【取材協力】かえる™
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Twitterの匿名相談サービス『Peing(ペイング) -質問箱』で、弁護士を目指す多くの司法修習生や転職希望の弁護士へ回答していることで話題に。現在某メーカー企業にてインハウスローヤーとして勤務。
インハウスローヤーを目指したきっかけ
編集部:本日はお忙しい中ありがとうございます。早速いろいろとお聞かせいただければと思います。K先生がインハウスローヤーを目指されたきっかけを教えてください。
K先生:とある講師の方(インハウスローヤーとして活躍)の講演を機に、インハウスローヤーに対する憧れを抱きました。
当時、インハウスの美点はワークライフバランス(だけ)であると語られることが多く、私がインハウスローヤーに対して漠然と抱いていた印象も「外部の事務所に依頼するほどではない業務を社内の法務部で処理する職業」というくらいのものでした。
ところが、講演ではワークライフバランスがどうというよりも、仕事の面白さという観点からのお話が多く、重要かつ機微な契約についてはむしろ自社の業務内容やビジネスポリシーを知悉する法務部が直接外部との折衝を担当し、ある側面では法律事務所が一般に扱う企業法務よりも先端的な業務に触れることもあるという魅力を知ることになりました。
編集部:実際に今やりがいを感じる仕事はいかがでしょうか?
K先生:大きなプロジェクトにアサインされると、今まで目にしたことすらないような特殊な類型の契約書のドラフティング業務を振られることがよくあります。
そのような今持っている知識や経験、書籍から得られる情報のみでは対応できない業務は、暗中模索ながらも知らないことを知り、何もないところに道を付けることができる楽しさに意欲を持って取り組むことができますし、単純に自己研鑚の機会にもなるのでやりがいを感じます。
~インハウスローヤーへ~就職活動について
編集部:就職活動を開始した時期はいつ頃でしたか?
K先生:司法修習直前期、11月頃からです。実はサマクラも5回ほど参加していました(ロースクール卒業年に)。サマクラでは契約書レビューを含めていろいろなことを経験させていただいたのですが、結果としては法律事務所の雰囲気や業務内容が自分には合わないかもという印象を強めることになりました。
もちろんここに関しては向き不向きのところが強く、あくまで私の場合は、ですが。
編集部:なるほど。ではK先生の場合は法律事務所への就活はされなかったんですね。企業へは何社くらい応募されたのでしょうか?
K先生:そうですね、法律事務所へはエントリーしませんでした。企業には20社ほどエントリーしました。面接に至ったのは5社です。
人事部の方との面接と法務部の方との面接が各別に行われることが多かったですね。 企業によっては、一般的なSPIや英語力を測るオリジナルのペーパーテスト、その場で英文契約書をレビューさせるような実務能力を測るテストなどが行われることもあります。
英語系のペーパーテストはいずれもとても難しく、冷や汗が出たのを覚えています笑。
編集部:求人を探すときは転職エージェントを使ったのでしょうか?
K先生:doda、MSジャパン、ジュリナビキャリアを使っていました。 もともと知っていたのは、ジュリナビキャリアのみでした。ネットで「法務部 求人」で検索したときにでてきた求人票をベースにエージェントの登録をしていきました。
受けたい企業ありきで、必要に応じて登録する感じですね。
現在のお仕事について
編集部:K先生の普段の業務を教えてください。
K先生:契約書レビューやドラフティング、プロジェクトのリーガルサポート、社内教育(コンプライアンス研修)、訴訟などですね。
編集部:今一番大変な業務は?
K先生:進行中の案件なんですが、多国間での契約書のやり取りがある業務ですね。 打ち合わせなどは英語が基本で、さらに第三言語で付されたコメントを英語に翻訳し、契約書をドラフティングしていったりもするので、英語のみならず多種言語を取り扱う点で苦労しています。
編集部:インハウスで働くとなると、英語は結構使うイメージなんでしょうか。
K先生:弊社では、面接の段階で英語を使うという話がありました。業界を選べば、英語を使わない企業もあると思います。ただ、語学能力が高ければ高いほど応募できる求人の数が増え、インハウスローヤーとしての市場価値が高まるのは間違いないと思います。
編集部:達成感を感じる瞬間は?
K先生:難しい契約書のレビューやドラフティングを通じて大きなプロジェクトをサポートできたときにはもちろん達成感を感じますが、実は、社内での法律相談などを通じて、依頼部署の方から直接感謝の言葉をいただいたときが一番うれしいような気もします。
編集部:なるほど!逆に一番つらいポイントはなんでしょうか?
K先生:正直ないです。とにかく今の職場は環境もよく、楽しく仕事をしています。めぐり合わせに感謝ですね笑。
編集部:インハウスローヤーとして将来的なキャリアビジョンを教えてください!
K先生:マネジメントというよりは、できれば現場で法務スペシャリストとしてキャリアを磨いていけたらなと思います。 社内で一番知られている法務部員として事あるごとに頼られるような、そんな存在になりたいですね笑。
インハウスローヤーについてのQ&A
編集部:インハウスに向いている方(向いていない方)というのはどんな人でしょうか?
K先生:あくまで一個人の意見として捉えていただけたら幸いですが「プライドが高過ぎる人」は向いていないのではと思います。 新人インハウスの提出した契約書のドラフトは、それがどれだけ時間と労力を掛けて作ったものであろうが、だいたいは上司や先輩の筆が入り、真っ赤になって返ってきます。
それに対して、反射的にエビデンスを並べて反論したくなるタイプの人は、インハウスとして仕事をするうえでいろいろとストレスを感じることが多いかと。 「自分の言い分が正しいから言い勝とう」よりも「相手の言い分が正しいかもしれないから少し考えてみよう」という発想が先に来る人のほうが仕事がしやすい環境のように思います。
単純に法的側面についてだけ考えれば済む話であればたしかに新人インハウスの起案したドラフトのほうが正確かつ公平な場合もあるかもしれませんが、上司や先輩による修正というのは、自社のこれまでの歴史、業務内容、ビジネスポリシー、他部署との関係性や社内人事の機微、取引先との関係性や経緯、個人的な教訓事例など膨大な暗黙知を背景に持つ修正なんですよね。
なので、一見これまでの学びや経験に反するようなことに出会っても、ひとまず物事を素直な気持ちで柔軟に受け入れることができる、そんな方はインハウスに向いていると思います。
もちろん、業務を依頼する立場としては、能力に裏打ちされた高いプライドを持っておられる先生は魅力的ですし、そういった先生に入っていただくときは大変安心しますので、「プライドが高過ぎる」という資質は法律事務所で働く上ではむしろ有用なのかもしれません。
編集部:これからインハウスローヤーを目指したいという方には何が必要でしょうか?
K先生:能力面で何かが必要というよりは、どちらかというと人格の部分で、企業の風土にマッチするかどうかというところの方が重要なのではないかと思います。
ただ、企業法務の経験があるということはもちろんプラスの方向で考慮されると思いますので、1件でも扱ったことがあれば、それを強くアピールしたほうがいいとは思います。
編集部:インハウスローヤーは業界ごとにどう違うのでしょうか?
K先生:私はインハウスとして一社しか経験していないので、あくまで就活中に得た情報や友人のインハウスから伝え聞いた話を総合すると、なのですが、業務内容は当然ながら業種次第で、たとえば金融業界であれば企業法務系事務所のファイナンスチームに近い業務内容になってくるのかなと思います。
待遇については、業界によって変わるということはあまりなく、それよりも大企業なのかそれともベンチャー企業なのかという点で待遇面に差が出てくるのではないでしょうか。
さらに言えば、チーム法務なのか一人法務なのかで業務負担量は大きく違うと思います。 この点は自分の働き方の好みに合わせて選べばよいと思います。
編集部:法務部にすでに有資格者がいるかどうかでなにか変わりますでしょうか?
K先生:そうですね、私の場合、部内にすでに有資格者の方がおられましたので、弁護士会費や義務研修、刑事国選など弁護士特有の事情についてかなり柔軟に理解を得ることができ、ありがたかったです。
他方、 その有資格者の方は日常的に言葉を交わす立場の方ではありませんので、業務上は有資格者の方のいない法務部で過ごしていることになりますが、特に不便を感じることはありません。
部内に有資格者の先輩のいる友人のインハウスローヤーによると、要件事実等法曹には理解しやすい概念で説明を受けることができているそうで、それは先達のいることの美点のひとつだなと思います。
編集部:最後に就職活動中の弁護士/修習生へ、メッセージをお願いいたします・・・!
K先生:インハウス志望であることを広言していた修習生時代、法務部での業務を「毎日毎日山のように来る似たような売買契約書を機械的に修正してはメールで打ち返すだけの法律事務所の下請け的な低レベルのつまらないお仕事」と思っている先生から「選択間違えてるよ」と言われて落ち込んだこともあります。
でも、弊社法務部は、企業体やそこに属する人々が直面する法律的な(ときには法律的ですらない)困りごとがとりあえず持ち込まれ、毎日毎日違う人と出会い、違う困りごとと出会い、違う解決方法を探して奔走し、違う結末を見ることのできる大変ドラマティックな部署で、書籍の1冊もないような先端的な分野でビジネスの最前線に立って自社の利益を代表して国内外との契約交渉に臨むこともままあり、今、私は「こんなに面白い仕事をファーストキャリアにするなんて当時の自分は修習生の割には正しい選択をしたものだなあ」と思っています笑
インハウスローヤーは法務部員として自分の知識や経験や資格をフルに活かせる職場で規模感のある仕事を任され、事業部門との連帯感を持って働ける一方、弁護士として世を渡り歩く楽しさも味わえる、とってもお得な職業だなと思います。
ご興味のある方はせっかくの資格を活かしてぜひ人生に一度はインハウスローヤーの世界を覗いてみてください。
【編集後記】
『NO-LIMIT(ノーリミット)』は、弁護士専門の転職サービスです。弁護士業界に詳しいキャリアアドバイザーが面談で詳しく伺い、一人ひとりの強みを引き出すお手伝いをします。
また、事務所・企業内の内情だけではなく、面接で重視されるポイントや履歴書の添削、どのような人がプラス評価・採用されているかなどの情報をお伝えすることも可能です。
転職活動に迷ったら、まずはNO-LIMITにご相談ください。