弁護士は、主に交渉や裁判などを通じて、様々なトラブルを解決したり、企業の顧問として事業活動を支えたりする仕事です。また、人権擁護のために、様々な社会活動をしたりする人もいます。
困っている人を助け、社会の課題を解決するため、法のプロフェッショナルとして、知識やスキルを駆使していく役割を担っています。
他にも、現在は、国会議員として活躍している人、行政機関や企業の中で法務に従事している人、経営者、投資家主など、多種多様なキャリアがあります。
この記事では、弁護士のやりがいについて、一般論から様々なキャリアの例と、それぞれの場合のやりがいについて解説します。
目次
弁護士のやりがいとは|一般民事・企業案件別にみた一般論として
弁護士のやりがいは、どのようなものでしょうか。一般論としては、個人・企業・社会への影響力の高さ、人との関わり、知的な格闘技の3つが挙げられます。
人の人生、社会への影響力が大きい点
最もやりがいとなるのは、業務の遂行の結果がクライアントの人生や事業、社会に対して大きな影響を及ぼす(あるいは及ぼしうる)ことです。
個人のクライアントの場合
人生を大きく変えるきっかけになるようなものでいえば、契約トラブル、離婚、交通事故、相続、多重債務、詐欺被害、労働事件などがあります。
例えば、離婚事件では、クライアントがそれまでのパートナーとの関係を清算し、再スタートを切ることを助けることが仕事です。特にそれをいかにクライアントにとって有利な条件にすることができるがという点が求められます。
多重債務による借金も、破産や再生手続を通じて、困窮で経済生活が成り立たない現状をリセットし、再スタートを切る手助けとなる仕事です。
詐欺被害や契約トラブル、損害賠償請求などは、日々の生活の中で生じた様々トラブルに対し、依頼者が受けている苦痛や不利益を取り除くというやりがいがあります。
企業クライアントの場合
企業をクライアントとする場合にも、多種多様な業務におけるやりがいがあります。
未払いの債権回収のために相手方に対して交渉を行い、場合によっては訴訟を行っていくことが考えられます。個々の取引の利益を実現することで、会社の不利益を防ぐやりがいがあります。
日々の契約書チェックなどを例にとれば、未然に紛争やリスクをコントロール・防止し、あるいは取引を優位に進めるための導線を張ることで、クライアントの利益を最大化していくやりがいがあります。そして、会社の経営資源が奪われるような事態を防ぐため、それを防止する手段を実行することができます。
より社会への影響力という点で見れば、社会問題となっている事案や、社会的な関心を集めるトピック、分野に関する案件であれば、例えば訴訟の中で権利を争い、最高裁まで争うような形で戦っていくことで、判例を塗り替えるなど、社会に広く影響を与えるような仕事をできる可能性があります。
このように、弁護士の仕事には、個人や企業、社会全体に対して大きな影響を与える仕事であり、そこにやりがいがあります。
様々な人との関わりがある
弁護士が関わる案件に制限はありません。
もちろん、個人の力だけでできることは、時間とマンパワー的な限界がありますが、弁護士は職人・プロフェッショナルであり定年はなく、極論一生涯続けていくことができる仕事であるため、生ある限り、様々な案件に対しリーガルサービスを提供する機会があります。
法は社会とそこに生きる人々のためにあることから、人が根本の仕事です。そのため、案件に携わるときは、実に様々な人と関わり、コミュニケーションをしていくことになります。
もちろん、良識・常識を持っていたり、自分と馬が合う人ばかりではありません。自分にとって苦手な人とも付き合わざるを得ない場面、あるいは関わると自分の身に危険が及ぶような人とも関わりをもつことを避けられない場面もあるでしょう。
すべてひっくるめて、人との関わりの中で専門性を発揮し、人や社会に価値を提供していく仕事であることは、弁護士のやりがいの1つといえます。
知的な格闘技と達成感
弁護士の仕事は、スポーツのような側面があります。
裁判では、判決まで経る基本的な例をとれば、法というルールがあり、その下において事実関係に基づいて自分のクライアントを勝たせるため説得的な主張を組み立て、証拠を集めて立証を行っていきます。そして、それに対して審判者である裁判所が判断を下します。
まさに、知力を争う格闘技のようなものであるといえます。
もちろん、裁判の場だけで弁護士の仕事が完結するわけではないですし、法というルールの中での決着が、クライアントにとっての利益となるとは限りません。
クライアントと向き合いながら、事案ごとに決勝点を見定め、そこに向かって必要なミッションを遂げていく側面もあります。そして、最終的にミッションをすべてクリアすると、価値を与えた分だけお金を稼ぐことができ、クライアントから感謝されることになります。
こうした要素により、自己充足・自己実現、社会的な承認欲求が満たされることも、弁護士としての仕事のやりがいを感じる点です。
【2022年最新】弁護士の仕事ってどんなものがある?
今どきの弁護士の仕事には、どのようなものがあるでしょうか。弁護士の数も2022年時点で約4万4000人と言われており、弁護士人口の増加予測シミュレーションによれば、2032年には5万人を突破し約5万3800人になるとされています。
年 | ①法曹三者の総人口 (人) |
②新規法曹資格者 (前年の司法試験合格者数) (人) |
④弁護士人口 (人) |
2019 | 45,868 | 1,487 | 41,118 |
2020 | 46,939 | 1,502 | 42,164 |
2021 | 47,926 | 1,450 | 43,115 |
2022 | 48,961 | 1,500 | 44,091 |
2027 | 54,105 | 1,500 | 48,954 |
2032 | 59,308 | 1,500 | 53,792 |
2037 | 64,205 | 1,500 | 58,491 |
2042 | 68,198 | 1,500 | 62,406 |
2047 | 70,022 | 1,500 | 64,121 |
2052 | 67,796 | 1,500 | 61,844 |
2057 | 64,913 | 1,500 | 58,782 |
2058 | 64,647 | 1,500 | 58,376 |
2059 | 64,385 | 1,500 | 57,921 |
2060 | 64,322 | 1,500 | 57,673 |
2061 | 64,305 | 1,500 | 57,444 |
2062 | 64,318 | 1,500 | 57,240 |
2063 | 64,316 | 1,500 | 57,238 |
2064 | 64,366 | 1,500 | 57,285 |
2065 | 64,366 | 1,500 | 57,285 |
出典:弁護士人口の将来予測(シミュレーション)|日弁連 2020
このような増加に伴って弁護士の仕事も多様化していますが、ここでは法律事務所、企業内弁護士、行政・国家機関などでの働き方の3つについてみていきましょう。
法律事務所での働き方
多くの法律事務所では、様々な法律相談を受けそこから受任に至ったものについて交渉や裁判を通じたリーガルサービスを行う点は、基本的に変わりません。
セミナーや執筆活動などの仕事をする人も、多くなっています。今は、法律雑誌などだけでなく、ビジネス雑誌への寄稿を行う弁護士もいるほか、Webライターとして法律問題に関する様々な記事を執筆している人もいます。
そうした弁護士の執筆仕事も、多様化しています。
仕事の取り方や案件の内容は、事務所の形態や事務所のボスのやり方・方針などによって千差万別です。
法律事務所もWEBマーケティングへの注力が盛ん
最近は、Webマーケティングに注力しているところが増えています。案件の類型ごとにLPを作成し、集客して相談ないし受任につなげる導線を作る点に関しては、伝統的に紹介などによる依頼からの変化があるといえるでしょう。
ニッチな専門分野を開拓
また、ジェネラリストだけでなく、ニッチな専門分野を開拓していく弁護士もいます。ペットに関する事件を専門としている事務所、医療関係だけを扱っているような事務所、エンタメ・アイドル専門の事務所など実に様々です。
ジェネラリストとして、雑多の事件を取扱う中で1個か2個くらい専門とする分野を持つようなパターンだけでなく、1つの道の最先端・第一人者となっていくこともできます。
企業内弁護士での働き方
企業内弁護士の場合、働き方としては、弁護士が入っていく企業にバリエーションが現れはじめていることが挙げられます。
法務部を抱える必要性があるような大規模な企業だけでなく、最近は、IPOを目指していくユニコーン企業が増えたほか、通常のベンチャー企業でも法務に注力をする傾向が出てきています。
また、ベンチャー企業では、弁護士の収入自体は法律事務所で働く場合と比べて低くなる傾向にあるものの、収入よりはWLB、やりがいを求めていくというケースも増えています。もっとも、ベンチャー企業でも、法務を重視しているところは、年収400~500万円を用意する場合もあるため、一概にベンチャー企業が安請け合いである、という傾向ではないといえます。
そのため、ベンチャー企業でのインハウスロイヤーとしての働き方も増えているのが、最近のトレンドです。
行政・国家機関での働き方
地方公共団体や国家機関、その他の行政法人に入る働き方もあります。
国家機関のレベルでいえば、省庁が積極的に任期付公務員としての出向として、弁護士の募集案件が増えています。
弁護士としては、専門分野の開拓と深化を図ることができますし、省庁内部の動きを知ることにより、改めて法律事務所に戻ったときに、特に企業法務の場合はクライアントへのアドバイスに活かされる相乗効果があります。
地方公共団体のインハウスローヤーも、地方創生や地元貢献をする働き方です。
このように、安定的な働き方を求める場合や、より社会公共へのリーガルサービスを志向する働き方があります。
企業法務・総合事務所・刑事事件における弁護士としてのやりがい
法律事務所、企業内弁護士、行政機関等での弁護士の働き方をみてきましたが、それぞれどのようなやりがいがあるでしょうか。
法律事務所に関しては、企業法務系事務所と、総合型・街弁の場合、そして刑事弁護特化型の事務所の3つに分けてみていきます。
企業法務系弁護士のやりがい
企業法務系事務所では、たとえば、大手で言えばやはりスケールの大きな案件に携わることができたり、先端ビジネスの案件など、業界の先を行く事案に関わる可能性があることが、やりがいとして挙げられます。
そして、大手事務所では、著名な弁護士や輝かしい実績を誇る弁護士の方と多く関わる機会があることも、やりがいとして挙げられるでしょう。
また、事務所から独立した人とのコネクションも作ることができ、新しい挑戦をしている弁護士と一緒に仕事をするチャンスを掴みやすいことも、大手事務所の魅力といえます。
中堅事務所やブティック系事務所でも、相当程度大きな案件を持っていたり、専門分野に特化した仕事をすることができるやりがいがあります。
また、法律事務所であれば、利益相反による制限はありますが、顧問として様々な企業のビジネスに関わっていくことができる可能性があることも、やりがいとして挙げられます。
総合型事務所、街弁のやりがい
総合型事務所や街弁の場合は、特定の専門分野に特化しているような場合(ブティック系)を除いて、個人・法人を問わず、多種多様な案件に携わることができます。
そのため、様々な形で悩みやトラブルを抱えているクライアントに対してリーガルサービスを提供できることが、やりがいとして挙げられます。
少なくとも5人から数十人以上で相当程度弁護士の人員数がある総合型事務所の場合にフォーカスすると、ボリュームの多い案件の分野ごとにチームを組んで案件処理に取り組んだり、個人でも専門性を追及することができるやりがいがあります。
また、多くの支所を有する弁護士法人の場合、支所での業務に取り組むことができるチャンスもあります。支所での業務を通じて、リーガルサービスが行き届かない地域での法務の担い手になるやりがいがあります。
ひいては、資金を集めることなく、事務所の資金で独立して、経営者弁護士になることができるのも、やりがいといえるでしょう。
小規模の街弁の場合は、少数精鋭的にチームを組んで、密な人間関係のもと仕事をすることができ、基本的には個人受任も制限されていない場合が多いため、案件も自分の裁量で取りやすい傾向です。
経験さえ積んでくれば、自分の裁量・意思で案件を処理することができるのが、1つのやりがいとえいます。
刑事弁護系事務所のやりがい
刑事弁護に特化した事務所の場合は、民事とは異なったやりがいがあります。
それは、法廷弁護にコミットすることができる点です。刑事事件では、不起訴処分を勝ち取っていく側面もありますが、基本的には公判弁護まで至るケースがほとんどです。
そのため、捜査弁護から公判弁護まで、刑事司法における人権擁護の担い手として、また法廷弁護士として業務を行うやりがいがあります。
企業内弁護士(インハウスローヤー)のやりがい
企業内弁護士は、法律事務所での働き方と比べて、WLBを取りながらの仕事がしやすいです。そのため、プライベートとのバランスを保って仕事ができる点にやりがいがあります。
そして、ビジネスサイドでの業務にコミットできることが、企業内弁護士のコアとなるやりがいです。なぜなら、法律事務所でアドバイザー的に関わる立ち位置では、ビジネスのプロセスの全体に関わる機会が限定的であるからです。
反面、企業内弁護士であれば、社内の人と日常的にコミュニケーションを取りつつ、また業務の進捗や経営状況を常に把握でき、業務の内容をビジネスジャッジに接近する側面があります。
そのため、企業内弁護士は、法務の専門性を活かしてビジネスジャッジに関わる業務がある点で、やりがいがあります。
行政機関のやりがい
行政機関では、企業内弁護士と同様に、WLBの安定とともに、収入の安定も期待できます。
そのほか、公共政策に関わる分野であることから、やはり法務として関わる内容が、個々人や法人レベルだけでなく、社会公共に関わる点で特有のやりがいがあるといえます。
弁護士の活動領域はどんどん広がっている!
そして、弁護士の活動領域が広がっており、弁護士のやりがいが広がっているといっても過言ではありません。
企業法務の幅広さ
まず、企業法務も、企業内弁護士のキャリアが、「法律事務所か、インハウスか」という大きな選択肢ができる程度に一般化していることから、とても幅広いキャリアが生まれています。
そして、企業法務の中の分類も、多様化しています。業界や企業の規模ごとに、関わることができる法務の内容や、その幅も異なり、非常に選択肢が広いのが現代の企業法務の特徴です。
興味がある分野の中でジェネラルな業務として法務に関わることもできますし、法務として専門性・強みがあるところを徹底的に分析して、限定的な期間の中で、プロジェクトベースで法務に関わることも考えられます。
そのようなカスタマイズの可能性があるところが、企業法務の面白さといえます。
国際機関
様々な国際機関で活動するやりがいもあります。例えば、JICA(国際協力機構)では、東南アジアを中心に法整備支援活動が行っています。
参考:JICA法整備支援に関するポータルサイト|JICA
法のシステム構築が不十分な国に、法のシステムを輸出していくような形です。そうした活動も、国際的な弁護士の活動としてやりがいがある分野といえます。
委員会活動等の課外活動への参加もやりがいのひとつに
弁護士は、弁護士会の活動としての委員会活動のほか、部活やサークルのようなものがあります。そのような課外活動の楽しみを持つことができることも、やりがいです。
委員会活動
弁護士会の委員会活動に参加することも、弁護士のやりがいの1つです。新規登録弁護士であれば、最低1つの委員会に所属することとされいます。
委員会活動は、弁護士会によって様々あります。基本的には、業務の分野ごとに委員会や部会、プロジェクトチームなどが結成されています。
しかし、その他にも、筆者が所属する愛知県弁護士会では、弁護士の業務改革に関する委員会、公害防止・環境保護に関する委員会など、より社会的な側面から活動していくものがあります。
こうした委員会活動の中で、弁護士業務だけでなく、より社会に目を向けた活動をすることができるという点もやりがいです。
部活・サークル
弁護士業界では、自主的な組織として部活やサークルがあります。業務に関わるような活動ではないですが、弁護士同士のコネクションやナレッジ共有、相談の場としても活用していくことができます。
このような弁護士の同士のつながりで、コミュニティ形成できることも、弁護士としてのやりがいともいえます。
筆者が考える弁護士のやりがい3つ
最後に、筆者が考える弁護士のやりがいについて3点、簡潔に述べたいと思います。
自分のやりたいことができること
すでに何度か触れていますが、自分のやりたいことができること、自由業であるということが、やはり弁護士としての一番のやりがいであるのではないかと思います。
弁護士は資格であって、それが目的ではありません。
法の専門家としてのスキルを実社会の中で、そして国家権力に属することなく活かすことができる立場であることは、弁護士の可能性であり、やりがいを生み出していける源泉といえるでしょう。
人や社会を変革するやりがいと責任
冒頭でも触れましたが、人や社会を変革していくことができる力があるのが、弁護士のやりがいです。
しかし、筆者は、そこに責任が伴うことがさらにやりがいであると考えています。それは、単に私利私欲のために法を使うのではなく、本当に人や社会のためになることは何かを考え、それを法のロジックを用いて形にできること、それが弁護士のやりがいなのではないかと思います。
弁護士業以外の領域でも活躍の仕方を創れること
筆者は、弁護士は、弁護士業の枠にとらわれることなく価値を生み出すことができるということが、やりがいであると考えています。
弁護士の資格があれば、弁護士業務として法律事務を独占して行うことができます。しかし、弁護士が増えた今、その担い手はたくさんいますし、弁護士として生き残っていくためには、より差別化して固有の価値を生み出していく必要があります。
そこの中で、弁護士はその弁護士業の中でのみ仕事をしなければならないのではなく、全く持って自由であることがやりがいではないでしょうか。
起業するもより、投資家になるもよし、どんなことにも挑戦することができ、その挑戦を後押しするのが、自ら鍛えた法的思考とそれをあらゆることに転用していくスキルであると思います。
まとめ
弁護士のやりがいは、自ら創り出していくことができます。
法律事務所だけでなく、様々な領域と立場で、法の知識と思考を活用していくことができます。その可能性を無限に活用することができるのが、弁護士のやりがいの本質的な部分です。
この記事が、弁護士の仕事が、自分で可能性を広げ、自分次第で個人の生活や社会をよくしていくことができるものである、ということを知るきっかけになれば幸いです。