戦略法務とは、法律を基に企業の経営戦略をサポートすることを目的におこなう業務です。
昨今、業務内容や取引方法の多様化、また市場がグローバル化しているため、戦略法務は重要な役割を担っています。
本記事では、戦略法務の概要と重要視されている背景、戦略法務に強い弁護士の探し方について説明していきます。
目次
戦略法務とは?臨床法務・予防法務の違いはある?
戦略法務と一緒に出てくる単語として、臨床法務と予防法務があります。どの法務も、企業法務には欠かせません。
それぞれの目的についてを、下記のとおりまとめました。
種類 | 目的 |
---|---|
戦略法務 | ・新規事業のサポート ・M&A ・知的財産に関するサポート ・海外展開のサポート ・IPO準備の対応 |
臨床法務 | ・法的紛争の解決対応 ・トラブルの解決 |
予防法務 | ・法的紛争の予防 ・トラブル発生の予防 |
戦略法務
戦略法務とは、法律を基に企業の経営をサポートすることがで業務の目的です。
戦略法務の業務は、新規事業の立ち上げやIPO(上場)の準備、海外への事業展開、M&Aなど、リスクを伴う可能性がある事業の法的サポートがメインで、経営者側の立場として意思決定に関わることもあります。
攻めの法務とも言われており、会社の発展には必要不可欠です。
臨床法務
臨床法務とは、会社に関連する法的紛争やトラブルが発生した際の対応が業務の目的です。
取引先との契約トラブルや労務トラブル、クレーム対応、知的財産権侵害のトラブル、行政処分・指導の対応などをおこないます。様々なトラブルによって、会社が受ける損失を最小限にとどめることが役割です。
予防法務
予防法務とは、法的紛争やトラブル発生を未然に防止するための予防策を実施することが目的です。
実際に法的紛争やトラブルが発生した場合、それらの対応・解決にはコストを費やし、リソースを割かなければなりません。加えて、会社の評判に影響が生じる可能性もあります。
それらの負担やリスクを回避するために、予防法務では、契約締結前の契約内容のチェック、就業規則や雇用契約書の整備、知的財産権に違反しているかどうかの判断などを実施し、大きな問題になる原因の芽を摘み取ります。
戦略法務の業務と具体例
攻めの法務とされている戦略法務ですが、法律の観点を通して実際にどのような業務が発生しているのでしょうか。
次の5つについて、具体例を交えて解説していきます。
新規事業サポート
新規事業を立ち上げる際は、下記の項目のチェックが必要です。
事業内容に違法性がないか
事業内容は、日本国憲法の第22条で定められている、職業選択の自由の公共や福祉に違反していない適切なものであるか、法律に違反した事業内容ではないかを確認する必要があります。
これに違反している事業内容であると、計画も白紙、資金調達にも影響してしまうため、新規事業を立ち上げる初期段階でチックが必要な項目です。
新規事業立ち上げに必要な申請準備が整っているか
新規事業の業種によっては、営業許可が必要な場合もあります。
もし、無許可営業をおこなっていると、下記のような罰則を受ける恐れがあるので注意が必要です。
【飲食店の場合】
飲食店を営業するには、保健所からの営業許可証が必要です。無許可で営業した場合には、食品衛生法第55条1項違反として、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が課せられます。
【建設業の場合】
建設業を営むには、知事もしくは大臣からの建設業許可が必要です。無許可で経営していた場合は、建設業法第47条違反として、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が課せれれます。
【人材派遣業の場合】
人材派遣業を営むには、厚生労働省による労働者派遣事業許可の取得が必要です。
許可得ずに営業した場合は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律の第五条第一項を違反したとみなされて、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が課せられます。
※参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第二章 労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置 第二節 事業の許可(労働者派遣事業の許可)第五条
実際、人材派遣業の許可を得ていないにも関わらず、自社雇用の労働者を他社で働かせていたことで、刑事告発されてたという事例があります。
事業展開をするうえで発生するリスクを想定
会社を経営するにあたって、リスクはつきものです。その対策のために、万が一問題が発生した場合でも対処できるのかどうかを、先回りして調査する役割が戦略法務にはあります。
想定できるリスクをふまえて、法律の観点から社内の体制や契約書内容を整え、スムーズな新規事業の立ち上げができるようにサポートします。
M&A
企業の成長において、M&Aは重要な手法です。
企業の合併や買収に加えて、企業再生、事業継承も対応範囲になります。
具体的におこなう業務は
- 買収スキームの作成・決定
- デューデリジェンス(買収予定企業の実態調査)
- 契約書作成
などです。
とくに次のような契約書の作成は、法務の観点が必要です。
- 秘密保持契約書
- 意向表明書
- 基本合意書
- 最終契約書
- アドバイザリー契約書
基本的に契約は合意してしまうと撤回できないものなので、法律に詳しくない人間が対応するのはリスクが大きいです。
そのため、法務の担当者が対応し、自社に不利な点がないか、トラブル発生の要因となる文言の記載が無いかなどを確認します。
知的財産に関するサポート
知的財産とは、企業が独自で持っている技術やサービスなどのことを指し、それらを守り、また侵害しないように調査することも戦略法務の一つです。
知的財産の管理が杜撰(ずさん)な場合、自社の新技術が使えない、他社から業務妨害を受けるなど、業績に影響を受ける可能性があります。
権利化業務
自社で発明や商標、意匠、著作物などの知的財産に関するものが新たに展開された場合には、特許権や商標権、意匠権、著作権などの申請手続きをおこないます。
特に新しいサービスやシステム、技術、製品を展開する際に、他社で既に同じようなものが展開されていないか確認し、事前に知的財産に関するトラブルを回避します。
管理業務
自社の知的財産に関するものが、他社に使われていないか調査し、管理することも業務の一つです。
また、他社の知的財産を侵害しないようにサポートすることも業務範囲になります。
海外展開サポート
企業の海外展開を進めていくにあたって、市場となる現地の法律について理解が必要であるため、法令調査をおこないます。加えて、競合がどのように事業を展開しているのかの調査も必要です。
現地で法人化するための手続きや従業員の雇用サポート、現地言語の契約書レビューについても、戦略法務の業務範囲になります。
IPO準備の対応
IPOを目指すためには、実質審査基準のひとつである企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性を満たす必要があります。そのため、ベンチャー企業のIPO準備段階において法務が重要なのです。
また、2022年4月から上場区分が再編されたように、今後IPOの仕組みが変わる可能性があります。
このように仕組みが変わった際に、法的な視点を踏まえて自社が対応できるように行動指針を指示すことも法務の役目です。
戦略法務が重要視されている背景
戦略法務が重要視されている背景には、企業の積極的な事業拡大があります。
事業拡大が進むにつれて取引範囲が広がり、業界ならではの決まりや展開する国での法律への対応があるため、法務での対応が必要になることが増えるのです。
市場のグローバル化
2023年における国内企業の28.1%は、海外ビジネスを展開しているという回答結果がでています。海外ビジネスを成功させるためには、拠点となる国の法律や習慣への適応が必要です。
過去にソニー株式会社が、中国の工場売却によって現地従業員によるストライキを受けたうえに、補償金の支払いに応じるという事例がありました。
このような事例発生を未然に防ぐために、法務の観点から現地調査が必要になるのです。
※参考:日本企業の中国撤退が加速 「ソニー」がカメラ部品工場売却で大規模スト発生(1/2ページ) - 産経ニュース
M&A取引の増加
M&Aの契約件数は、2020年が3,730件、2022年は4,304件と増加傾向です。
超高齢化社会による会社の後継者不足も拍車をかけ、今後もM&A取引は増加していくと考えられるため、M&Aをサポートする戦略法務は今後も重要視されていくでしょう。
※参考:2023年版中小企業白書・小規模企業白書概要|中小企業庁
IPOを目指す企業の増加
2020年以降、新規上場企業は毎年100社を超えており、2023年の新規上場企業は120社となっています。
IPOを目指すために、コーポレート・ガバナンスと内部統制は外せない項目です。引き続き、戦略法務の必要性が高まっていくと考えられるでしょう。
戦略法務の担当に向いている人
ここまで説明したように、戦略法務の業務を担当するには、法務の知識を持っていることが前提です。法務知識があるうえで、次のような人は戦略法務に向いているといえます。
マーケティングの知識がある
戦略法務には、ただ法律を守るためだけのサポートではなく、ある程度のリスクを見越したうえで会社が成長できる事業のサポートをする役目があります。
また、新たに展開する事業の中に法的問題があった場合、何を改善したら問題が無くなるのかを示すことも求められます。
そのため、法務経験があってマーケティングの知識がある方は、戦略法務が適しているでしょう。
コミュニケーション能力に長けている
1つの契約を締結させるためには、取引先や社内での交渉・打合せが複数回おこなわれます。交渉や打合せで互いに把握しておきたい情報の説明・ヒアリングがスムーズにおこなえれば、契約がスムーズに進められます。
それらをスムーズにおこなうために、コミュニケーション能力をもっている方が求められます。
根拠のある意見を積極的に発言できる
戦略法務は、事業の展開に関わるサポートをする役割があるため、経営者と対等に意見を述べる必要があります。
意見を述べる際には、納得できる意見の裏付けが必要なので、漠然とした意見ではなく、論理的に話ができる力があることが望ましいです。
戦略法務を外部の弁護士に依頼するメリット
企業によっては、戦略法務を外部の弁護士に依頼するケースもあります。外部の弁護士に依頼するメリットは、次のとおりです。
客観的なアドバイスがもらえる
自社の社員でないからこそ、客観的に自社をみたときの評価をきくことができます。他社の戦略法務を経験した弁護士であれば、経験を活かしたアドバイスをもらうことが可能です。
経験から起こりうるリスクを想定してもらうことで、大きなリスクを負うことを未然に防ぐことにもつながります。
法務の質が高くなる
法律のプロである弁護士が対応することで、見逃しがなくなり、法務の質が高まります。
また、戦略法務の専任としてアウトソーシングすることで、社員が業務を兼任することがなくなるため、効率良く業務が進められます。
戦略法務の内製化に必要なこと
戦略法務を内製化させるためには、いくつかのポイントがあります。
定型業務の効率化
契約書作成やレビューなどの定型業務は、法務業務をおこなう上で必ず発生します。
そのような業務は効率化し、企業のビジネス展開を促進させる戦略法務を積極的に取り組める体制を整えることがポイントです。
事業担当者との関係値の構築
事業を法的な視点で判断するのが法務担当の役目ですが、事業内容を実行していくのは各事業の担当者になります。
そのため、部署同士で対立する立場ではなく、現場からの声を拾える信頼関係を構築していることが、法務を内製化させるうえで大切です。
経験者を採用する
戦略法務は法務の中でも、スピーディーな経営戦略のサポート力を求められます。
担当者には、基本的な法的知識だけではなく、業界の市場動向や新規事業展開に必要な手続き、知的財産の知識やビジネス英語のスキルなどが必要です。
そのため、IPOをめざすベンチャー企業や新規事業を頻繁に展開している企業、知的財産にを事業に活用している企業などで戦略法務を経験している人材を採用することで、即戦力となってもらえて内製化も問題なくおこなえるでしょう。
戦略法務の経験者を採用するのは、法務人材の採用支援に特化した転職エージェントの活用がおすすめです。
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NO-LIMIT
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経験弁護士・法務人材のみが登録しているため、法務の経験者採用が必ず叶います。
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まとめ
法務には役割によって3つに分類されており、そのひとつが戦略法務です。
戦略法務は経営戦略をサポートするために、必要な法務とされています。
主に、新しい事業展開のサポートやIPO準備、知的財産ポート、海外への市場拡大サポートがメインとなり、企業の発展に寄与します。適切な戦略法務を実行するためには、法務経験のある人材採用が近道です。
法務人材の採用支援に特化した人材紹介サービスを活用して、自社の戦略法務に必要な人材を採用し、経営サポートを強化していきましょう。