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商社の企業内弁護士への転身は難しい?突破に必要なスキルセットとは

更新日: 公開日:

商社は弁護士の転職先として比較的人気が高い職場のひとつです。では、弁護士が商社の企業内弁護士として転職できる可能性はどのくらいあるのでしょうか?日本組織内弁護士協会が公表したデータ「企業内弁護士を多く抱える企業上位20社」(2022年6月)によれば、5大総合商社のうち「丸紅」「三井物産」「三菱商事」の3社が名前を連ねており、2020年6月版では「伊藤忠商事」も上位20社に入っています。これを見る限り、商社における企業内弁護士のニーズはある程度高いと推測できるでしょう。

※参考:日本組織内弁護士協会|企業内弁護士を多く抱える企業上位20社

ただし、商社の求人全体を見ると求人の量はそれほど多くなく、選考基準も厳しいなど転職難易度は高めです。この記事では、商社への転職を成功させるために必要なスキルセットや確認しておきたいポイント、転職エージェントをおすすめする理由について解説します。

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目次

弁護士の転職先として商社が人気?

商社は弁護士の転職先としてメジャーとまではいえませんが、企業内弁護士を目指す方の中では指名が多い業界のひとつです。弁護士が商社で働くことの主な魅力として、「ビジネスに深く関与できること」「ワークライフバランス」「グローバルに活躍できる」の3つがあります。

ビジネスに当事者として関与できるのが魅力

商社は読んで字のごとく商いをする会社です。チャンスがある場所へどんどん進出して稼ぎ場所を探していくので、ビジネスの面白さを感じやすい業界です。商社の法務部では新しいビジネスの企画・立案の段階から法務部員も参加し、ビジネスの当事者として関与していきます。ビジネスや経済に興味がある方にとって魅力的な職場でしょう。

ワークライフバランスの観点から希望する人も多い

ワークライフバランスの観点から商社を希望する弁護士もいます。法律事務所はクライアントワークなので業務量や業務時間帯のコントロールが難しく、ワークライフバランスは保ちにくい傾向があります。

商社もひと昔前は激務で休暇も取れないといった評判がありましたが、近年は労働環境の見直しが進んでおり、ワークライフバランスは比較的保ちやすくなっています。総合商社では有給休暇の取得率も高く、休暇制度も充実しています。弁護士は法務部に所属するのが一般的なので、事業部と違って突発的な業務が発生するケースは少なく、労働時間も安定しやすいでしょう。

グローバル志向の弁護士からも人気

商社は海外進出や取引を積極的に行っているため、グローバル志向の弁護士からも人気です。法律事務所でも渉外事務所のようにグローバルな仕事ができる場所はありますが、商社の企業内弁護士として働くことで、弁護士という枠にとらわれずにより広い範囲の仕事ができるという利点があります。

弁護士が商社へ転職する難易度

ここで、弁護士が商社へ転職する際の難易度を確認します。一般に商社への転職は難しいというイメージがありますが、弁護士の求人状況はどうなのでしょうか。

商社のインハウス求人はそれほど多くない

商社は新卒採用がメインなので、キャリア採用はもともと数が少ないです。受付期間も限定されていて、求人に出会える時期も限られています。応募できるチャンスはそれほど多くないと思っておきましょう。

法務の募集人数が限られている

商社に限らず法務部は比較的少ない人数で構成されているケースが多く、大量募集することはほとんどありません。求人があっても1名ないし数名の募集なので、ほかの応募者と枠を取り合うことになります。

商社の選考ハードルは非常に高い

商社で採用されるには、応募先の業界知識や扱う商材の専門知識、一定レベルでの実務経験などが必要です。世界をまたにかけてビジネスを展開するので語学力も求められます。また、積極性や主体性、柔軟性や成長意欲など人物特性についてもかなりチェックされます。弁護士であっても同様で、選考のハードルは非常に高いと言わざるを得ません。

商社で働く弁護士の年収相場

弁護士が商社へ転職した場合の年収はどれくらいなのでしょうか。大手総合商社と中小の専門商社で年収には違いがあります。

大手総合商社

大手総合商社は多種多様な商材を扱う商社です。以下は大手総合商社における弁護士の求人例です。年収はおおむね900万~1,500万円で設定されているケースが多く見られました。

  • M&A、事業投資プロジェクト対応等:1,000万~1,500万円
  • 契約法務、M&A等:950万~1,500万円
  • 契約法務、投融資案件の審査等:900万~1,500万円

中小の専門商社

専門商社は特定分野の商材に特化して扱う商社です。独立している中小の専門商社や大手総合商社の傘下にある専門商社などがあります。以下は専門商社における弁護士の求人例です。年収はおおむね500万~950万円でした。大手総合商社と比べると低いケースが多いです。

  • 契約法務、工業所有権の管理等:750万~950万円
  • 事業部からの法務相談、契約法務等:570万~700万円
  • 契約法務、社内法務相談対応等:500万~800万円

商社の法務で弁護士が従事する業務

商社への転職を成功させるには、商社での業務内容について理解を深めておくことも重要です。商社の法務部で弁護士が従事するのは、主に以下のような業務です。

契約書・契約プロセスのチェックやアドバイス

契約法務は商社の法務部におけるメイン業務です。契約書の作成や審査、法的アドバイス、契約書ひな形の整備や契約確認プロセスの整備といった業務を行います。弁護士が営業担当と一緒に契約交渉の場に赴くこともあるようです。

機関法務

機関法務は会社の重要な意思決定をスムーズに行うための機関運営を担う法務です。取締役会や株主総会などの運営、決定後の登記申請、ストックオプションの発行などの業務があります。

事業部からの法務相談対応

事業部からの法律相談を受け、法的な面からアドバイスするのも商社で働く弁護士の重要な業務です。商社は新しい業態をつくりチャンスのある場所へ進出していくというビジネスモデルなので、新規事業の立ち上げや規制のある業界への進出などの際に法的な問題点がないのかを弁護士が確認します。

紛争解決、訴訟対応

自社と取引先企業・国との間で生じた紛争を処理するのも企業内弁護士の役割です。訴訟対応というのは、代理人である弁護士と自社とのやり取りを仲介する業務を指します。取引先などとの訴訟が発生した場合、企業内弁護士が自ら訴訟代理人になる場合もありますが、基本的には企業と委任契約を結んだ弁護士に依頼します。このとき、企業の状況や訴訟方針を正しく伝えることが重要なので、企業内弁護士がその役割を果たします。

社内教育やノウハウの伝授

社内のコンプライアンス研修や教育の企画・講師業務、ノウハウの伝授なども業務のひとつです。弁護士が研修や教育に携わることで、従業員が法律の正しい知識を習得でき、コンプライアンス意識の向上につなげることができます。

社外弁護士との窓口対応

企業内弁護士を置く企業でも、外部の専門家として顧問弁護士はいます。両者の業務は重なる部分がありますが、企業内弁護士では対応できない専門領域や、客観的な視点が必要なトラブル対応など顧問弁護士に相談するケースは多々あります。この際も、企業内弁護士が社外弁護士との窓口になることで、社内事情やトラブルの内容を正確に伝えられます。

自社のM&A

M&Aに関わった経験のある弁護士の場合は、自社のM&Aに関して契約書作成や条件交渉、法務デューデリジェンスなどを任されるケースがあります。

弁護士が商社に転職するために必要なスキルセット

弁護士が商社の法務部へ転職するためには、どんな能力やスキルが必要なのでしょうか。

文章作成能力

商社の法務でのメイン業務のひとつが契約書に関わる業務なので、文章作成能力は必須です。この点は応募書類を通じてチェックされているので、応募書類を作成する際に論理的な文章が書けているのか等を意識してみてください。誤字・脱字や日本語の間違いがないかなどもしっかり確認しましょう。

語学力や国際的な法律問題に関する知識

商社では世界をまたにかけてビジネスを展開します。契約法務ひとつとっても英文は当たり前、英語で交渉をする場合もあります。また国際的な法律問題に関する知識も必要です。たとえば取引先の外国で国境紛争が潜在化している場合は、どこの国でどんな法律問題が発生し得るのかなどを検討しなければなりません。英語や国際的な案件が苦手という人は論外になってしまうでしょう。

法律事務所または企業での企業法務経験

企業内弁護士の求人状況を見ると、応募条件に企業法務経験を挙げている求人が多数です。商社に転職するには企業法務の経験が必須だと思っておきましょう。法律事務所の立場から企業法務を経験したのか、インハウスとして企業法務を経験したのかは基本的に問われません。

ビジネス推進力

商社で弁護士が求められるのは法令を遵守しつつ、利益を生み出すビジネス推進力です。法的リスクの有無を判断するだけでなく、リスクがあるとしてビジネスのためにリスクを取るべきか、取るならどの程度まで取るべきかなどをプロジェクトと同じ速度で判断しフォローしていきます。

商社ではゼネラリストであることが求められる

専門性の高い弁護士業務はアウトソーシングで対応できるため、企業内弁護士には幅広い業務に対応できるゼネラリストタイプが求められます。また弁護士は専門職ですが、企業内弁護士は弁護士であることが価値なのではなく、法的素養があるビジネスパーソンであることに価値があります。法律の知識だけでなく、企画力や構想力、交渉力など多彩な能力を発揮できる人材が歓迎されます。

商社の法務に向いている弁護士とは?

商社への転職を希望するのなら、商社への適性があるのかを確認することも大切です。適性がないのに応募しても失敗する可能性が高いため、ほかの応募先も検討する必要があります。商社の法務に向いているのは以下のような人材です。

ビジネスへの関心が強い人

ビジネスへの関心が強い方は商社の法務に向いています。法律事務所では企業のビジネスを外部から支援しますが、企業内弁護士は当事者として内部からビジネスに関わります。たとえば上場企業への出向経験があるなどビジネスに近い場所で働いた経験がある方は、商社ビジネスのダイナミックさや面白さを理解しており、適性があるかもしれません。

海外を含めた幅広い業務に携わりたい人

商社では多様な事業を展開するので弁護士が関わる業務も広範囲におよびます。国内だけでなく海外のあらゆる国・地域を対象にしたグローバルビジネスもあるため、海外を含めた幅広い業務に携わりたい方にフィットしやすいでしょう。

コミュニケーション能力の高い人

商社ではさまざまな事業を扱うため、法務部でも案件ごとに複数の関係部署と連携を取りながらプロジェクトを進めていきます。日頃から社内外の人とコミュニケーションをはかり、良好な人間関係を構築することが求められるため、コミュニケーション能力の高い方に適性があります。弁護士にもいろいろなタイプの人がいますが、たとえば業界内での人脈づくりを積極的に行ってきたようなタイプには向いているでしょう。

弁護士が商社への転職活動を始める前に確認しておくべき点

商社への転職活動を始めるにあたり、確認しておくべきポイントを紹介します。

商社のビジネスモデルや業界に理解があるか

まずは商社とはどんな会社・業界なのかを理解することです。ビジネスモデルや総合商社と専門商社の違い、扱う商材の特徴など多方面から理解を深めておくことが求められます。そうしないと、なぜ商社の法務部を選んだのか、なぜ法律事務所ではなくインハウスを選んだのか等をスムーズに説明できず志望度が低いと思われてしまいます。また自分に合う転職先を選定してミスマッチをなくすという意味でも、商社や業界への理解は不可欠です。

法律知識の活用場面が限られている点は納得できるか

商社の弁護士は法務担当として、契約書関連業務やコンプライアンス業務などに関わっていきます。一定の法律知識があることは前提ですが、民事事件や刑事事件など法律事務所の弁護士が関わる業務はやらないため、弁護士として得た知識を活用できる場面は限られてきます。

「法律事務所からインハウスへ転職したものの、弁護士としての知識をフル活用できないため物足りなく感じた」といった理由でふたたび法律事務所へ戻る方もいます。商社での業務内容をよく理解してから転職することが大切です。

収入に満足できるか

商社の年収は数ある業界の中でも高い水準にあり、とくに圧倒的な資金力がある総合商社では1,000万円以上の年収になることも珍しくありません。法律事務所で働く弁護士の年収相場は700万~1,000円ほどなので、商社の年収で満足できる方も多いでしょう。

しかしあくまでも会社員として給与をもらう立場なので、会社の給与テーブルが適用され、青天井とはいきません。弁護士の場合、法律事務所との業務委託契約だったり個人受任ができたりと自由度の高い契約が多いので、実力や努力次第ではさらなる高年収も可能です。

また中小の専門商社では年収が500万円くらいになることもあり、弁護士として活躍してきた方からすると物足りない印象かもしれません。収入面について後悔することのないように、満足できる内容なのかよく確認しておきましょう。

大型組織の一員としてやっていけそうか

商社に限らず、インハウスを置くような企業では法律事務所と比較にならないほど多くの人がいます。そのため組織の一員として円滑な人間関係を築いていけるのかなど、組織人としてやっていけそうかどうかは自問自答しましょう。とくに総合商社の場合は完成された大型組織の一員として働くことになり、自分一人で意思決定をすることはほぼありません。

法律事務所の場合、事務所規模にもよりますが弁護士が大きな裁量権を与えられ、自分の判断で動くことも多くあります。組織化された一般企業とはギャップを感じる場面も多々あるでしょう。

年齢的に商社への転職可能性があるか

弁護士に限らず、商社への転職は20代が有利です。商社で働くために必要な柔軟性や発想力、体力などの要件は若い人材のほうが満たしやすいためです。ことさらに年齢を強調するような募集は行わないものの、実際には年齢を気にする採用担当者は少なくありません。30代や40代でも採用される可能性はありますが、即戦力となるだけの経験や知識が必要なのでハードルがぐっと上がります。どうしても商社に転職したいのに早々に諦める必要はありませんが、転職活動を無駄にしないためにも、年齢的に勝機があるかどうかも確認しておきたいところです。

弁護士が商社への転職を希望するなら断然転職エージェントの利用がおすすめ

弁護士が商社への転職を希望する場合、以下の理由から転職エージェントの利用をおすすめします。

商社は求人数が少ないため自力で探すのは大変

商社の求人数は少なく、募集人員数や受付期間も限定されているため、自力で希望に合う求人を探すのは大変です。なかなか希望の求人が見つからずにいつになっても応募できないことも考えられるので、転職エージェントを利用するのがおすすめです。あらかじめ希望を伝えておくことでマッチする求人を探して紹介してくれるため、効率よく求人を見つけられます。

商社は選考ハードルが高いため対策が必要

商社の選考は業界知識や実務経験、人物特性や年齢などさまざまな要件を満たす必要があり、突破するためのハードルは高いです。また商社は収入や雇用の安定感が抜群で人気が高い転職先なので、応募者数が多く、ほかの応募者との競争を勝ち抜かなければなりません。弁護士の場合はなぜ法律事務所ではなく商社で働きたいのかも、しっかり説明しなければならないでしょう。

商社への転職難易度を考えると応募書類の精査や面接対策は必須なので、転職エージェントのサポートを得るのが得策です。転職支援のプロの視点から応募書類の添削、面接対策などを実施してもらえます。

弁護士は忙しい人が多いから転職活動は効率化すべき

転職活動は応募先の選定から企業研究、応募先とのやり取り、選考対策など多くのプロセスがあります。弁護士は忙しい方が多いので、すべてのプロセスを自分一人でするには時間的に難しい場合が多いでしょう。転職活動はできるだけ効率化しないと、いつになっても転職できずに時間と体力だけが消耗されてしまう可能性があります。

転職エージェントを利用することで、応募先の選定や応募先とのやり取りなど多くの部分を代行してもらえます。忙しい弁護士でも現職と並行しながら転職活動を進められるでしょう。弁護士自身は自己分析やキャリアビジョンの設定など応募の核となる部分に集中できるので、選考通過の可能性も上がります。

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まとめ

商社はビジネスへの関心が高い弁護士にとって魅力的な職場です。ただし転職難易度は非常に高いため、転職エージェントに相談したうえで戦略的に転職活動を進めましょう。

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