近年、新卒弁護士としてのファーストキャリアでインハウスローヤー(企業内弁護士)を志望する人が増えてきました。法律事務所勤務の弁護士と違い、インハウスローヤーは企業内で従業員や契約を通じて所属して、法的業務を行う弁護士のことです。
日本組織内弁護士協会(JILA)によると、統計がはじまった2001年は66名だったのが、2018年時点で2,04名、約20倍にまで増加。毎年300名規模のペースで増えています。
インハウスローヤーが増加傾向にある背景として、もちろん企業側にメリットが大きいからですが、主に以下のような理由が挙げられます。
- 1.法務コストの削減
- 2.顧問弁護士よりも早い対応が期待できる
- 3.新規事業の立ち上げに伴うリーガルリスクの調査対応ニーズの増加
法律事務所に委託するよりも直接雇用することでタイムチャージコストが削減でき、いざというときに早い対応ができるという点が、やはり大きな期待値になっています。
社内の弁護士(顧問弁護士)には相談しにくいことも、社内の弁護士(インハウスローヤー)であれば、普段から自社の背景や業務を把握しているので、すんなり理解してくれるのではないでしょうか。
また、会社法や証券取引法などの法改正や規制緩和による司法制度の改革などにより、臨床法務だけでなく、法的リスクに対応する必要性が出てきました。他にも、組織内法務の整備・M&A・コンプライアンス構築・行政対策など、従来の法的業務以上のことが求められる傾向があり、法的な専門知識を持っている人材が必要とされています。
弁護士としても、ビジネス経験を身に付けたい・給料を安定させたい・休日を確保したい、などといった希望を叶えてくれる選択肢の一つがインハウスローヤーでしょう。
収入面で安定していて、ビジネスや経営に関する知識を学べるメリットがあります。そこで本記事では、新卒弁護士がインハウスローヤーになるために必要なスキルや資質、手段について、弁護士専門の転職エージェント、NO-LIMITのアドバイザーが解説します。
目次
弁護士は新卒でインハウスローヤーにはなれるのか?
弁護士資格を取得したばかりの新卒弁護士であっても、インハウスローヤーになれるのか、という議論が交わされることがありますし、新卒でインハウスという選択肢をそもそも持っていない方も多いと思います。
私が修習生の頃は、そもそも新卒インハウスというような選択肢はないというか、修習生が 1,000 名いても、そういうことを考える人はごく少数だったと思います。私の中でも、そういう選択肢は全くなくて、当然のように法律事務所に入ったんですけれど、法律事務所に入っても、自分にどんな案件が一番合うのか、自分がどんな案件が好きなのかというのがわからなかったので、いろいろな案件を経験させてもらいました。
インハウスの方がそんなに多くない時代がずっと続いていたので、そのときはインハウスになろうという考えはなかったのですけれど、留学から帰ってきたら、自分の好きな案件の数が減ってしまっていました。
そこで、弁護士としてどう生きていこうかなと考えたときに、企業の中に入っちゃえば自分の好きな案件というのは結構あるんじゃないかと思うようになって、とはいってもいろいろ不安もあってなかなか決められなかったのですけれど、最終的には迷うんだったらやってみようと思って転職をした次第です。
引用元:日本弁護士会|シンポジウム「企業内弁護士の魅力と必要とされる人材」(2012年10月26日(金)開催)
新卒でインハウスローヤーになるのは可能
結論としては、商法や企業法、消費者契約法など、ビジネスに関連した法律に対する秀でたスキルがあれば新卒であってもインハウスローヤーになれるでしょう。国内最大数のインハウスを抱えるヤフー株式会社などは、毎年かなりの数の新卒弁護士を採用しています。
他にも第二新卒枠で弁護士を採用する企業も多く、NO-LIMITにご登録頂いた方の中には、新卒3ヶ月目でIT企業の法務に転職された方もいらっしゃいます。
新卒でインハウスローヤーに就職する難易度は?
新卒でインハウスローヤーになる選択肢が開かれているからといって、就職するのが簡単か?と言う点では難しいのが現実です。インハウスに限らず、法務部キャリアのほとんどが経験者採用ですから、多くの企業は「即戦力」となる弁護士を求めています。
特に企業法務キャリアは事務所勤務の弁護士でも転職は狭き門ですから、実務経験のない新人弁護士を積極的に採用したいという企業はあまり多くありません。
しかし、冒頭でもお伝えしたように法務コストの軽減や、企業のコンプライアンスや事業成長にコミットしてくれる弁護士の存在は貴重です。顧問弁としてではなく、自社の成長に寄与したい、顧問先の一つではなく事業成長に当事者として関わりたいという思考性があれば、新卒でもインハウスローヤーになることは可能です。
法務部機能があり弁護士の採用経験がある企業を選ぶべき
企業側の需要と弁護士側の供給が一致しているので、インハウスローヤーが増加しています。企業によっては若い人材を育てていきたいという考えを持つところもあり、新卒弁護士の就職先の一つとして言えるでしょう。
それでは、インハウスローヤーの仕事のイメージを具体的に持つために、実際の求人票の一部を見ていきましょう。
インハウスローヤー求人例
【日系サービス企業(業界首位)】 |
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業務内容: グループ再編やM&Aに対する支援・契約書作成等、ガバナンスに関する法的側面よりの支援 ◇対外文書・契約書・社内規程等の作成支援及び審査 ◇各種トラブルへの対応支援、法規制にかかる相談、訴訟の管理 ◇人事労務に関する法的支援 |
【著名な大手輸送機器グローバルメーカー】 |
業務内容:国内外の研究開発・製造・販売・提携等および会社設立・事業再編・企業買収・投資活動等、当社がグローバルに展開する活動全般に関わる各種取引や法令に関する法務対応、それらを踏まえた最適な事業・取引のストラクチャー構築と推進、関連する各種契約の作成・審査・交渉や訴訟係争の対応、法令遵守体制の推進と危機案件の対応等、当社活動を牽引する企業法務の実務担当 |
【東証一部上場の大手メーカー】 |
業務内容:契約書の審査・作成、各種法律相談、訴訟対応等 |
求人票の中には、「司法修習中の方もご相談ください」との記載を見つけることもできます。企業によっては、弁護士資格を取得していれば、実務経験がなくても良いとしているところがあるので、新卒弁護士でもチャンスがあるといえるでしょう。
修習生、1年目や2年目の弁護士でも、インハウスローヤーへの転職・就職に興味があれば、NO-LIMITにご相談ください。
弁護士1年目でメーカー企業のインハウスローヤーに就職した体験談
~インハウスローヤーへ~就職活動について編集部:就職活動を開始した時期はいつ頃でしたか?
K先生:司法修習直前期、11月頃からです。実はサマクラも5回ほど参加していました(ロースクール卒業年に)。サマクラでは契約書レビューを含めていろいろなことを経験させていただいたのですが、結果としては法律事務所の雰囲気や業務内容が自分には合わないかもという印象を強めることになりました。
もちろんここに関しては向き不向きのところが強く、あくまで私の場合は、ですが。
編集部:なるほど。ではK先生の場合は法律事務所への就活はされなかったんですね。企業へは何社くらい応募されたのでしょうか?
K先生:そうですね、法律事務所へはエントリーしませんでした。企業には20社ほどエントリーしました。面接に至ったのは5社です。
人事部の方との面接と法務部の方との面接が各別に行われることが多かったですね。 企業によっては、一般的なSPIや英語力を測るオリジナルのペーパーテスト、その場で英文契約書をレビューさせるような実務能力を測るテストなどが行われることもあります。
英語系のペーパーテストはいずれもとても難しく、冷や汗が出たのを覚えています笑。
▼取材の全てはこちら▼
【弁護士転職成功事例】弁護士1年目から某メーカー企業のインハウスローヤーに|新卒から企業法務弁護士への道を開いた経緯とは
弁護士がファーストキャリアをインハウスローヤーにすべきかの判断基準
この項目では、ファーストキャリアをインハウスにすべきかどうか、判断基準をご紹介するので、参考にしていただければ幸いです。
弁護士としてのインハウス業務と法律事務所業務との違い
まず考えるべきは、仕事内容の違いです。
インハウスローヤーの主な仕事内容10種
- 1.契約書チェック:最も多い法務部での仕事
- 2.経営法務:企業運営に関する法務全般。起業から上場、ルーティンの会社運営まで、企業運営ではシチュエーション毎にさまざまな法律を守らなくてはいけません。
- 3.債権回収:督促状や内容証明を何度も送付しているのにも関わらず、債権回収ができずに埒が明かない場合も企業法務弁護士の出番
- 4.M&A:M&A、デューデリジェンス、買収先の財務諸表の把握や契約内容の精査など
- 5.倒産手続き:民事再生・会社更生手続といった再建型倒産手続と、清算型倒産手続である破産手続
- 6.知的財産対応:特許権・実用新案権・意匠権・商標権のように特許庁に出願して他社・他人に権利侵害、訴訟手続きのサポート
- 7.労務問題:会社のトラブルに対しても紛争解決や訴訟対応などを行う
- 8.コンプライアンス対応:研修やセミナーを実施など、社員一人ひとりの法的知識・モラルの向上
- 9.株主総会対応:株主総会をスムーズに運営する為の準備、提出する議案の可決を促す動き
- 19.外部の法務相談対応:主に不動産や保険会社での窓口業務、法的見解を求められる際は弁護士資格が必須
法律事務所での仕事内容
法律事務所の主軸事業によってまちまちですので、ここで全てを語ることはできませんが、離婚問題や債務整理、交通事故と言った一般民事事件た、刑事事件、企業法務、場合によって国家賠償訴訟など、法的問題にお困りの方に対して、リーガルサービスを提供します。
業務領域の違いはもちろんですが、関わる相手の違うことが最も特筆すべきポイントかと思います。
インハウスは良くも悪くも企業内の仕事のみ
企業内弁護士は、当然のことですが所属する企業の仕事しかしません。弁護士として一人で全てを網羅する場合などは守備範囲も広くなりますし、仕事量が多ければ忙しくなります。
特に、弁護士の仕事についての理解がない場合は膨大な丸投げされる可能性もあるので、就職前に社会体制の確認は必ずすべきでしょう。
ワークライフバランスの実現はインハウスに軍配が上がる
また、企業内弁護士は、その他の社員と同じ待遇となるため、法律事務所勤務に比べると残業は少ない傾向にあります。
一般的に、法律事務所の弁護士は業務多忙であり、昼夜・週末を問わず働いているという状況になりがちです。
これに対してインハウスローヤーは、会社員として労働基準法で保護されるため、「定時」が存在します。そのため、昼夜問わず働くということにはならず、業務と生活にメリハリをつけやすいメリットがあります。
産休や育休・時短勤務などの待遇も受けられるので、法律事務所勤務に比べると年収は低くなることが多いですが、ワークライフバランスを重視したい場合にはおすすめです。
安定収入はあるが給与は高くない
インハウスローヤーは企業の社員でありサラリーマンですので、毎月決まった収入が得られます。法律事務所で働く弁護士の多くは、事務所への相談件数や利益率に応じて収入が大きく左右されます。個人受任の有無によってはかなりの開きが出るでしょう。
インハウスローヤーの場合大きな収入を得られる可能性はあまりありません。また昇給のペースも企業の規定に応じた変動ですので、年に月給が5,000円あがるなどいうケースもザラです。
新卒で企業内弁護士になるデメリット
インハウスローヤーとして今後もずっと仕事をするのであれば良いのですが、インハウス就職にはデメリットもあります。
インハウスから法律事務所への転職は厳しくなる
生涯続けられる弁護士という職業ですが、それは法律事務所や独立した場合の話で、一般企業に就職した『弁護士』は、仮に事務所へ転職したいとなった際に、転職の難易度を上げてしまうケースがあります。
もちろん転職が不可能というわけではありませんが、法律事務所では訴訟案件もかなりあまります。例えば5年、10年インハウスローヤーとしてやってきても、弁護士として裁判業務を経験したことのない方は、キャリアを狭めることになるのは間違いありません。
年収は事務所勤務弁護士よりも低い
先ほども給与の話がでましが、ここで補足をすると、日弁連および日本組織内弁護士協会では事務所勤務の『弁護士平均年収は5年目程度で1200万円』、インハウスの年収中央値は500万円〜700万円前後というデータが公表されています。
弁護士資格をもたない法務部の新卒では、年収は300万円〜400万円程度になることもあります。企業では弁護士資格を持っていても新卒と同列に扱うケースもおおいため、同世代の事務所勤務弁護士と比べるとかなりの年収差が生まれることになります。
これを是とするかどうかは、あなた次第ですが、難関と言われる司法試験を突破したことに見合う給与や仕事内容なのかは、よく考えて決めていただくのが良いかと思います。
新卒弁護士がインハウスローヤーになる際に求められるスキルや素質5つ
新卒であるかどうかに関わらず、インハウスローヤー求められるスキルや資質をご紹介します。新卒ですべてを備えている人材はごくわずかですが、将来このようなスキルや資質が求められるのだな、と感じていただければと思います。
グローバル化やIT化などのビジネス変化への対応力
近年、弁護士に求められるのは「柔軟さ」かもしれません。グローバル化やIT化に加え、頻繁な法改正といった変化に柔軟に対応できる人材が求められています。法律の専門家であるインハウスローヤーに限った話ではありませんが、頭の固い弁護士は敬遠されがちというわけです。
社内の人と協働できるコミュニケーション能力
特定の企業に所属するということは、社内の権力関係や社内システム、社内ルールに馴染む必要性が出てきます。インハウスローヤーは、法律と向き合えば良いわけではなく、法律を使って多くの社内の人と向き合うことになります。そこに不自由さを感じる弁護士も少なからずいるので、向き不向きがあるといえるでしょう。
英語や中国語といった語学力
インハウスローヤーなら、今後国内取引(日本法)のみでやっていこうというのは無理があるかもしれません。先ほども少し触れましたが、グローバル化の波はしっかりと押し寄せています。海外の動向も理解していないと、市場競争に勝てない状況です。
とはいえ、何か国語も操るのは至極難しい話なので、自分が志望する業界・企業がどこを主戦場としているか敏感に察知するアンテナをはりましょう。海外進出企業にとってはアジアが中心となっていますが、今後は南米やアフリカが注目されるのではないかという情報もあります。どこにターゲティングするかが重要です。
マネジメント能力
新卒だと難しいかもしれませんが、マネジメント能力を持った弁護士は高いニーズがあります。法律の専門知識はもちろんのこと、実務経験に加えて、マネジメント能力を身に付けていくことを意識すると良いでしょう。即戦力として採用されるのではないでしょうか。
企業法務以外の実務経験
新卒であれば実務経験がないわけですが、M&A・IT・通信・知的財産分野などの知識がある人は重宝されるので、そのことを意識して就職すると良いでしょう。中には、企業での勤務経験を必須としているところもあるので、インハウスローヤーとしてステップアップするときのために意識しておいてください。
新卒からインハウスローヤーになるための5つの手段
新卒からインハウスローヤーになるための方法をご紹介します。最近では、インハウスローヤーを率先して雇用する動きが多くの企業で見られています。法科大学院を修了する新卒の学生を対象にした求人情報の提示があるので、新卒弁護士にとってもチャンスは少なくありません。
司法修習時代から企業へのアプローチ
司法修習時代から企業へアプローチ方法が挙げられます。実際、「司法修習中の方もご相談ください」という一言を添えて、求人を募集しているところがあります。司法修習生のときは、今後のキャリアをどう築くか悩む時期ですが、ビジネス事業に携わりたかったり、ワークライフバランスを重視したかったりする人に選ばれています。
弁護士専門の就職/転職サイトを使う
弁護士専門の就職/転職サイトを使うのは有効です。NO-LIMITでも、インハウスローヤーの仕事は多くご紹介させていただきます。
求人票には、以下のような業務内容が記載されています。
- 契約書作成、チェック、審査のサポート
- M&A関連業務
- 社内、グループ会社からの法律相談対応
- 知財(商標関連)管理のサポート
- 訴訟対応、契約書(英文を含む)の作成・確認、苦情対応
学んできた法律専門知識を十分に活かせる内容となっています。
弁護士・管理部門特化のエージェントの利用
弁護士・管理部門特化のエージェントを利用する人も少なくありません。例えば、「MS-Japan」は、管理部門・士業特化型エージェントで、登録率や転職相談率がNo.1の実績を誇っています。もちろん、弁護士のキャリアパスとして、インハウスローヤーという選択を提示しています。
エージェントを利用すると、セミナーや個別相談会に参加できるので、就職/転職ノウハウを学べます。職務経歴書の書き方のコツを知っていると、選考通過率が変わります。
OB・OG訪問を積極的に利用する
OB・OG訪問の機会を積極的に活用して、インハウスローヤーになる新卒弁護士もいます。ざっくばらんにインハウスローヤーのメリット・デメリットを聞けるので、OB・OG訪問をする必要性があるでしょう。「なぜ企業で働くのか」という自分の仕事観の具体的なイメージを抱くのが大事です。
渉外系法律事務所に入り、まずは顧問契約からスタートする
新卒で渉外性法律事務所に入ってまずは顧問弁護士として活躍してから、のちにインハウスローヤーに転職する弁護士がいます。渉外系法律事務所は、主な業務分野が渉外性(国際性)のあるビジネス法務なので、インハウスローヤーになる基礎を学べます。
渉外弁護士になるためには、英語力やサマー・クラークへの参加が重要になっています。サマー・クラークとは、各法律事務所が法科大学院生に向けて実施する就業体験です。参加すると、1万円程度の日当が支給されるほか、遠方の学生に対しては交通費と宿泊費が支給されることもあります。
ここで優秀だと認められれば、翌年の司法試験が終了してから、個別訪問(面接)に来るように事務所から連絡があるようです。将来的にインハウスローヤーになりたいと思っていても、渉外弁護士の経験を積むのは良いかもしれません。
まとめ
新卒弁護士がインハウスローヤーになるために求められるスキルや資質、適切なアプローチ方法をご紹介しました。就活は短期決戦になってくるので、とにかく忙しくなるでしょう。
収入面で安定した待遇が得られ、ビジネス感覚を養えるインハウスローヤーに憧れを抱くのなら、積極的に行動していきましょう。