弁護士に対して「年収が高い」というイメージを抱く方は多くいらっしゃると思います。
詳しくは後述しますが、日本弁護士連合会の調査データによると、弁護士全体の平均年収は約2,558万円、経費厚生労働省が公表する「令和4年度賃金構造基本統計調査」のうち、弁護士が含まれる区分「法務従事者」の平均年収は約971万円という結果だけを見ると、たしかに弁護士は「年収が高い」と言えるでしょう。
しかし実際は、抱える業務量や事務所内でのポジション(アソシエイトなのかパートナーなのか)、所属先事務所の規模、地域によって給与は大きく変動するため、年収が低いと悩む弁護士がいるのも事実です。高収入を目指して弁護士になろうと考えていた方のなかには、そのような現状を知って不安に思うケースがあるかもしれません。
この記事では弁護士の平均年収を紹介するとともに、所属先ごとの給与事情や年収アップを図る方法、高収入の弁護士を目指す方法を解説します。弁護士の年収が低いと聞いて悩む方や、どのような働き方をすれば年収が上がるのか知りたい方は、参考にしてください。
目次
弁護士の平均年収を調査
弁護士の給与や平均年収は、日本弁護士連合会や厚生労働省が公表している統計データから読み取ることが可能です。年収が低いとはいえ、実際どの程度なのか調査してみましょう。
なお、国内の給与所得者1人当たりの平均給与は433万円です。この数値も参考にしながら、弁護士の年収が本当に低いのかどうか解説します。
弁護士全体の平均年収は約2,558万円
日本弁護士連合会の調査データによると、弁護士全体の平均年収は約2,558万円、経費などを除いた所得額の平均値は約1,119万円となっています。
また厚生労働省が公表する「令和4年度賃金構造基本統計調査」のうち、弁護士が含まれる区分「法務従事者」の平均年収は約971万円です。
これらの金額を踏まえると、弁護士の平均年収は日本の平均年収よりも高額とわかります。調査データによって多少の差があるものの、弁護士の年収が低いとは考えにくいかもしれません。
参考:近年の弁護士の活動実態について_ 資料 特 1-7-8_所属事務所別の収入金額の合計(「0」以下の回答者を含む)_P15|日本弁護士連合会
近年の弁護士の活動実態について_ 資料 特 1-7-10_所属事務所別の所得金額の合計(「0」以下の回答者を含む)_P17|日本弁護士連合会
令和4年賃金構造基本統計調査_職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)|厚生労働省
所属先別の弁護士平均年収
前述の内容から、弁護士全体の年収は労働者のなかでも平均以上とわかりました。しかし、上記金額はあくまでも平均値です。弁護士の年収は所属先によって大きく異なります。
一般的な法律事務所と、外国法共同事業事務所を比較すると、平均年収や中央値は外国法共同事業事務所のほうが高くても、最大値は一般的な法律事務所が圧倒的に高いことが分かります。
一般的な法律事務所と企業に勤める弁護士(インハウスローヤー)や官庁・自治体の弁護士を比較すると、平均値・最大値・中央値すべて法律事務所のほうが高くなっています。それでも、組織内弁護士の年収は日本の平均年収より高収入です。
所属先 | 一般的な法律事務所 | 外国法共同事業事務所 | 企業 | 官庁・自治体 |
---|---|---|---|---|
平均年収 | 2,625万円 | 4,668万円 | 1,116万円 | 835万円 |
最大値 | 12億2,000万円 | 2億円 | 4,850万円 | 922万円 |
中央値 | 1,500万円 | 1,800万円 | 979万円 | 922万円 |
五大法律事務所の年収
例えば、五大法律事務所と呼ばれるような大手法律事務所の場合、初年度から年収1,000万円を超えてパートナーになると数千万円~数億円の年収が得られるといわれています。
中小規模の事務所でも、東京や大阪などメイン都市に構えている事務所であればアソシエイト弁護士でも年収1,000万円を超えます。
地方法律事務所の年収
地方の法律事務所、いわゆる司法過疎と呼ばれる地域の弁護士の年収は300万円未満になることもあります。そもそも事件となる案件が少ないことも原因のひとつでしょう。
また、日弁連が弁護士過疎・偏在解消のために設置した、該当地域に日弁連ひまわり基金による公設事務所「ひまわり基金法律事務所」及び「法テラスの地域事務所(司法過疎地域事務所)」の場合は、最小値は一般的な地方法律事務所と同等ですが、最高年収では上回っていることがあるかもしれません。
所属先 | ひまわり基金法律事務所(N=5) | 法テラス法律事務所(N=5) |
---|---|---|
平均年収 | 869.79万円 | 867.83万円 |
最小値 | 277万円 | 354万円 |
最大値 | 1,943万円 | 2,100万円 |
中央値 | 530万円 | 650万円 |
外国法共同事業事務所の年収
五大事務所に並ぶ収入を得られるとされているのが、外国法共同事業事務所です。初年度から1,000万円を超え、3~5年で五大事務所以上の年収を得る弁護士も多いようです。
2022年の法改正により勢いを増しているため、今後はより所属弁護士数が増え、平均年収も引きあがっていくと考えられます。
企業内弁護士(インハウスローヤー)の年収
弁護士のなかでも、インハウスローヤーは低収入になりやすいといわれています。
ですが、日本組織内弁護士協会が公表する調査データを見ると、実際にインハウスローヤーから得られた回答のうち、最も多かった年収は750万円~1,000万円未満(24.5%)で、「250万円~500万円未満」を選択した方は全体の2.9%しかおらず、いずれにしても日本の平均年収よりも高収入である点には変わりないようです。
また、企業内弁護士は残業が少なく休日出勤もほとんどないため、ワークライフバランスを保ったうえで750万円~1,000万円を得られる職は他にはなかなかないでしょう。
官庁・自治体に所属する弁護士の年収
官庁や自治体に所属する弁護士はその数自体が少なく、日弁連の調査でも母数は3人となっています。
法律事務所や一般企業に勤める弁護士と比較すると年収は劣りますが、平均年収834万円が得られるのであれば、世間一般的には高収入と言えるでしょう。
弁護士の年収が低いと言われる理由
弁護士は給与所得者のなかでも高収入に分類されるにもかかわらず、なぜ低いと言われるのでしょうか。
それには、弁護士業界での給与事情が関係しているものと思われます。真相解明に向けて、詳細を確認しておきましょう。
弁護士数に対して案件数が少なく、稼ぎづらい
弁護士の年収が低いと言われる理由には、弁護士数の増加に対して案件数が増えていない点が考えられます。たとえば過去5年間の民事事件数と弁護士数の推移に注目すると、以下のようになります。
年 | 民事訴訟事件の新規受注数 | 弁護士数 |
---|---|---|
2017年 | 14万6,680件 | 3万9,865人 |
2018年 | 13万8,444件 | 4万934人 |
2019年 | 13万4,935件 | 4万2,058人 |
2020年 | 13万3,430件 | 4万3,110人 |
2021年 | 13万860件 | 4万2,989人 |
ここ数年、弁護士数が増加しているのに対し、案件数は減っています。もちろん事件が減るのは良いことですが、結果的に弁護士が稼ぎにくい世の中になっているのも事実です。
大手に勤める弁護士なら問題ないかもしれませんが、小規模の法律事務所で営業力や実績が乏しい弁護士にとっては、厳しい状況といえるでしょう。
実績がダイレクトに収入に影響する
弁護士の収入は、個々のキャリアに応じて増加する傾向にあります。そのため50代や60代になっても、実績さえあれば高収入を得やすいと考えられます。
一方、弁護士になりたての方だと経験・実績共に乏しいため、クライアントから頼りにされにくく、年収も思うように上がらないケースがあるようです。
弁護士の年収が低いと言われる理由には、業界特有の「年齢・実績・年収」が一体となって上昇する事情が関係しているためといえるでしょう。
所属先で収入格差がある
前述のとおり、地方や小規模な事務所だと初任給が低くかつ年収が上がりにくい傾向にあるため、高収入の弁護士を目指すなら戦略的な就職活動が必要といえるでしょう。
大手法律事務所など名の知れた事務所や、特定の分野で有名な事務所であれば、転職や独立開業する際も有利になるでしょう。
高収入の弁護士になるための就活戦略
高額年収の弁護士を目指すためには、どのような点に留意して就職活動をおこなうべきでしょうか。ここでは、就活戦略のポイントを4つ挙げて解説します。
大手・外資系法律事務所の内定獲得をねらう
高年収に最も近い法律事務所を目指すなら、やはり五大法律事務所や外資系法律事務所、準大手の法律事務所をねらうのが最短ルートです。そのためにも、上記の予備試験への合格やサマークラークへの参加、面接対策はきちんとおこないましょう。
しかし、大手法律事務所から内定をもらえるのは少数です。中堅・小規模の法律事務所へ入所する場合は、その事務所でどのような経験を積んで、どのタイミングで転職するなど将来的なキャリアプランまで考えておくと高収入の弁護士を目指せるでしょう。
各試験で上位を獲得する
高収入の弁護士を目指すためには、予備試験や司法書士試験などの各試験に合格することは大前提として、より上位を獲得できるよう努力しましょう。とくに2桁前半までの順位は評価される可能性が高いため、自己PRの項目に追加できると優秀な人材と判断してもらえるかもしれません。
また合格までにかかった期間や、受験者の年齢といった付属情報も評価される可能性があります。
結果的に大手法律事務所から内定をもらえれば、高収入の弁護士に一歩近づけるでしょう。
インターンシップへ参加しておく
初年度から高収入を狙うためには、大手法律事務所や東京・大阪などメイン都市の中堅法律事務所が主催する下記インターン制度のいずれかへ参加しておくのがおすすめです。
- サマークラーク(通称:サマクラ)
- スプリングクラーク
- ウィンタークラーク
なかでもサマークラークは、各法律事務所が採用活動の一環で開催しているケースも多く、参加者のなかに優秀な人材がいないか探していると考えられます。そのなかで弁護士の目に留まれば、事務所側から就職先としてオファーされる可能性もあるでしょう。
就職先候補の法律事務所がサマークラークを開催する際は、積極的に参加して実力・意欲をアピールするのがおすすめです。
徹底的な面接対策をおこなう
高収入の弁護士を目指して勉学に励んでいても、面接に受からなければ意味がありません。面接での印象が悪ければ採用を見送られるケースもあるため、徹底的な面接対策は重要といえます。
そもそも面接は、法律事務所の求める人物像に志望者が当てはまっているかを確認する場です。「この人はうちの事務所で活躍してくれそうだ」と思ってもらうためにも、法律事務所に対する入念な調査や、自己分析に基づいた回答をある程度用意しておく必要があります。
弁護士との面接で見られている可能性のあるポイントは、以下のとおりです。
- コミュニケーションスキル
- 対面での態度や人柄
- 状況判断力や瞬発力
- 入所熱意
など
また、質問に回答する際は大きな声で抑揚をつけた話し方や、早口にならないよう注意するのも大切です。
話す内容には具体的なエピソードを入れ、なぜそのように考えたのか、どのように努力したのか、結果的にどう成長したのかなどのプロセスに重きを置いて伝えると、物事に対する考え方や姿勢を示せるでしょう。
自身が法律事務所の「求める人物像」にマッチする人材だとアピールできれば、内定を獲得できるかもしれません。
高収入の弁護士を目指すなら、ファーストキャリアが重要
弁護士は所属する法律事務所や企業によって給与制度が異なるため、年収に大きく差があります。最短ルートで高収入を得られる法律事務所へ入所できれば良いですが、それはハードルが高いのも事実です。
もし将来的に高収入の弁護士になりたいと思うなら、数年後のキャリアプランまで想定したうえで、ファーストキャリアを選択するのがおすすめです。そうすれば多少期間がかかっても、理想の年収に近づけるでしょう。弁護士の求人紹介・転職相談はこちら