弁護士数の増加や弁護士需要の変化などを背景に、弁護士の転職が難しいと言われることがあります。そのため、転職活動を開始する決心がつかない弁護士の方もいるのではないでしょうか。
確かに、弁護士資格があるだけでは簡単に転職できる時代ではないことは事実ですが、転職市場において弁護士の需要は確実に存在しており、転職が一概に難しいわけではありません。
本記事では、、弁護士の転職が難しいと言われる理由や難易度が高いケース、転職活動が難航しやすい人の特徴を紹介したうえで、転職を成功させるためのポイントを解説します。
目次
弁護士の転職は難しいと言われている3つの理由
弁護士の転職が難しいと言われている主な理由は、以下の3つです。
弁護士数の増加による案件競争率の高騰
引用:司法改革による弁護士数の増加|弁護士白書 2023年版
司法制度改革によって、弁護士の数は増え続けています。弁護士白書2023年版によると、司法制度元年だった1999年時点で16,731人だった弁護士数は、2022年には44,916人と約2.7倍という結果になりました。
しかし、弁護士数が増加しても、人口減少が続く日本では案件の総数が増えるわけではないため、限られた案件を弁護士同士が奪い合うことになります。その結果、受注競争が激化し「弁護士は稼げない仕事」と言われることが増えてしまいました。
また、弁護士が転職を検討しても、案件が少ないため新たに弁護士を受け入れる先が少なくなると考えられ、弁護士の転職は難しいといわれてしまっていると言われています。
弁護士飽和によるスキル・年収格差の拡大
弁護士の飽和状態は、スキルや年収の格差も拡大させています。
経験豊富な弁護士と若手弁護士との間で、報酬や案件の獲得に差が出てきており、転職市場においてもその影響が見られます。
弁護士が飽和状態にあり法律事務所同士の戦いも激化する中で、採用側からしてみれば、「事務所に高く貢献してくれる弁護士を採用したい」と考えるのは自然なことでしょう。したがって、経験豊富な弁護士とそうでない弁護士のスキル格差が広がっており、後者の場合には転職市場で勝てないことは珍しくありません。
また、実務経験やスキルは年収にも影響し、希望の年収を得られないというケースも出てきています。
AIやほか士業の台頭による弁護士需要の変化
AIの法律アドバイスツールが進化し、基本的な法律相談で人間の弁護士を代替するケースが増えています。これにより、弁護士の仕事の範囲が変わり、とくに新しい技術に適応できる能力が求められるようになっています。
また、税理士や社労士など、ほかの士業との競合も激化しています。これらの専門家もそれぞれ独占業務をもっているため、その範囲で法的なサービスを提供することで弁護士の競合となり得るのです。
こうした要素から、弁護士は専門性を超えたスキルセットを身につける必要性が増しており、弁護士が転職市場で成功するためには従来の法律知識だけでは戦えなくなりました。
弁護士としての基本的な法律知識だけでなく、新しい技術や他職種との連携能力を磨くことが欠かせなくなっています。
弁護士の転職市場
弁護士を取り巻く環境は厳しさを増していますが、実際のところ弁護士のニーズが大幅に減ったわけではなく、求められる弁護士像が変化したにすぎません。
では、転職市場ではどのような弁護士が求められているのでしょうか。
企業内弁護士のニーズは高まり続けている
弁護士の転職市場におけるひとつの大きな特徴として、企業内弁護士のニーズの高まりが挙げられます。
企業はリスク管理やコンプライアンスの強化、国際取引の増加などに対応するため、法律の専門知識をもつ人材を求めています。その結果、企業内弁護士への需要が拡大しており、特に大企業や国際的なビジネスを展開する企業ではこの傾向が顕著です。
実際、2001年9月に66人だった企業内弁護士は、2023年6月には3,184人と大幅に増加しています。
参考:企業内弁護士数の推移(2001年~2023年)|日本組織内弁護士協会
新しい領域の法律知識・経験がある弁護士ニーズが高い
テクノロジーの進化や新しいビジネスモデルの出現により、特定の法律領域における専門性が重視されています。
たとえば、IT法務や知的財産権、個人情報保護などの分野では、専門的な法律知識に加えて実務経験をもつ弁護士への需要が高まっています。そのため、このような新しい領域に強みをもつ弁護士は、転職市場における価値が高く、好条件での転職が可能です。
実務経験にプラスしてコミュニケーションスキルも求められる
近年とくに重視されるのは、優れたコミュニケーションスキルがあるかどうかです。
クライアントとの効果的なコミュニケーションや交渉スキル、チーム内での協働能力など、法律サービスを提供するうえで不可欠なスキルです。弁護士の転職市場では、実務経験に加えてコミュニケーションスキルが高い人材が内定を勝ち取でれるしょう。
弁護士の転職相談はこちら弁護士の転職で難易度が上がるケース
弁護士のニーズは、確実に存在するため弁護士の転職が難しいと一概に述べることはできません。しかし、弁護士の希望や状況によっては、転職難易度が一気に上がってしまうことがあります。
五大法律事務所への転職を希望するケース
五大法律事務所でも中途採用をおこなっていますが、採用されるのは弁護士としての基本的なスペック(学歴や司法試験の順位など)に加えて、特筆すべき経験やスキルがある極めて優秀な方に限定されます。
また、五大法律事務所は、求職者からの人気が高く、競争も熾烈です。とくに、五大法律事務所未経験の方が、五大法律事務所への転職することは容易ではありません。
専門分野を変更するケース
転職に際して専門分野を変更したい場合、転職の難易度が上がります。
これは、新しい分野における知識と経験を積む必要があり、前職までの知識や経験は活かせない転職になるためです。弁護士の転職では即戦力を求める求人が大半なので、経験がない分野での転職を目指すことは大きな挑戦になるでしょう。
企業内弁護士の経歴が長いケース
企業内弁護士経験が長い場合、とくに法律事務所への転職は難しくなります。企業と法律事務所では業務内容や弁護士としての立場が大きく異なるためです。
また、組織化された企業と比べて法律事務所では個々の裁量に任せられる場面が多く、弁護士個人のスキル・経験が重視されます。したがって、企業内弁護士としての経験は法律事務所では評価されにくく、転職の難易度が上がります。
転職回数が多いケース
弁護士業界では、転職が当たり前におこなわれており、転職回数が多いことは珍しいことではありません。そのため、採用側も転職回数にはある程度寛容ですが、短期間での転職回数が多いと、採用側の印象がよくないため不採用になることが増えます。
どの程度で「多い」と判断されるのかは応募先にもよりますが、経験年数3年程度なら3回、経験年数10年程度なら5回が目安になるでしょう。
弁護士の転職活動で難航しやすい人の特徴
転職活動が難航しやすい人には、特徴があります。以下に当てはまる方は、転職活動の見直しが必要です。
キャリアを活かせる事務所・企業を選んでいない
キャリアを活かせる場所を選ばない場合、自身がもつ専門知識や経験が十分に評価されないため、転職活動は難航しがちです。難易度が高いことを承知のうえで、新たな分野に挑戦するのであれば、不採用が続いても納得できるかもしれません。
しかし、そうではない場合、キャリアの棚卸しができていない可能性があります。これまでのキャリアを丁寧に棚卸したうえで自分の専門性を理解し、それを活かせる環境の事務所や企業を選ぶことが、成功への鍵となるでしょう。
志望動機を明確に伝えられない
応募先を志望する動機を明確に伝えられない人も、転職活動が難航する傾向にあります。
志望動機が不明確な場合、採用担当者は応募者の意欲やビジョン、貢献度を判断することは難しいです。志望動機を伝える際には、自身のキャリアプランと応募先のニーズがどのように一致するかを具体的に示すことが重要です。過去の実績を伝えるだけでなく、経験からどのような価値を提供できるかを明確に伝えましょう。
希望の条件が多すぎる・高すぎる
希望条件が多岐にわたり、また条件の基準が高すぎる場合も転職活動が困難を極めることがあります。
たとえば、年収や職務内容、勤務地、ワークライフバランスなど、すべての条件を満たす職場を探していないでしょうか。その場合、応募できる求人がなかなか見つからず、転職活動が長期化するリスクがあります。そうなると、結局は条件を妥協せざるを得なくなり、不満が残る結果になりかねません。
条件面については、自身のスキルと経験を客観的に評価し、市場の状況を理解したうえで柔軟な姿勢で検討することが重要です。条件の優先順位を付けて、これだけは譲れないというものに絞ったほうが結果的に満足度の高い転職につながります。
弁護士の転職を成功させるポイント
満足度の高い転職につなげるには、以下のポイントを意識して転職活動を進めることが大切です。
自己分析を丁寧におこなう
弁護士としての転職を成功させるためには、自己分析を丁寧におこなうことが欠かせません。自己分析を通じて以下のような点を明らかにしましょう。
- なぜ転職したいのか
- 自分の強みはどこか、どのような点がほかの弁護士と比べて優れているか
- 自分のキャリアの中で何を成し遂げたいのか
- どのような価値観をもっているのか
- どのような法律分野での経験や知識が豊富か
自己分析は時間がかかる作業ですが、転職を成功に導くための重要なステップです。自己分析を通じて自身の強みや転職活動の方向性が明らかになるはずです。
強みを活かせる転職先を選ぶ
自己分析で明らかになった。自身の強みを活かせる転職先を選定しましょう。
そのためには、応募先の理念や力を入れている専門領域、どんな弁護士を求めているのかを調査します。調査方法としては、応募先のホームページや転職エージェントから情報収集をするほかに、弁護士のネットワークを通じて業界の情報を収集し、実際に働いている弁護士の意見を聞くことも有効です。
応募書類の書き方を工夫する
応募書類を作成する際には、自分の個性や価値観が伝わるように工夫し、応募先の理念や求める人材とのフィット感を示すことが重要です。
まず、自分の専門性やこれまでの経験を明確に示す必要があります。これにより、採用担当者にスキルや能力を印象づけることができます。その際には、応募先のニーズにマッチする法律分野での実績や解決した案件の内容を記述することが大切です。
加えて、なぜその法律事務所や企業で働きたいのか、どのように貢献できるのかを熱意を込めて伝えることが大切です。
弁護士に強い転職エージェントを活用する
弁護士は高度な知識とスキルを備えた専門職なので、転職活動でも一般的なノウハウが通用しない場合があります。また、多忙な職種であることから、転職活動の時間がとれない方も少なくありません。
こうした事情から転職活動は、弁護士の転職に強みをもつ転職エージェントの活用がおすすめです。
弁護士の働き方や業界事情に精通しているため、強みを活かせる転職先の選定や弁護士ならではのコツを押さえた応募書類の作成アドバイスを受けられます。面接の日程調整や年収交渉なども代行してくれるため、忙しい方でも効率よく転職活動を進められます。
弁護士の転職相談はこちら弁護士におすすめの転職エージェント5選
弁護士の転職支援に強みをもつ転職エージェントを5社紹介します。
NO-LIMIT
NO-LIMITは、弁護士の転職支援に特化した転職エージェントです。
キャリアアドバイザーは、法律事務所や企業の内情や強みに詳しく、転職活動に役立つ多数の情報を提供しています。法律事務所はもちろんのこと、インハウスの求人も扱っているため、希望にあったキャリアを選択可能です。
保有求人の9割が非公開求人であるため、市場に出回っている求人以外の情報を提供してもらえます。
公式サイト:https://no-limit.careers/
BEET
BEETは、企業の管理部門に特化した転職エージェントです。
企業の法務やコンプライアンス部門で弁護士としての知識を活かしたい方におすすめです。弁護士の場合は、法務のリーダーや管理職ポジションとしての引き合いも大きいため、企業で働くことに興味のある方は相談してみましょう。
管理部門の働き方を熟知したキャリアアドバイザーから、的確なアドバイスを受けられます。
公式サイト:https://beet-agent.com/
弁護士ドットコムキャリア
弁護士ドットコムキャリアは、弁護士と法務人材のために転職支援サービスを提供しています。
日本最大級の弁護士ポータルサイト「弁護士ドットコム」のネットワークを活かした情報提供が強みです。
転職するか検討段階でも、キャリアや市場についての相談からでも受け付けているので利用しやすいでしょう。
公式サイト:https://career.bengo4.com/
弁護士転職.jp
弁護士転職.jpは、弁護士の求人情報を専門的に取り扱う転職支援サービスです。
専任のエージェントが経験や希望を丁寧にヒアリングし、希望にあった求人を紹介しています。自身で求人検索やお気に入り登録ができるため、応募したい求人を比較しながら検討することも可能です。
公式サイト:https://www.bengoshitenshoku.jp/
MS Agent
MS Agentは、管理部門と士業の転職支援に特化し、30年以上の実績がある転職エージェントです。
業界内での信頼と実績が高く、大手法律事務所や上場企業など条件のよい求人も豊富にあります。応募書類の作成サポートや面接対策にも定評があるため、自身のアピールに苦手意識がある方でも自信をもって選考に臨めるでしょう。
公式サイト:https://www.jmsc.co.jp/
弁護士の転職相談はこちらまとめ
結論、弁護士は転職市場価値が高い職種なので、転職が難しいわけではありません。
しかし、希望するキャリアや転職活動の進め方によっては、難航するケースがあります。そのため、自己分析や企業分析などに力を入れて、転職活動に臨みましょう。
もし自身だけで転職活動をおこなうのに不安な場合は、弁護士に強い転職エージェントへの相談をおすすめします。