのもおすすめ
インハウスローヤーに求められるのは、法律知識だけではありません。ビジネス文書の読み書き、社内外との交渉・調整、英語での契約書対応など、実務で使うスキルは修習期間中から意識して磨いておけるものがあります。
特に英語力は、グローバルに事業を展開する企業への就職を目指す場合に差が出やすいポイントです。法律の知識に加えて、このような実務スキルを示せると、選考での説得力が増します。資格取得よりも、実際に使える能力を積み上げていく意識が大切です。
弁護士1年目でメーカー企業のインハウスローヤーに就職した体験談
~インハウスローヤーへ~就職活動について
編集部:就職活動を開始した時期はいつごろでしたか?
K先生:司法修習直前期、11月ごろからです。実はサマクラも5回ほど参加していました(ロースクール卒業年に)。サマクラでは契約書レビューを含めていろいろなことを経験させていただいたのですが、結果としては法律事務所の雰囲気や業務内容が自分には合わないかもという印象を強めることになりました。
もちろんここに関しては向き不向きのところが強く、あくまで私の場合は、ですが。
編集部:なるほど。ではK先生の場合は法律事務所への就活はされなかったんですね。企業へは何社くらい応募されたのでしょうか?
K先生:そうですね、法律事務所へはエントリーしませんでした。企業には20社ほどエントリーしました。面接に至ったのは5社です。
人事部の方との面接と法務部の方との面接が各別に行われることが多かったですね。 企業によっては、一般的なSPIや英語力を測るオリジナルのペーパーテスト、その場で英文契約書をレビューさせるような実務能力を測るテストなどが行われることもあります。
英語系のペーパーテストはいずれもとても難しく、冷や汗が出たのを覚えています笑。
引用元:No-limit弁護士「【弁護士転職成功事例】弁護士1年目から某メーカー企業のインハウスローヤーに|新卒から企業法務弁護士への道を開いた経緯とは」
よくある質問
新卒でインハウスを目指す方からよく寄せられる疑問を3つまとめました。選考前に気になる点を整理しておくと、企業研究や面接準備に役立ちますので、しっかり確認しておきましょう。
新卒インハウスローヤーでも年収500万円以上はあり得る?
あり得ます。大手メーカーや総合商社、IT企業では、弁護士資格を考慮して初年度から500万円以上を提示するケースがあります。
ただし、一般職と同じ給与体系が適用される企業では400万円台になることもあり、年収の水準は企業によって異なるため、選考前に確認しておくのが確実です。
将来、法律事務所に就職できる?
法律事務所に就職できる可能性はあります。ただし、新卒からインハウス一本でキャリアを積んだ場合、訴訟経験や特定分野の専門性が乏しいと判断され、希望する事務所への転職が難しくなるケースがあります。
事務所側が求めるのは即戦力であることが多く、インハウスでの経験がそのまま評価されるとは限りません。将来的に事務所への移籍を視野に入れているなら、インハウス勤務中も専門性を意識的に積み上げておくことが大切です。
英語力はどこまで必要?
企業によって求められる水準は異なります。
国内取引が中心の中小企業であれば、英語力がほぼ不要なケースもありますが、一方でグローバルに事業を展開する大手企業では、英文契約書のレビューや海外拠点とのやり取りが日常的に発生するため、実務レベルの英語力が求められます。
英語での契約書対応が想定される企業では、TOEIC800点以上を目安とすると良いでしょう。志望する企業の事業内容を確認した上で、必要な英語力を逆算して準備するのが現実的です。
まとめ
新卒でインハウスローヤーになることは可能ですが、求人数や採用枠が限られているため、早めの情報収集と企業へのアプローチが結果を左右します。
法律事務所でのキャリアと比べると、専門性の深め方や将来の選択肢の広がりに違いがあるため、どちらが正解かではなく、自分がどこでどう働きたいかを軸に判断するのが大切です。
