東京で弁護士として活躍する皆さんや、これから法曹界を目指す司法修習生、法科大学院生にとって、自身のキャリアや将来のネットワーク形成は大変重要なテーマです。
ところで、東京には「東京弁護士会」「第一東京弁護士会」「第二東京弁護士会」の3つの弁護士会があります。
東京で弁護士登録をする際には、それぞれの会にどのような違いがあるのか、何を基準に選べばよいか、実務面やキャリア形成にどのように影響するのかなど、気になる点は少なくないかと思います。
本記事では、各弁護士会の歴史的背景や会費、研修・サポート体制、さらには内部のネットワークや福利厚生などを多角的に比較し、どの所属先が自分のキャリアに最適かを見極めるための具体的な情報をお届けします。
東京には3つの弁護士会がある?
東京で弁護士登録する場合、「東京弁護士会」「第一東京弁護士会」「第二東京弁護士会」の3つから選択する必要があります。
東京弁護士会
東京弁護士会(東弁)は、140年の歴史を持つ組織の一つであり、その規模も大きいのが特徴です。
会員数は、2024年8月現在で約9300人で全国52の弁護士会の中でも最大とされています。
幅広い分野の弁護士が所属しているため、ネットワークの充実度や情報交換の機会が豊富にあります。
第一東京弁護士会
第一東京弁護士会(一弁)は、1923年に枢密院議長を歴任した原嘉道先生、司法大臣をつとめた岩田宙造らによって設立されました。
実務に直結した情報提供やネットワーキングの機会が豊富な組織です。2024年7月現在で、会員数は6848人とされています。
また、日弁連の初代会長が一弁出身者の方であるといわれています。
第二東京弁護士会
第二東京弁護士会(二弁)は、設立当初は新しい視点や斬新な活動を目指す弁護士が中心でした。
2024年4月時点では、会員数は6614人と、一弁とほぼ同水準ですが、特に柔軟な発想や新たな取り組みを推進する風土が根付いています。
特に、東京三会の中でも全体に対する女性会員の比率が最も高いほか、外国法事務弁護士の数が全国最多となっており国際色が豊かである点も特徴です。
参考:日本弁護士連合会|第二東京弁護士会
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なぜ弁護士会が3つもあるのか?
では、東京にはなぜ弁護士会が3つもあるのでしょうか?
基本的に都道府県ごとの弁護士会は1つずつ
原則として、日本の各都道府県には、地方裁判所の管轄区域に基づいて1つの弁護士会が設置されるのが通常です。
しかし、東京の場合、地方裁判所が東京地方裁判所1か所しかないにもかかわらず、3つの弁護士会があります。
3つに分かれている理由
大正時代の内部意見の相違や、会のあり方をめぐる議論の結果、現状の3会体制が維持されることとなったとされています。
なお、弁護士法第89条第1項に基づき、複数の弁護士会が同一区域内に存続できる仕組みは認められています。
北海道にも複数ある
北海道のように面積が広大な地域では、地方裁判所の管轄区域が複数存在するため、自然と弁護士会も複数設置されています。
具体的には、札幌、旭川、函館、釧路の4箇所に弁護士会があり、これらを包括する北海道弁護士連合会という組織が別途あります。
これと比較することで、東京の例は歴史的・制度的な特異性として理解できるでしょう。
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東京三会を様々な観点から違いを比較
各弁護士会は、表面的にはほぼ同水準に見えますが、いくつかの観点で違いがあります。
弁護士会費
弁護士会費については、弁護士会での年度ごとの決議により会費負担なども変動しうるため一概にはいえませんが、76期向けの情報では次のようなものがあります。
東京三会で、弁護士5年目までのトータルの会費総額を比較した表です。
弁護士会の会費は、所属会の会費、日弁連の会費及び特別会費という3つのものがあります。
本会会費 |
日弁連会費 |
日弁連特別会費 |
合計 |
|
---|---|---|---|---|
東弁 |
423,000 |
489,600 |
126,000 |
1,038,600 |
一弁 |
315,000 |
489,600 |
126,000 |
930,600 |
二弁 |
342,000 |
489,600 |
126,000 |
957,600 |
出典:第一東京弁護士会『ようこそ、一弁へ!』~第一東京弁護士会への新入会員登録Q&A 5ページ
日弁連の会費と特別会費は、それぞれ単位弁護士会ごとの違いはないので489,600円と126,000円です。
一方で、単位弁護士会ごとでは、東京三会の中では一弁が最も会費が安く、東弁とは10万円を超える差があります。
委員会活動
各会は、内部に複数の委員会を設置し、研修や情報提供、倫理やコンプライアンスの向上、さらには市民への法律サービスなど幅広い活動を展開しています。
東弁は、50以上の委員会を設置し、各分野における専門性を高める取り組みを進めています。
これにより、会員は最新の法律知識や実務ノウハウを習得でき、現場での問題解決能力が向上しています。
一弁は、設立当時から企業法務に強い弁護士が多く所属していることから、企業法務に関する専門性を高めるための研修やセミナーを独自に実施しています。
たとえば、企業契約、M&A、コンプライアンスに関する最新の実務知識を共有するためのセミナーが定期的に開催され、会員間での情報交換が活発です。
二弁は、女性弁護士による女性向けの法律相談イベントを開催しています(女性による女性のための相談会)。
これは、女性特有の悩みや問題に対して、女性が安心して相談できる環境を提供するためのユニークな取り組みです。
実際、2021年7月以降、共催形式で実施され、多くの会員から高い評価を得ています。
弁護士業務のサポート体制
各弁護士会は、研修会やセミナー、キャリアアップ支援プログラム、さらには所属弁護士のネットワーク形成支援など、実務に直結するサポート体制を整えています。
現役弁護士や修習生は、自らの専門性や実務スキルを磨くために、どの会がより充実した支援を行っているかを比較検討する傾向にあります。
福利厚生のサポート
福利厚生に関しては、各弁護士会が提供する助成制度や各種補助金、健康保険や労働環境の改善策などがポイントとなります。
数値としては、各会の福利厚生支援の内容や女性比率なども参考情報として示されており、所属後の生活面の安心感もキャリア選択に影響を与えます。
また、一弁では、女性弁護士の手厚い支援がPRされており、女性弁護士であれば出産予定日の月の前月から4ヶ月間、一弁の会費が免除される制度があります。
さらに、男女問わず、子が2歳に達する誕生月までの12ヶ月分について、申請により会費の免除を受けることができます。
一弁においては、育児との両立支援に関するサポートが充実しているといえます。
ネットワーク
会員数や所属する弁護士同士の連携の面から、東弁は特に広いネットワークを形成しているとされます。
一弁や二弁も、それぞれの特色を生かしたネットワークが存在しますが、東弁の規模の大きさは、所属後の情報交換や共同業務の機会において大きなメリットとです。
一弁で特徴的なものとしては、組織内弁護士のサポート体制が挙げられます。組織内法務研究部会が2012年に立ち上げられ、2018年からは組織内弁護士委員会として活動が行われています。
企業向けには、企業内弁護士雇用の手引きという小冊子を出版し、組織内弁護士の拡大と認知向上、企業側と弁護士双方にとって有用な情報発信も積極的に行っています。
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東京で所属弁護士会を決めるとき、何を基準にすればいい?
弁護士としてのキャリア形成や将来のネットワーク、研修制度などを考慮して所属先を選ぶ際、どのように決めればよいでしょうか?
ボス弁の所属先で決める
よくあるのは、代表弁護士・事務所長が所属している弁護士会を基準に決めるというものです。
特にこだわりがなく何が正解かに迷う場合や、1人2人の小規模事務所であればボス弁の所属先にしておくのが無難でしょう。
代表に倣うことで、安心感や信頼性が得られるケースが多いです。
兄弁・姉弁の所属で決める
自分よりも経験豊富な先輩弁護士(兄弁・姉弁)の所属先も、キャリアの指標となります。
実績のある先輩の所属先は、将来の研修や情報共有、さらにはネットワーキングにおいて有利に働く可能性が高いです。
メンターにしたい弁護士の所属先で決める
所属先の事務所内にとらわれず、自分が理想とする働き方や専門分野で活躍している弁護士が所属する会を選ぶことで、実務面のサポートやアドバイスを直接受けられる環境が整います。
活動の活発さや楽しさで決める
各弁護士会ごとに、委員会活動や研修、懇親会などの活動の活発さや雰囲気は異なります。
自分に合った社風や、将来のネットワーク形成を重視するなら、どの会が自分にとって居心地がよく、活動的な環境を提供しているかも重要な基準となります。
同期の所属先で決める
弁護士業界では、大企業のように同じ職場環境の中での同僚・同期がいるとは限りません。
大手法律事務所の場合を除いて、同僚がいないことは少なくありません。
それでも、修習同期で過ごす時間は多く、同じ時代に弁護士として生きる中での悩みや葛藤を共有する上でも、同期の存在は大きいものです。
弁護士会を通じて仲の良い同期とつながっていれば、様々な接点をつくることができるので、有益でしょう。
まとめ
東京に存在する3つの弁護士会は、歴史的経緯や内部の支援体制、会費、ネットワークなどの点で一見ほぼ同水準に見えます。
しかし、現役弁護士や弁護士を目指す学生にとっては、各会の細かな違いがキャリア形成や実務でのサポートに直結する重要な情報となります。
「なぜ3会あるのか?」という疑問から、各会の会費や支援内容、研修プログラム、ネットワークの規模、さらには将来的な統合動向まで、多角的に検討することが求められます。
所属先を決定する際は、ボス弁・先輩弁護士の所属、メンターとして尊敬する弁護士の実績、活動の活発さ、そして同期の存在など、さまざまな観点から自分に最適な環境を見極めることが重要です。
これにより、キャリアアップや実務面でのサポート、さらには研修・ネットワーキングを通じた成長を実現し、将来的な法曹界での成功に繋げることができるでしょう。