弁理士と聞いてどのような仕事を思い浮かべるでしょうか?

中には「弁理士はどんな仕事をする人かよく分からない」と感じている方もいるかもしれません。

弁理士とは、人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物などのうち法律で保護された権利(知的財産権)を守るために活動する専門家ですが、そのように言われてもピンとこない方も多いでしょう。

そこでこの記事では弁理士という職業に着目し、仕事内容や弁理士のなり方、将来性や求められるスキルなどについて解説します。

弁理士とは

まずは弁理士とはどのような職種なのか弁理士の概要を解説します。

弁理士は知的財産分野の専門家

弁理士とは、知的財産に関する専門家のことをいいます(弁理士法第1条)。知的財産とは人間の創造的活動によって生み出される、財産的な価値をもつ創作物やアイデアのことです。発明・考案・意匠・著作物・商標・商号などさまざまなものがあります。

知的財産の創作者がもつ権利(知的財産権)は一定期間保護されます。弁理士は知的財産権の保護や活用に寄与し、経済や産業の発展のために働くことを使命としている国家資格者です。特許法や商標法など知的財産に関する法律を扱う法律家でもあります。

知的財産権の種類

知的財産権は、特許権・実用新案権・意匠権・商標権の4つを指す「産業財産権」に、著作権や育成者権などが加わったものです。

知的財産権の例

・意匠権……製品や建築物の外観や内装、画像のデザインなどが保護されます。(例)家電製品の外観やアプリのアイコンなど

・特許権……比較的程度の高いアイデア(発明)が保護されます。(例)長寿命の充電池や消せないボールペンなど

・実用新案権……発明ほど程度の高くないアイデア(小発明)が保護されます。(例)日用品の構造を工夫した便利グッズなど

・商標権………自分が扱う商品・サービスを他人のものと区別するためのマークや文字が保護されます。(例)会社や商品のロゴなど

・著作権………文芸・学術・美術・音楽の中で作者の思想や感情が表現された著作物が保護されます。(例)音楽や書籍、コンピュータープログラムなど

弁理士に向いている人

弁理士は専門性の高い職種なので、向き不向きはわかれるといっていいでしょう。弁理士に向いているのは次のような考え方や特性がある方です。

  • ・特定の分野で活躍したい希望がある
  • ・新しい技術や発明に触れたい
  • ・研究開発経験がある
  • ・法律に興味がある
  • ・最新の技術や法改正に対応するため日々勉強し続けられる
  • ・地道な作業や長時間のデスクワークを苦手としない
  • ・スケジュール管理能力が高い

弁理士の仕事内容

では弁理士は具体的にどのような仕事をするのでしょうか?仕事内容も見てみましょう。

知的財産権の取得サポート

せっかく創造物やアイデアをもとに資金を投入して商品を開発しても、第三者が勝手にマネをして利益を得ては、創作者や権利者は納得できないでしょう。自分たちがその創造物やアイデアを利用できなくなり、利益も得られずに困ってしまいます。

しかし特許庁へ出願の手続きをして知的財産権を取得しておけば、創造物やアイデアなどの成果物が守られます。このようなときに創作者・権利者の代理人となり出願・登録の手続きをするのが弁理士の大きな仕事であり、弁理士にしかできない独占業務です。

  • ・どのような技術やアイデアなのか
  • ・出願しようとする権利が他社の権利を侵害していないか
  • ・どのような形で世の中の役に立つのか
  • ・どうすれば広い権利が取得できるのか
  • ・どの権利を守るのか
  • ・どのように権利化するのか

これらを考えて書類上で言語化し、特許庁へ申請するのが弁理士の主要業務です。

特許庁の審査への対応

特許を出願したが特許庁の審査を通過しなかった場合には、特許庁から登録を拒絶する旨の拒絶理由通知が届きます。この場合に通知内容を検討し、意見書の提出や審査官との面談など適切な対応をするのも弁護士の役割です。

拒絶理由が解消されない場合も、弁理士が状況に応じて審判の請求をおこないます。

知的財産権の侵害に対する対抗

無事に知的財産権を取得した場合でも、故意にあるいは知らずに、自社製品を模倣するなどの権利侵害をする人がでてくる場合があります。そのようなときに適切な対抗手段をとらなければ市場が奪われ、本来であれば得られるはずだった利益を得られなくなってしまいます。

そこで弁理士が代理人となり権利を侵害する者に対して警告書を送る、製造取りやめを求める差し止め請求をする、損害賠償請求をするなどの方法で対抗します。

そのほか

ほかにもたとえば次のような仕事があります。

  • ・保有する技術を標準化(日本産業規格や国際標準化機構による規格など)したい場合の戦略の立案、規格提案の作成、標準会議への参加・交渉のサポートをする
  • ・企業間契約やトラブルに関する相談・対応を実施する
  • ・審判の決定の取り消しを求める際に一定要件のもとで弁護士と共同で訴訟代理人となる
  • ・他社の特許状況の確認(企業内弁理士の場合) など

弁理士になる方法は?

弁理士になるには原則として、年に1回実施される弁理士試験に合格し、実務修習を修了したうえで弁理士登録をしなければなりません。またこれ以外にも弁理士になるための方法が2つあります。

弁理士資格を取得する

弁理士資格を取得するもっとも王道の方法は「弁理士試験を受験し、合格すること」です。これ以外には「弁護士資格を取得する方法」と「特許庁に就職し、審判官または審査官として通算7年以上の実務経験を積む方法」があります。

いずれの方法でも経済産業省の指定機関が実施する実務修習を修了し、晴れて弁理士登録ができるようになります。

ただ、ご存じの通り弁護士資格を得るには文系最難関の司法試験を突破する必要があり、弁理士試験以上に高いハードルが待ち構えています。また特許庁に就職するには国家公務員採用試験を突破する必要があり、これも極めて高い倍率です。

さらにそこから実務経験が7年も必要です。そのためすでに弁護士資格をお持ちの方や特許庁にお勤めの方など限られたケースを除き、まずは弁理士試験の突破を目指すというのが一般的です。

弁理士試験を受ける方の多くが、働きながら受験しています。令和元年度合格者の内訳を見ると会社員が46.1%、特許事務所勤務者が34.5%と、全体のおよそ80%が仕事をもっていることが分かります。

参考:特許庁|令和元年度弁理士試験の結果について

「特許事務所で実務経験を積みながら弁理士資格を取得する」「メーカーの研究職や知財部で働きながら弁理士資格を取得する」といったケースが一般的です。

弁理士試験の概要

弁理士試験は年に1回、短答式・論文式・口述の3種類の試験が実施されます。短答式は正確な知識を問われ、論文式および口述は知識の応用力を問われます。

例年の試験のスケジュールは次のとおりです。

  1. ・短答式:5月中旬~下旬
  2. ・論文式:6月下旬~7月上旬
  3. ・口述:10月中旬~下旬
  4. ・最終合格発表:10月下旬~11月上旬

なお、令和2年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で日程が大幅に変わりました。令和3年度以降の試験については、その都度特許庁のホームページなどで確認してください。

受験資格はないが理系有利

弁理士試験に受験資格はないため誰でも受験できます。学歴や年齢、国籍などは一切関係ありません。令和元年度試験の合格者は最年少が20歳、最年長が76歳でした。もっとも、未成年者は弁理士試験に合格しても制限行為能力者にあたるため弁理士登録できません(弁理士法第8条9号)

未成年者が合格した場合は成人するのを待ってから登録するということになります。

ただし学歴は問われないものの、実際に弁理士になるのは理系学部出身の方が多いとされています。合格者の出身校系統を見ると、理工系が78.2%、法文系が17.3%、その他が4.6%です(令和元年度合格者)。

これは弁理士の主要業務として技術的な内容を含む申請書類を作成するためであり、理系出身の方が専門とする分野だからです。

参考:特許庁|令和元年度弁理士試験の結果について

転職活動においても実務経験が重視されるので、理系出身でメーカーなどの技術開発部で働いていた方が弁理士へ転職するケースは珍しくありません。文系の場合は弁理士試験の合格自体は可能ですが、転職となると、どの程度の実務経験があるのかという点に大きく左右されます。

弁理士試験の合格率や難易度

弁理士試験の合格率は年度によって多少の変動があるものの、おおむね6~8%です。令和元年度は受験者3,488人に対して合格者は284人、合格率は8.1%でした。

参考:特許庁|令和元年度弁理士試験の結果について

合格率が1桁台の試験というのは、少なく見積もっても年間1,000時間以上の勉強量がないと厳しい試験です。1年での合格を目指す場合に1日換算すると約3時間で済む計算ですが、ほとんどの方が企業や特許事務所で働きながら取得するので、実はそう簡単ではありません。

残業が長引いた日も仕事でヘトヘトに疲れた日にも勉強しなければなりませんし、休日もほとんど返上となるため家族や恋人などの理解も必要となります。

弁理士の場合は、まったく知識がない状態から始めると3,000時間の勉強が必要だとの指摘もあります。弁理士の学習内容が難しいのはもちろんですが、短答・論文・口述の3段階からなる試験制度も難易度を上げる要因となっています。とくに論文式は知識の応用となり論理的思考とそれを書き起こす能力が必要になるため、付け焼き刃の知識では対応できません。

このように弁理士試験は難易度が高く、勉強時間も多く必要であることから、資格予備校や通信講座などを利用して受験勉強をしている方が多数です。

弁理士の将来性は高い?低い?

弁理士の将来性は高いとも低いともいえないのが現状です。以下で弁理士の将来性について検証していきます。

弁理士人口の推移

弁理士の人数は、ほかの士業と同じように年々増加しています。平成12年には5,000人に満たなかった弁理士数が、平成30年には1万1,351人と倍以上に増えています(登録抹消者数は235人)。当然ですが、人数が増えるほどその中で弁理士の仕事を奪い合うことになるため、人数だけでいえば弁理士の将来性は厳しいといえそうです。

引用元:特許庁|弁理士試験の実施状況

国内の特許出願数

日本国内の特許出願数はやや減少傾向にあります。「特許庁ステータスレポート2020」によれば、国際特許出願件数を除く特許出願件数は、2010年に34万4,598件だったのが、横ばいまたは微減を経て、2019年には30万7,969件にまで下がっています。

国内の特許出願数が減少傾向にあるのは、日本企業が特許出願にかかるコストを削減したいと考えているのがひとつの要因です。ちろん弁理士の仕事は特許出願業務に限られませんが、弁理士の人数が増加している状況の中で主要業務である特許出願数が減っているという現実には目を向ける必要があるでしょう。

参考:特許庁ステータスレポート2020|特許出願件数

世界の特許出願数

一方で、世界の特許出願件数は2009年には185万6,000件だったのが、2018年には332万6,000件にまで増加しています。中国や米国をはじめとする海外での知的財産権の権利化や技術保全に関する対策ができる弁理士、つまりグローバル化を見据えた弁理士というのが、将来性を高めるうえでひとつの鍵になるでしょう。

語学はもちろん、各国での法律の知識も不可欠です。

AIの台頭からみる将来性

弁理士の仕事のうち書類作成業務はAIに代替されやすい業務のひとつです。しかし弁理士の主要業務である明細書作成業務は法律の知識と文章力が問われる複雑な業務なので、AIでは代替が難しいとされています。

この意味では弁理士の業務はAIの台頭によって取って代わられる業務とはいえないでしょう。

一方で、AIの台頭による弁理士業務への影響はゼロではありません。調査や翻訳業務のようにAIが得意とする分野では弁理士の業務内容や幅が大きく変わってきており、単価も下がっているため、将来性に不安が残る要因となっています。

これらの事情を踏まえると、AIの台頭によって淘汰されていく弁理士もでてくるでしょう。反対に、AIが台頭する中でも活躍する弁理士は年収も上がるなど、二極化が進む可能性があります。

弁理士に求められるスキルとは

弁理士には知的財産分野に関する知識や法的知識、実務遂行能力が求められます。ただしこれらは弁理士として当然に保有しているものなので、以下ではそれ以外に求められるスキルを確認しておきましょう。

論理的思考と文章に書き起こす能力

弁理士には、技術・製品の特徴やどの部分を特許出願するのかなどを、明細書と呼ばれる書類にまとめる能力が求められます。特許を出願するのは新しい技術や発明なので、まずはそれをどのように権利化するのか等を考える論理的思考が必要です。

次に新しい技術や発明を第三者が見ても理解できるよう細部にわたり正確な言葉におこし、論理的にまとめる高い文章力が求められます。

語学力

昨今は弁理士に語学力が求められるケースが増えてきました。とくに国際出願案件を扱う特許事務所などに勤務する場合は、語学力は必須です。特許事務所への転職では英語文の翻訳試験が実施される場合もあります。

英語と中国語の需要が高く、正確なコミュニケーションができるだけの語学力というレベルが求められます。

コミュニケーション力・交渉力

弁理士はクライアントの代理人となって、または自社のために特許出願や訴訟対応等をおこなうため、相手との良好な関係作りが不可欠です。それにはコミュニケーション力や交渉力が求められ、次のような点につなげる必要があります。

  • ・発明の内容を理解する
  • ・クライアント(または他部署)の立場や理解度などを判断する
  • ・実務に必要な情報を聞き出す
  • ・出願の効果や登録のために何が必要なのかを理解してもらう
  • ・交渉をまとめる

弁理士は調査や書類作成などで1日中デスクワークをすることも多い仕事ですが、同時に高いコミュニケーション力が必要である点は覚えておくべきでしょう。

弁理士の働き方や活躍の場所

ここからは、弁理士の働き方や働く場所について見ていきましょう。

特許事務所で働く

弁理士の働き方には主に2つがあります。1つは特許事務所や法律事務所などの士業事務所で働く方法です。

特許事務所では産業財産権の取得や明細書の作成、訴訟・裁判外紛争解決手続き、契約関係などをおこないます。個人の特許出願をサポートする場合もありますが、基本的には企業がクライアントになるケースが多いでしょう。

また特許事務所といっても雇用される場合と自身が独立開業する場合があり、どの立場なのかによって働き方も変わってきます。

企業内弁理士として働く

もう1つは企業内弁理士として働く方法です。メーカーの法務部や知的財産部に所属し、自社の権利化や係争対応などの業務をおこないます。

知的財産部があるのは多くが大企業です。そのためもともとの給与が高く、昇給や福利厚生もあります。歩合制などを導入する特許事務所と比べて、福利厚生や給与が安定している企業内弁理士の人気は高まっています。

そのほかの働き方

そのほかのケースとしては、弁理士には研究技術経験が活きるため、メーカー等の研究者として働く方法があります。ほかにも特許庁で働く方や大学や研究機関で働く方もいます。

知財コンサルタントとして活躍する人が増えている

知財コンサルタントとは、知的財産に関する知識を活かしながらクライアントへ経営にまつわるアドバイスをおこなう人のことです。

ライセンス収入を得るためのアドバイスや特許権活用のアドバイスなど、知的財産権に関する総合的なアドバイザー・プロデューサー的な役割を担います。近年は知的財産部のないスタートアップ企業を主に支援するコンサルタントも増えています。

コンサルタントは弁理士の独占業務ではないため、ほかの士業資格(たとえば公認会計士など)をもとにおこなう人もいます。しかし知的財産に関する国家資格の最高峰といわれている弁理士の資格があるかないかはクライアントの信頼に大きく関わってくるでしょう。

弁理士の給料事情

弁理士の給料・年収は400万~700万円が相場とされていますが、働く場所によって大きく異なるというのが実情でしょう。

特許事務所は成果によって変動する歩合制を導入しているケースが多くあります。そのため実力のある弁理士は年収1,000万円以上というケースも珍しくありません。

企業で働く場合も、一般社員のうちは特許事務所で働くケースと大差ないと考えておくべきでしょう。というのも、企業では弁理士資格があるからといってほかの社員よりも給与が高いわけではないからです。

資格手当がつくケースはありますが、5,000円~5万円程度であり、社内の給与テーブルや昇給規定にもとづき給与が決定されます。もっとも、企業の場合は安定性がありますし、役職につけば年収アップにも期待できるでしょう。

まとめ

弁理士とは、知的財産権の保護や活用のために働く国家資格者です。特許出願の代理業務や審査対応を柱として、相談・コンサルティング業務など幅広いフィールドで活躍しています。

弁理士を取り巻く環境は決して楽観視できるものではありませんが、グローバルに活躍できる可能性を秘めた魅力的な職業でもあります。弁理士に興味のある方はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

NO-LIMIT(ノーリミット)

NO-LIMIT(ノーリミット)とは?

私たち『NO-LIMIT』は、弁護士専門の転職エージェントです。弁護士業界出身のアドバイザーのみが対応。『経歴だけで判断しない“あなたの強み”が活かせる求人紹介』『業界のプロだからわかる転職支援』『ひまわりにはない案件紹介』など、転職を希望する弁護士に特化した転職サポートが強みです。

NO-LIMITが選ばれる理由

転職の相談に乗って欲しい、求人を紹介して欲しい、キャリアアップをしたい、とりあえず情報収集から始めたいなど、どんなことでも対応させて頂きます。

今すぐ無料登録する

転職相談・情報収集のみでもOK

業界に精通したアドバイザーが対応

  • 自分の市場価値を図りたい
  • もっと活躍できる事務所で働きたい
  • 年収アップ、WLBの実現をしたい
  • 企業法務キャリアを歩みたい など