弁護士になって5年目。日々の業務や弁護士業界の動向なども徐々に分かってきて、自分の置かれている立場や将来などが気になりだす方も多いでしょう。
弁護士5年目くらいから、キャリアアップ転職や独立などを考え始める人も多いはずです。自分が今どのような立場にいるのかを判断するバロメーターとして、年収が第一に挙げられますね。
本記事では、弁護士5年目の平均年収を中心に、年収が上がっていない原因や今後の年収を上げるために知っておくべきことをご説明します。
弁護士5年目の段階では、まだまだ年収が低いと感じている方も多いでしょうから、これから年収を上げていくためのキャリアプランを考える参考にしてみてください。
目次
弁護士の平均年収と中央値まとめ
弁護士5年目の年収について触れる前に、弁護士全体の年収からご紹介します。
日本弁護士連合会が実施する、「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査2020」では、弁護士の年収に関する調査もされています。
日弁連の調査結果によると、2020年の弁護士の平均所得は1,119万円、中央値が700万円となっています。
調査年 | 収入 | 所得 | ||
平均 | 中央値 | 平均 | 中央値 | |
2018年 | 2,143万円 | 1,200万円 | 1,471万円 | 959万円 |
2020年 | 2,558万円 | 1,437万円 | 1,119万円 | 700万円 |
弁護士5年目でこの平均年収に届く人はごく稀ですが、将来的に年収1,000万円を目指して働いていけば、年収としては周りの弁護士と同等の金額を貰えている弁護士になれます。
ひとまずは年収1,000万円を突破するための今後のキャリアプランを考えていくと良いでしょう。
弁護士5年目の年収は?弁護士年数ごとの年収の推移
「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査2020」では、弁護士の修習期ごとの所得(年収)の調査もされています。まとめると、次の通りになります。
修習期 | 平均値 | 中央値 |
全体 | 1,106万円 | 700万円 |
70期〜 | 519万円 | 461万円 |
65〜69期 | 860万円 | 550万円 |
60〜64期 | 955万円 | 799万円 |
55〜59期 | 1,514万円 | 1,000万円 |
50〜54期 | 1,621万円 | 1,101万円 |
45〜49期 | 1,518万円 | 1,043万円 |
40〜44期 | 1,863万円 | 910万円 |
35〜39期 | 2,121万円 | 950万円 |
30〜34期 | 1,298万円 | 1,000万円 |
25〜29期 | 1,455万円 | 736万円 |
20〜24期 | 578万円 | 300万円 |
15〜19期 | 702万円 | 448万円 |
10〜14期 | 469万円 | 358万円 |
1〜9期 | 313万円 | 256万円 |
2023年現在、弁護士5年目の方は70期前後の方が多いはずですが、70期以降の平均年収は519万円、中央値は461万円という結果になっていました。
弁護士年数ごとの年収の推移について、次のような傾向があるようです。
弁護士の初任給と5年目までの年収は大きく変わらない
日弁連による弁護士の初任給の調査はありませんでしたが、いくつかのサイトや上記の内容を参考にした弁護士の初任給の目安を出すと、年収400〜500万円が多いと考えられます。
このことから、弁護士の初任給と5年目までの年収には大きな違いがないと言うことができます。上がっても100万円アップくらいに留まることが多いでしょう。
将来的に年収を上げていくためには、仕事の受け方やキャリアや役職の向上、独立開業などによって働き方や立場を変えていく必要性も出てくるでしょう。
弁護士の年収のピークは20年目以降
弁護士の年収は55期以降に中央値でも年収1,000万円を超えていきます。弁護士年数としては20年目以降で、この頃に年収のピークに持っていく人が多いでしょう。
25〜30歳ごろに司法試験に合格して弁護士になったとして、そこから20年後とすると、40〜50代で年収が一番貰えている時期に突入する方が多くを占めることになります。
裏を返すと、この頃までに大きな実績も残さず、与えられた案件だけをそつなくこなすだけでは、年収1,000万円以上も難しく、並の弁護士としてキャリアを終えてしまうことにもなります。
もちろん、そのような働き方も間違いではありませんし、他の職業に比べるとかなり良い年収を貰えていることには違いありません。ただ、年収を多くもらいたいと考えているのであれば、10〜20年目までには積極的に活動をして、自身のスキルや実績を高めていく必要があります。
働き方や事務所規模などの弁護士年数以外の年収の違い
弁護士5年目の平均年収は500万円前後で、20年目あたりに年収のピークが訪れ始めることが多いとお伝えしました。
ただ、本人が淡々と弁護士業務をこなしていけば年収を上げられるのではなく、結果を出したり、働き方を変えたりすることで年収も上がっていきます。
こちらの項目では、弁護士年数以外の次の項目ごとの年収の違いについてご紹介します。
- 事務所の大きさによる年収の違い
- 働き方による年収の違い
例えば、法律事務所を移るのか?企業で働くのか?独立するのか?などの働き方を変えることは、今後のキャリアプランを立てる上でも大きな影響を及ぼしますので、ぜひ参考にしてみてください。
事務所の大きさによる弁護士年収の違い
法律事務所に入所して、弁護士としてのキャリアをスタートさせる方が多いでしょうが、法律事務所の規模によって平均年収は違うのでしょうか?
賃金構造基本統計調査によると、事務所の規模による年収の差は次のような結果となりました。
事務所規模 | 平均月収 | 年間賞与等 | 年収換算 |
10〜99人 | 53.9万円 | 117.4万円 | 764.7万円 |
100〜999人 | 42.8万円 | 133.9万円 | 647.6万円 |
1,000人以上 | 48.2万円 | 190.3万円 | 769.8万円 |
参考:賃金構造基本統計調査
一般企業の場合、大手企業の方が年収も高く安定している印象ですが、法律事務所の場合にはあまり当てはまらないようです。
ただ、事務所を変えることで年収も変わってくることは事実で、特に四大法律事務所では、入所1年目から年収1,000万円、平均年収でも1,500〜2,000万円と、非常に年収が高いことで知られています。
大規模事務所でなくても、契約内容やインセンティブ、個人受任のしやすさなどによっても年収や働き方は違ってきます。
弁護士5年目を機に新たな法律事務所に転職して、年収を上げていくことも1つの方法です。
働き方による弁護士年収の違い
事務所だけでなく、弁護士としての働き方を変えていくことで年収を変えることもできます。弁護士が働き方を変える場合、主に次のような変え方があります。
- 法律事務所内で出世する
- 独立する
- 企業内弁護士に転職する
こちらの項目では、それぞれの働き方による弁護士年収の違いについてもご紹介します。
立場による弁護士年収の違い
法律事務所で働く弁護士でも、立場によって仕事内容が変わり、年収にも差が出てきます。
まず、入所してしばらくは「アソシエイト弁護士」として働く方が多いでしょう。代表弁護士や先輩弁護士の部下の立場で活動を行い、しばらくは自分で案件を受けられないケースも多いです。
事務所にもよりますが、アソシエイト弁護士の年収は、多くても700万円くらいに留まってくるでしょう。それ以上に年収を上げたい場合には、キャリアアップを検討する段階です。大体弁護士年数5〜10年頃からアソシエイト弁護士の次を目指し始める方が出てきます。
アソシエイトとしてキャリアを積んだ方は、「パートナー弁護士」を目指すことができます。パートナー弁護士は、代表弁護士のパートナーとして事務所経営や採用活動などにも関与するようになり、自分の案件も多く獲得します。
年収も1,000万円以上を十分に狙える立場ですので、経験・収入ともに高いレベルで働けるようになります。
独立弁護士の平均年収
弁護士5年目を過ぎたあたりから独立を考える方も少なくないです。独立した弁護士の年収は青天井で、十分な売上を立てられる仕組みを作ることができれば、数千万円〜数億円の年収も可能です。
その一方で、全く依頼が取れない弁護士になってしまえば、年収200〜300万円が続いてしまうようなことも起こり得るでしょう。
後述しますが、年々弁護士の数は増えており、同期の弁護士たちと競合することも増えています。「独立後の年収はいくらか?」を調べるよりも、「最低でもいくら欲しいか?」を考えて、そこから逆算して立地や集客方法、取扱分野などを決めていないと、経営の部分で苦戦してしまうことも起こり得るでしょう。
企業内弁護士の平均年収
年々、法律事務所ではなく企業内弁護士として特定の会社に属して仕事をしている弁護士も増えてきています。
企業内弁護士に関するアンケートを実施している「日本組織内弁護士協会」によると、企業内弁護士の年収について次の結果が出されていました。
年収 | 人数 | 割合 |
250万円未満 | 0 | 0.0% |
250万円〜500万円未満 | 3 | 1.1% |
500万円〜750万円未満 | 48 | 18.1% |
750万円〜1,000万円未満 | 70 | 26.4% |
1,000万円〜1,250万円未満 | 64 | 24.2% |
1,250万円〜1,500万円未満 | 29 | 10.9% |
1,500万円〜2,000万円未満 | 23 | 8.7% |
2,000万円〜3,000万円未満 | 17 | 6.4% |
3,000万円〜5,000万円未満 | 8 | 3.0% |
5,000万円以上 | 3 | 1.1% |
参考:企業内弁護士に関するアンケート集計結果|日本組織内弁護士協会
このように、企業内弁護士の年収は750万円〜1,250万円になることが多く、全体の50%以上に該当します。
平均すると法律事務所で働く弁護士と大きな年収差はありませんが、数千万円以上の高収入の企業内弁護士にはなりにくいと言えそうです。
一方で、年収500万円未満の企業内弁護士もほとんどいないので、安定的に年収を貰いたいと考えている方は、働き方の選択肢の1つに入れても良いでしょう。
弁護士5年目ではまだ年収が上がらない理由
弁護士5年目の年収は500万円前後になることが多く、まだまだ低いと感じている方も少なくないことでしょう。
こちらでは、弁護士5年目の年収がまだまだ低い理由についてご説明します。
弁護士としての経験がまだ浅い
5年目弁護士の業務は、まだ弁護士として1人前の仕事を任せられることも少なく、自分で案件を獲得できる機会もあまりないため、経験値が低いと判断されてしまうことも多いです。
代表弁護士や先輩弁護士の補助をすることも多く、限られた範囲内で経験を積んでいくことでしょう。
弁護士5年目〜10年目あたりが、弁護士として最初のキャリアアップの転換期とも言え、将来的にどうしていきたいかを考えて、現状の仕事内容を変えていく必要性もあります。
より経験を積みたいのであれば、あえて小さい法律事務所に転職した方が最短でパートナー弁護士にもなりやすいです。反対に安定を求めるのであれば、大規模事務所や企業内弁護士に転職する方向性も考えられます。
弁護士業界のおおよその全体像や傾向なども分かりつつある年数でもあるので、ご自身がどのようにしていきたいのかを考え、それに沿った働き方にシフトしていくと良いでしょう。
弁護士の数が増えて競合しているから
まだ年数が浅くて年収が上がらないということもありますが、同年代の弁護士も増えてきていて、転職や案件獲得において競合してしまうことも年収が上がらない理由にも挙げられます。
引用:弁護士白書2022年版
弁護士白書によると、弁護士の人数は年々増加していっていることが分かります。特に2006年の新司法試験制度導入がきっかけで弁護士数も大幅に増加しており、20年前に比べると、弁護士数が2倍にもなっています。
一昔前では、弁護士は希少な存在で、採用するにあたっても相当な高待遇を設けていないと応募すらこない状態でした。しかし、現在では弁護士数が増えたこともあって、弁護士の平均年収が上がっていない原因とも考えられます。
また、好条件の事務所や求人では、優秀な弁護士がライバルとなります。学歴や実績などでのアピールポイントが不足している方は、結果としてキャリアアップや年収アップもしにくくなったと考えられます。
訴訟件数が減少して必要とされる弁護士数が減っているから
弁護士数の増加と反対に、訴訟件数は以前よりも減っている現状があります。
引用:弁護士白書2022年版
特に減少の大きな要因が、過払い金請求のピークが過ぎてしまったことでしょう。これまで過払い金請求で事務所を成り立たせていた弁護士も他の分野に参入しなくてはいけなくなったため、より一層ライバルは増えてしまいます。
また、案件を獲得するために相談料無料や着手金無料などの価格競争に入っていけば、弁護士報酬そのものが下がってしまい、なおさら弁護士の年数が下がってしまう要因にもなり得ます。
5年目の弁護士がこれから年収を上げていくためにできること
5年目の弁護士はまだまだ年収も上がっていく前段階で、これからの頑張りや働き方によって大きく年収を上げていくことが可能です。
こちらの項目では、弁護士5年目を機に、どのようなことに気を付けて仕事に取り組むことが年収アップに繋がるのかをご紹介します。
個人で案件を受けるようにしていく
今の事務所を移るような大きな変化を考えていない方でも、個人受任を受けられるような体制も取り入れていってみてください。
所属する事務所の方針や契約内容にもよりますが、個人受任を受けられるようになれば年収を上げられる機会が増えます。個人受任のお客様から頂いた報酬は自分の収入になり、一部を事務所に収める形になります。
個人受任をする上で、事件分野の選別やマーケティングなども自分で考えて実行する必要性が出てくるでしょう。この経験も、将来の出世や独立などにも大きく役に立つ経験ですので、早いうちから経験しておくことをおすすめします。
また、一から依頼を担当することにもなりますので、やりがいや達成感も今まで以上のものに感じられるはずです。
事務所を移る・転職をする
一般的な職業でも年収アップのために転職をするように、弁護士が事務所を移ることによる年収アップも十分に狙えます。
所属する弁護士への報酬は事務所によって違いますので、いまいちどいろいろな事務所の求人を見直してみることで好条件の働き先を見つけられるかもしれません。
また、5年の経験がある方は、小規模事務所であればパートナー弁護士として採用されることもあり、年収を上げやすい環境に変えることもできるでしょう。
独立開業をする
売上を作れないリスクもあり、必ず年収を上げられるということはありませんが、独立後に成功すれば今までとは比にならないくらい年収を上げられる可能性が出てきます。
実際、弁護士5年目から経営者弁護士になっている弁護士は半数ほどおり、事務所を開業するまでしなくても、大きく働き方を変えて始めるタイミングかもしれません。
独立後の年収は青天井になりますが、案件を獲得・処理できないことで年収が下がってしまうことも起こり得ます。今まで以上に実力によって結果が左右してきますので、しっかり経験を積んだ上で次のステップに進むと良いでしょう。
まとめ
弁護士5年目の年収は500万円前後になることが多いです。まだまだ弁護士としての経験は浅いと判断されやすく、これから年収を伸ばしていくことも十分に可能です。
弁護士の平均年収は約1,100万円ですので、ひとまずは1,000万円以上の年収を目指すと良いでしょう。
また、弁護士5年目になると、業界の動向も徐々に分かってき始める頃です。5年目を機に、事務所の移動や案件の受け方、働き方の変更など、将来のキャリアプランを考え直して何かしらの行動を取っても良さそうなタイミングでもあります。
弁護士の年収を上げていけるかどうかは、これからの10年前後の頑張りで大きく変わってくるでしょう。ぜひ理想とする年収や働き方に近づけるためのキャリアプランを立てていってみてください。