リーガルテックとは、法律(Legal)と技術(Technology)を組み合わせた造語のことで、法律業務の利便性向上を目的としたITサービスの総称です。
リーガルテックのニーズは急増しており、株式会社『LegalOn Technologies』(旧LegalForce)では2019年4月にサービス提供を開始してから3年半で、企業による有償導入が2500社までに至っています(2022年9月末時点)。
また、弁護士の転職先としてもリーガルテック企業は注目を集めており、当サービス『弁護士転職NO-LIMIT』でも、電子契約やAI契約書レビュー支援をはじめとした、法律に関わる複雑な業務を、ITやAIの技術で効率化を図るリーガルテックへの転職希望者は昨対比で約1.6倍ほどの増加がありました。
しかし、実際にリーガルテック企業で弁護士がどのような業務を遂行しているかを知る機会は少ないのではないでしょうか。
そこで今回、AI契約書レビュー支援サービス最大手の『LegalOn Technologies』(旧LegalForce)で、プロダクトの開発担当者として従事する小林司弁護士に、業界を牽引するリーガルテック企業の仕事内容についてお伺いしました。
小林 司さま
早稲田大学大学院法務研究科修了。2014年に司法修習を修了後、DMMグループの法務部門にて勤務し、契約書の審査・作成、法律相談、チームマネジメント等に従事。2021年から現職。社内では、和文契約書のAIレビュー支援機能の開発などを統括。
目次
弁護士が開発職という稀有なポジション
ーーー 本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、まずはご経歴をお伺いできますと幸いです
小林:司法修習(67期)を終えた後、合同会社DMM.comを主要な事業会社とするDMMグループの法務部でインハウスローヤーとして働きだしたのがキャリアのスタートでした。契約書の審査や作成はもちろん、新しい挑戦を好む会社で新規事業を立ち上げることが多く、「こういう事業をやりたいが法的に可能か」といったリーガルチェック案件の対応をすることが多かったです。約3年間は法務のプレイヤーとして案件こなし、その後はチームリーダーとしてメンバーマネジメントも行っていました。
ーーー その後LegalOn Technologiesに転職されたのでしょうか?
小林:そうです。DMMには約6年程在籍し、一通りの法務業務は経験する機会に恵まれたので、これから先のキャリアをどうしていこうかと考えるようになりました。
法務担当者が転職を考えるときには、他の会社の法務部を考えるのが典型的なパターンかと思うのですが、私の場合は経験を活かしながら新しいことに挑戦したいと考えていました。
そんな時、LegalOn Technologiesの採用担当から声をかけていただき、弁護士なのに開発職でポジションを募集していて、珍しさを感じたというのが第一印象でした。
ーーー ファーストキャリアはDMMでの法務ということですが、法律事務所への就職は選択肢になかったのでしょうか?
小林:私が就職を考えた当時、インハウスローヤー自体も今ほど多くはない時代でしたので、最初は法律事務所に就職する選択肢を当然考えていました。実際にいくつか法律事務所の面接を受けていました。ただ、いろいろとお話を伺っていくうちに法律のスペシャリストではなく、ビジネスの垣根を越えて幅広い案件に携わってみたいという思いが芽生え、そこから法律事務所に拘らず範囲を広げていきました。
ーーー インハウスローヤーの求人選びではどのような軸でみていらしたのでしょうか?
小林:いろんな法務求人は見てはいたのですが、たまたまDMMの求人を目にした時に、他の求人と比べてもかなりの異彩を放っていて、会社自体に結構特色があるといいますか、エンタメ全開みたいな会社で目を引きました。
ーーー IT企業だと思いきや、農業もやっていますからね
小林:そうですね。農業の事業は私が入社した後に始まったものですが、当時から分野を問わずに参入する姿勢を持っていました。
ですので、この会社であればいろいろ携わらせていただけるだろうと思いました。また、DMMには既にインハウスローヤーが在籍していましたので、先輩がいるという安心感があったことも後押しになりました。やはり、相談できる相手がいるというのは嬉しいことだなと感じました。
そういったご縁があって、入社を決めたというのが大きいです。
ーーー ありがとうございます。やはり先輩がいらっしゃると安心しますよね。その後、LegalOn Technologiesへ転職をされた経緯ですが、AI契約書レビュー支援サービスに興味があったのでしょうか
小林:リーガルテックやAIを使ったサービスにもともと興味がある訳ではなかったです。ただ、DMM時代に製品である『LegalForce』を試したことがあったので、どういったサービスかは知っているという程度でした。
LegalOn Technologiesに惹かれたのは、先ほども話題に出ましたが、弁護士を開発職というポジションで募集していたことが大きいです。これまで新規事業にサポート役として接する機会が多く、サービスの開発や提供に漠然とした興味は持っていました。ただ、法務に携わる人間が実際のプロダクト開発に携われる機会は今はまだ希少だと思います。
そのような状況の中で、自分がこれまで培ってきた経験をダイレクトに活かせるLegalOn Technologiesでの開発職の仕事に、ぜひチャレンジしてみたいと心が動きました。実際に開発職を担っている弁護士や役員とお話ししていると、非常に優秀で、一緒に働いてみたいと思った決め手になりました。
700を超えるひな型の搭載、AI契約書レビュー支援機能の拡充など法律知識が必要なコンテンツ作り全般を担う
ーーー では、具体的な業務に関してお伺いできればと思います
小林:いま私が所属している部署は、正式名称を『法務開発部』と言います。この部署は、製品に搭載する法律知識が必要なコンテンツ作り全般を担っている部署です。
『LegalForce』や『LegalForceキャビネ』という製品の開発に携わっています。例えば、LegalForceのAIレビュー支援機能の場合、『この契約書は一般的にどういうところがチェック項目になるのか』『契約書を修正するとしたら、具体的にどのような例文があり得るか』を検討し、実際に作りこんでいきます。
ーーー 通常業務としては、一般的に契約書でチェックするべきポイントを弁護士目線で一覧化し、AI・機械学習に当て込んでいくイメージでしょうか
小林:そうですね。会社での弁護士の活躍の仕方は色々あるのですが、法務開発部の全員が関わっていて、メインとなってくるのがAIレビュー支援機能の開発です。例えば、売買契約では売主と買主の立場がありますが、それぞれの立場ごとに、こういう部分が気をつけるべきポイントになるという項目を網羅的にチェックリスト化してコンテンツを作り込んでいきます。これが核になる業務になっています。
ーーー ちなみに、新しい種類の契約書をAIレビュー支援機能でカバーしていく際は、どういったフローで進めているのでしょうか
小林:新しい種類の契約書に挑戦する場合、まずはどの契約書を、どのような内容で作るのか、お客様からのご要望に耳を傾けることを大切にしています。そして、営業からの意見も参考にして、契約書の種類や中身の大枠を決めていきます。
我々開発のメンバーでお客様から直接ヒアリングを行うこともありますし、お客様と接する機会が多い営業のメンバーからの情報共有も大きな指標となります。この情報共有により、開発ロードマップが決まり、お客様への提供価値が大きいと思えるものを作りあげることができます。
作るものが決まったあとは、レビューのチェック項目について詳細を検討します。その際は、市販の書式や書籍を参考にしますし、各弁護士の実務経験をフルに活用し、議論しながら作りこんでいきます。
業務では法律事務所Zelo・エンジニア・他部署との協力も多い
ーーー 御社の代表が角田弁護士、共同創業者が小笠原弁護士ですが、法律事務所ZeLo(以下ZeLo)は小笠原弁護士が代表で角田弁護士が副代表ですね。連携などもあるのでしょうか
小林:製品である『LegalForce』は今700点以上の契約書のひな形をお客様にご提供しているのですが、このひな形制作はZeLoの先生方の協力を得て実現しています。毎週打ち合わせを行い、お客様に喜ばれるコンテンツは何か、何が実務で役に立つかなど密に議論を行っています。
ーーー 社内では他部署との関わりも頻繁にあったりするのでしょうか
小林:そうですね、法務開発部に所属している弁護士は、その専門的知見を求められ他部署から様々な依頼を受けています。例えば、マーケティング部門ではセミナーを企画する機会が多いのですが、セミナーへの講師としての登壇依頼がよくあります。また、広報からの依頼で、各種メディアからの取材対応も行うことがあります。
編集部:法務開発に携わる立場としては、エンジニアの知識というのも多少は求められるのでしょうか。
小林:法務開発部が担っているのは、あくまで法的知見が求められる部分の開発ですので、いわゆるエンジニアリングの知識や、コードを読むスキルなどは不要です。
ただ、実際に機能開発をするにあたっては、エンジニアと打ち合わせをする機会もあります。その際、エンジニア側の立場に寄り添うことは大切だと思っています。例えば、私のようなプログラミングの素人目線で見れば、「これは簡単に対応できるのではないか」と思うこともあるのですが、それはプロからみれば違うというケースもあります。
そういった背景もあり、社内のプロフェッショナルとの向き合い方は大事にしています。
『喜んでもらえたら嬉しいし、改善の要望があれば頑張って取り組もうと思う。』フィードバックがダイレクトに共有されることが魅力
ーーー LegalOn Technologiesに転職してみて、やりがいを感じる部分はどこのあたりになりますか。
小林:自分の作ったものをお客様が使ってくれる、というのはこれまでのキャリアでは得られない経験だと思います。何か新しい機能を出した際、お客様からすごく便利ですねと言っていただけることもありますし、反対に、ここは改善して欲しいとご指摘をいただくこともあります。お客様からのダイレクトなフィードバックが自身に届くところはやりがいを感じています。
営業も頻繁にフィードバックの共有をしてくれますので、風通しがいい環境です。また、私自身も商談に出向き、お客様から直接ご意見を伺うこともあります。
ーーー 今後、入社する弁護士の方にも、商談に同席してほしいですよね。
小林:そうですね。お客様と直接向き合えるのはこの職種の魅力だと思っています。直接向き合うことで体感できるものは大きいですし、喜んでいただけるとすごく嬉しいです。反対に改善の希望があれば頑張って取り組もうと思います。そういった経験ができるのもこの職種の醍醐味だと思います。
契約書が生まれてから死ぬまでの全ての管理をサポート
ーーー 今後LegalOn Technologiesのサービスをこうしていきたい、今後この部分を改善していこうと思っていることがありましたら、言える範囲で構いませんので教えていただきたいです。
小林:AIレビュー支援機能で言いますと、既に和文の契約書だけで37類型以上がご利用いただける状態にはなっています。そこで、今後はより細かいニーズにも応えていきたいと思っています。例えば、宅建業者が契約の主体となって不動産の売買契約を締結する場合、宅建業法という法律では、契約書に定めなければならない項目が決まっています。
この項目は非常に細かく、精査が大変ですので、AIレビュー支援機能では、このような契約書に対応したチェックができる機能をリリースしています。このように、より細やかなニーズにもお応えしていけるように製品を進化させていきたいです。もちろん、既存のサービスの改善も重要だと考えています。
ーーー 今、AI契約書レビュー支援のサービスと、契約書の管理サービスがありますので、電子契約に手を伸ばしていくのではないかと思っていたのですが、そういった展望はないのでしょうか。
小林:弊社は、『全ての契約リスクを制御可能にする』というミッションに掲げています。ここで言う『全ての』というのは、全世界の契約について、その契約業務の最初から最後までを管理するという発想です。
そうすると、契約の締結の部分もカバーは必要ですが、すでに電子契約サービスは先行している卓越したサービスが存在しているので、市場に参入するよりは連携させていただいたほうが合理的です。
企業法務の非効率を解決し、企業法務を盛り上げていける方に来て欲しい
ーーー 最後に、今後LegalOn Technologiesが採用を進めるにあたって、どのような方に来て欲しいかお伺いできますと幸いです。
小林:ありがとうございます。3つほどお話しさせていただければと思います。1つめは、『企業法務の非効率な部分に課題を感じているという原体験をお持ちで、その課題を解決しつつ、企業法務を盛り上げていくことに興味を抱いていらっしゃる方』ですね。
こういった方であれば、ご自身の体験を直接活かしてご活躍いただけると思います。
2つめは、『自分から積極的に提案を考えるのが好きな方』ですね。我々はまだ世の中にないものを作らなければいけない立ち位置、新しい価値を提供しなければいけない場所にいます。ご自身のバックグラウンドを活かして、こういう機能だったら、あるいはこういうコンテンツだったらお客様に喜んでいただけるのではないかといった発想を提案できる方は、すごくありがたい存在ですし、一緒に仕事をしていて楽しいです。
最後は、法律のことや契約のことはやはり難しいと思うのですが、『難しいことをわかりやすく言語化できる方』は、お客様が利用するコンテンツ開発に非常に向いているのではないかと思います。
社内外問わず、相手の目線に立って必要な情報をしっかりと伝えることができると、お互いの信頼関係も構築できますし、何かしら施策を進めるスピードも速くなります。
ぜひそういった方に興味を持っていただけたらなと思っています。